14 / 90
負傷者
しおりを挟む
ナオキは痛みを感じて目を覚ました。
……ここは……どこだ? 身体中が痛い……
「ナオキ!? 目が覚めたの?」
『ガタッ』と音を立てながら明日香の声が聞こえる。椅子から立ち上がったようだ。
「ナオキ……私のこと分かる?」
「あ、明日香だろ……」
しゃべると背中が酷く痛んだ。痛みに耐えながら顔だけ向きを変え、明日香の顔を見た。目に涙を溜めながら笑顔を浮かべている。
「ナオキ……丸一日起きなかったんだよ。良かった。ちょっと待ってて、八京さん呼んでくるから」
明日香は扉を開け走っていった。扉は開けっぱなしになっている。
丸一日寝てた……
背中の痛みを感じながらナオキは痛みの原因を思い返した。
――オレ、そう言えばゴブリンに――
殺されかけた……今ナオキは生きている。確かにあの時ナオキは自分の死を覚悟した。そして意識を失う直前八京の背中を見た気がした。
あれは幻じゃなかったんだ……
遠くから足音が近づいてくる。ほどなくして八京と明日香が部屋に入ってきた。
「ナオキ君! 良かった。気が付いたんだね」
「八京さん、オレ――」
「アナタ本当に間一髪だったんだから! ゴブリンが槍を振り下ろした瞬間に八京さんが現れて、一瞬でゴブリンをやっつけたの。八京さんに感謝しなさい」
誰のおかけでこんな目にあったと思ってるんだ。
そう思う反面、八京には感謝している。
「やっぱりそうだったんだ。八京さん、本当にありがとうございます」
痛みを堪えながら頭を動かした。今のナオキに出来る精一杯の感謝だった。
「当然のことをしたまでだよ。それに、もっと早く二人を見つけていればこんなに怪我を負わせることも無かったんだ。僕こそごめん」
八京はナオキに対し深く頭を下げた。
「そんな……頭を上げてください。勝手に行動したのはオレたちだし。八京さんは全然悪くないですよ」
「そうよ。八京さんは謝る必要なんか無いわ。私たち二人が悪いのよ」
明日香……そこはせめて『私が悪い』って言ってほしかった……
「でも二人から目を離したのは僕だ。これは監督者としての僕の責任なんだ。もっと慎重に行動していればよかった。本当に申し訳ない」
尚も八京は頭を下げている。
無理をしてでも明日香を引き留めておけば良かった。
そう後悔し、本当に八京には申し訳なかったと感じてしまう。
「そんなことないです。オレも明日香もこうして生きている。それは八京さんが助けてくれたからじゃないですか。それなのに八京さんが悪いなんて思えません。ホントに感謝してます」
あの瞬間、間違いなくナオキは死んでいた。それを八京は救ってくれたのだ。紛れもなく八京は英雄だった。
やっと八京は頭を上げた。しかし、その顔は曇ったままだ。
「今回のこと、本当にすいませんでした。勝手に行動して……八京さんに迷惑をかけて……オレ、今回のことで改めてこの世界の恐ろしさを実感しました。ホント馬鹿なことをやったと思ってます」
魔物と戦う――想像していた以上に恐ろしかった。身体が思うように動かなかった。覚悟が足りなかった。こっちが命を取ろうとすれば当然向こうも反撃をしてくる。こんな簡単なことが分かっているようでわかっていなかった。
「八京さん。ナオキもこんなに反省してるんだからもうこの話はこれで終わりにしましょ?」
「明日香……お前はもっと反省しろよ。あと、オレに対して謝ったほうがいいぞ。元はと言えばお前が――」
「わーわーわー! ナオキ。私だって反省してるよ! だからそれ以上は言わなくって大丈夫だから!」
言いたいことを明日香に遮られてしまった。
「それに、私だって八京さんに謝ったし、ナオキのことも反省してアナタの看病してたんだよ」
「オレの看病ぉ? どうせ暇なときにちょっと見に来た程度だろ」
「ひっどーい。そんなことないもん」
「ナオキ君。明日香さんはナオキ君がここに運ばれてから、一睡もせずにずっと看病してたんだよ」
「え? そうなのか?」
意外だった。
「そうよ。私、心配で一睡もしてないんだから。少しは私に感謝しなさいよ」
「明日香……そういうこと自分で言うから有難さが薄れるんだよ。お前が何も言わずに八京さんが教えてくれてたらオレだって……プッ……アハハハ……イテテ……」
