異世界に召喚されたオレだが、可哀そうだからゴブリンを殺せない

たけるん

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      明日香は面白くなさそうに両手を頭の後ろで組んだ。



「あ~ぁ。私の立ち合いも八京さんが良かったなぁ。そしたら私もナオキみたいに言ってもらえたかもしれないのに」

「俺の立ち合いがそんなに不満だったか? 明日香」



 いつの間にか明日香の後ろに二人の青年が立っていた。その内の一人。背が小さく短髪で金髪の青年が、明日香に向かって言い放ったその声には怒気が込められているようだ。



「当たり前でしょ! 私の時は最悪だったんだから……ってあれ?」



 明日香も後ろの存在に気付き振り返った。



「げっ! 清太……郎……」



 バツが悪そうに明日香は男の名前を口にした。名前の後半は声が小さくなっている。



「『さん』を付けろよ。俺は先輩だぞ。それと悪かったな俺が立ち合いで! ただ俺だって、初めはお前に優しく接してたんだからな」

「何が『優しく接してた』よ。いきなり『俺は怪しいもんじゃねぇ、だから名前を教えろ』だったでしょ? もう恐怖しかなかったわよ」



 立ち上がって明日香は清太郎へ向いた。



「うっ……あ、あん時は……あれが初めてで、しかも相手が女だったから、ど、どう話し掛けていいか分かんなかったんだよ。それにお前だって『先ずはそっちから名乗んなさいよ』とかメチャクチャケンカ腰だったじゃねえか」

「ちょっと! そんなこと八京さんの前で言わないでよマジで最悪なんだけど」

「最悪なのはこっちだ。ったく。折角新人が召喚されたって聞いたから来て見りゃお前が俺の悪口言ってるじゃねえかよ」

「何処が悪口よ! ホントのことをじゃない!」



 徐々に二人の声は大きくなっていく。それに比例して、周りの人間の視線が徐々に二人に向けられていた。

 どうやら二人は明日香が召喚された日から仲が悪いらしい。

 ナオキは明日香と清太郎のいがみ合いが続いていたので八京へ小声で聞いてみた。



「八京さん……あの二人っていつもこうなんですか?」

「いつもって言うわけじゃないけど……二人が会った時からまぁ、こんな感じかな」



 八京も小声で返す。呆れたような小さい笑い声が漏れる。



それっていつもじゃん……



 なるほど。二人のやり取りを見ていたらガルシアのあの言葉を思い出した。



――じゃじゃ馬――



 確かに今の明日香にピッタリな言葉だ。おそらく八京の前では良く思われようと猫を被っているのだろう。だがこんな姿を見せてはそんな努力は無いに等しい。



「――あの二人、仲が良いよねぇ」

「っ!?」



 もう一人の青年がナオキの背後から耳元で呟いた。さっきまで清太郎の隣にいたハズなのにいつの間にか背後へ来ていた。思わず飛び上がりそうだった。



「初めましてぇ新人さぁん。俺は霧島大和でぇ、あっちは鳥海清太郎だよぉ。よろしくねぇ」



 黒髪長髪でにこやかに笑う青年は、おっとりとした口調だった。



「む、叢雲ナオキです。よろしくお願いします」

「清ちゃんと明日ちゃん、いつもあんな感じなんだよぉ。仲が良いよねぇ」

「???? あの……あの二人仲がいいですか? オレには口喧嘩をしてるように見えるんですけど……」

「え~? お互い言いたいこと言ってるんだからぁ仲いいでしょう? 本当に嫌いなら話なんかしないよねぇ」



 『喧嘩するほど仲がいい』か、なるほど確かに一理ある。ならあの二人、実は凄く仲が良いことになる。が、ナオキにはそうは見えない。

 そんな二人のやり取りを見ていると大和が再び囁く。



「ここだけの話だけどぉ、清ちゃん、明日ちゃんのこと好きなんだぁ。だからナオちゃん、明日ちゃんのこと取らないであげてぇ」



ナオちゃん……いきなりナオちゃんって……またこの人も初対面の人間との距離が近い



「そ、そうなんですか? でも明日香って……」



 言いかけて思わず八京を見た。



八京さんのこと好きなのは秘密だよな?



「うん、京ちゃんのこと好きなんでしょう? 流石に相手が悪いよねぇ」



 八京に聞かれないように大和は更に小声で話した。



「えっ? 知ってるんですか?」



 大和の話で声が大きくなってしまった。



「そりゃあ京ちゃんへの態度見ればわかるよぉ。明日ちゃん分かりやすすぎぃ。でも、二人は付き合ってるわけじゃないしぃ、可能性はゼロじゃないからさぁ。それにぃ、俺はこっちに来てから清ちゃんとずっと一緒だからぁ、やっぱり応援したくなっちゃうじゃん?」

「まぁ、そりゃそうかもしれないですけど」



明日香と清太郎のやり取りを見る限り、二人が付き合うのは限りなくゼロな気がする……が、それは言わないでおこう。



「清ちゃんってぇ見た目もそうだし口調もキツイからぁ、女の子が怖がっちゃってぇ。あんまり話したこと無いんだよねぇ。けど明日ちゃんってぇ平気で清ちゃんに言い返すじゃん? それが清ちゃんには嬉しいんだってぇ」



