20 / 90
新たな決意
しおりを挟む
「………………」
「………………」
話が終わり、暫くの間二人を沈黙が包んだ――
「……ごめんね、こんな話……」
「いえ大丈夫です……その……ちょっと驚いただけです」
ちょっと……ではない。明らかにルカの顔は強張っていた。ナオキの話を聞けば当然そうなるだろう。
軽蔑されても嫌われてもいい……それだけのことをオレはしたんだ……
静寂な時が流れたが、ルカが話し始めた。
「玲さんにとってナオキさんはホントに大切な親友だったんですね。私、二人が羨ましい……」
「え? 羨ましい? なんで……玲はオレに裏切られて悩んで苦しんで自殺したんだ。それの何が羨ましいんだよ」
話の後半は声が大きくなっていた。身体の中が熱くなっていくのが分かる。
「すいません、あの……これは私の解釈なんですけど……多分、玲さんはナオキさんに裏切られたなんて思ってなかったと思うんです」
「え?」
「ナオキさんが玲さんと距離を置くようになったのは自分が原因だから当然のことだと思ってたんじゃないでしょうか……ナオキさんが身も心も傷ついていくのを知って、玲さん自身どうしたらいいのか分からなくて……ずっと悩んで自分の行動を後悔していたんだと思います」
「アイツは悪いことなんてしちゃいない。悪いのは逆恨みしたアイツらだ。そして玲の傍にいてやらなかったオレなんだ。アイツは悪く無かった……」
「確かに、玲さんの行動はなかなかできることじゃ無いです。すごく勇気のいる素晴らしい行動です。でもそれがきっかけで人から恨みを買って、自分ではなくて大切なナオキさんを傷つける結果になった。ひょっとしたらナオキさんが玲さんを恨んでいるんじゃないかって、そんなことも考えていたかもしれません」
「そんな……オレは玲を恨んじゃいない」
「勿論、ナオキさんは玲さんのことを恨んでないと私は知ってます。でも玲さんはずっと悩んでいたんじゃないでしょうか。そしてナオキさんがこれ以上傷つかなくていい方法……それは自分がいなくなることだと思ったんじゃないでしょうか」
「そんな……アイツはそんなことする必要なんかなかったんだ……でもアイツ……玲は……」
「この結果はとても悲しいです。でも玲さんにはそんな方法でしかナオキさんに謝罪し、救う道が無いように思えてしまったんだと……そして玲さんはそれを選択してしまった。玲さんにとってとても大切な存在のために……」
「オレのために……オレはそんなことしてもらえるような存在じゃない……オレは卑怯で、臆病で、弱くて、いざって時何もできないそんなクソみたいな奴だ……玲が命を絶ってまで救おうとする価値なんてこれっぽっちもないクズで最低な人間なんだ。それなのに……それなのに……」
いつの間にかナオキは泣いていた。あふれた涙が頬を伝い、その雫は止まることなく流れ落ちている。
「そんなことありません」
「ナオキさんはこんなにも玲さんを思って苦しんでいるじゃないですか。そんな思いやりのある人が最低な人間な訳ないです」
「でも……あの時はただただ怖くて……今を逃げ出したくて必死だった。それこそ玲のことなんて気にする余裕も無かった。自分が助かる道を選んだんだ。だけどあの時、本当はどうすれば……」
過ぎてしまったことを今更考えても過去は変わらない。わかってはいるが考えずにはいられなかった。
「それは……わかりません。多分、正解なんて誰にも分からないんです」
「じゃあ……どうすれば……」
「でもナオキさん。過去を変えることはできませんが、これからのことはナオキさん自身で選べます。そして、玲さんはナオキさんに何を望んでたんでしょう……」
「玲がオレに望んだこと? でも玲は……」
「確かに玲さんはもういません。でも玲さんが望んだであろうことをしていけば、ナオキさんの今の悩みも苦しみも少しは癒されるんじゃないですか?」
「…………」
「勿論、ナオキさんはナオキさんです。ナオキさんの生き方があります。でもその生き方の中にほんの少しでも玲さんを思う気持ちがあったら、玲さんもきっと天国で笑ってくれるんじゃないでしょうか?それに、ナオキさんが悲しくて苦しむ姿を玲さんが望んでいると思いますか?」
「……いや……そんなことは無い……と思う……」
玲の最後のメールにもそんなことは書かれていなかった。
「じゃあ考えましょうよ。玲さんのために。そしてナオキさん自身のために。私も協力しますよ」
ナオキの手を握っていたルカの手は暖かくそしてとても力強いものだった。
――そうだ。前に進まなきゃ。玲のためにもそしてオレ自身のためにも。
「……ルカちゃん……ありがとう。オレ、ホント自分のことばっかりだった。玲の気持ちを全然気にしてやれなかった。今からでも玲の気持ちに応えられるように生きていくよ」
「ナオキさんならできますよ。って何か私、偉そうなことばっかり言っちゃって、すいません」
急に恥ずかしくなったのだろう。ナオキの手を握っていた自身の手を離し、下を向いた。
「そんなことないよ。ルカちゃんすごくしっかりしてて、真っすぐで、オレのほうが年上なのに……どうしようもなくガキっぽくて恥ずかしいよ」
「そんなことないですよ! 私だって昔の話聞いてもらって、お陰で心の中のシコリが取れたみたいに気持ちが軽くなりました。本当にありがとうございます。明日からの訓練は……やっぱり怖いけど少し頑張れそうな気がします」
「ルカちゃんの力になれたなら良かった。ぶっちゃけオレも明日の訓練はまだ不安しか無いけど、ルカちゃんにカッコ悪いとこ見せないように頑張るよ」
そうだ。年下のルカちゃんがこんなに前向きに頑張っているのにオレがクヨクヨなんかしてられない。
「ナオキさん……あの……お願いがあるんですけどいいでしょうか……」
「何? オレに出来ることなら何でも言ってよ」
「その……ナオキさんのこと『センパイ』って呼んでもいいですか?」
「え? 先輩?」
「だ、駄目でしょうか……」
「いやいや。全然いいよ。お願いって言うからもっと難しいものかと思ったけど」
「ほんとですか? あの、私、人付き合いが全く無かったんで、その……年上のそれも男の人と接することが無かったんでナオキさんみたいに相談できる人って憧れてたんです。それでセンパイって呼んでみたくて……」
恥ずかしそうにするルカの姿がたまらなく愛おしく見える。自分に妹がいたらこんな感じなのだろうか……まぁ一人っ子だけど。
「そうだったんだ。好きに呼んでかまわないよ」
先輩なら八京さんのほうが適任な気がするけど……
「はい! その……これからもよろしくお願いします……センパイ」
は、恥ずかしい……この呼ばれ方ヤバいかも
二人の間に今までとは違った空気が流れる。しかしその空気は気まずいものではなく、とても心地の良いモノだ。
「あ、あ~。話し込んだら少し明るくなってきたねぇ。明日っていうかもう今日か。今日は朝に出発だし部屋に戻って少し休もうか」
東の空にはうっすら光が指し始めている。
「ほんとだ。いつの間にか随分時間が経ってたんですね。でもあっという間でした。センパイあの……また二人でお話ししてもいいですか?」
凄くルカが可愛く見える。センパイと呼ばれるたびに胸の奥がむず痒い。
「う、うん勿論だよ。また話そう」
それを聞いたルカが満面の笑みを浮かべ――
「はい。よろしくお願いします。じゃあ私部屋に戻ります。ありがとうございました。センパイおやすみなさい」
お辞儀をしてルカは自分の部屋の方へ小走で向かっていった。ルカの表情が澄んで見える。
ルカちゃん、良い子だなぁ……そう言えばオレと話してた最後の方は全然オドオドしてなかったな。それだけオレに心を開いてくれたってことかも。
自分を慕ってくれる後輩が出来て悪い気はしなかった。だが、玲のことはナオキの中で解決したわけでは無い。むしろここからが始まりなんだと感じた。
――玲の望んだナオキ――
それを考えながら進んでいこうと心に誓った。
「あ~あ。部屋に戻っても寝れそうにないなぁ」
一人呟きながらナオキも部屋へ歩き出した
「………………」
話が終わり、暫くの間二人を沈黙が包んだ――
「……ごめんね、こんな話……」
「いえ大丈夫です……その……ちょっと驚いただけです」
ちょっと……ではない。明らかにルカの顔は強張っていた。ナオキの話を聞けば当然そうなるだろう。
軽蔑されても嫌われてもいい……それだけのことをオレはしたんだ……
静寂な時が流れたが、ルカが話し始めた。
「玲さんにとってナオキさんはホントに大切な親友だったんですね。私、二人が羨ましい……」
「え? 羨ましい? なんで……玲はオレに裏切られて悩んで苦しんで自殺したんだ。それの何が羨ましいんだよ」
話の後半は声が大きくなっていた。身体の中が熱くなっていくのが分かる。
「すいません、あの……これは私の解釈なんですけど……多分、玲さんはナオキさんに裏切られたなんて思ってなかったと思うんです」
「え?」
「ナオキさんが玲さんと距離を置くようになったのは自分が原因だから当然のことだと思ってたんじゃないでしょうか……ナオキさんが身も心も傷ついていくのを知って、玲さん自身どうしたらいいのか分からなくて……ずっと悩んで自分の行動を後悔していたんだと思います」
「アイツは悪いことなんてしちゃいない。悪いのは逆恨みしたアイツらだ。そして玲の傍にいてやらなかったオレなんだ。アイツは悪く無かった……」
「確かに、玲さんの行動はなかなかできることじゃ無いです。すごく勇気のいる素晴らしい行動です。でもそれがきっかけで人から恨みを買って、自分ではなくて大切なナオキさんを傷つける結果になった。ひょっとしたらナオキさんが玲さんを恨んでいるんじゃないかって、そんなことも考えていたかもしれません」
「そんな……オレは玲を恨んじゃいない」
「勿論、ナオキさんは玲さんのことを恨んでないと私は知ってます。でも玲さんはずっと悩んでいたんじゃないでしょうか。そしてナオキさんがこれ以上傷つかなくていい方法……それは自分がいなくなることだと思ったんじゃないでしょうか」
「そんな……アイツはそんなことする必要なんかなかったんだ……でもアイツ……玲は……」
「この結果はとても悲しいです。でも玲さんにはそんな方法でしかナオキさんに謝罪し、救う道が無いように思えてしまったんだと……そして玲さんはそれを選択してしまった。玲さんにとってとても大切な存在のために……」
「オレのために……オレはそんなことしてもらえるような存在じゃない……オレは卑怯で、臆病で、弱くて、いざって時何もできないそんなクソみたいな奴だ……玲が命を絶ってまで救おうとする価値なんてこれっぽっちもないクズで最低な人間なんだ。それなのに……それなのに……」
いつの間にかナオキは泣いていた。あふれた涙が頬を伝い、その雫は止まることなく流れ落ちている。
「そんなことありません」
「ナオキさんはこんなにも玲さんを思って苦しんでいるじゃないですか。そんな思いやりのある人が最低な人間な訳ないです」
「でも……あの時はただただ怖くて……今を逃げ出したくて必死だった。それこそ玲のことなんて気にする余裕も無かった。自分が助かる道を選んだんだ。だけどあの時、本当はどうすれば……」
過ぎてしまったことを今更考えても過去は変わらない。わかってはいるが考えずにはいられなかった。
「それは……わかりません。多分、正解なんて誰にも分からないんです」
「じゃあ……どうすれば……」
「でもナオキさん。過去を変えることはできませんが、これからのことはナオキさん自身で選べます。そして、玲さんはナオキさんに何を望んでたんでしょう……」
「玲がオレに望んだこと? でも玲は……」
「確かに玲さんはもういません。でも玲さんが望んだであろうことをしていけば、ナオキさんの今の悩みも苦しみも少しは癒されるんじゃないですか?」
「…………」
「勿論、ナオキさんはナオキさんです。ナオキさんの生き方があります。でもその生き方の中にほんの少しでも玲さんを思う気持ちがあったら、玲さんもきっと天国で笑ってくれるんじゃないでしょうか?それに、ナオキさんが悲しくて苦しむ姿を玲さんが望んでいると思いますか?」
「……いや……そんなことは無い……と思う……」
玲の最後のメールにもそんなことは書かれていなかった。
「じゃあ考えましょうよ。玲さんのために。そしてナオキさん自身のために。私も協力しますよ」
ナオキの手を握っていたルカの手は暖かくそしてとても力強いものだった。
――そうだ。前に進まなきゃ。玲のためにもそしてオレ自身のためにも。
「……ルカちゃん……ありがとう。オレ、ホント自分のことばっかりだった。玲の気持ちを全然気にしてやれなかった。今からでも玲の気持ちに応えられるように生きていくよ」
「ナオキさんならできますよ。って何か私、偉そうなことばっかり言っちゃって、すいません」
急に恥ずかしくなったのだろう。ナオキの手を握っていた自身の手を離し、下を向いた。
「そんなことないよ。ルカちゃんすごくしっかりしてて、真っすぐで、オレのほうが年上なのに……どうしようもなくガキっぽくて恥ずかしいよ」
「そんなことないですよ! 私だって昔の話聞いてもらって、お陰で心の中のシコリが取れたみたいに気持ちが軽くなりました。本当にありがとうございます。明日からの訓練は……やっぱり怖いけど少し頑張れそうな気がします」
「ルカちゃんの力になれたなら良かった。ぶっちゃけオレも明日の訓練はまだ不安しか無いけど、ルカちゃんにカッコ悪いとこ見せないように頑張るよ」
そうだ。年下のルカちゃんがこんなに前向きに頑張っているのにオレがクヨクヨなんかしてられない。
「ナオキさん……あの……お願いがあるんですけどいいでしょうか……」
「何? オレに出来ることなら何でも言ってよ」
「その……ナオキさんのこと『センパイ』って呼んでもいいですか?」
「え? 先輩?」
「だ、駄目でしょうか……」
「いやいや。全然いいよ。お願いって言うからもっと難しいものかと思ったけど」
「ほんとですか? あの、私、人付き合いが全く無かったんで、その……年上のそれも男の人と接することが無かったんでナオキさんみたいに相談できる人って憧れてたんです。それでセンパイって呼んでみたくて……」
恥ずかしそうにするルカの姿がたまらなく愛おしく見える。自分に妹がいたらこんな感じなのだろうか……まぁ一人っ子だけど。
「そうだったんだ。好きに呼んでかまわないよ」
先輩なら八京さんのほうが適任な気がするけど……
「はい! その……これからもよろしくお願いします……センパイ」
は、恥ずかしい……この呼ばれ方ヤバいかも
二人の間に今までとは違った空気が流れる。しかしその空気は気まずいものではなく、とても心地の良いモノだ。
「あ、あ~。話し込んだら少し明るくなってきたねぇ。明日っていうかもう今日か。今日は朝に出発だし部屋に戻って少し休もうか」
東の空にはうっすら光が指し始めている。
「ほんとだ。いつの間にか随分時間が経ってたんですね。でもあっという間でした。センパイあの……また二人でお話ししてもいいですか?」
凄くルカが可愛く見える。センパイと呼ばれるたびに胸の奥がむず痒い。
「う、うん勿論だよ。また話そう」
それを聞いたルカが満面の笑みを浮かべ――
「はい。よろしくお願いします。じゃあ私部屋に戻ります。ありがとうございました。センパイおやすみなさい」
お辞儀をしてルカは自分の部屋の方へ小走で向かっていった。ルカの表情が澄んで見える。
ルカちゃん、良い子だなぁ……そう言えばオレと話してた最後の方は全然オドオドしてなかったな。それだけオレに心を開いてくれたってことかも。
自分を慕ってくれる後輩が出来て悪い気はしなかった。だが、玲のことはナオキの中で解決したわけでは無い。むしろここからが始まりなんだと感じた。
――玲の望んだナオキ――
それを考えながら進んでいこうと心に誓った。
「あ~あ。部屋に戻っても寝れそうにないなぁ」
一人呟きながらナオキも部屋へ歩き出した
応援ありがとうございます!
0
お気に入りに追加
30
1 / 4
この作品を読んでいる人はこんな作品も読んでいます!
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる