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激戦
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――一方の八京はカーマインとの激戦を繰り広げていた。
万全ではない状態でドラゴンと戦うことは容易では無かったが、八京は互角の戦いを繰り広げていた。
――やっぱりおかしい――
そんなカーマインとの戦いに八京は疑問を持っていた。
以前の戦いに比べて明らかにカーマインは弱かった。
あの時は八京に加え、ヨシキや他の兵士たちと協力し、何とか追い詰めることが出来た。だが今では八京一人で捌けている。
つまり、カーマインも万全ではないのだ。
思えば数か月前に瀕死の状態だった。傷だってそこまで癒えてはいないだろう。それに加え、ナオキの魔力にだって限りがある。
これはまたとない好機チャンスだ。
八京は一旦カーマインから距離を取り、剣を収め、両手をカーマインに向けた。
――ディープ・フォグ――
心の中で呪文を唱え、魔力を両手に込めると、瞬く間にカーマインを濃霧が覆いだした。その霧はあまりに深く濃いのでカーマインの姿が認識できなくなるほどだった。
「これは……あの時の……」
更に八京は両手を地面に叩き付け魔力を地面に送り込む。
――クラック・グラウンド――
そう唱えるとカーマインの立っている地面が大きく裂け、カーマインがグラついた。
カーマインは自身の両翼を広げ、上下に大きく羽ばたかせた。
――フライ――
すかさず八京は次の魔法を唱えた。すると八京の周りを風が纏い始めた。次の瞬間――八京の身体が、カーマインへ弾丸の速度で飛んだ。八京はそのままの剣を振った。剣はカーマインの片翼を切り裂いた。
「ガアアアアアァァァー!!」
カーマインは激痛に雄叫びを上げた。
これで飛ぶことはできない。
八京にとって避けるべきことはカーマインが町へ行き、町の人々を襲うことだ。次にナオキ達を連れて逃げること。どちらもカーマインの翼があって可能だ。それを潰してしまえば何とかなる。
カーマインは体色からわかる通り、炎のドラゴンだ。前回の戦いでは炎を吐き八京たちを苦しめたものだ。だが今回は一向にその挙動を見せない。おそらく、体力の消耗が激しいのだ。ナオキの魔力では補いきれないのだろう。
流れは完全に八京だ。そう確信した瞬間――
カーマインが突然、口を開き、八京目掛けて炎を吐き出した。幸い、的が外れたが、炎は八京の後方にあったテントを焼き消し、更に後方の森まで到達すると、爆発をした。その爆風と振動は八京たちまで届き、ビリビリと八京の皮膚を刺激した。
そんな……炎は出せないんじゃなかったのか……
背中を冷たい汗が流れるのを八京は感じた
思惑が外れ、状況がひっくり返された気がした。今の一発は森の方向で済んだが、アレが町の方へ放たれたらと考えるとゾッとした。
どうする……
八京が考を巡らせていると、カーマインとナオキの言い争いが聞こえた。
「な、なんてことしてくれたんだよ!」
「うるさい! 大体アイツがワイの翼を斬るからだ。これでは飛べんではないか」
「だからって炎を吐くことないだろ! あの森にはガーがいるんだぞ!」
「ナニ!? お前、何故それを言わん! 知っていればアイツだけを狙ったんだぞ!」
「言う前にお前が撃ったんだろ! それにあんなの撃てるなんて知らなかったし。ガーに直撃してたらどうするんだよ!?」
「むう~……しかしだな。あれはアイツせいで……」
ナオキとカーマインが慌てている。ガーというのはゴブリンの兄弟だろう。報告ではゴブリンは姉弟だと聞いている。しかし、ナオキはよくカーマインにあそこまで言えるものだ。
「ダ、ダイジョウブ……ガーアソコ、イナイ」
逃げたエルフに抱えられ、ゴブリンが口を開いた。
「ほ、ホントか!?」
ナオキがゴブリンの言葉に反応した。
「ガー、ベツノトコマッテル」
「よ、良かったぁ。もうアレは出すなよ。周りが危険だし、あんなのに当たったら八京さんが死んじゃうだろ!」
「フン! ワイはアイツを殺したいんだ!」
「だからダメだ! そんなことしたらこの秘龍石をどこかへ投げ捨てるからな!」
「バカ、そんなことしたらワイは……」
「どうだ? いうことを聞く気になったろ」
「く……ワイの弱みに付け込みおって……」
「よし。じゃあさっきのは使わずに八京さんを動けなくしろ。けど、絶対に殺しちゃダメだからな」
「……善処する……」
どうやら話はまとまったようだ。しかし、あのカーマインを言い負かすとは。
「話は終わったかな?」
八京は剣を構え、カーマインに話を振った。
「フン! 貴様に言うことは無い」
死闘を繰り広げた相手だ。嫌われて当然だろう。
「そりゃ残念だ。君が人間と意思の疎通が出来るならゼヒ話したいと思ってたんだけど」
「ワイを殺そうとした輩が何を言っている。今すぐにでもかみ殺してやりたいわ!」
鼻息を荒くしながらカーマインは言葉を吐き捨てた。
「おい……」
すかさずナオキがカーマインに声を掛ける。
「ウルサイ! 分かっている。まったく、本気にするな」
先程の八京の言葉に嘘は無い。人間以外の生物ともっと意思疎通ができれば争いごとが少なくなるのではないか……そう考えることがあった。でもそれは綺麗ごとであり、敵わないことだと八京は知っている。だけど、奪われないで済む命があるのなら八京は奪いたくないと考えていた。例えそれが目の前のドラゴンであってもだ。
「……じゃあそろそろ始めるよ。悪いけど、手は抜けないから」
「フン、ワイは元よりそのつもりじゃ」
カーマインは言い終わるや否や身体を左に反転させた。その巨漢からは想像もできないほどの俊敏さだ。大木のような尻尾は八京へ向かって素早く襲う。八京は愛刀で尻尾を受け止めた。その衝撃で踏ん張っている両足は地面にめり込む。
少しの間を置いて、カーマインから発せられた暴風が辺りを襲う。まるで台風の一風が突然現れたかのようだ。
本当に厄介な相手だ。
力が半減しているとはいえ、カーマインの強さは桁違いだ。そして、手加減はしないと言ったが、八京にはカーマインを殺せない。正確には殺してはいけないのだ。後方にいるジュダがそれを望んでいるからだ。
ナオキの持っている秘龍石からカーマインが出現したのだから、その秘龍石を奪えばこちら側にカーマインが手に入ることになる。それは帝国にとって莫大な戦力になりえる。そう、世界を統一することが可能なほどに。そんな力を帝国やジュダが欲しないわけがない。本来ならそんなモノ、無い方がいい。だが、不本意ながらジュダの意を尊重するのが賢明な判断だろう。
この相手に同じ手は通じない――
「ああああぁぁぁー」
八京は両足に力を込め、受け止めた尻尾を剣で押し返した。八京の一振りでカーマインは自身を中心に反転させ、再び八京と向き合う形になった。
「くっ……人間ごときが、そんな小さな体にどれだけの力を秘めている」
「誉め言葉として受け取っておくよ。人間だって非力なだけの存在じゃないってことを分かってもらえたかな?」
「貴様のその減らず口、きけなくしてくれるわ!」
カーマインは四つん這いで前屈みになり、まるで力士の立ち合いの構えのような格好をした。
――来る!――
瞬間、カーマインが弾かれたように八京へ向かってきた。
あまりの速さに八京は躱すことが出来ず、剣でカーマインの角を受け止めることしか出来なかった。しかし、カーマインは止まらず、そのまま突進し、テント群の奥にあった大木へ八京を押し当てた。
「がはっ!」
肋骨が……折れた……
角を受け止めていた剣が押され、角は八京に到達した。顔を歪め、脱出を試みるも上手くいかない。それどころか更に角がめり込み八京にダメージを与える。
――不意にカーマインの加える力が弱くなった。ソコを八京は見逃さず、カーマインを押し返して僅かな隙間を作り、脱出に成功した。だがしかし、それはカーマインの罠だった。八京の脱出した先には尻尾が待ち構え、勢いよく八京をはたき落とした。
「ぐ……」
襲ってくる痛みに耐えながらもなんとか八京はカーマインと距離をとった。
身体中がズキズキ痛む。全身打撲と言ったところか……特に肋骨の痛みが尋常じゃない。内臓を損傷している可能性もある。
「貴様、以前戦った時より弱いな。まだ傷が癒えていないのか……」
「それはお互い様だろ? 君だってナオキ君の魔力なしじゃ動くことも出来ない。そうだろ?」
「確かにそこは否定せん。じゃがどうやら戦況はこちらが有利のようだな」
「それはどうかな……僕にはまだ見せてない奥の手が残っている……」
「そんなものはあり得ん」
ぴしゃりとカーマインは否定する。
「そんなものがあったら貴様はそんなに追い詰められておらんだろ」
――ご明察――
「……まぁいい。貴様とはこれで終わりだ」
カーマインは息を大きく吸い込み口元に力を込めた。見る見るうちに口元が輝き、炎が口から溢れ出す。
「バカ! それはやめろって言ったろ!」
カーマインの後ろでナオキが叫んでいる
「安心しろ。加減はする」
嘘だ。あの規模の攻撃だと先ほどより大きい。カーマインは本気で八京を殺しに来ている。
躱そうにも全身ボロボロな状態ではどうすることもできない。
――ここまでか――
今まで戦って来てここまで追い詰められたのは魔王の討伐以来だ。あの時は魔王の慈悲……いや、気まぐれにより命を落とさずに済んだ。だが今回は違う。間違いなくあの吐炎は八京を狙っている。
でもやっと楽になれる……
八京にはまだやらなければならないことが沢山あった。未練もある。だが、八京の心は疲弊し、傷ついていた。やりたくも無いことに手を染め、八京自身落ちていった。心のどこかで終わりを望んでいた。道半ばだが、終わるには丁度いいのかもしれない。そう思えた。
「……覚悟は決まったか?」
そんな八京の心の内を知ってか知らずかカーマインが八京に言った。
「待っていたのかい? 案外優しいんだな」
「ワイを貴様ら人間と一緒にするな。お互い死力を尽くした者同士。最後に敬意を払うのは当然だ」
八京が人間じゃなく、魔物ならカーマインと仲良くなれたかもしれない……いや違う。ナオキとカーマインの関係がそれを物語っている。
「おい! 駄目だろ! 八京さんが……」
ナオキの叫びともとれる声が八京に届いた。
「………………」
カーマインはナオキの声に反応をしない。
「さらばだ。強き者よ……」
そう呟きカーマインは口を開け、八京目掛けて暴炎を吐き出した。
万全ではない状態でドラゴンと戦うことは容易では無かったが、八京は互角の戦いを繰り広げていた。
――やっぱりおかしい――
そんなカーマインとの戦いに八京は疑問を持っていた。
以前の戦いに比べて明らかにカーマインは弱かった。
あの時は八京に加え、ヨシキや他の兵士たちと協力し、何とか追い詰めることが出来た。だが今では八京一人で捌けている。
つまり、カーマインも万全ではないのだ。
思えば数か月前に瀕死の状態だった。傷だってそこまで癒えてはいないだろう。それに加え、ナオキの魔力にだって限りがある。
これはまたとない好機チャンスだ。
八京は一旦カーマインから距離を取り、剣を収め、両手をカーマインに向けた。
――ディープ・フォグ――
心の中で呪文を唱え、魔力を両手に込めると、瞬く間にカーマインを濃霧が覆いだした。その霧はあまりに深く濃いのでカーマインの姿が認識できなくなるほどだった。
「これは……あの時の……」
更に八京は両手を地面に叩き付け魔力を地面に送り込む。
――クラック・グラウンド――
そう唱えるとカーマインの立っている地面が大きく裂け、カーマインがグラついた。
カーマインは自身の両翼を広げ、上下に大きく羽ばたかせた。
――フライ――
すかさず八京は次の魔法を唱えた。すると八京の周りを風が纏い始めた。次の瞬間――八京の身体が、カーマインへ弾丸の速度で飛んだ。八京はそのままの剣を振った。剣はカーマインの片翼を切り裂いた。
「ガアアアアアァァァー!!」
カーマインは激痛に雄叫びを上げた。
これで飛ぶことはできない。
八京にとって避けるべきことはカーマインが町へ行き、町の人々を襲うことだ。次にナオキ達を連れて逃げること。どちらもカーマインの翼があって可能だ。それを潰してしまえば何とかなる。
カーマインは体色からわかる通り、炎のドラゴンだ。前回の戦いでは炎を吐き八京たちを苦しめたものだ。だが今回は一向にその挙動を見せない。おそらく、体力の消耗が激しいのだ。ナオキの魔力では補いきれないのだろう。
流れは完全に八京だ。そう確信した瞬間――
カーマインが突然、口を開き、八京目掛けて炎を吐き出した。幸い、的が外れたが、炎は八京の後方にあったテントを焼き消し、更に後方の森まで到達すると、爆発をした。その爆風と振動は八京たちまで届き、ビリビリと八京の皮膚を刺激した。
そんな……炎は出せないんじゃなかったのか……
背中を冷たい汗が流れるのを八京は感じた
思惑が外れ、状況がひっくり返された気がした。今の一発は森の方向で済んだが、アレが町の方へ放たれたらと考えるとゾッとした。
どうする……
八京が考を巡らせていると、カーマインとナオキの言い争いが聞こえた。
「な、なんてことしてくれたんだよ!」
「うるさい! 大体アイツがワイの翼を斬るからだ。これでは飛べんではないか」
「だからって炎を吐くことないだろ! あの森にはガーがいるんだぞ!」
「ナニ!? お前、何故それを言わん! 知っていればアイツだけを狙ったんだぞ!」
「言う前にお前が撃ったんだろ! それにあんなの撃てるなんて知らなかったし。ガーに直撃してたらどうするんだよ!?」
「むう~……しかしだな。あれはアイツせいで……」
ナオキとカーマインが慌てている。ガーというのはゴブリンの兄弟だろう。報告ではゴブリンは姉弟だと聞いている。しかし、ナオキはよくカーマインにあそこまで言えるものだ。
「ダ、ダイジョウブ……ガーアソコ、イナイ」
逃げたエルフに抱えられ、ゴブリンが口を開いた。
「ほ、ホントか!?」
ナオキがゴブリンの言葉に反応した。
「ガー、ベツノトコマッテル」
「よ、良かったぁ。もうアレは出すなよ。周りが危険だし、あんなのに当たったら八京さんが死んじゃうだろ!」
「フン! ワイはアイツを殺したいんだ!」
「だからダメだ! そんなことしたらこの秘龍石をどこかへ投げ捨てるからな!」
「バカ、そんなことしたらワイは……」
「どうだ? いうことを聞く気になったろ」
「く……ワイの弱みに付け込みおって……」
「よし。じゃあさっきのは使わずに八京さんを動けなくしろ。けど、絶対に殺しちゃダメだからな」
「……善処する……」
どうやら話はまとまったようだ。しかし、あのカーマインを言い負かすとは。
「話は終わったかな?」
八京は剣を構え、カーマインに話を振った。
「フン! 貴様に言うことは無い」
死闘を繰り広げた相手だ。嫌われて当然だろう。
「そりゃ残念だ。君が人間と意思の疎通が出来るならゼヒ話したいと思ってたんだけど」
「ワイを殺そうとした輩が何を言っている。今すぐにでもかみ殺してやりたいわ!」
鼻息を荒くしながらカーマインは言葉を吐き捨てた。
「おい……」
すかさずナオキがカーマインに声を掛ける。
「ウルサイ! 分かっている。まったく、本気にするな」
先程の八京の言葉に嘘は無い。人間以外の生物ともっと意思疎通ができれば争いごとが少なくなるのではないか……そう考えることがあった。でもそれは綺麗ごとであり、敵わないことだと八京は知っている。だけど、奪われないで済む命があるのなら八京は奪いたくないと考えていた。例えそれが目の前のドラゴンであってもだ。
「……じゃあそろそろ始めるよ。悪いけど、手は抜けないから」
「フン、ワイは元よりそのつもりじゃ」
カーマインは言い終わるや否や身体を左に反転させた。その巨漢からは想像もできないほどの俊敏さだ。大木のような尻尾は八京へ向かって素早く襲う。八京は愛刀で尻尾を受け止めた。その衝撃で踏ん張っている両足は地面にめり込む。
少しの間を置いて、カーマインから発せられた暴風が辺りを襲う。まるで台風の一風が突然現れたかのようだ。
本当に厄介な相手だ。
力が半減しているとはいえ、カーマインの強さは桁違いだ。そして、手加減はしないと言ったが、八京にはカーマインを殺せない。正確には殺してはいけないのだ。後方にいるジュダがそれを望んでいるからだ。
ナオキの持っている秘龍石からカーマインが出現したのだから、その秘龍石を奪えばこちら側にカーマインが手に入ることになる。それは帝国にとって莫大な戦力になりえる。そう、世界を統一することが可能なほどに。そんな力を帝国やジュダが欲しないわけがない。本来ならそんなモノ、無い方がいい。だが、不本意ながらジュダの意を尊重するのが賢明な判断だろう。
この相手に同じ手は通じない――
「ああああぁぁぁー」
八京は両足に力を込め、受け止めた尻尾を剣で押し返した。八京の一振りでカーマインは自身を中心に反転させ、再び八京と向き合う形になった。
「くっ……人間ごときが、そんな小さな体にどれだけの力を秘めている」
「誉め言葉として受け取っておくよ。人間だって非力なだけの存在じゃないってことを分かってもらえたかな?」
「貴様のその減らず口、きけなくしてくれるわ!」
カーマインは四つん這いで前屈みになり、まるで力士の立ち合いの構えのような格好をした。
――来る!――
瞬間、カーマインが弾かれたように八京へ向かってきた。
あまりの速さに八京は躱すことが出来ず、剣でカーマインの角を受け止めることしか出来なかった。しかし、カーマインは止まらず、そのまま突進し、テント群の奥にあった大木へ八京を押し当てた。
「がはっ!」
肋骨が……折れた……
角を受け止めていた剣が押され、角は八京に到達した。顔を歪め、脱出を試みるも上手くいかない。それどころか更に角がめり込み八京にダメージを与える。
――不意にカーマインの加える力が弱くなった。ソコを八京は見逃さず、カーマインを押し返して僅かな隙間を作り、脱出に成功した。だがしかし、それはカーマインの罠だった。八京の脱出した先には尻尾が待ち構え、勢いよく八京をはたき落とした。
「ぐ……」
襲ってくる痛みに耐えながらもなんとか八京はカーマインと距離をとった。
身体中がズキズキ痛む。全身打撲と言ったところか……特に肋骨の痛みが尋常じゃない。内臓を損傷している可能性もある。
「貴様、以前戦った時より弱いな。まだ傷が癒えていないのか……」
「それはお互い様だろ? 君だってナオキ君の魔力なしじゃ動くことも出来ない。そうだろ?」
「確かにそこは否定せん。じゃがどうやら戦況はこちらが有利のようだな」
「それはどうかな……僕にはまだ見せてない奥の手が残っている……」
「そんなものはあり得ん」
ぴしゃりとカーマインは否定する。
「そんなものがあったら貴様はそんなに追い詰められておらんだろ」
――ご明察――
「……まぁいい。貴様とはこれで終わりだ」
カーマインは息を大きく吸い込み口元に力を込めた。見る見るうちに口元が輝き、炎が口から溢れ出す。
「バカ! それはやめろって言ったろ!」
カーマインの後ろでナオキが叫んでいる
「安心しろ。加減はする」
嘘だ。あの規模の攻撃だと先ほどより大きい。カーマインは本気で八京を殺しに来ている。
躱そうにも全身ボロボロな状態ではどうすることもできない。
――ここまでか――
今まで戦って来てここまで追い詰められたのは魔王の討伐以来だ。あの時は魔王の慈悲……いや、気まぐれにより命を落とさずに済んだ。だが今回は違う。間違いなくあの吐炎は八京を狙っている。
でもやっと楽になれる……
八京にはまだやらなければならないことが沢山あった。未練もある。だが、八京の心は疲弊し、傷ついていた。やりたくも無いことに手を染め、八京自身落ちていった。心のどこかで終わりを望んでいた。道半ばだが、終わるには丁度いいのかもしれない。そう思えた。
「……覚悟は決まったか?」
そんな八京の心の内を知ってか知らずかカーマインが八京に言った。
「待っていたのかい? 案外優しいんだな」
「ワイを貴様ら人間と一緒にするな。お互い死力を尽くした者同士。最後に敬意を払うのは当然だ」
八京が人間じゃなく、魔物ならカーマインと仲良くなれたかもしれない……いや違う。ナオキとカーマインの関係がそれを物語っている。
「おい! 駄目だろ! 八京さんが……」
ナオキの叫びともとれる声が八京に届いた。
「………………」
カーマインはナオキの声に反応をしない。
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