確かに明日香は誰に対してもハッキリ自分の意見を言いそうだ。八京さん以外にはだけど。



「まぁそんな感じだからぁ、せめてナオちゃんはライバルにならないでいてくれると嬉しいなぁ」

「ハハハッ。多分なりませんよ……明日香はオレのこと男として見てないっぽいし」



残念だけど



「そうなのぉ? じゃあ後は本人たち次第だからぁ、優しく見守ってあげようかぁ」

「そうですね」



 その独特の口調からなのか大和とは話しやすい。八京とも話しをするが、どこか硬い話になってしまう。だが大和とは気軽に話ができる。そんな雰囲気が大和にはあった。



「京ちゃん。リハビリはいつまでなのぉ?」



 リハビリ? 初耳だった。



「後1~2か月ってとこかな。大分よくなってきたよ」

「あの……リハビリって何ですか?」



 思わず話に割り込んでしまった。



「あれ? まだ話てなかったんだぁ。実は京ちゃん大怪我をしてぇ、今は療養中なんだよう」



 八京に代わって大和が話した。



「え? そうだったんですか? オレたちの教育係でいたんだと思いました」



 八京からもそう聞いている。



「大和ゴメン。僕から説明するよ」



 話をしようとする大和を制止し、八京が話し始める。



「実は、僕は数か月前に怪我をして今はその療養中なんだ。その期間中にナオキ君たちが召喚されることになったから、僕が君たちのサポートをするように言われたんだ」



 確かに。考えてみれば、八京はかなりの戦力なハズだ。それがここにいてナオキたちを教育するのもおかしな話だ。だが怪我をしていて、そのリハビリ中だからだと言われれば納得もできる。

 そして八京が怪我をした戦いには心当たりがある。



「もしかして……怪我をしたのって、ガルシアさんが言ってた、ドラゴンとの戦いですか?」

「良くわかったね。そうだよ。僕はあの戦いで一度右腕を失ったんだ」

「右腕!? でも……」



 八京に右腕はついている。



 八京が右腕をまくって見せた。そこには肩の下からジグザグな継ぎ目と、そこに縫い合わせたような傷跡が残っていた。



「こ、これって……」

「うん。右腕を食いちぎられたんだ。幸い、腕がちぎれた後すぐに回収して処置をしたから何とかくっ付いたんだけどね。あの時は僕の人生終わったと思ったよ」



 腕の傷跡をさすりながら八京は小さく笑った。



「京ちゃんマジ付いてるよねぇ。腕も付いただけにぃ」



 八京以上に大和は笑った。



いや、笑えないだろ



 ナオキは笑えず顔が引きつった。八京の右腕の傷跡がグロテスクで、さっき食べたものが胃から込み上げてきそうだ。



「ごめん。不快にさせたかな」



 こちらの心情を察した八京が、まくっていた袖を戻しながら申し訳なさそうに言った。



「いいえ。ただ、そういった傷跡を見るのが初めてだったんで、驚いただけです」



 気持ちが悪いのをこらえて平静を装う。



「で、でも、そうですよね。ドラゴンとも戦うし、傷つくことも有りますよね。オレなんかがやっていけるか、正直不安になりますよ……」



 この言葉に嘘はない。いきなり召喚されて、流れで魔物たちと戦うことになりそうだ。だが、ハッキリ言ってやりたくなかった。だが、いくら嫌だと言ってもやらざるを得ないのだろう。



「ナオちゃんにはぁ、まだぁ、魔物と戦ったこと無いしぃ、刺激が強すぎたみたいだねぇ。でも大丈夫だよぉ。皆少しずつ慣れていくからぁ」



 大和が元気づけようと言ってくれるが不安は拭えない。



何でオレが召喚されたんだ……



「ま、まぁ、暫くはこっちの生活に慣れることが優先だし、そう言ったことはゆっくり時間をかけていこう。いきなり危険なことはしないよ……そう言えば大和たち、今度はどこに行くんだい?」



 八京が話題を変えて大和へ話を振った。少し強引な気もするが、八京なりの気遣いなのだろう。



「え~っと~。今度はぁ南の大陸にいくんだぁ。確かぁワイバーンの討伐だったよぅ。まったくこっちの人たちは人使いが荒いよねぇ。たまにはのんびりしたいのにぃ」



 やれやれといった感じで大和は言った。本当に行きたくないのだろう。ただその行きたくない理由はナオキと違い、やる気の問題のようだ。



「大和も清太郎もそれだけこの国に期待されてるってことだよ。ワイバーンなんて滅多に討伐指示が出ないじゃないか」

「京ちゃんがそれ言うぅ? それって嫌味だよぉ」

「え? いや……そんなつもりで言ったんじゃないんだけどな」



 頭を掻きながら、焦った八京がフォローをしようとする。



「十分嫌味だよぉ。俺たちより後に召喚されたのにぃ、俺たちより強くなってぇ、もうドラゴンの討伐隊にまで抜擢されてるんだからぁ。そこらへんもう少し自覚したほうが良いよぉ」

「そ、そうかな……気をつけるよ」



 反省するように八京は小さく言った。



「やだなぁ。そんなに真剣に捉えなくっていいよぅ。俺と京ちゃんの仲なんだからぁ。まったく真面目だなぁ。ほらスマイル・スマイルぅ」



 大和は八京の両頬を掴んで広げて見せた。



 二人のやり取りで八京と大和の仲の良さが伺えた。それに清太郎も……大和は勿論、清太郎も八京の強さを認め、八京は八京で二人のことを信頼している。そんな関係がナオキには羨ましく思えた。



「まったく大和には敵わないよ。でも二人の強さは僕が一番分かってるつもりだよ」

「京ちゃん。真っ直ぐな目でそんなこと言われたらぁ、こっちが照れちゃうよぉ。まぁ『英雄八京』にそう言ってもらえるとぉ、俺も誇らしいけどねぇ」

「英雄八京?」



 再び二人の会話に割って入ってしまった。



「そうだよぉ。召喚されてからの強さとぉ、実績でぇ京ちゃんはこの国でぇ『帝国の若き英雄八京』って呼ばれてるんだよぉ。カッコいいよねぇ」



 英雄八京……凄い通り名だ。それだけのことを八京はやってきたのだろう。



「やめてくれよ。そう呼ばれるの嫌だって言ったじゃないか」



 八京は頭を掻きながら困った顔をしている。大和はそれを知った上で言っているのだろう。八京をからかっている。



「え~? 私は良い通り名だと思うけどなぁ。流石八京さんって感じだし」



 いつの間にか明日香と清太郎の言い争いは終わっていた。そしていつからかこちらの会話を聞いていたようだ。

 更に清太郎が会話に混じる。



「八京。お前の実績が評価されて英雄なんて言われてるんだ。もっと胸張れよ。く~~っ! 俺も英雄なんて呼ばれたいぜ」

「今のアナタじゃ英雄なんて無理でしょ。良いトコ『八京の付き人』ってとこじゃない?」



 明日香が清太郎に突っかかる。まったくこのオンナは……聞いているこっちがヒヤヒヤさせられる。



「何だって!? お前またそんなこと言って、可愛くねえな。もうお前に槍術教えてやらねぇぞ!」

「別に教えてくれなくて結構よ! それに私から頼んだ覚えも無いし。八京さんにイロイロ教えて貰うから大丈夫で~す」

「んなにぃ~。おい八京。お前からもこいつに言ってやれよ!」



 話が八京に振られ、再び困った顔をした八京は明日香をなだめように優しい口調で。



「ま、まぁ明日香さん。清太郎の槍術は僕以上なのは間違いないんだから。清太郎に教えてもらえるのってすごいことなんだよ。だからそんなに清太郎のこと悪く言わないでほしいな。ね?」



 八京に諭されると明日香も急にしおらしい態度になり。



「や、八京さんにそんなこと言われたら従うしかないじゃない……清太郎……さん、ごめんなさい。ちょっと調子に乗って言い過ぎたわ」



 明日香は清太郎に深く頭を下げた。



 八京の言うことを素直に受け入れ、そこから謝罪する明日香がナオキには大人に見えた。自分だったら意地になってこんな対応は出来ないだろう。いや絶対に出来ない。



「お、おう。わかればいいんだよ。それに……俺も熱くなりすぎちまった……悪かったよ」



 最後の清太郎の謝罪は小声だったが明日香にもしっかり聞こえただろう。二人とも照れ臭そうにしている。



「は~い。二人とも仲直り出来て良かったねぇ。じゃあ仲直りのハグでもしよっかぁ」



 大和が二人の間に入り突然仲直りと称してハグを提案した。



「はぁ!?」

「はぁ!?」



 明日香も清太郎も声を揃えて驚きの表情を浮かべている。



「ちょっと大和さん。冗談辞めてよ。笑えないわよ」

「そ、そうだぞ。大和。急に何言ってんだ、ハ、ハハ、ハグなんて……おかしいだろ」



 二人とも焦っているが清太郎は言葉とは裏腹に満更でもなさそうだ。もちろん冗談だろうが。



大和さん……中々侮れない。



「え~? ハグなんて普通でしょお? 俺、女の子と喧嘩した後に仲直りしたらするけどなぁ」



この人冗談じゃなくマジだ……天然の女ったらしだ……



「お前……毎回そんなことやってんのかよ……」



 清太郎が呆れている。いや、清太郎だけではない。明日香も八京も驚いて開いた口が塞がらなくなっている。だが大和はお構いなしだ。



「だってぇ態度に出すのが一番でしょう? そこは素直に行動したほうがぁ良いと思うけどなぁ」



 この人はそうやって数々の女性を喜ばせ、泣かせてきたのだろう。そして本人にその自覚はまったく無いからたちが悪い。大和には敵わないと悟ったナオキだった。
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