明日香とのやり取りで沈んでいた空気が和らぎ思わず笑ってしまった。明日香に対して、多少の怒りもあったがそれも許そうと思った。
「ちょっと、何でそこで笑うのよ!」
明日香は頬を膨らませた。
そのやり取りを見ていた八京も笑いを堪えている。
「あー! 八京さんも笑おうとしてる。ねぇ何で笑ってるのよ」
尚も明日香は膨れている。
そうだ。オレも明日香も危険な目にあった。でもこうやって生きて帰ってくることが出来た。そしてこうやって笑っていられる。これががとても大事なことなんだ。
「そういえば明日香。怪我は大丈夫なのか?」
自分のことばかりで忘れていたが、明日香も攻撃を受けていた。
「あー、私のは大丈夫。スグに八京さんが回復魔法で癒してくれたから」
「回復魔法? 八京さん出来るんですか!?」
初耳だった。確かに八京が魔法を使えることは知っていたが、どんな魔法を使えるのかは知らされていなかった。
「少しだけね。ちょっとした打ち身とか切り傷を治す程度だよ。ナオキ君みたいにダメージが大きいのは僕には治せないんだ」
「そうだったんですか……」
「僕は回復系専門じゃないから、ナオキ君をスグに治せなくてごめん。でも、明日には回復魔法のスペシャリストが帰ってくるはずだから、それまで我慢してもらえるかな」
回復魔法のスペシャリスト。どんな人だろう――
「大丈夫です。全然待てます。でも、八京さんは回復のほかにはどんな魔法が使えるんですか?」
「僕は水と風と土の魔法を使うんだ。ホント回復魔法はおまけ程度なんだよ」
「3種類も使えるんですか!? やっぱり八京さんは凄いですね」
それに比べてオレは――
「まだまだだよ。それに僕は剣での戦闘に特化してるから、魔法専門の人には敵わないよ」
それでも3種類の属性を扱えるなんて……
「ナオキは属性無いもんねぇ。やっぱり羨ましいでしょ?」
心の中を読んだように明日香は言った。その顔には意地の悪そうな笑みを浮かべている。
「うるさいなぁ。オレのことは良いんだよ。今は八京さんが攻撃魔法のほかに回復魔法を使えることが凄いって思ってたんだ」
剣の腕前は誰もが認め、攻撃魔法に回復魔法。八京は天才なのだろう。
「だから回復は気休め程度だから……そこを誤解しないでね」
慌てて八京が訂正に入る。
「でも八京さんの回復魔法気持ち良かったぁ。私、また怪我したら八京さんに治してもらおっと」
どさくさに紛れて八京の腕に明日香は抱きついた。
なるほど。怪我はしたが明日香は結果オーライだったわけだ。オレなんて痛みに耐えているのに……
「明日香さん怪我はしないほうがいいよ。僕が毎回治せる保証も無いんだし」
「大丈夫ですよ。私そんなに大きな怪我しないですから。今回だって、ゴブリンの攻撃よりナオキに突き飛ばされた時のダメージのほうが大きかったんですよ」
「えっ? そうなの!?」
「そうよ。ナオキ、私を思いっきり突き飛ばしたでしょ? アレ痛かったんだから」
ナオキに突き飛ばされた辺りをさすっている。
確かに、あの時は無我夢中で明日香を思いっきり突き飛ばした。思えば、この世界のリスターターはかなりの力を持っているのだ。手加減をしなければ大怪我をさせていたかもしれない。
「……ごめん。あの時はそんな余裕がなくって、思わず突き飛ばした」
急にしおらしくなったナオキに慌てた明日香は両手を前に出しながら――
「ちょっと。冗談よ冗談。確かにナオキの突き飛ばしのほうが痛かったけど……それだって大したことなかったんだから。むしろナオキがいなかったら私が大怪我をしてたかもしれないし、感謝してるのよ」
うん。あれはオレが行動しなかったら明日香は危なかった。だけど――
「けど、オレが初めからゴブリンを攻撃してれば状況は違ってた……」
「それはもう過ぎたことだから。後悔しても仕方ないよ。結果的に二人は無事だったんだ。重要なのは、過去の過ちを振り返って、今後はどうしたらいいかを考えて行動することだよ」
八京の言う通りだ。今回のことを踏まえてこれからどうしたらいいのか考えなければいけない。
「――八京さん。オレ、もっと強くなりたいです! そりゃあ、まだ魔物を攻撃できるか分からないけど……でも今出来ることは、オレが強くなって、明日香や他の人が傷つかないようにすることだと思うから。だから……オレにもっといろいろ教えてください」
そうだ。まずは強くならないと何も出来ない。八京さんのように強くなって皆を守りたい
八京がナオキをじっと見つめている。
「……分かった。僕も出来る限り協力するよ。でもその前に身体をしっかり治さないと、何も出来ないからね」
「そ、そうでした。先ずは身体を治します」
「ナオキィ折角カッコいいこと言ったのに相変わらず締まらないよね。まったく……でもそこがナオキらしいけど」
明日香も八京も笑い出した。
せっかくの決意が台無しだ……けど、この気持ちは本物だ。絶対に強くなる。
「ホントにナオキ君が大丈夫そうでホッとしたよ。じゃあ、僕はそろそろ行くから。明日の準備もあるしね」
「明日? 何かあるんですか?」
「明日はまたあっちの世界から一人召喚されるんだよ。で、また僕が立ち合いをやるからその準備が必要なんだ」
初めて聞いた……いや前にそんな話してたっけ……
「ナオキ。城外の訓練前に八京さん話してたよ。アナタ訓練のことで頭がいっぱいで聞いてなかったんでしょ?」
明日香が呆れている。だが確かに言っていたような気もする。
「う~ん……すいません。やっぱり覚えてません」
「別にいいよ。先ずは自分のことに専念しなきゃ。じゃあナオキ君また来るよ」
そう言って八京は部屋を出ていった。部屋にはナオキと明日香の二人になり、沈黙の時間が流れた。
「……明日香。お前、八京さんになんて説明したんだよ? 明日香が今回のこと提案したの言ってないだろ?」
「やっぱバレた? 私がナオキを誘ったの言い辛くって……思わず二人で話してるうちに決まったって言っちゃった」
テヘペロ
いたずらがバレた子供のように明日香は笑いながら白状した。
「やっぱり……オレが明日香に謝るように言おうとした時、急に遮ったからそうだと思ったんだよ」
「だって、八京さんに嫌われたくなかったんだもん。ナオキお願い。話合わせて」
両手を合わせた明日香は言った。
別に明日香が誘おうと二人で決めようとナオキはどっちでも良かった。
「まぁいいよ。結果的に二人でやったことだから。話合わせてやるよ」
「ホント!? ありがとう。ナオキのそういうとこ好きだぞ! 八京さんがいなかったら私、ナオキのこと好きになってるわ」
「はいはい。ありがとうございます」
都合が良い奴
「え? 褒めてるのよ? ナオキのこと2番目に好きだってことだよ?」
「え?」
意外な言葉がきて戸惑った。2番目とはいえ女子に好きだなんて言われたことが無いから当然だ。
「あ、何? もしかして照れてるの? カワイイ」
ニヤついた顔で明日香がこちらを覗き込んでいる。
明日香との距離が近すぎて顔を背けてしまった。これではそうだと言っているようなものだ。
「う、ウルサイなぁ。別にいいだろ! 今までそんなこと言われたこと無かったんだから……仕方ないだろ」
「へぇ~そうなんだぁ。ナオキって、顔は悪くないんだから、もしかしたら元の世界でナオキのこと好きな子だっていたかもしれないよ? こっちの世界に来て残念だったね」
明日香のニヤケ顔は続いている。完全におちょくられている。
「もういいだろ! オレは意識戻ったし。明日香も自分の部屋に戻って休めよ」
恥ずかしすぎてもう限界だった。
「え~。もう少しナオキの反応見てたかったけどなぁ。でもナオキ元気そうだし、私も戻って寝よっかな」
是非そうしてくれ
「いろいろあったけどオレは大丈夫だから。だからゆっくり寝ろよ」
「分かったわ。確かに安心して少し眠くなったみたい。じゃあこれでおいとましますか」
明日香は扉に向って歩いたがノブに手を掛けた時、こちらを振り向いた。
「ナオキ。あの時助けてくれてありがとう。嬉しかったよ」
その笑顔は今まで見た中で一番のものだった。ナオキはその笑顔に見惚れ言葉を失った。
「じゃあね。おやすみ」
そう言って扉は締まった。途端に静けさがこの部屋を包んだ。
ナオキは視線を扉から天井に向け、やがて眼を閉じて毛布をかぶった。
……2番目でも悪くないかも……
完全に浮かれていた。毛布の中でナオキの顔は緩みまくっている。
……ここは……どこだ? 身体中が痛い……
「ナオキ!? 目が覚めたの?」
『ガタッ』と音を立てながら明日香の声が聞こえる。椅子から立ち上がったようだ。
「ナオキ……私のこと分かる?」
