異世界に召喚されたオレだが、可哀そうだからゴブリンを殺せない

たけるん

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対ドラゴン

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……一体何が起こったんだ……



 ジュダの魔力が解け、意識を取り戻した八京が目にしたのはドラゴンによる惨劇のだった。

 逃げ惑う兵士たち、そんな彼らを蹂躙するドラゴン。立場は違うがただ茫然と立ちすくむジュダとナオキ。

 マリオネットの影響だろうか、頭と至る所にできている傷跡が痛む。そしてなにより顔と脇腹がズキズキする。何故か古傷の右腕も痛い。



訳が分からない……とにかく状況を把握しないと。



 八京はジュダの元へ走った。これが八京の最大の過ちだとは知らずに。



「ジュダさん! ジュダさん」



 ジュダの肩を揺さぶり必死に話し掛ける。早くしなければ。被害が大きくなる一方だ。



「あぁ……八京……そうか、マリオネットが解けたのか……」



 ジュダがポツリと漏らす。



「何があったんですか? なんでドラゴンがここに?」

「ナオキが……秘龍石を持っていたんだ」

「秘龍石!?」



 噂でしか聞いたことが無い。その存在自体も眉唾物の代物だ。



「そんなモノをどうしてナオキ君が?」

「そんなの私が知る訳ないだろ! とにかくナオキは秘龍石を手に入れて使ったんだ。その結果、あのドラゴンが現れた。幸か不幸か私たちはまだ生きている。だが、現状はこれだ。あんなバケモノ……どうすれば……」



 なるほど。突然現れたドラゴン。それが我々人間を襲っているのだ。討伐と違い、準備も無しにいきなり現れ襲われたら、如何に訓練をしている兵士と言えども冷静さを欠けパニックになるのも仕方がない。だが、このままでは被害が拡大してしまう。スグ隣には町もあるのだ。



「ジュダさん。ドラゴンは僕が引き受けます。ジュダさんは残っている兵士たちの指揮をお願いします。このままでは町にまで被害が及んでしまう。町の人たちの避難もしないと」



 八京と話を聞いて冷静さを取り戻したのだろう。ジュダはいつもの表情を取り戻した。



「あぁ分かった。ヤツは任せたぞ」

「はい」

「それとな八京……」



 ジュダは急に声を小さくし、どもった。



「はい?」

「マリオネットの件はすまなかった……お前に任せていればこんなことにはならなかっただろう……」



 申し訳なさそうに顔を伏せてジュダは言った。



「別に気にしてません。ですが、今後は使わないでもらえると有難いです」



 嘘だ。人の身体を都合のいいように操っていたのだ。そう簡単に許せることではない。だが今はそれを責めている時間が惜しかった。



「勿論だ。もうお前にマリオネットは使わない。神に誓おう!」



 八京には……本人も気付かないウチに本音が出ている。それは八京以外にはアレを使うということだ。何ともおぞましい。この世界の人間はドコかズレている。だが今は聞き流そう。



「はい。じゃあそっちはお願いします」



 八京はドラゴン目掛けて走り出した。



 目の前に立つと改めてドラゴンの大きさを実感する。前回と違い、八京自身、身体も装備も万全ではない。でも泣き言を言っている暇はなかった。文字通り死ぬ気で戦わなくては。

 愛刀の『鬼蜻蛉――オニヤンマ――』八京の師匠であるムサシの忘れ形見……それを構えドラゴンに向った。



「うわぁぁぁー」



 倒れた兵士に喰いかかろうとしているドラゴンの死角から近づき、八京は高くジャンプをした。ドラゴンの背中目掛けて剣を突き立て貫こうとする。



一撃で決める――



 八京に気付いていない今がドラゴンを仕留める最大のチャンスだ。これでカタを付けてしまえば全てが終わる。

 気配を悟られないよう配慮しながらの一撃。これ以上ないほどのタイミングだった。しかし――



「ウエ!」



 思わぬところから声が上がった。腕を斬り落とされたゴブリンだ。

 ゴブリンの声に反応したドラゴンは八京に気付き、身体を捻った。



狙いが外れた――ケド、このまま一撃入れて少しでもダメージを負わせる。



 八京はそのままドラゴンの左肩へ剣を深く突き刺した。



「グアァァァー!」



 けたたしい咆哮を上げながらドラゴンは突き刺さった剣を地面に叩き付けるように身体を捻じった。

それに反応した八京はすぐさま剣を引き抜きドラゴンから離れるように飛んだ。



「今のウチに早く逃げて下さい!」



 ドラゴンに喰われそうになっていた兵士に声を掛け、再び八京は剣を構えた。

仕留められなかったのは残念だが、先ずはダメージを追わせることが出来た。

 それにしても……さっきの子供のゴブリンの言葉といい、それに反応したドラゴンといい不可解なことが多すぎる。



何が起こっているんだ?



 けど、今考えるべきことでないことは分かっている。だがどうしても考えてしまう。八京は改めてドラゴンと対峙した。



アレ? 



 八京はあることに気付き言葉を失った。



まさかこのドラゴン……いや馬鹿な……



 考えがまとまらない。だが必死に冷静であろうと努めた。



「ジュ、ジュダさん! 確認があります」



 離れた場所で陣頭指揮をとっているジュダに向って八京は声をあげた。



「何だ? お互い忙しいんだ。早くしてくれ」



 八京の声にジュダは反応した。この状況で八京が話しをしているのだ。大事な内容で無い筈はないことをジュダも理解していた。



「僕たちが取り逃がしたドラゴン。今はどうなってますか!?」

「はぁ? 何で今そんなこと――」

「教えてください!」

「……この前話した通りだ。ヨシキ達追跡隊が後を追っている。ヤツを捕らえるのも時間の問題だ。ってどうしたんだ?」



やっぱりそうだ。じゃあここにいるドラゴンは――



「……似ているんです……」

「はぁ?」



 八京の言っていることがわからない。とでも言いたげなジュダの返事だった。



「僕たちが戦ったあのドラゴンにそっくり……いやそのままなんです」

「な、何を言ってるんだ八京。だってあのドラゴンはヨシキたちが追っているハズだぞ!? 何かの見間違えじゃないのか?」



 ヨシキ――八京たちと同じくリスタだ。召喚されたのは八京より数年前。だが、功績も実力も八京がスグに追い抜いた。それによってことあるごとに八京に絡み、嫌味を言ってきた。だが、陰では人一倍努力をしていることを八京は知っている。だから八京はヨシキを憎むことはなかった。いつかは清太郎や大和同様わかり合えると思っていた。



「確かに大きさは前より小さいですけど、実際に戦ったんです。見間違えなんかじゃないですよ」

「……カーマイン……」



 カーマイン――それは八京たちが討伐の対象にしたドラゴンに付けた名だ。名前の通り身体全体が真っ赤というよりは僅かに紫が混じった色をしていることに由来した。そう、目の前にいるドラゴンのように。

 そして八京には確信があった。赤いドラゴンは他にもいるだろう。だが、このドラゴンに刻まれている無数の傷に見覚えがある。いや、これらのほとんどは八京本人が付けた傷だ。忘れるはずがない。そして何よりこのドラゴンを見た時から右腕が痛んでいる。



 間違いない。
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