異世界に召喚されたオレだが、可哀そうだからゴブリンを殺せない

たけるん

文字の大きさ
18 / 90

深夜のナオキとルカ

しおりを挟む
     深夜。ナオキはベッドの中で寝返りをうっていた。もう何度寝返りをしただろう……明日のことを考えると眠気は起こらず、目が冴えていた。

 眠ることをナオキは諦め、ベッドから出た。



「何か飲んで気分を落ち着かせよう……」



 ナオキは部屋を出て食堂へ向かった。



 食堂で水を飲んで自室に戻ろうと歩いていると、中庭に人影があることにナオキは気付いた。



こんな時間に誰だろう……



 ナオキは人影へ近づいて行った。別に気にせずそのまま自室に戻っても良かったのだが、何となく気になった。

 中庭の隅にある人影は座って上を見ていた。

 星を見ているようだ。ナオキが近づいても人影は動かない。

 近くまで来て人影はルカだと知った。



「……眠れないの?」



 声を掛けられ、驚いたようにルカはナオキの方を振り返った。そしてナオキの質問に返事は無い。

 

「こんな時間にどうしたの? 明日は早いし寝ておいたほうがいいよ」



 まるで自分に言い聞かせているような言葉だ。

 ルカの横まで歩いて行き、そのままナオキは座った。



「………………」

「………………」

「………………」

「………………」



やっぱり会話が無い……明日香とならスグに話せるのに……



「……あ……あの……」



 沈黙を破ったのはルカだった。



「わ、私……人見知りが酷くって……しかも男の人と、は、話すことなんて今までほとんどなくて……せ、折角話し掛けてくれてたのに……ほ、ホントにす、すいません」

「そ、そうだったんだ。別に気にしてないから大丈夫だよ。それにオレの方こそ変に気を使わせちゃったみたいでゴメンね」



 極度の人見知り……なるほど、そう言うことだったのか。それに異世界なんて突拍子もないところで男に話し掛けられれば尚更だろう。



「いえ……き、気を使ってくれていたのはう、嬉しかったんです。た、ただ緊張しちゃって、ど、どう話せばいいのか分からなくって……そ、そのうちへ、変な間が出来ちゃって……か、会話もロ、ロクにできなくて……」



 今も精一杯ルカは喋っているのだろう。でも自分の言葉でしっかり意思を伝えようとする気持ちがナオキには嬉しかった。



「ありがとう。ルカさんが自分の気持ちを素直に話してくれて嬉しいよ」

「そ……そんな……あ、ありがとうなんて……わ、私は感謝されるようなことは……む、むしろナ、ナオキさんを不快にさせてて、も、申し訳ありません……」



 両手を左右に振った後でルカは頭を下げた。



「そんなに気にしないでよ。人間苦手なことがあって当然なんだから。オレも色々苦手なことが多くって……ホント嫌になるよ」

「そ、そうなんですか?」

「そうだよ。この前だってゴブリン一匹倒せなくってさ。明日香にはスッゲェ文句言われてるんだぜ。情けなくって……ホント凹むよ」

「そ、そんな……で、でもそ、それって……あ、あっちの世界ではな、無かったことだし……ふ、普通のことだと思います。わ、私も……あ、明日からのことが怖くって……ね、眠れなくって……」

「もしかして、それでこんな時間にここにいたの?」



 ナオキの質問にルカはコクリと頷いた。夜の暗がりで表情はよく分からなかったが、よく見ると身体は小さく震えている。



「そっか……実はさ……オレも今まで怖くって眠れなかったんだよね」

「え? ……そ、そうだったんですか?」

「そうだよ。やっぱり魔物をオレが倒せるか不安で、多分剣の腕前は上がってるしその気になれば倒せると思うけど……やっぱり気持ちが付いて行かないんだよね。だって猫や犬だって普通殺さないのにこっちの世界に来て『魔物を殺せ!』って言われても納得できなくって……この世界では当たり前なのは理解してるんだけど中々ね……」

「そ、それ……わ、わかります。わ、私もい、一緒です……ま、魔物でもい、命があるわけだし……そ、それをわ、私が奪うのがこ、怖いって言うか、お、恐ろしいって言うか。と、とにかくふ、不安で……」



 ルカの声が大きくなる。それだけナオキに共感を感じたのだろう。



「何だ……オレたち、同じことで悩んでたんだね。こっちの世界に来て初めて共感してくれる人がいて安心したよ」

「わ、私もです。あ、明日香さんはや、優しくしてくれるけどし、しっかりしてて……わ、私とは全然違って……き、きっとも、元の世界でもあ、あんな感じでカッコよかったのかなぁなんて思ったらさ、更に不安になっちゃって……」

「そうだよね。アイツ年上にもハッキリ言うし、意外と気が利くし元の世界では優等生だったんだろうなぁ。オレなんかここに来る直前まで引きこもりだったんだぜ。ウケるだろ」



 自嘲気味に笑った。

 本当はこのことを誰にも話す気は無かった。あの時の記憶も気持ちも全部まとめて心の奥に閉じ込めておきたかった。だが、ルカには不思議と話せそうな気がした。



「えっ?」



 ルカの声がより一層大きかった。それだけ驚いているのだろう。

 

「……実は……わ、私もお、同じです……こ、ここに来るまで家の中で閉じ籠ってました」

「えっ!?」



 今度はナオキが驚いた。この世界に自分と同じ人間が……しかも目の前に……



「ホントに? スゲー偶然じゃん。……って言ってもお互いあんまり嬉しい話じゃないよね。ごめん。ちょっとびっくりしてさ」

「いえ……わ、私もびっくりしました。まさかナオキさんが私と一緒だなんて……意外でした」



私と一緒……



 確かに引きこもっていたのは同じだが、その原因までは同じではない。絶対に――



 ルカにはルカがそうなっただけの理由がある。だがお互いの共通事項があるだけでルカとの距離が近く感じたのは間違い無い。



「……あの……ナオキさん……」

「ん? 何?」

「も、もし嫌でなかったらその……私の引き籠った話し聞いてもらってもいいですか?」

「えっ!?」



 意外だった。ナオキには自分の恥ずかしくて、惨めで、情けない、一番嫌いな、できれば消し去りたい闇の記憶を他人に話すなんてとても出来ない。それをルカはナオキに話そうとしている。理由によっては相手に驚かれ、軽蔑され、今後の付き合いが微妙なものになってしまうかもしれないのに……ひょっとしたらルカはそこまで考えていないかもしれない……ルカの気持ちが分からなかった。



「……いいの? その……多分ルカさんの辛い出来事だったんでしょ? それを無理して話さなくても……ほら、他人には知られたくないことってあるし……」

「いえ、で、出来ればナオキさんに聞いてもらいたいんです。そ、その……私が前に進むために必要だと思うから……な、ナオキさんには迷惑だと思いますけど、もしよかったらお願いします」



――自分が前に進むため――



 ナオキが考えもしなかった答えだ。ルカも悩んで苦しんだだろう。ルカはそこからどうにかして自分を変えようと頑張っている。対してナオキ自身はどうだろう……お互い引きこもっていたが果たしてナオキにルカの理由を聞く資格があるのだろうか……



「あの……ホントにオレでいいの? こんなオレで……」

「はい、ナオキさんに聞いてもらいたいです」



 暫く考えた。月明かりの中ルカのナオキを見つめる真っ直ぐで青色な瞳を見ていると、ルカの意思の硬さが伝わってきた。

 年下の女の子にここまで頼まれたのだ。もう断る理由はない。



「……分かった。聞かせてもらうよ」



 ルカの顔がほころび、わずかな笑みが浮かんだ。やはりそれなりの覚悟をもって話そうとしているのだろう。



「ありがとうございます。ただその……聞いていてつまらないし退屈かもしれませんけど……」

「そんなの関係ないよ。大丈夫、聞かせてもらうよ」



 最後まで聞こう……それでルカの気持ちが晴れて前に進むことが出来るのなら。そしてナオキ自身も……
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

『異世界ガチャでユニークスキル全部乗せ!? ポンコツ神と俺の無自覚最強スローライフ』

チャチャ
ファンタジー
> 仕事帰りにファンタジー小説を買った帰り道、不運にも事故死した38歳の男。 気がつくと、目の前には“ポンコツ”と噂される神様がいた——。 「君、うっかり死んじゃったから、異世界に転生させてあげるよ♪」 「スキル? ステータス? もちろんガチャで決めるから!」 最初はブチギレ寸前だったが、引いたスキルはなんと全部ユニーク! 本人は気づいていないが、【超幸運】の持ち主だった! 「冒険? 魔王? いや、俺は村でのんびり暮らしたいんだけど……」 そんな願いとは裏腹に、次々とトラブルに巻き込まれ、無自覚に“最強伝説”を打ち立てていく! 神様のミスで始まった異世界生活。目指すはスローライフ、されど周囲は大騒ぎ! ◆ガチャ転生×最強×スローライフ! 無自覚チートな元おっさんが、今日も異世界でのんびり無双中!

【完結】スーパーの店長・結城偉介 〜異世界でスーパーの売れ残りを在庫処分〜

かの
ファンタジー
 世界一周旅行を夢見てコツコツ貯金してきたスーパーの店長、結城偉介32歳。  スーパーのバックヤードで、うたた寝をしていた偉介は、何故か異世界に転移してしまう。  偉介が転移したのは、スーパーでバイトするハル君こと、青柳ハル26歳が書いたファンタジー小説の世界の中。  スーパーの過剰商品(売れ残り)を捌きながら、微妙にズレた世界線で、偉介の異世界一周旅行が始まる!  冒険者じゃない! 勇者じゃない! 俺は商人だーーー! だからハル君、お願い! 俺を戦わせないでください!

ラストアタック!〜御者のオッサン、棚ぼたで最強になる〜

KeyBow
ファンタジー
第18回ファンタジー小説大賞奨励賞受賞 ディノッゾ、36歳。職業、馬車の御者。 諸国を旅するのを生き甲斐としながらも、その実態は、酒と女が好きで、いつかは楽して暮らしたいと願う、どこにでもいる平凡なオッサンだ。 そんな男が、ある日、傲慢なSランクパーティーが挑むドラゴンの討伐に、くじ引きによって理不尽な捨て駒として巻き込まれる。 捨て駒として先行させられたディノッゾの馬車。竜との遭遇地点として聞かされていた場所より、遥か手前でそれは起こった。天を覆う巨大な影―――ドラゴンの襲撃。馬車は木っ端微塵に砕け散り、ディノッゾは、同乗していたメイドの少女リリアと共に、死の淵へと叩き落された―――はずだった。 腕には、守るべきメイドの少女。 眼下には、Sランクパーティーさえも圧倒する、伝説のドラゴン。 ―――それは、ただの不運な落下のはずだった。 崩れ落ちる崖から転落する際、杖代わりにしていただけの槍が、本当に、ただ偶然にも、ドラゴンのたった一つの弱点である『逆鱗』を貫いた。 その、あまりにも幸運な事故こそが、竜の命を絶つ『最後の一撃(ラストアタック)』となったことを、彼はまだ知らない。 死の淵から生還した彼が手に入れたのは、神の如き規格外の力と、彼を「師」と慕う、新たな仲間たちだった。 だが、その力の代償は、あまりにも大きい。 彼が何よりも愛していた“酒と女と気楽な旅”―― つまり平和で自堕落な生活そのものだった。 これは、英雄になるつもりのなかった「ただのオッサン」が、 守るべき者たちのため、そして亡き友との誓いのために、 いつしか、世界を救う伝説へと祭り上げられていく物語。 ―――その勘違いと優しさが、やがて世界を揺るがす。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

おっさん武闘家、幼女の教え子達と十年後に再会、実はそれぞれ炎・氷・雷の精霊の王女だった彼女達に言い寄られつつ世界を救い英雄になってしまう

お餅ミトコンドリア
ファンタジー
 パーチ、三十五歳。五歳の時から三十年間修行してきた武闘家。  だが、全くの無名。  彼は、とある村で武闘家の道場を経営しており、〝拳を使った戦い方〟を弟子たちに教えている。  若い時には「冒険者になって、有名になるんだ!」などと大きな夢を持っていたものだが、自分の道場に来る若者たちが全員〝天才〟で、自分との才能の差を感じて、もう諦めてしまった。  弟子たちとの、のんびりとした穏やかな日々。  独身の彼は、そんな彼ら彼女らのことを〝家族〟のように感じており、「こんな毎日も悪くない」と思っていた。  が、ある日。 「お久しぶりです、師匠!」  絶世の美少女が家を訪れた。  彼女は、十年前に、他の二人の幼い少女と一緒に山の中で獣(とパーチは思い込んでいるが、実はモンスター)に襲われていたところをパーチが助けて、その場で数時間ほど稽古をつけて、自分たちだけで戦える力をつけさせた、という女の子だった。 「私は今、アイスブラット王国の〝守護精霊〟をやっていまして」  精霊を自称する彼女は、「ちょ、ちょっと待ってくれ」と混乱するパーチに構わず、ニッコリ笑いながら畳み掛ける。 「そこで師匠には、私たちと一緒に〝魔王〟を倒して欲しいんです!」  これは、〝弟子たちがあっと言う間に強くなるのは、師匠である自分の特殊な力ゆえ〟であることに気付かず、〝実は最強の実力を持っている〟ことにも全く気付いていない男が、〝実は精霊だった美少女たち〟と再会し、言い寄られ、弟子たちに愛され、弟子以外の者たちからも尊敬され、世界を救って英雄になってしまう物語。 (※第18回ファンタジー小説大賞に参加しています。 もし宜しければ【お気に入り登録】で応援して頂けましたら嬉しいです! 何卒宜しくお願いいたします!)

地味スキル「ためて・放つ」が最強すぎた!~出来損ないはいらん!と追い出したくせに英雄に駆け上がってから戻れと言われても手遅れです~

かくろう
ファンタジー
【ためて・放つ】という地味スキルを一生に一度の儀式で授かってしまった主人公セージ。  そのせいで家から追放され、挙げ句に異母弟から殺されかけてしまう。  しかしあらゆるものを【ためる】でパワフルにできるこのスキルは、最高ランクの冒険者すらかすんでしまうほどのぶっ壊れ能力だった!  命からがら魔物の強襲から脱したセージは、この力を駆使して成り上がっていく事を決意する。  そして命の危機に瀕していた少女リンカニアと出会い、絆を深めていくうちに自分のスキルを共有できる事に気が付いた。 ――これは、世界で類を見ない最強に成り上がっていく主人公と、彼の元へ集まってくる仲間達との物語である。

家族転生 ~父、勇者 母、大魔導師 兄、宰相 姉、公爵夫人 弟、S級暗殺者 妹、宮廷薬師 ……俺、門番~

北条新九郎
ファンタジー
 三好家は一家揃って全滅し、そして一家揃って異世界転生を果たしていた。  父は勇者として、母は大魔導師として異世界で名声を博し、現地人の期待に応えて魔王討伐に旅立つ。またその子供たちも兄は宰相、姉は公爵夫人、弟はS級暗殺者、妹は宮廷薬師として異世界を謳歌していた。  ただ、三好家第三子の神太郎だけは異世界において冴えない立場だった。  彼の職業は………………ただの門番である。  そして、そんな彼の目的はスローライフを送りつつ、異世界ハーレムを作ることだった。  二月から週二回更新になります。お気に入り・感想、宜しくお願いします。

【しっかり書き換え版】『異世界でたった1人の日本人』~ 異世界で日本の神の加護を持つたった1人の男~

石のやっさん
ファンタジー
12/17 13時20分 HOT男性部門1位 ファンタジー日間 1位 でした。 ありがとうございます 主人公の神代理人(かみしろ りひと)はクラスの異世界転移に巻き込まれた。 転移前に白い空間にて女神イシュタスがジョブやスキルを与えていたのだが、理人の番が来た時にイシュタスの顔色が変わる。「貴方神臭いわね」そう言うと理人にだけジョブやスキルも与えずに異世界に転移をさせた。 ジョブやスキルの無い事から早々と城から追い出される事が決まった、理人の前に天照の分体、眷属のアマ=テラス事『テラスちゃん』が現れた。 『異世界の女神は誘拐犯なんだ』とリヒトに話し、神社の宮司の孫の理人に異世界でも生きられるように日本人ならではの力を授けてくれた。 ここから『異世界でたった1人の日本人、理人の物語』がスタートする 「『異世界でたった1人の日本人』 私達を蔑ろにしチート貰ったのだから返して貰いますね」が好評だったのですが...昔に書いて小説らしくないのでしっかり書き始めました。

処理中です...