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仕組まれた戦い

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「まったく……使えない奴はほっといて、やるしか無いわよ! ルカちゃん」



 再び槍を構え明日香はルカに言った。だがその言葉は自分自身に言っているようだ。



「で、でも……こ、怖いです……」

「しっかりして!!」



 ビクッ!

 ビクッ!



 明日香にしては珍しく、ルカに大きな声を出した。その声にルカも倒れていたナオキもビクついてしまった。



「今までとは状況が違うのよ! 覚悟を決めてやるしかないの!」



 明日香がルカに檄を飛ばしている。こんなことは今まで一度も無かった。



「……」

「相手はナオキを簡単にのしちゃうくらい強いの。正直私一人じゃどうしようもできないわ。お願いルカちゃん。どうか協力して」

「……あ、明日香さん……」

「なに?」



 ルカは『ふぅー』っと深く息を吐いた後。自身が持っていた短刀を鞘へ納めて――



パンッ!



 両手で自分の頬を勢いよく叩いた。



「すいません。もう大丈夫です。やりましょう。私、頑張ります」



 スイッチが入ったようにルカの雰囲気も声も変わり、短刀を手にした。



「ルカちゃん……偉い! ナオキの数倍……いえ、数十倍カッコいいわ」

「覚悟は決まったみたいだな。確かにここで伸びてる間抜け面より楽しめそうだ」



お~い。オレ、意識あるぞ。レイもだけどもしかして明日香も分かってて言ってるだろ……



「あなた、二対一が卑怯なんて言わないわよね?」



 幾分落ち着いた明日香がレイに向って言った。



「嬢ちゃん何言ってる? さっきの坊主との戦いを見てたろ? ハンデが少なすぎるんだよ」

「そう? なら私たちの可愛さに免じて見逃してくれると嬉しいんだけど?」

「そうしたいがこっちにも都合があるんでね。残念だが却下だ」

「都合ね……」



 明日香がチラリとナオキを見た気がした。



「……わかったわ。容赦しないから。ルカちゃん……いい?」

「はい! 大丈夫です」



 明日香とルカはジリジリと離れていき、レイを挟み込むような位置取りになった。3人が相手のスキを伺っているようだ。



レイ……頼むから二人に怪我をさせるなよ……



 最早ナオキには事の結末を祈るだけだった。



 初めに動いたのはルカだった。レイの視線が明日香に向った一瞬で一気に間合いを詰め、レイに切りかかる――だが、レイはルカの攻撃を躱し、ルカに切りかかる。が、今度は明日香が視線の外れたレイ目掛けて槍を伸ばした。明日香の攻撃を見ることなく、レイは振りかぶった剣で槍を往なした。ルカはその隙に連続して短刀を切りつけた。だがこちらも素早くレイは躱し、剣を構えようとするが、明日香の槍も応戦し、中々剣を振るえず、躱すのみになった。



す、凄い……明日香とルカちゃん、中々コンビネーション良いじゃないか。いつの間に……レイは大丈夫か? ここでお前が負けたら計画が終了だぞ?



 明日香とルカの攻撃の合間を縫ってレイは高速でバク転を繰り返し、二人から距離を開けた。



「ふぃーっ。嬢ちゃんたちやるじゃねぇか。見直したぜ」

「そう? その割にはまだ余裕がありそうだけど?」

「そりゃそうだ。俺は天才だからな」

「そう、なら物取りなんて辞めて騎士にでもなったほうが良いんじゃない? こっちとしては今すぐ手を引いてほしいんですけど……」

「それに関しては運が悪かったと思ってもらうしかねぇな。さっきも言ったが、こっちにも都合ってもんがあるんでね」

「じゃあその都合を教えてもらうことは?」

「ダメだ」

「だよね……じゃあしょうがない――」



 今度は明日香が飛び出した。細かく突きを繰り返しレイの動きを制限させている。その隙をついてルカがレイに切りかかっている。ただ、いくら攻めてもレイに攻撃があたることは無かった



「……くっ……」

「な、なんであたらないの……」



 二人の攻撃があたらない理由……それはとてもシンプルだった。



 レベルが違いすぎる



 明日香もルカも攻撃は決して悪く無い。だが、その攻撃を瞬時に判断し、更にその先の攻撃まで読んでいるような動きだった。



やっぱりレイは只者じゃない……



 ナオキは伸びているフリをしながらそう感じていた。



「クソ……こんな時になんでナオキは寝てるのよ……まったく使えないわね……」



 攻撃をしながら明日香はナオキへ悪態をつく。



……ゴメン。起きてます。そしてこれを企んだのオレです……



 心の中で謝罪をするが、ここで動くわけにはいかない。



「中々いい動きをしてるぜ。でも、もう終わりにしよう。ダンスの時間は終わりだ」

「なにそれ? 私たちが負けるって?」

「まぁそうとも言うな。でも安心しな、俺に女を必要以上に傷つける趣味はねぇ」

「そう? ここまで弄ばれた後じゃああんまり信用できないけどね」

「それは終わればわかるさ、いくぞ――」



 言い終わる前にレイは素早くルカの背後をとり、ルカの頸椎へ手刀を与えた。その瞬間、ルカは糸の切れた操り人形のごとく、“ストン”と膝から崩れ落ちた。



「ルカちゃん!? この――」



 明日香がルカの方へ向き、レイへ突撃をしようとしたが、もはやソコにレイの姿は無かった。



「え!? ドコ?」



 明日香は周りを見渡すが、レイの姿が見つからない。



「……ここだよ……」



 レイは今度は明日香の頸椎に手刀を与えた。



「そ……ん……な……」



 必死に意識を繋ぎ止めようとする明日香だが意識は無情にも失い、地面に倒れそうになった――そこへ、レイが優しく抱き支えた。



「言ったろ、女を必要以上に傷つける趣味はねぇってな」



 レイは明日香を抱いたまま近くの木の根元まで移動し、明日香をそこへ座らせた。 



「もう起きて大丈夫だぞ」



 レイの言葉を受けて、ナオキはゆっくり起き上がった。



「ほ、本当に二人とも気絶してるのか?」

「自分で確認してみろよ」



 言われるままナオキはルカの元へ行き、呼吸を確認した。



……スー、スー……



 ルカの小さな寝息が聞こえる。どうやらレイの言っていることは本当らしい。



「す、凄いな……まさかこんなに簡単に二人を気絶させるなんて……」



 レイの強さに改めてナオキは感心した。



「天才だって言ったろ? これで信じてもらえたか?」

「あ、あぁ……」



 レイの実力は想像以上だった。仮に八京と一戦交えたらどちらが強いだろう……



「だがナオキもそうだが、この嬢ちゃんたちも中々だった。そこいらの人間程度になら負けることは無いだろうな」



 そこいらの人間……それは一体どの程度のモノなんだろうか。



「さぁナオキ。これで後戻りはできなくなった。ホントに良いんだな?」



 レイは真剣な面持ちでナオキに聞いた。



「もう覚悟はできてる。ホントにいいんだ」

「でも最悪、もうここには……」

「わかってる。でも、オレの目の前で不条理なことが平気に行われるのを、オレは見過ごしたくない。だから、いいんだ……」



そう、ナオキは最悪も想定して覚悟はできている。だが、そこに明日香とルカは入っていない。これからどのような結果になるか分からないことに二人を巻き込むことは避けたかったのだ。



「……わかった。俺からはもう何も言わねぇ。一緒にベルを救ってくれ、ナオキ」



 レイはナオキに手を差し伸べた。



「あぁ。きっとうまくいくさ!」



 差し出された手をナオキは力強く握り返した。
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