208 / 256
これも一種のプライバシー
しおりを挟む
忙しい。とにかく滅茶苦茶忙しい。目が回るほど忙しい。
コツコツコツと回廊に靴音を響かせながら、ルナフレイアは心の中で呟いた。
調べる事は山ほどあるし、護衛任務もあるし、指示の確認も必要だし、情報収集も行わなきゃだし、だけど。
誰も使っていない部屋に飛び込み、扉を閉めると同時に、ずるずると前のめりに頽れる。
・・・なんでこんなタイミングで恋心を自覚してるのよ、私っ。
頽れたまま、扉に頭を打ち付けたい気分だ。
だけどそんな事をしたら、音で誰かが駆けつけてしまうかもしれない。
ただでさえ、今はあちこちにハトが飛ばされているのだ。
非常事態と勘違いして駆けつけたハトに、扉に頭突きをかましてる姿を見られた日にはもう・・・。
・・・立ち直れないわ。
はあ、と深く息を吐く。
初めての恋だからって、動揺しすぎでしょ。
大体、ベルフェルトさまの方は何も意識してないんだから、こっちが普通にしてれば済む話。
・・・うう。自分で言っておいてへこむわ。
「あーあ。ライナス兄さまのこと、笑えないな・・・」
恋に疎くて、不器用で、どうにもタイミングが悪いのはロッテングルムの血筋なのかもしれない。
未だに幼い時からの恋心を消化できずに立ち止まったままの不器用な従兄に、生まれて初めて親近感を覚えた。
って、こんなところで仲間意識を持ってどうするのよ。
「・・・はあ。とにかく持ち場に戻らなきゃ。いきなり消えたら皆に心配かけちゃう」
二週間前に起きたマスカルバーノ侯爵家の馬車への襲撃事件から、文字通り24時間体制で警戒態勢が敷かれている。
エレアーナが狙われていた時は、本人が自邸に籠って対策したようだが、それは彼女がデビュタント前の一公爵令嬢だったから出来たものだ。
現在、カトリアナは侯爵令嬢とはいえ、王太子の婚約者でもあり、半年もたたずに婚姻の儀を迎える。
そうなれば正式に王族ともなるのだ。
必然的に、自邸に籠城するという選択肢は排除される。
限定的ではあるが王太子のパートナーとして役割もあるし、妃教育もまだ終了していない。
そもそも、王太子妃候補が自宅に籠りきりになっては、どんな噂が立てられるかも分からないのだ。
結果、多少は減らせるとはいえ、概ねこれまで通りに動いてもらうしか方法はなく。
レオンハルトを筆頭に、王宮内で警護に当たる者たちの緊張はピークに達していた。
「単純な正面攻撃に限られるわけじゃないって、ベルフェルトさまは仰っていたけど・・・」
襲撃とかじゃない方法って、一体どんなものがあるんだろう。
誘拐? それとも脅迫?
考えを巡らせながら、のろのろと立ち上がる。
・・・とにかく、任務に戻らなきゃ。
そう思って扉に手をかけようとしたところで、何故か扉が向こうから勝手に開いて。
「えっ?」
・・・まだ開けてないのに。
敵か、それとも城内の使用人か、とぼんやりしていた頭に気合いを入れ直せば、扉から現れたのは、今、最も会うと気恥ずかしい人物ナンバーワンのその人で。
「ベルフェルト、さま」
「・・・無事だったか」
きょとんと眼を大きく見開いたルナフレイアに対し、ベルフェルトは明らかに安堵の表情を浮かべ、息を吐いている。
「ええと・・・?」
「この辺りで急に姿が見えなくなったと報告があってな。君ほどの手練れの相手となると、相当の腕前の敵と対峙しているかもしれないと判断してオレが出張って来たんだが」
「・・・え、と、なんかすみません」
今が非常警戒態勢であることは重々理解していたつもりだったけど、まさかこれ程心配されるとは。
ベルフェルトは前髪を掻き上げながら、息を吐いた。
どうやら随分と緊張していたらしい。
「いや、無事ならいい。・・・それより、何をしていた? 何か問題でもあったのか?」
今、最も聞かれたくない事を突かれてしまい、ルナフレイアは、うっと返答に詰まる。
「いえ、あの、問題は何も。・・。ただ、その、誰もいない所で、ええと・・・ちょっと頭の中を整理したいな、と思いまして」
「・・・ほう」
あ、これ、信じてない。
マズい。このままだと更にツッコミが入っちゃう。
「いえ、あの、頭の整理って言っても、任務に関係があることではなく、その、プライベートなことでですね」
「・・・ほう、それはそれは」
あれ、失敗した?
これ、ますます怪しまれてない?
そう判断したルナフレイアは正しかった。
ベルフェルトは開けたままにしてあった扉をかちゃりと閉めた。
そして扉を背に寄りかかると、腕組みをして目の前のルナフレイアをじっと見すえる。
「プライバシーは極力尊重したいところだが・・・そんなに悩んでいるとなると話は別だな」
そう告げるベルフェルトの顔に、いつものような揶揄いはなくて。
「言いたくないのであれば、無理に話は聞かないが。・・・ルナフレイア嬢、オレで何か相談に乗れることはないのか?」
真面目な顔でそう告げるベルフェルトの顔は、それはそれは素敵で見惚れそうな程だったけれど。
相談に乗るも何も、貴方のことで悩んでるんです、とは勿論言えず。
もしかして、詰んだ? と思ったルナフレイアは、果たして正しかったのかどうか。
コツコツコツと回廊に靴音を響かせながら、ルナフレイアは心の中で呟いた。
調べる事は山ほどあるし、護衛任務もあるし、指示の確認も必要だし、情報収集も行わなきゃだし、だけど。
誰も使っていない部屋に飛び込み、扉を閉めると同時に、ずるずると前のめりに頽れる。
・・・なんでこんなタイミングで恋心を自覚してるのよ、私っ。
頽れたまま、扉に頭を打ち付けたい気分だ。
だけどそんな事をしたら、音で誰かが駆けつけてしまうかもしれない。
ただでさえ、今はあちこちにハトが飛ばされているのだ。
非常事態と勘違いして駆けつけたハトに、扉に頭突きをかましてる姿を見られた日にはもう・・・。
・・・立ち直れないわ。
はあ、と深く息を吐く。
初めての恋だからって、動揺しすぎでしょ。
大体、ベルフェルトさまの方は何も意識してないんだから、こっちが普通にしてれば済む話。
・・・うう。自分で言っておいてへこむわ。
「あーあ。ライナス兄さまのこと、笑えないな・・・」
恋に疎くて、不器用で、どうにもタイミングが悪いのはロッテングルムの血筋なのかもしれない。
未だに幼い時からの恋心を消化できずに立ち止まったままの不器用な従兄に、生まれて初めて親近感を覚えた。
って、こんなところで仲間意識を持ってどうするのよ。
「・・・はあ。とにかく持ち場に戻らなきゃ。いきなり消えたら皆に心配かけちゃう」
二週間前に起きたマスカルバーノ侯爵家の馬車への襲撃事件から、文字通り24時間体制で警戒態勢が敷かれている。
エレアーナが狙われていた時は、本人が自邸に籠って対策したようだが、それは彼女がデビュタント前の一公爵令嬢だったから出来たものだ。
現在、カトリアナは侯爵令嬢とはいえ、王太子の婚約者でもあり、半年もたたずに婚姻の儀を迎える。
そうなれば正式に王族ともなるのだ。
必然的に、自邸に籠城するという選択肢は排除される。
限定的ではあるが王太子のパートナーとして役割もあるし、妃教育もまだ終了していない。
そもそも、王太子妃候補が自宅に籠りきりになっては、どんな噂が立てられるかも分からないのだ。
結果、多少は減らせるとはいえ、概ねこれまで通りに動いてもらうしか方法はなく。
レオンハルトを筆頭に、王宮内で警護に当たる者たちの緊張はピークに達していた。
「単純な正面攻撃に限られるわけじゃないって、ベルフェルトさまは仰っていたけど・・・」
襲撃とかじゃない方法って、一体どんなものがあるんだろう。
誘拐? それとも脅迫?
考えを巡らせながら、のろのろと立ち上がる。
・・・とにかく、任務に戻らなきゃ。
そう思って扉に手をかけようとしたところで、何故か扉が向こうから勝手に開いて。
「えっ?」
・・・まだ開けてないのに。
敵か、それとも城内の使用人か、とぼんやりしていた頭に気合いを入れ直せば、扉から現れたのは、今、最も会うと気恥ずかしい人物ナンバーワンのその人で。
「ベルフェルト、さま」
「・・・無事だったか」
きょとんと眼を大きく見開いたルナフレイアに対し、ベルフェルトは明らかに安堵の表情を浮かべ、息を吐いている。
「ええと・・・?」
「この辺りで急に姿が見えなくなったと報告があってな。君ほどの手練れの相手となると、相当の腕前の敵と対峙しているかもしれないと判断してオレが出張って来たんだが」
「・・・え、と、なんかすみません」
今が非常警戒態勢であることは重々理解していたつもりだったけど、まさかこれ程心配されるとは。
ベルフェルトは前髪を掻き上げながら、息を吐いた。
どうやら随分と緊張していたらしい。
「いや、無事ならいい。・・・それより、何をしていた? 何か問題でもあったのか?」
今、最も聞かれたくない事を突かれてしまい、ルナフレイアは、うっと返答に詰まる。
「いえ、あの、問題は何も。・・。ただ、その、誰もいない所で、ええと・・・ちょっと頭の中を整理したいな、と思いまして」
「・・・ほう」
あ、これ、信じてない。
マズい。このままだと更にツッコミが入っちゃう。
「いえ、あの、頭の整理って言っても、任務に関係があることではなく、その、プライベートなことでですね」
「・・・ほう、それはそれは」
あれ、失敗した?
これ、ますます怪しまれてない?
そう判断したルナフレイアは正しかった。
ベルフェルトは開けたままにしてあった扉をかちゃりと閉めた。
そして扉を背に寄りかかると、腕組みをして目の前のルナフレイアをじっと見すえる。
「プライバシーは極力尊重したいところだが・・・そんなに悩んでいるとなると話は別だな」
そう告げるベルフェルトの顔に、いつものような揶揄いはなくて。
「言いたくないのであれば、無理に話は聞かないが。・・・ルナフレイア嬢、オレで何か相談に乗れることはないのか?」
真面目な顔でそう告げるベルフェルトの顔は、それはそれは素敵で見惚れそうな程だったけれど。
相談に乗るも何も、貴方のことで悩んでるんです、とは勿論言えず。
もしかして、詰んだ? と思ったルナフレイアは、果たして正しかったのかどうか。
19
あなたにおすすめの小説
【完結】妖精姫と忘れられた恋~好きな人が結婚するみたいなので解放してあげようと思います~
塩羽間つづり
恋愛
お気に入り登録やエールいつもありがとうございます!
2.23完結しました!
ファルメリア王国の姫、メルティア・P・ファルメリアは、幼いころから恋をしていた。
相手は幼馴染ジーク・フォン・ランスト。
ローズの称号を賜る名門一族の次男だった。
幼いころの約束を信じ、いつかジークと結ばれると思っていたメルティアだが、ジークが結婚すると知り、メルティアの生活は一変する。
好きになってもらえるように慣れないお化粧をしたり、着飾ったりしてみたけれど反応はいまいち。
そしてだんだんと、メルティアは恋の邪魔をしているのは自分なのではないかと思いあたる。
それに気づいてから、メルティアはジークの幸せのためにジーク離れをはじめるのだが、思っていたようにはいかなくて……?
妖精が見えるお姫様と近衛騎士のすれ違う恋のお話
切なめ恋愛ファンタジー
【完結】王子妃候補をクビになった公爵令嬢は、拗らせた初恋の思い出だけで生きていく
たまこ
恋愛
10年の間、王子妃教育を受けてきた公爵令嬢シャーロットは、政治的な背景から王子妃候補をクビになってしまう。
多額の慰謝料を貰ったものの、婚約者を見つけることは絶望的な状況であり、シャーロットは結婚は諦めて公爵家の仕事に打ち込む。
もう会えないであろう初恋の相手のことだけを想って、生涯を終えるのだと覚悟していたのだが…。
君への気持ちが冷めたと夫から言われたので家出をしたら、知らぬ間に懸賞金が掛けられていました
結城芙由奈@コミカライズ連載中
恋愛
【え? これってまさか私のこと?】
ソフィア・ヴァイロンは貧しい子爵家の令嬢だった。町の小さな雑貨店で働き、常連の男性客に密かに恋心を抱いていたある日のこと。父親から借金返済の為に結婚話を持ち掛けられる。断ることが出来ず、諦めて見合いをしようとした矢先、別の相手から結婚を申し込まれた。その相手こそ彼女が密かに思いを寄せていた青年だった。そこでソフィアは喜んで受け入れたのだが、望んでいたような結婚生活では無かった。そんなある日、「君への気持ちが冷めたと」と夫から告げられる。ショックを受けたソフィアは家出をして行方をくらませたのだが、夫から懸賞金を掛けられていたことを知る――
※他サイトでも投稿中
むにゃむにゃしてたら私にだけ冷たい幼馴染と結婚してました~お飾り妻のはずですが溺愛しすぎじゃないですか⁉~
景華
恋愛
「シリウス・カルバン……むにゃむにゃ……私と結婚、してぇ……むにゃむにゃ」
「……は?」
そんな寝言のせいで、すれ違っていた二人が結婚することに!?
精霊が作りし国ローザニア王国。
セレンシア・ピエラ伯爵令嬢には、国家機密扱いとなるほどの秘密があった。
【寝言の強制実行】。
彼女の寝言で発せられた言葉は絶対だ。
精霊の加護を持つ王太子ですらパシリに使ってしまうほどの強制力。
そしてそんな【寝言の強制実行】のせいで結婚してしまった相手は、彼女の幼馴染で公爵令息にして副騎士団長のシリウス・カルバン。
セレンシアを元々愛してしまったがゆえに彼女の前でだけクールに装ってしまうようになっていたシリウスは、この結婚を機に自分の本当の思いを素直に出していくことを決意し自分の思うがままに溺愛しはじめるが、セレンシアはそれを寝言のせいでおかしくなっているのだと勘違いをしたまま。
それどころか、自分の寝言のせいで結婚してしまっては申し訳ないからと、3年間白い結婚をして離縁しようとまで言い出す始末。
自分の思いを信じてもらえないシリウスは、彼女の【寝言の強制実行】の力を消し去るため、どこかにいるであろう魔法使いを探し出す──!!
大人になるにつれて離れてしまった心と身体の距離が少しずつ縮まって、絡まった糸が解けていく。
すれ違っていた二人の両片思い勘違い恋愛ファンタジー!!
寵愛のいる旦那様との結婚生活が終わる。もし、次があるのなら緩やかに、優しい人と恋がしたい。
にのまえ
恋愛
リルガルド国。公爵令嬢リイーヤ・ロイアルは令嬢ながら、剣に明け暮れていた。
父に頼まれて参加をした王女のデビュタントの舞踏会で、伯爵家コール・デトロイトと知り合い恋に落ちる。
恋に浮かれて、剣を捨た。
コールと結婚をして初夜を迎えた。
リイーヤはナイトドレスを身に付け、鼓動を高鳴らせて旦那様を待っていた。しかし寝室に訪れた旦那から出た言葉は「私は君を抱くことはない」「私には心から愛する人がいる」だった。
ショックを受けて、旦那には愛してもられないと知る。しかし離縁したくてもリルガルド国では離縁は許されない。しかしリイーヤは二年待ち子供がいなければ離縁できると知る。
結婚二周年の食事の席で、旦那は義理両親にリイーヤに子供ができたと言い出した。それに反論して自分は生娘だと医師の診断書を見せる。
混乱した食堂を後にして、リイーヤは馬に乗り伯爵家から出て行き国境を越え違う国へと向かう。
もし、次があるのなら優しい人と恋がしたいと……
お読みいただき、ありがとうございます。
エブリスタで四月に『完結』した話に差し替えいたいと思っております。内容はさほど、変わっておりません。
それにあたり、栞を挟んでいただいている方、すみません。
【完結】彼を幸せにする十の方法
玉響なつめ
恋愛
貴族令嬢のフィリアには婚約者がいる。
フィリアが望んで結ばれた婚約、その相手であるキリアンはいつだって冷静だ。
婚約者としての義務は果たしてくれるし常に彼女を尊重してくれる。
しかし、フィリアが望まなければキリアンは動かない。
婚約したのだからいつかは心を開いてくれて、距離も縮まる――そう信じていたフィリアの心は、とある夜会での事件でぽっきり折れてしまった。
婚約を解消することは難しいが、少なくともこれ以上迷惑をかけずに夫婦としてどうあるべきか……フィリアは悩みながらも、キリアンが一番幸せになれる方法を探すために行動を起こすのだった。
※小説家になろう・カクヨムにも掲載しています。
【完結】冷酷伯爵ディートリヒは、去った妻を取り戻せない
くろねこ
恋愛
名門伯爵家に政略結婚で嫁いだ、正妻エレノア・リーヴェルト。夫である伯爵ディートリヒ・フォン・アイゼンヴァルトは、
軍務と義務を最優先し、彼女に関心を向けることはなかった。
言葉も、視線も、愛情も与えられない日々。それでも伯爵夫人として尽くし続けたエレノアは、ある一言をきっかけに、静かに伯爵家を去る決意をする。
――そして初めて、夫は気づく。
自分がどれほど多くのものを、彼女から与えられていたのかを。
一方、エレノアは新たな地でその才覚と人柄を評価され、
「必要とされる存在」として歩き始めていた。
去った妻を想い、今さら後悔する冷酷伯爵。前を向いて生きる正妻令嬢。
これは、失ってから愛に気づいた男と、
二度と戻らないかもしれない夫婦の物語。
――今さら、遅いのです。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる