異世界に召喚されたオレだが、可哀そうだからゴブリンを殺せない

たけるん

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ゴブリン

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     明日香と二人、草むらの中に身を潜めている。

 視線の先には開けた場所があり、二匹の動くモノがいた。



 ゴブリンだ



 身長は1mほど。二匹とも濃い緑色の皮膚、耳は人間よりも大きくて尖っている。髪は無く目がとても大きい。指で瞼を開けば目玉が転げ落ちそうだ。

 二匹は落ちている木の実を食べていてこちらに気付いていない。



「……こんなにスグ見つけられるなんてラッキーね」



 隣でうつ伏せになっている明日香が小声で話す。明日香とはお互いの腕が密着するほどの距離だ。初めてゴブリンを発見した興奮もあるが、明日香との近さに明日香の甘い香りが別の意味でもナオキを興奮させる。



「明日香、本当に殺すの?」



 こちらも小声で話す。返ってくる答えは分かっているがあえて質問をした。いや、返ってくる答えが違っていてほしい。



「当たり前でしょ。そのためにこうやって二人できたんでしょ? もういい加減諦めなさいよ」



 むしろそっちが諦めてほしかった。だが、ここまで来たからにはやるしかない。



「うん……でも実際どうするつもりなの?」

「そうねぇ。向こうは二匹いるんだから、私が合図をしたらお互い一匹ずつやっつければいいんじゃない?」

「や、やっぱそうだよね。ちなみに明日香が二匹やっつけるっていう案はどうかな? もともとオレは見学の予定だったし……」

「何馬鹿なこと言ってるの。私一人であの二匹殺れって!? 引っ叩くわよ」



 どうやら初めから明日香はナオキにも魔物退治をさせる気だったようだ。



話が違うじゃないか……まぁそんな気もしてたけど……



「ごめん。でもちょっと待って、まだ心の準備が出来てないから」

「ナオキの心の準備が出来るの持ってたら私がおばあちゃんになっちゃうじゃない。いい? さっさと剣を握って。『せーの』で行くわよ」



 明日香がうつ伏せから四つん這いになり置いてあった槍を握る。



「え? あ? もう?」



 つられてナオキも四つん這いになり、背中に背負っていた剣を抜こうとした――だがうまく抜けずにもたついてしまった。



「ちょっと早くしなさいよ! アイツらに気付かれるでしょ」



 急かされれば急かされるほど焦ってしまい剣は中々抜けずにいた。

 あと少しで抜けるところまで来たとき、剣が手から離れてしまった。その時――剣が抜けてしまい草の上に落ちてしまった。



ガサッ



 その音でゴブリンたちがこちらに視線を向けた。



気付かれた!?



 体中に廻っている血液が沸騰していく。

 緊張と恐怖と興奮が入り混じり頭の中が真っ白になる。



「何してるの! 気付かれちゃったじゃない! ほら行くよ」



 明日香がナオキの背中を叩く。



「う、うん。ごめん」

「そんな言葉いいから、早く剣を持ちなさいよ。いい? お互い一匹ずつ仕留めるのよ」



 そう言いながら明日香は草を掻き分けてゴブリン目掛けて走り出した。



ヤバい。急がないと



 焦りながらも剣を持ち、草を掻き分け走り始める。

 明日香はゴブリンの目の前まで迫っていた。



「ハアアァァァーー」



 持っていた槍を両手で持ち、大きく振りかぶりながら、ゴブリンへ振り下ろす。

 ――しかし攻撃の動作が大きく、ゴブリンは右へ躱した。



「まだぁ」



 そこへ明日香は、振り下ろした槍を避けたゴブリン目掛けて薙ぎ払った。その矛先は見事ゴブリンの腹を切り裂いた。



やった! 明日香すごいぞ!



 ナオキが心の中で叫んだその直後、もう一匹のゴブリンが明日香目掛けて飛びつこうとしていた。



「明日香、危ない!」



 ナオキが叫ぶより早く明日香は後ろへ飛びゴブリンの攻撃を回避した。



「ふう~」



 明日香は深呼吸をして呼吸を整えている。次の戦闘を意識しているようだ。



 凄い……凄いぞ明日香。もう一匹やっつけた。それに引き換えオレは……



 明日香の隣まで走ってきたが、そこから先へは進むことが出来なかった。本来なら、明日香が攻撃を躱したタイミングでナオキが一撃入れればゴブリンを倒して終了だった。せっかくのチャンスを逃したことになる。



「ちょっとナオキ! アンタの獲物なんだからさっさとやっつけてよ。ほら、アイツかなり怒ってるじゃない」



 声でわかる。明日香はイラついている。



「いや、無理だよ。怖いし、それに何だか可哀そうじゃないか」

「……ハァ……」



 明日香のため息が聞こえる。否、聞こえるようにあえて大袈裟にため息をついたのかもしれない。



「可哀そう? 相手はゴブリンよ!? 人間に害しか与えない害虫に対して何言ってるの? いいから早くやりなさいよ」



 明日香の言うことは分かるが身体が震えて動かない。相手はゴブリンだ。だがゴブリンにだって命があることには変わりない。



「ほら、その手に持ってる剣で一突きよ! そうすればスグ終わるわ」



「そんな簡単にいくかよ。相手だって生きてるんだ。もしかしたら襲ってくるかもしれないじゃないか」

「……チッ」



 今度は舌打ちが聞こえた。



女子が舌打ちなんかするなよ。



 こんな状況なのに何て呑気なことが頭に浮かぶんだろう。上手く考えがまとまらない。



 目の前のゴブリンは、相当頭に来ている。口からは、ダラダラと垂れたよだれと一緒にうめき声が聞こえる。目は吊り上がり赤く充血している。

 怒るのも無理はない。彼(彼女?)の仲間を一方的に殺されたのだ。当然こっちのことは憎くて仕方がないだろう。そんなゴブリンに対して心の底から謝りたいと思うのは異常なことだろうか?



どうしたら目の前のゴブリンを殺さずにやり過ごせるだろう――



 しかし、こちらの考えなどお構いなしに明日香は、ゴブリン目掛けて飛び出した――

 だがゴブリンは明日香の動きを読んでいた。ゴブリンは明日香目掛けて飛び出し、そのまま明日香のミゾオチへ体当たりをした。鈍い衝撃音がナオキの耳まで届く。



 明日香はその衝撃で後ろへ吹っ飛んだ。その拍子に持っていた槍が手から離れる。



「あぁ……」



 明日香がヤバい



 どうしたらいいのか分からなかった。ゴブリンを殺す? 明日香を抱えて逃げる? 明日香を置いて逃げる? 大きな声を出して八京に助けを求める? 堂々巡りな思考が出ては消える。どれが正解なのかが分からない。どれも正解でどれも間違えのように思える。



ヤバい……ヤバい……ヤバい……ヤバい……ヤバい……



 自分が何に対して怖がっているかも分からない。

 明日香は腹を抱えてうずくまっている。呼吸も上手くできていない。苦痛と息苦しさがこっちにも伝わる。



 そんな中、ゴブリンは明日香の持っていた槍を手に取り明日香の方へ歩き出した。



 明日香を攻撃する気だ

 このままじゃ明日香が危ない



 ナオキは自分の頬を強く張り、気合を注入した。



 動け……動け……動け……



 明日香を助けないと。目の前で明日香が殺されてしまう。



 ゴブリンは明日香の目の前に立っている。両手に持っている槍を高く持ち上げ、今にも振り下ろしそうだ。



 明日香が殺される光景が脳裏に映った――ナオキは全力疾走した。



間に合えぇぇぇl



 ゴブリンの持っている槍の刃先が、明日香目掛けて振り下ろされている。その動きがスローモーションに見えた。



明日香を助けるんだ――



 今はその思いだけがナオキを動かしていた。



 ゴブリンの一撃を明日香が受ける瞬間、ナオキはヘッドスライディングのように飛び、明日香を勢いよく突き飛ばした。

 ナオキは勢い余って、そのまま明日香のいた場所を飛び越えるかと思えたが、『ドゥ』という音とともに背中に鈍い衝撃が襲った。



「あがぁぁぁ!」

 

 声にならないうめき声が出る。



「馬鹿! 何で私を突き飛ばすの!? ゴブリンを攻撃しなさいよ!」

「うぅぅ」



 せっかく身を挺して助けたのに酷い言われようだ。だが明日香の言っていることはもっともだと今になって気付いた。そうすれば攻撃を受けずに明日香と二人、このピンチを乗り越えられただろう。



「危ない! ナオキよけて」



 明日香の叫びが言い終わらないうちに、再び背中に衝撃が走った。

 先ほどの攻撃より強烈だ。



「うっ……」



 痛みで意識が朦朧とする。出来ればこのまま意識を失ってしまいたい。だが、そうなったら確実に二人とも終わってしまう。何とかして動かないといけないが、まともに動くことが出来ないでいた。

 更に攻撃は続く。

 何度も何度もナオキの背中には衝撃が走りそのたびにカミナリに打たれたような痛みがナオキを襲った。



「や、やめて! ナオキが死んじゃう……」



 明日香の叫び声が遠くで聞こえる。

 ゴブリンの攻撃が止んでいる――トドメを刺そうとしているのか。



このまま死ぬのか……



 もうこの状況では何もできない。意識がもうろうとする中、ナオキには玲の顔が浮かんでいた。玲は何もしゃべらずナオキを見ている。



……玲……悪かったな……



 ナオキは心の中で呟き死を覚悟した。



「いやーーーー」



 遠くで明日香の叫び声がする。悲しそうな、苦しそうな、心の中からの叫び声のように感じた。



そんなに悲しむなよ。それより逃げろ明日香……



 ゴブリンからの一撃が来ることを覚悟してナオキは思った。



 ――しかし、いつまで待っても次の一撃が来ない。薄れる意識の中でナオキは八京の背中を見たような気がした。そしてナオキの意識は遠のいていった――

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