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オレにください
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それ以降のベルフェルトの行動は速かった。
翌日にはカーン・ロッテングルムに連絡を取り、その三日後に王都にあるロッテングルム邸に逗留していたカーンの弟、ハリル・ロッテングルムに挨拶に来た。
ルナフレイアの父、ハリル・ロッテングルムは、ベルフェルトの訪問目的の詳細は知らされていなかったが、何の用件かは薄々勘づいていたようで、嬉しそうな寂しそうな、微妙な表情で彼を出迎えた。
分家として本家を支え共に辺境伯領を守ってきたハリルは、鎧のようにしっかりとした筋肉を纏った威風堂々たる体格の男で、整った顔立ちながらも目つきの鋭い怖そうな男であった。
対して訪れたベルフェルト・エイモスは、美丈夫で名の知られた細身の男であり、よくよく見ればしなやかな筋肉がびっしりとついているのだが、残念ながらその鍛え抜かれた筋肉は華やかな正装の下では拝見することなど出来ない。
その女受けする美貌に加え、わざと社交界に浮名を流していたこともあり、ベルフェルトに会う前にハリルが彼に対して抱いていた印象は、控えめに言っても良いものではなかった。
だが、そこは辺境伯領の守り神であるロッテングルム家の一員と言うべきか、扉から応接室のソファへと座るまでの一連の動作で、その身のこなしがただの噂通りの遊び人ではないことにハリルは気づく。
ベルフェルトとしては別に意識した動作ではなかった。
もはやすっかり体に染み込んだものとして自然とそうしていただけなのだが、ハリルはそのバランスの取れた、且つしなやかなバネのような足の運びに一瞬で真顔になり、ベルフェルトが挨拶の言葉を口にするより先に「打ち合いをするぞ」と言って立ち上がった。
それに驚いたのは、ベルフェルトというよりはルナフレイアの方で。
「ちょ、ちょ、ちょっと? お父さま? 何の冗談ですか?」
それまで顔を赤く染めてもじもじと恥じらっていたのが嘘のように、すっくと立ちあがり、父に喰ってかかった。
ベルフェルトの方はと言えば、一瞬、虚を突かれたような表情を浮かべたものの、ハリルの眼に何の敵意も怒りも浮かんでいない事に気付き、二コリ、と笑って「喜んで」と承諾した。
その場を見守っていたカーンは勿論、面白がって何も言わない。
あまり堂々と覗き見るのも行儀が悪い、と、扉の影や窓の向こうからこっそり様子を伺っていた家人や逗留者の面々は当然の如く、もはや隠れることもせずにはやし立てた。
かくして、ルナフレイアが状況把握も出来ないうちに、二人はロッテングルム邸にある鍛錬場へと行ってしまう。
そうして、ハリルとベルフェルトによる模造剣を使用した決闘、もとい果し合い、いや打ち合いが始まった。
ハリルは家督を巡る試合にてカーンに敗れはしたものの、当然ながら常人の騎士たちよりも遥かに強い。
その剣の突きは鋭く、ロッテングルムらしい実践に即した動きだった。
対するベルフェルトは、流れるような素早い動きで剣を振るが、これまた暗部らしい実践向きの動きも見せている。
見物客たちの声が、その目つきが、ただの好奇心と暇つぶしから感嘆と称賛へと変わっていく。
ベルフェルトの実力を知っているルナフレイアだったが、それと同じく父の強さも知っている。
どうしたものかとオロオロしていたところを、カーンが肘でつついて「大丈夫」と言ってきた。
「何も心配いらないさ」
「伯父さま、でも」
「大丈夫だって、ルナ。ほれ、よく見ろよ」
カーンが顎でくいっと示した方向、それは勿論、模造剣で打ち合う二人のいる方向だったのだが。
カーンに促され、不安げな眼でそちらを見たルナフレイアは、瞬間、呆けたように眼を見開いた。
「な? 何にも心配いらないだろ? 見たか、あの顔」
「・・・」
「ははっ、ハリルの奴、嬉しそうに笑ってやがる。ベルフェルトもだ。・・・なあ、ルナ。二人とも楽しそうだな」
「・・・うん」
「いいなぁ、ハリル。俺も参戦したいぜ」
場を和ませるとか、そういう趣旨で発した訳ではなく、本当にただ純粋にそう思って口から零れた伯父の言葉に、ルナフレイアは思わず笑ってしまった。
そんなやり取りが観覧席でされているとも知らない二人は、技を尽くした激しい打ち合いを続けている。
打ち合いの見物など、呼吸をするのと同じくらい当たり前だったロッテングルム家の者たちですら、息を呑むようなギリギリの攻防が長く続けられた。
二十分、いや、三十分以上は続いただろうか、それまでずっと無言で剣を繰り出していたベルフェルトが、打ち合いの最中にハリルの名を呼んだ。
「・・・何だっ?!」
ハリルは、答えながら剣を上段から振り下ろす。
ベルフェルトはそれを下から受け止め、更に左に躱して返す動きで打ちかかる。
「ルナフレイア嬢を・・・貴方の大事なお嬢さんを、オレにください!」
ルナフレイアは息を呑んだ。
ベルフェルトの剣がハリルの顎の下に迫る。
ハリルは振り下ろしていた剣を持つ腕の向きを変えないまま、それを上へと引き上げて、柄でベルフェルトの剣を受け止めた。
二人は、そのままの姿勢でじっと互いを見つめ合う。
「・・・やらん、と言ったらどうする、諦めるか?」
目を細め、少しばかり意地の悪そうな笑みを浮かべてそう言ったハリルに対し、ベルフェルトはまるで花が綻ぶかのような華やかな笑みを浮かべてこう答えた。
「そうですね。オレはこう見えて諦めが悪いんですよ。どうしても頂けないようであれば、攫うしかありませんね」
その言葉が場内に響いた瞬間、ベルフェルトの剣がハリルの剣を空中へと弾き飛ばす。
そして二人は、その場で愉快そうに笑い始めた。
その日の夜、ロッテングルム邸では、夜明け近くまで酒宴が続いたという。
後にロッテングルム家に代々語り継がれることになる、ベルフェルトとルナフレイアの結婚秘話の一つだ。
翌日にはカーン・ロッテングルムに連絡を取り、その三日後に王都にあるロッテングルム邸に逗留していたカーンの弟、ハリル・ロッテングルムに挨拶に来た。
ルナフレイアの父、ハリル・ロッテングルムは、ベルフェルトの訪問目的の詳細は知らされていなかったが、何の用件かは薄々勘づいていたようで、嬉しそうな寂しそうな、微妙な表情で彼を出迎えた。
分家として本家を支え共に辺境伯領を守ってきたハリルは、鎧のようにしっかりとした筋肉を纏った威風堂々たる体格の男で、整った顔立ちながらも目つきの鋭い怖そうな男であった。
対して訪れたベルフェルト・エイモスは、美丈夫で名の知られた細身の男であり、よくよく見ればしなやかな筋肉がびっしりとついているのだが、残念ながらその鍛え抜かれた筋肉は華やかな正装の下では拝見することなど出来ない。
その女受けする美貌に加え、わざと社交界に浮名を流していたこともあり、ベルフェルトに会う前にハリルが彼に対して抱いていた印象は、控えめに言っても良いものではなかった。
だが、そこは辺境伯領の守り神であるロッテングルム家の一員と言うべきか、扉から応接室のソファへと座るまでの一連の動作で、その身のこなしがただの噂通りの遊び人ではないことにハリルは気づく。
ベルフェルトとしては別に意識した動作ではなかった。
もはやすっかり体に染み込んだものとして自然とそうしていただけなのだが、ハリルはそのバランスの取れた、且つしなやかなバネのような足の運びに一瞬で真顔になり、ベルフェルトが挨拶の言葉を口にするより先に「打ち合いをするぞ」と言って立ち上がった。
それに驚いたのは、ベルフェルトというよりはルナフレイアの方で。
「ちょ、ちょ、ちょっと? お父さま? 何の冗談ですか?」
それまで顔を赤く染めてもじもじと恥じらっていたのが嘘のように、すっくと立ちあがり、父に喰ってかかった。
ベルフェルトの方はと言えば、一瞬、虚を突かれたような表情を浮かべたものの、ハリルの眼に何の敵意も怒りも浮かんでいない事に気付き、二コリ、と笑って「喜んで」と承諾した。
その場を見守っていたカーンは勿論、面白がって何も言わない。
あまり堂々と覗き見るのも行儀が悪い、と、扉の影や窓の向こうからこっそり様子を伺っていた家人や逗留者の面々は当然の如く、もはや隠れることもせずにはやし立てた。
かくして、ルナフレイアが状況把握も出来ないうちに、二人はロッテングルム邸にある鍛錬場へと行ってしまう。
そうして、ハリルとベルフェルトによる模造剣を使用した決闘、もとい果し合い、いや打ち合いが始まった。
ハリルは家督を巡る試合にてカーンに敗れはしたものの、当然ながら常人の騎士たちよりも遥かに強い。
その剣の突きは鋭く、ロッテングルムらしい実践に即した動きだった。
対するベルフェルトは、流れるような素早い動きで剣を振るが、これまた暗部らしい実践向きの動きも見せている。
見物客たちの声が、その目つきが、ただの好奇心と暇つぶしから感嘆と称賛へと変わっていく。
ベルフェルトの実力を知っているルナフレイアだったが、それと同じく父の強さも知っている。
どうしたものかとオロオロしていたところを、カーンが肘でつついて「大丈夫」と言ってきた。
「何も心配いらないさ」
「伯父さま、でも」
「大丈夫だって、ルナ。ほれ、よく見ろよ」
カーンが顎でくいっと示した方向、それは勿論、模造剣で打ち合う二人のいる方向だったのだが。
カーンに促され、不安げな眼でそちらを見たルナフレイアは、瞬間、呆けたように眼を見開いた。
「な? 何にも心配いらないだろ? 見たか、あの顔」
「・・・」
「ははっ、ハリルの奴、嬉しそうに笑ってやがる。ベルフェルトもだ。・・・なあ、ルナ。二人とも楽しそうだな」
「・・・うん」
「いいなぁ、ハリル。俺も参戦したいぜ」
場を和ませるとか、そういう趣旨で発した訳ではなく、本当にただ純粋にそう思って口から零れた伯父の言葉に、ルナフレイアは思わず笑ってしまった。
そんなやり取りが観覧席でされているとも知らない二人は、技を尽くした激しい打ち合いを続けている。
打ち合いの見物など、呼吸をするのと同じくらい当たり前だったロッテングルム家の者たちですら、息を呑むようなギリギリの攻防が長く続けられた。
二十分、いや、三十分以上は続いただろうか、それまでずっと無言で剣を繰り出していたベルフェルトが、打ち合いの最中にハリルの名を呼んだ。
「・・・何だっ?!」
ハリルは、答えながら剣を上段から振り下ろす。
ベルフェルトはそれを下から受け止め、更に左に躱して返す動きで打ちかかる。
「ルナフレイア嬢を・・・貴方の大事なお嬢さんを、オレにください!」
ルナフレイアは息を呑んだ。
ベルフェルトの剣がハリルの顎の下に迫る。
ハリルは振り下ろしていた剣を持つ腕の向きを変えないまま、それを上へと引き上げて、柄でベルフェルトの剣を受け止めた。
二人は、そのままの姿勢でじっと互いを見つめ合う。
「・・・やらん、と言ったらどうする、諦めるか?」
目を細め、少しばかり意地の悪そうな笑みを浮かべてそう言ったハリルに対し、ベルフェルトはまるで花が綻ぶかのような華やかな笑みを浮かべてこう答えた。
「そうですね。オレはこう見えて諦めが悪いんですよ。どうしても頂けないようであれば、攫うしかありませんね」
その言葉が場内に響いた瞬間、ベルフェルトの剣がハリルの剣を空中へと弾き飛ばす。
そして二人は、その場で愉快そうに笑い始めた。
その日の夜、ロッテングルム邸では、夜明け近くまで酒宴が続いたという。
後にロッテングルム家に代々語り継がれることになる、ベルフェルトとルナフレイアの結婚秘話の一つだ。
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