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騎士団長

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    先ほどのシンプルな八京の部屋とは違い、部屋は広く、豪華なテーブルにしっかりとクッションのきいた椅子、お洒落な花瓶には見たことも無い花が生けられていて、壁の本棚には無数の本が並べられている。

 そんな部屋の中でナオキは騎士団長のガルシアを紹介された。ホリの深い顔立ちは海外系の顔に見える。ブルーで透き通るような目が印象的だ。髪はショートで軽くウェーブがかかっている。

 八京はナオキの召喚された後の状況を掻い摘んで説明した。



「中々落ち着いていてしっかりした青年ですよ。僕が知ってる中で一番理解が早かったんじゃないかな」



 八京は褒めているが、素直に喜べない。ただ面食らっていただけなのだから。



「そうかそうか。いきなり召喚されて色々な行動を起こす者たちがいたからな。この前のリスタなんか清太郎と怒鳴りあっていたからな」



 ガッハッハッハッと豪快に笑いながらガルシアは清太郎という名前を出した。



「リスタ?」

「あぁ、リスターターのことを言いやすくリスタって略すんだ。ナオキ君も好きなほうで呼ぶと良い。それにしても清太郎らしいですよ。あの件があって今回僕に立ち合いが回ってきたんですよ」

「私は八京、お前が適任だと考えていたぞ。今回のことでそれがはっきりしたわけだ」



 ガルシア再びは大声で笑いながら嬉しそうに話している。豪快な人間のようだ。



「いえそんな、ナオキ君がしっかりしているだけですよ。それに今回はたまたまです」



 手を左右に振りながら八京は困った顔をした。今回の召喚が評価されて次回もやることになったらたまったもんではないのだろう。



「ナオキ、今回の召喚、誠に申し訳ない。戸惑うことがあり、色々思うことがあるのも重々承知している。だが、是非我々に協力してほしい」



 ガルシアは神妙な面持ちで頭を下げた。



「いえ、そんな…」



まいったな……なんて言っていいかわかんないぞ



「八京から聞いていると思うが、君には様々な魔物の討伐を行ってもらいたい。それ以外もあるが、当面は討伐がメインだ。当然危険が伴うことも承知して欲しい。時には怪我をすることも有るだろう。しかし、こちらで出来る最大限の協力はするつもりだ。もちろん討伐もナオキの力量に応じて対応するので是非ともよろしく頼む」



これ、改めて考えるとあまり良い条件じゃないんだよなぁ。魔物討伐なんて危険だし。そもそもオレに魔物を殺せるのかよ……今までネズミだって殺したことないのに……っていうか話の流れからしてほぼ強制じゃないかこれ。元の世界には戻れないっぽいしやらざるを得ないじゃん。



「で、出来るだけ頑張ります」



 これがナオキに言える精一杯の言葉だった。

 ガルシアは顔を上げ、また笑顔になった。



「ガッハッハッハッ。期待しているぞ。大丈夫、暫くは八京がついている。こいつは優秀でな、ここ数年のリスタの中じゃ間違いなく№1の実力者だ」



八京さんってそんなにすごいんだ。



「そんなことないですよ。ちょっと剣の扱いに慣れてるだけでまだまだです。この前だって周りの人たちの協力が無かったらやられてましたよ」

「八京、お前がいなかったら全滅だったぞ。なんせ、あんなにバカでかいドラゴンと戦ったんだからな。お前を含めて重傷者はいたが死者が出なかったのは不幸中の幸いだ」

「八京さん、ドラゴンを倒したんですか?」

「いや、あと少しってところで逃がしちゃったんだ。でもあそこで逃げてくれなかったらこっちに死人が出てたかもしれない。ガルシアさんの言う通りみんな生還できて良かったよ」



おいおい、ホントにオレはココでやっていけるのかよ……すぐ死ぬんじゃないだろうな。不安だぁ。不安だぁ。



「ガルシアさん、僕たちそろそろ行きますよ。ナオキ君を明日香さんに紹介することになってるんで」



 八京が立ち上がったので合わせてナオキも立ち上がった。

 明日香…おそらく10日前に召喚された女の子の名前だろう。



「おお、そうか。ナオキ、明日香は顔は良いが中々のじゃじゃ馬だ。色々大変だと思うが仲良くやってくれ」



 ガルシアも立ち上がり両肩にガッチリ手を乗せながらそう言い、また大声で笑った。



……じゃじゃ馬……



「ガルシアさん。そんなこと言ったらナオキ君が警戒しますよ」

「そうか? だが男勝りな性格で言うことを聞かないのは事実ではないか」



……男勝り……



「確かに気の強い子だとは思いますけど、素直で思いやりのある子ですよ」

「ほう……噂には聞いていたが八京の前ではそういう態度になるのかあの娘は。覚えておこう」



 ニヤニヤと笑いながらガルシアは顎をさすった。



「やだなぁ。みんなに対してそうですよ。ナオキ君、そろそろ行こうか。ガルシアさん、僕たちはこれで失礼します」



 八京は頭を下げ、その後、扉の方へ向きを変えた。



「は、はい。ガルシアさん失礼します」



 八京に続いてガルシアに頭を下げ八京の後を追った。



「おう、何かあったらいつでも来い! 別に用が無くても会いに来て構わんぞ」



 八京はガルシアのその言葉を聞いた後で扉を閉めて通路を歩き出した。



「何か豪快な人ですね」

「うん、あの人はいつもそうなんだ。僕たちリスターターに対してもこの世界の人間のように接してくれる」

「この世界の人たちは違うんですか?」

「え? うん……やっぱり違う世界から来たからね。僕たちの存在は良くも悪くも特別なんだ。多かれ少なかれよそよそしい態度は感じるよ」

「そうなんですか。『腫れ物を扱う』的なもんですかね?」

「まあ……そんな感じかな。でも良い人達も沢山いるから気にしなくて大丈夫だよ」



 そんな話を聞いてまったく気にしない訳にはいかないだろう。不安要素がまた一つ増えて小さくため息をついた。



この世界でうまくやっていけるのかオレ……引きこもりにはキツイぞこりゃ……



 気分が沈んだ状態で歩いていると八京はある扉の前で歩くのを止めた。



「ここだよ」



 そう言って八京は扉をノックした。

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