異世界に召喚されたオレだが、可哀そうだからゴブリンを殺せない

たけるん

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召喚される者

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    ナオキは八京に言われるままに部屋に入った。

 そこで真っ先に目に入ったのは、正面に白いレースカーテンの付いた窓だ。そして部屋の中心には木でできた四角いテーブルと椅子が4つ、右にはベッド、左には本棚と机と椅子がある。畳10畳ほどの広さだろうか……ここは寝室だろう。殺風景だが、整理がされていて清潔感もある。



オレの部屋とは大違いだな……



「僕の部屋だよ。って言っても何にもないけど……」



 少し照れながら、そう言う八京はどこか少年のようだった。

 

「飲み物を持ってくるから、真ん中の椅子に座って待ってて」



 八京はそう言い残し部屋を出ていった。

 ナオキは八京の言うことを守らず、本棚へ向かい、適当に一冊本を手に取ってみた。



何だ!? 見たことない字だけど……読める……

 

 何冊か本を手に取ってページをめくってみたが、どうやらすべての本を読むことが出来そうだ。

 ほどなくして八京が扉を開けた。後ろにはカートがある。カートの上には、オレンジ色より少し黄色味がかった飲み物が入ったシンプルなジョッキと空のグラスが二つ乗っている。

 

「あっ……すいません。勝手に本を手にしてしまって……」

「かまわないよ。でも、見たこともない文字なのに読めるのって変な感じだよね」



やっぱり……



「はい。不思議だし何だか……気持ち悪いです」

「はは、そうだよね。まぁとりあえずこっちで座って話そうか。ジュースも入れるから。そうだ、柑橘系の飲み物は大丈夫?」



 カートを運びながら八京も部屋に入ってきた。



「え? はい大丈夫です」

「なら良かった。なかなか美味しいんだよこれ」



 八京は水滴の付いたジョッキとグラスを持ちジュースを注いだ。それを中央のテーブルに置き、二つ目のグラスにもジュースを注ぎ始めた。

 誘われるままナオキは中央の椅子に座り、八京が向かいの椅子に座るのを待った。



「どうぞ、もちろん毒なんか入ってないから大丈夫」

「……はい」



まさかホントは毒が入っていて飲んだら即死……なんてことはないか。そもそもオレを殺そうとするなら起きてすぐ殺すだろうな。ってことはもっと特殊な薬とか……って、んなこと無いよな。



 八京の言っていることは信用できそうだが油断はしないように心掛けて損は無いだろう。

 一口……ほんとに少量だけ口に含んでみた。



「こ、コレ……うまい!」



 思わずもう一口飲んでしまった。



しまった……



 だがそれほどにこの飲み物は美味かった。



なんだろう……オレンジジュースみたいだけどハーブの後味もあって、スッキリして飲みやすい。



「ね? 美味しいでしょ」



 八京は嬉しそうに言った。気付けば八京のグラスも半分ほどに減っていた。



「はい、初めて飲みました。何て飲み物ですか?」

「気に入ってもらえたなら良かった。これはダイッダラっていう果実を絞ったモノなんだ。ミカンみたいな実なんだけどね。味はミカンと少し違って。僕も来たとき飲んでビックリしたよ」



 ――僕も―― 八京の話の中に何度か出てきている言葉。もう質問をしても良いだろう。



「あの、ここはどこなんですか? どうしてオレはここにいるんですか? オレと八京さん以外にも同じような体験をしている人はいるんですか? それに……オレはどうなるんですか?」



 思わず色々と疑問を投げつけてしまう。そう、知りたいことはいくらでもある。



「そうだよね、分からないことばかりだよね。ちゃんと答えるから、焦らないで大丈夫だよ。先ずは一つ目の質問だけど、ここは僕やナオキ君が今まで住んでいた世界とは別の世界、いわゆる異世界ってやつだよ」



やっぱり。薄々そうじゃないかと感じていたけど本当にそうだったなんて……



 ショックと納得の感情が入り混じる。だが不思議と動揺は無かった。そしてまだ聞きたいことはたくさんある。

「じゃあ、オレは何でこの異世界にいるんですか?」

「それはね、この世界の人たちの魔法で君を召喚したからなんだ」

「召喚? 召喚って……ゲームなんかであるあの召喚ですか?」



確かに怪しい恰好した人たちがいた。それにいかにもな感じの魔法陣があったけど……まぁ異世界で魔法ってセットみたいなもんだよな。



「そう、それそれ! でもまさか自分が召喚されるなんて思わないよね。けど、実際に起こってることだし……現にナオキ君はここにいる。それが現実だよ」



もう今更夢だとかドッキリだとか言うつもりも無い。がその可能性も無くはないかも……



「それで、どうしてオレがその……召喚されたんですか? オレが選ばれたことに何か訳があるんですか?」

「その……ナオキ君がこの世界に召喚された理由は……異世界モノではよくある話ではあるんだけど、魔物や竜なんかの討伐が主な理由なんだ」



うん……確かに良くある話だ



「でもどうしてその……討伐にオレが選ばれたんですか? オレである理由は何ですか?」



 この質問にはしばしの沈黙があった。八京が少し困っているように見える。言いたくない、もしくは伝えづらい質問だったのだろうか。



「それはね……何でナオキ君が選ばれたかは僕にもよくわからないんだ」

「え? よくわからない?」

「そう。ナオキ君も気付いているかもしれないけど、実は僕も召喚された人間で、こっちでは『リスターター』って呼ばれている存在なんだ。だけど、僕やナオキ君が選らばれた理由は誰も教えてくれないし、恐らく誰も知らない。おそらく無作為に選ばれたんだと思う……」

「そんな……」



 座っているのに頭がクラクラした。



なんだ? それって適当に選ばれて、こっちの人間の都合で呼ばれたってことかよ



 そんなことを考えていたら向かっ腹が立ってきたがそれを八京に向けることは無かった。それは八京が同じ召喚された『こっち側』の人間だからだ。



「気持ちはわかるよ。僕も同じだったから。でもそれが真実なんだ」

「それじゃあ元の世界に戻ることは……」

「ごめん。それもわからない。僕はこの世界に来て4年経つけど、リスターターが元の世界に戻った記録は無いんだよ」

 

 八京は申し訳なさそうな顔をしている。本心だろう。



やっぱりそうか……それって二度と戻れないってことじゃないか。まぁ、引きこもりのオレにはどうでもいいことかもしれないけど……



「でもナオキ君、この世界も住んでみるとなかなか悪くないよ。確かに、元の世界のほうが色々便利だったし、食べ物もあっちの世界のほうが美味しいものが多いけど、住んでみると様々な発見があってその……生きてるって実感できるっていうか……うまく言えないけど……ここも悪くはないよ」



 八京が早口でまくし立てる。元の世界に帰れないと聞いてナオキが落ち込んでいると勘違いしているのだろう。八京の気遣いが感じ取れた。

 だが考えてみれば、八京も同じ境遇で帰れないと知った時はさぞショックだっただろう。しかし今は八京がその事実をナオキに伝えて納得してもらおうとしている。

 本来ならばこの世界の人間が頭を下げて説明し、理解させ、納得させるべきだろうことなのに、八京にその役をやらせている。八京の立場はとても難しいものだろう……そう考えると八京に同情を禁じえなかった。そしてそうさせているこの世界の人間たちにナオキは怒りを覚えた。



「まぁ八京さんに文句を言っても仕方ないことだし、八京さんも被害者みたいなモノだから今のところはいいですよ」



 ナオキの言葉を受けて、八京に安堵の笑みが浮かんだ。思えば八京は会ってから今まで、笑みを浮かべていたがどことなくぎこちなくて、こちらをあまり刺激しないように気遣っている。そんな笑みだった気がした。



「そう言ってもらえると僕も助かるよ。ナオキ君みたいに落ち着いて納得してくれる人って中々いなくて……僕は経験ないけど、大声で怒鳴られたり、ずっと泣かれて話が進まなかったり、責任者出せって言ってこっちの話を訊かなかったり色々あってね。この役って皆やりたがらないんだ」



そりゃそうだ。いきなり異世界に召喚されたらどんな行動に出るかわからないよな。



 八京は人に頼まれたことを断るのが苦手なのだろう。確かに人当たりが良さそうだし、こっちの話も聞いてくれる。そんなお人好しな八京にナオキは同情した。

 誰だって面倒ごとには関わりたくない。他の人間に面倒事はやってもらったほうが楽だ。そう思うと自分の今までのことが思い出されて胸が痛む。



「……そういえば、この世界には何人ぐらいその……リスターター? がいるんですか?」

「え~っと……今回ナオキ君が召喚されたから29人になるよ」

「29人!? そんなにいるんですか?」



多いだろ! 何でそんなに召喚されなきゃいけないんだ? 単純に魔物が多すぎるのか……



「結構多いよね。古い人は20年以上前に召喚された人もいるんだよ。後、召喚には条件があって、だいたい1年に1~2人くらいのペースで行われているみたいだね。ただ、今回は珍しく条件が整ったからって10日前に女の子が一人召喚されて、今回ナオキ君、また10日後にもう一人召喚予定なんだ」

「女の子もいるんですか? それも10日前に召喚?」



そりゃ無作為に選ばれてるんだったら男だけが召喚されるわけじゃないか……



「やっぱり興味あるよね。この後、その娘を紹介するよ。かわいい娘だよ」



 意味深な笑みを八京は浮かべている。



「え? そ、そんな意味で言ったんじゃないですよ」



 慌ててフォローするがむしろそっちのほうが怪しいようにも感じる。だが気にならないわけじゃない。

 女の子と話をするのはいつ以来だろう……そもそも両親以外とこうやって人と会話をするのも無かったことを思い出す。そんなことにもこの状況下では思い出せずにいた。

 いや、そもそも召喚されたこの状況がかなり異常だ。他人と半年以上話さなかったことなんて些細な事に思えてくる。



「そういえばナオキ君の年齢は?」

「え? 17です。高3年です」



 暫く行ってないし留年しててホントは高2年ですけど……

 

「そうなんだ、やっぱり若いね。僕は23歳だよ。元の世界では大学まで剣道をやってたんだ。だからこっちの世界でも剣の腕にはちょっと自信があってね」



 八京は頭上から剣を振り下ろす仕草をしながら笑った。



「そうなんですか。すごいですね」



4年前にこっちに来て今23歳ってことは19歳の時に召喚されたのか……



「ナオキ君は高校で何かやってたの?」

「い、いえ、オレは特に何も…」



途中から引きこもってました。なんて流石に言えないよな……



 小学校から中学校までは野球をやっていたが高校に入ってからは部活はやっていない。

 ただ何となく、玲と平凡な日々を送っていた。



「そうなんだ、まあそういうのもいいよね。じゃあ早速この前召喚された女の子を紹介するよ。っとその前に、この国の騎士団長に挨拶をしてから行こう。付いてきて」

「は、はい」



 八京は立ち上がり扉へ向かった。ナオキはグラスに残っていたジュースを飲み干してから八京に付いて行った。
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