断罪を避けて国を出ようとした結果

月野槐樹

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第1話 国を出たいのに出られない

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「国を出ることが出来ないって、どういうことですか?」

私、アリア・アルバトロス伯爵令嬢は、お兄様であるジェイソン・アルバトロスの言っている意味が理解できなくて、半歩前に進み出て兄の顔を見上げた。

「前にも言ったと思うけど。自由に国外には出られないんだよ。アリー。
手続きが大変なんだって」
「でも、昨年、マグノリアノ王国に行きましたわ!お祖父様とお祖母様にお会いしたもの!」

氷のような冷たい光を放つ癖のある銀髪をもしゃっと書き上げて、お兄様は
諭すように私の顔を覗き込んだ。

「去年はアリーはまだ加護をもらってなかったからね。僕はもう加護をもらってたから行かなかったでしょう?」
「確かに……お兄様は……一緒じゃなかったですけど……」

そう言えば、と昨年の事を思い出す。

昨年、お母様と一緒にお母様の祖国であるマグノリアノ王国に行く時、
お兄様は家庭教師の授業があるからと言って、同行しなかった。
学園入学は十二歳からで、お兄様はまだ入学まで後二年あるのだから、少し位お勉強をお休みしてお祖父様とお祖母様に会いに行ったって良いのにって思った記憶がある。

「お勉強は……、嘘で、本当は加護?のせいだったの?」
「お勉強していたのは嘘じゃないよ。でも、本当の理由は加護を頂いたからだね」

私が生まれ育ったこのヒエラクス王国では、貴族の子供は七歳になると教会で加護の儀というものをしていただき、女神様からの加護を授かる。

加護を受けると魔法の素養というものが伝えられ、魔法が使えるようになる。
私の場合は、水属性3、光属性2というものだった。
もちろん、魔法の素養を伝えられたからといってすぐに魔法が使えるようになるわけではなく、家庭教師をつけてもらったり、教会で教えてもらったりして知識をつけ、実践で熟練度を上げていく必要がある。
この「光属性2」と言う結果がとっても厄介だ。
光属性は、希少な属性とされていて、光魔法の使い手は王族の伴侶として迎え入れることもあるという。

私が加護の儀を終えた直後も、光属性の加護を得たということで家中がどよめいていた。

「ちょうど、第三王子の、レインドルフ殿下が今年七歳になられるそうだ。
アリアが婚約者候補に選ばれるかもな」

浮かれて言うお父様の言葉を聞いて、私は固まった。

第三王子殿下のレオンドルフ様。アリア・アルバトロス伯爵令嬢……。

『アリア・アルバトロス伯爵令嬢!貴様との婚約を破棄する!』

舞踏会のような場所で、クリンクリンの巻き毛をした金髪の青年が、
ふわふわしたピンク色の髪をした令嬢の腰を抱きながら、宣言をする光景が思い浮かんだ。

あ、これ、「恋の祈り☆花降る丘で待ってて」の断罪シーン?

第三王子殿下のお名前を聞いて、私は華やかなゲームの中に自分と同じ名前の登場人物がいる事を思い出した。
腰まであるサラサラしたストレートの銀髪。
表情が乏しい少し吊り目の青い瞳。
自分と同じ名前というより、私だ。何年か後の私が、大勢が見ている前で王子殿下に婚約破棄を宣言されていた。

直前まで、加護を頂いたばかりではしゃいでいたのに、いきなり冷たい湖にでも放り込まれたような気持ちになる。
パラパラと日記を捲るように記憶が浮かび上がってきた。

私、アリア・アルバトロスは、加護の儀で「光属性2」の魔法の素養を得た為に、第三王子殿下の婚約者と指名されてしまった。

それ以来、王子妃教育として、王宮に通い厳しい教育を受けることになる。
政略的な縁だったが、第三王子殿下との仲は特に悪くはなかった。
はしゃいだり、イチャイチャするようなことはなかったけれど、
定期的にお茶を飲み、近況を報告しあっていた。

そんな状況が一変したのは、高等部の学園生活が始まって間もなく。

光属性四の加護を持つ令嬢が学園に編入してきたのだ。
男爵の愛妾の子だというその令嬢は、平民街で育ったそうで、貴族のマナーなどに疎く浮いた存在だった。
それが、なぜか第三王子殿下と親しくなり、王子殿下の側近達とも距離を縮める。

そして、卒業パーティの広間のど真ん中で、アリアが婚約破棄を宣言され、男爵令嬢をいじめた罪で断罪されるのだ。

私は「悪役令嬢」ってこと?

断罪されると家を追い出され修道院に入れられてしまうか、国外追放となって路頭に迷ってしまう。
そんな未来は嫌なので、第三王子殿下との婚約が決まるより前に、国を出でしまおうと考えたのだ。

加護の儀は誕生月に受ける慣わしで、今はまだ年の半ば。
同年代の令嬢達の中で、光属性の素養が高い者が婚約者にと選ばれることが予想される。
婚約の打診があるとしたら、年明けだ。
だから、今、国を出て母の生まれ故郷であるマグノリアノ王国に行ってしまおうと思ったのに、加護を頂いたら国を出ることができないなって言われてしまったのだ。
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