「あ、明日香だろ……」
しゃべると背中が酷く痛んだ。痛みに耐えながら顔だけ向きを変え、明日香の顔を見た。目に涙を溜めながら笑顔を浮かべている。
「ナオキ……丸一日起きなかったんだよ。良かった。ちょっと待ってて、八京さん呼んでくるから」
明日香は扉を開け走っていった。扉は開けっぱなしになっている。
丸一日寝てた……
背中の痛みを感じながらナオキは痛みの原因を思い返した。
――オレ、そう言えばゴブリンに――
殺されかけた……今ナオキは生きている。確かにあの時ナオキは自分の死を覚悟した。そして意識を失う直前八京の背中を見た気がした。
あれは幻じゃなかったんだ……
遠くから足音が近づいてくる。ほどなくして八京と明日香が部屋に入ってきた。
「ナオキ君! 良かった。気が付いたんだね」
「八京さん、オレ――」
「アナタ本当に間一髪だったんだから! ゴブリンが槍を振り下ろした瞬間に八京さんが現れて、一瞬でゴブリンをやっつけたの。八京さんに感謝しなさい」
誰のおかけでこんな目にあったと思ってるんだ。
そう思う反面、八京には感謝している。
「やっぱりそうだったんだ。八京さん、本当にありがとうございます」
痛みを堪えながら頭を動かした。今のナオキに出来る精一杯の感謝だった。
「当然のことをしたまでだよ。それに、もっと早く二人を見つけていればこんなに怪我を負わせることも無かったんだ。僕こそごめん」
八京はナオキに対し深く頭を下げた。
「そんな……頭を上げてください。勝手に行動したのはオレたちだし。八京さんは全然悪くないですよ」
「そうよ。八京さんは謝る必要なんか無いわ。私たち二人が悪いのよ」
明日香……そこはせめて『私が悪い』って言ってほしかった……
「でも二人から目を離したのは僕だ。これは監督者としての僕の責任なんだ。もっと慎重に行動していればよかった。本当に申し訳ない」
尚も八京は頭を下げている。
無理をしてでも明日香を引き留めておけば良かった。
そう後悔し、本当に八京には申し訳なかったと感じてしまう。
「そんなことないです。オレも明日香もこうして生きている。それは八京さんが助けてくれたからじゃないですか。それなのに八京さんが悪いなんて思えません。ホントに感謝してます」
あの瞬間、間違いなくナオキは死んでいた。それを八京は救ってくれたのだ。紛れもなく八京は英雄だった。
やっと八京は頭を上げた。しかし、その顔は曇ったままだ。
「今回のこと、本当にすいませんでした。勝手に行動して……八京さんに迷惑をかけて……オレ、今回のことで改めてこの世界の恐ろしさを実感しました。ホント馬鹿なことをやったと思ってます」
魔物と戦う――想像していた以上に恐ろしかった。身体が思うように動かなかった。覚悟が足りなかった。こっちが命を取ろうとすれば当然向こうも反撃をしてくる。こんな簡単なことが分かっているようでわかっていなかった。
「八京さん。ナオキもこんなに反省してるんだからもうこの話はこれで終わりにしましょ?」
「明日香……お前はもっと反省しろよ。あと、オレに対して謝ったほうがいいぞ。元はと言えばお前が――」
「わーわーわー! ナオキ。私だって反省してるよ! だからそれ以上は言わなくって大丈夫だから!」
言いたいことを明日香に遮られてしまった。
「それに、私だって八京さんに謝ったし、ナオキのことも反省してアナタの看病してたんだよ」
「オレの看病ぉ? どうせ暇なときにちょっと見に来た程度だろ」
「ひっどーい。そんなことないもん」
「ナオキ君。明日香さんはナオキ君がここに運ばれてから、一睡もせずにずっと看病してたんだよ」
「え? そうなのか?」
意外だった。
「そうよ。私、心配で一睡もしてないんだから。少しは私に感謝しなさいよ」
「明日香……そういうこと自分で言うから有難さが薄れるんだよ。お前が何も言わずに八京さんが教えてくれてたらオレだって……プッ……アハハハ……イテテ……」
明日香とのやり取りで沈んでいた空気が和らぎ思わず笑ってしまった。明日香に対して、多少の怒りもあったがそれも許そうと思った。
「ちょっと、何でそこで笑うのよ!」
明日香は頬を膨らませた。
そのやり取りを見ていた八京も笑いを堪えている。
「あー! 八京さんも笑おうとしてる。ねぇ何で笑ってるのよ」
尚も明日香は膨れている。
そうだ。オレも明日香も危険な目にあった。でもこうやって生きて帰ってくることが出来た。そしてこうやって笑っていられる。これががとても大事なことなんだ。
「そういえば明日香。怪我は大丈夫なのか?」
自分のことばかりで忘れていたが、明日香も攻撃を受けていた。
「あー、私のは大丈夫。スグに八京さんが回復魔法で癒してくれたから」
「回復魔法? 八京さん出来るんですか!?」
初耳だった。確かに八京が魔法を使えることは知っていたが、どんな魔法を使えるのかは知らされていなかった。
「少しだけね。ちょっとした打ち身とか切り傷を治す程度だよ。ナオキ君みたいにダメージが大きいのは僕には治せないんだ」
「そうだったんですか……」
「僕は回復系専門じゃないから、ナオキ君をスグに治せなくてごめん。でも、明日には回復魔法のスペシャリストが帰ってくるはずだから、それまで我慢してもらえるかな」
回復魔法のスペシャリスト。どんな人だろう――
「大丈夫です。全然待てます。でも、八京さんは回復のほかにはどんな魔法が使えるんですか?」
「僕は水と風と土の魔法を使うんだ。ホント回復魔法はおまけ程度なんだよ」
「3種類も使えるんですか!? やっぱり八京さんは凄いですね」
それに比べてオレは――
「まだまだだよ。それに僕は剣での戦闘に特化してるから、魔法専門の人には敵わないよ」
それでも3種類の属性を扱えるなんて……
「ナオキは属性無いもんねぇ。やっぱり羨ましいでしょ?」
心の中を読んだように明日香は言った。その顔には意地の悪そうな笑みを浮かべている。
「うるさいなぁ。オレのことは良いんだよ。今は八京さんが攻撃魔法のほかに回復魔法を使えることが凄いって思ってたんだ」
剣の腕前は誰もが認め、攻撃魔法に回復魔法。八京は天才なのだろう。
「だから回復は気休め程度だから……そこを誤解しないでね」
慌てて八京が訂正に入る。
「でも八京さんの回復魔法気持ち良かったぁ。私、また怪我したら八京さんに治してもらおっと」
どさくさに紛れて八京の腕に明日香は抱きついた。
なるほど。怪我はしたが明日香は結果オーライだったわけだ。オレなんて痛みに耐えているのに……
「明日香さん怪我はしないほうがいいよ。僕が毎回治せる保証も無いんだし」
「大丈夫ですよ。私そんなに大きな怪我しないですから。今回だって、ゴブリンの攻撃よりナオキに突き飛ばされた時のダメージのほうが大きかったんですよ」
「えっ? そうなの!?」
「そうよ。ナオキ、私を思いっきり突き飛ばしたでしょ? アレ痛かったんだから」
ナオキに突き飛ばされた辺りをさすっている。
確かに、あの時は無我夢中で明日香を思いっきり突き飛ばした。思えば、この世界のリスターターはかなりの力を持っているのだ。手加減をしなければ大怪我をさせていたかもしれない。
「……ごめん。あの時はそんな余裕がなくって、思わず突き飛ばした」
急にしおらしくなったナオキに慌てた明日香は両手を前に出しながら――
「ちょっと。冗談よ冗談。確かにナオキの突き飛ばしのほうが痛かったけど……それだって大したことなかったんだから。むしろナオキがいなかったら私が大怪我をしてたかもしれないし、感謝してるのよ」
うん。あれはオレが行動しなかったら明日香は危なかった。だけど――
「けど、オレが初めからゴブリンを攻撃してれば状況は違ってた……」
「それはもう過ぎたことだから。後悔しても仕方ないよ。結果的に二人は無事だったんだ。重要なのは、過去の過ちを振り返って、今後はどうしたらいいかを考えて行動することだよ」
八京の言う通りだ。今回のことを踏まえてこれからどうしたらいいのか考えなければいけない。
「――八京さん。オレ、もっと強くなりたいです! そりゃあ、まだ魔物を攻撃できるか分からないけど……でも今出来ることは、オレが強くなって、明日香や他の人が傷つかないようにすることだと思うから。だから……オレにもっといろいろ教えてください」
そうだ。まずは強くならないと何も出来ない。八京さんのように強くなって皆を守りたい
八京がナオキをじっと見つめている。
「……分かった。僕も出来る限り協力するよ。でもその前に身体をしっかり治さないと、何も出来ないからね」
「そ、そうでした。先ずは身体を治します」
「ナオキィ折角カッコいいこと言ったのに相変わらず締まらないよね。まったく……でもそこがナオキらしいけど」
明日香も八京も笑い出した。
せっかくの決意が台無しだ……けど、この気持ちは本物だ。絶対に強くなる。
「ホントにナオキ君が大丈夫そうでホッとしたよ。じゃあ、僕はそろそろ行くから。明日の準備もあるしね」
「明日? 何かあるんですか?」
「明日はまたあっちの世界から一人召喚されるんだよ。で、また僕が立ち合いをやるからその準備が必要なんだ」
初めて聞いた……いや前にそんな話してたっけ……
「ナオキ。城外の訓練前に八京さん話してたよ。アナタ訓練のことで頭がいっぱいで聞いてなかったんでしょ?」
明日香が呆れている。だが確かに言っていたような気もする。
「う~ん……すいません。やっぱり覚えてません」
「別にいいよ。先ずは自分のことに専念しなきゃ。じゃあナオキ君また来るよ」
そう言って八京は部屋を出ていった。部屋にはナオキと明日香の二人になり、沈黙の時間が流れた。
「……明日香。お前、八京さんになんて説明したんだよ? 明日香が今回のこと提案したの言ってないだろ?」
「やっぱバレた? 私がナオキを誘ったの言い辛くって……思わず二人で話してるうちに決まったって言っちゃった」
テヘペロ
いたずらがバレた子供のように明日香は笑いながら白状した。
「やっぱり……オレが明日香に謝るように言おうとした時、急に遮ったからそうだと思ったんだよ」
「だって、八京さんに嫌われたくなかったんだもん。ナオキお願い。話合わせて」
両手を合わせた明日香は言った。
別に明日香が誘おうと二人で決めようとナオキはどっちでも良かった。
「まぁいいよ。結果的に二人でやったことだから。話合わせてやるよ」
「ホント!? ありがとう。ナオキのそういうとこ好きだぞ! 八京さんがいなかったら私、ナオキのこと好きになってるわ」
「はいはい。ありがとうございます」
都合が良い奴
「え? 褒めてるのよ? ナオキのこと2番目に好きだってことだよ?」
「え?」
意外な言葉がきて戸惑った。2番目とはいえ女子に好きだなんて言われたことが無いから当然だ。
「あ、何? もしかして照れてるの? カワイイ」
ニヤついた顔で明日香がこちらを覗き込んでいる。
明日香との距離が近すぎて顔を背けてしまった。これではそうだと言っているようなものだ。
「う、ウルサイなぁ。別にいいだろ! 今までそんなこと言われたこと無かったんだから……仕方ないだろ」
「へぇ~そうなんだぁ。ナオキって、顔は悪くないんだから、もしかしたら元の世界でナオキのこと好きな子だっていたかもしれないよ? こっちの世界に来て残念だったね」
明日香のニヤケ顔は続いている。完全におちょくられている。
「もういいだろ! オレは意識戻ったし。明日香も自分の部屋に戻って休めよ」
恥ずかしすぎてもう限界だった。
「え~。もう少しナオキの反応見てたかったけどなぁ。でもナオキ元気そうだし、私も戻って寝よっかな」
是非そうしてくれ
「いろいろあったけどオレは大丈夫だから。だからゆっくり寝ろよ」
「分かったわ。確かに安心して少し眠くなったみたい。じゃあこれでおいとましますか」
明日香は扉に向って歩いたがノブに手を掛けた時、こちらを振り向いた。
「ナオキ。あの時助けてくれてありがとう。嬉しかったよ」
その笑顔は今まで見た中で一番のものだった。ナオキはその笑顔に見惚れ言葉を失った。
「じゃあね。おやすみ」
そう言って扉は締まった。途端に静けさがこの部屋を包んだ。
ナオキは視線を扉から天井に向け、やがて眼を閉じて毛布をかぶった。
……2番目でも悪くないかも……
完全に浮かれていた。毛布の中でナオキの顔は緩みまくっている。
0
あなたにおすすめの小説
『異世界ガチャでユニークスキル全部乗せ!? ポンコツ神と俺の無自覚最強スローライフ』
チャチャ
ファンタジー
> 仕事帰りにファンタジー小説を買った帰り道、不運にも事故死した38歳の男。
気がつくと、目の前には“ポンコツ”と噂される神様がいた——。
「君、うっかり死んじゃったから、異世界に転生させてあげるよ♪」
「スキル? ステータス? もちろんガチャで決めるから!」
最初はブチギレ寸前だったが、引いたスキルはなんと全部ユニーク!
本人は気づいていないが、【超幸運】の持ち主だった!
「冒険? 魔王? いや、俺は村でのんびり暮らしたいんだけど……」
そんな願いとは裏腹に、次々とトラブルに巻き込まれ、無自覚に“最強伝説”を打ち立てていく!
神様のミスで始まった異世界生活。目指すはスローライフ、されど周囲は大騒ぎ!
◆ガチャ転生×最強×スローライフ!
無自覚チートな元おっさんが、今日も異世界でのんびり無双中!
【完結】スーパーの店長・結城偉介 〜異世界でスーパーの売れ残りを在庫処分〜
かの
ファンタジー
世界一周旅行を夢見てコツコツ貯金してきたスーパーの店長、結城偉介32歳。
スーパーのバックヤードで、うたた寝をしていた偉介は、何故か異世界に転移してしまう。
偉介が転移したのは、スーパーでバイトするハル君こと、青柳ハル26歳が書いたファンタジー小説の世界の中。
スーパーの過剰商品(売れ残り)を捌きながら、微妙にズレた世界線で、偉介の異世界一周旅行が始まる!
冒険者じゃない! 勇者じゃない! 俺は商人だーーー! だからハル君、お願い! 俺を戦わせないでください!
おっさん武闘家、幼女の教え子達と十年後に再会、実はそれぞれ炎・氷・雷の精霊の王女だった彼女達に言い寄られつつ世界を救い英雄になってしまう
お餅ミトコンドリア
ファンタジー
パーチ、三十五歳。五歳の時から三十年間修行してきた武闘家。
だが、全くの無名。
彼は、とある村で武闘家の道場を経営しており、〝拳を使った戦い方〟を弟子たちに教えている。
若い時には「冒険者になって、有名になるんだ!」などと大きな夢を持っていたものだが、自分の道場に来る若者たちが全員〝天才〟で、自分との才能の差を感じて、もう諦めてしまった。
弟子たちとの、のんびりとした穏やかな日々。
独身の彼は、そんな彼ら彼女らのことを〝家族〟のように感じており、「こんな毎日も悪くない」と思っていた。
が、ある日。
「お久しぶりです、師匠!」
絶世の美少女が家を訪れた。
彼女は、十年前に、他の二人の幼い少女と一緒に山の中で獣(とパーチは思い込んでいるが、実はモンスター)に襲われていたところをパーチが助けて、その場で数時間ほど稽古をつけて、自分たちだけで戦える力をつけさせた、という女の子だった。
「私は今、アイスブラット王国の〝守護精霊〟をやっていまして」
精霊を自称する彼女は、「ちょ、ちょっと待ってくれ」と混乱するパーチに構わず、ニッコリ笑いながら畳み掛ける。
「そこで師匠には、私たちと一緒に〝魔王〟を倒して欲しいんです!」
これは、〝弟子たちがあっと言う間に強くなるのは、師匠である自分の特殊な力ゆえ〟であることに気付かず、〝実は最強の実力を持っている〟ことにも全く気付いていない男が、〝実は精霊だった美少女たち〟と再会し、言い寄られ、弟子たちに愛され、弟子以外の者たちからも尊敬され、世界を救って英雄になってしまう物語。
(※第18回ファンタジー小説大賞に参加しています。
もし宜しければ【お気に入り登録】で応援して頂けましたら嬉しいです!
何卒宜しくお願いいたします!)
ラストアタック!〜御者のオッサン、棚ぼたで最強になる〜
KeyBow
ファンタジー
第18回ファンタジー小説大賞奨励賞受賞
ディノッゾ、36歳。職業、馬車の御者。
諸国を旅するのを生き甲斐としながらも、その実態は、酒と女が好きで、いつかは楽して暮らしたいと願う、どこにでもいる平凡なオッサンだ。
そんな男が、ある日、傲慢なSランクパーティーが挑むドラゴンの討伐に、くじ引きによって理不尽な捨て駒として巻き込まれる。
捨て駒として先行させられたディノッゾの馬車。竜との遭遇地点として聞かされていた場所より、遥か手前でそれは起こった。天を覆う巨大な影―――ドラゴンの襲撃。馬車は木っ端微塵に砕け散り、ディノッゾは、同乗していたメイドの少女リリアと共に、死の淵へと叩き落された―――はずだった。
腕には、守るべきメイドの少女。
眼下には、Sランクパーティーさえも圧倒する、伝説のドラゴン。
―――それは、ただの不運な落下のはずだった。
崩れ落ちる崖から転落する際、杖代わりにしていただけの槍が、本当に、ただ偶然にも、ドラゴンのたった一つの弱点である『逆鱗』を貫いた。
その、あまりにも幸運な事故こそが、竜の命を絶つ『最後の一撃(ラストアタック)』となったことを、彼はまだ知らない。
死の淵から生還した彼が手に入れたのは、神の如き規格外の力と、彼を「師」と慕う、新たな仲間たちだった。
だが、その力の代償は、あまりにも大きい。
彼が何よりも愛していた“酒と女と気楽な旅”――
つまり平和で自堕落な生活そのものだった。
これは、英雄になるつもりのなかった「ただのオッサン」が、
守るべき者たちのため、そして亡き友との誓いのために、
いつしか、世界を救う伝説へと祭り上げられていく物語。
―――その勘違いと優しさが、やがて世界を揺るがす。
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
地味スキル「ためて・放つ」が最強すぎた!~出来損ないはいらん!と追い出したくせに英雄に駆け上がってから戻れと言われても手遅れです~
かくろう
ファンタジー
【ためて・放つ】という地味スキルを一生に一度の儀式で授かってしまった主人公セージ。
そのせいで家から追放され、挙げ句に異母弟から殺されかけてしまう。
しかしあらゆるものを【ためる】でパワフルにできるこのスキルは、最高ランクの冒険者すらかすんでしまうほどのぶっ壊れ能力だった!
命からがら魔物の強襲から脱したセージは、この力を駆使して成り上がっていく事を決意する。
そして命の危機に瀕していた少女リンカニアと出会い、絆を深めていくうちに自分のスキルを共有できる事に気が付いた。
――これは、世界で類を見ない最強に成り上がっていく主人公と、彼の元へ集まってくる仲間達との物語である。
家族転生 ~父、勇者 母、大魔導師 兄、宰相 姉、公爵夫人 弟、S級暗殺者 妹、宮廷薬師 ……俺、門番~
北条新九郎
ファンタジー
三好家は一家揃って全滅し、そして一家揃って異世界転生を果たしていた。
父は勇者として、母は大魔導師として異世界で名声を博し、現地人の期待に応えて魔王討伐に旅立つ。またその子供たちも兄は宰相、姉は公爵夫人、弟はS級暗殺者、妹は宮廷薬師として異世界を謳歌していた。
ただ、三好家第三子の神太郎だけは異世界において冴えない立場だった。
彼の職業は………………ただの門番である。
そして、そんな彼の目的はスローライフを送りつつ、異世界ハーレムを作ることだった。
二月から週二回更新になります。お気に入り・感想、宜しくお願いします。
【しっかり書き換え版】『異世界でたった1人の日本人』~ 異世界で日本の神の加護を持つたった1人の男~
石のやっさん
ファンタジー
12/17 13時20分 HOT男性部門1位 ファンタジー日間 1位 でした。
ありがとうございます
主人公の神代理人(かみしろ りひと)はクラスの異世界転移に巻き込まれた。
転移前に白い空間にて女神イシュタスがジョブやスキルを与えていたのだが、理人の番が来た時にイシュタスの顔色が変わる。「貴方神臭いわね」そう言うと理人にだけジョブやスキルも与えずに異世界に転移をさせた。
ジョブやスキルの無い事から早々と城から追い出される事が決まった、理人の前に天照の分体、眷属のアマ=テラス事『テラスちゃん』が現れた。
『異世界の女神は誘拐犯なんだ』とリヒトに話し、神社の宮司の孫の理人に異世界でも生きられるように日本人ならではの力を授けてくれた。
ここから『異世界でたった1人の日本人、理人の物語』がスタートする
「『異世界でたった1人の日本人』 私達を蔑ろにしチート貰ったのだから返して貰いますね」が好評だったのですが...昔に書いて小説らしくないのでしっかり書き始めました。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる