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魔王討伐
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「いやー、演技とはいえ、すまぬことをしたな」
魔王が気さくに声を掛けてくる。先ほどと違い過ぎて戸惑ってしまう。
「い、いえ……」
「魔王様は迫真の演技でしたからね。私もしびれましたよ」
「そうか? 余も捨てたもんではないな」
エドガーのお世辞に気分を良くした魔王は上機嫌だ。反対にナオキは複雑な心境だった。
「な、なぁ。魔王ってこんな感じなのか?」
「さぁな。なんせ、俺も話したこと無いし……でもお陰で俺たちの緊張も和らいだけどな」
レイの言う通り、ナオキとレイに緊張は無くなっていた。ただ、ベルとアイリは相変わらず気を緩めてはいなかった。
「ところで人間……ナオキと言ったか?」
「はい。なんでしょう?」
「その……八京の件は無礼なことを言った。ナオキの真意を知りたくて言ったことだ。余の本心では無いことを理解してほしい」
魔王はナオキへ頭を下げた。
「そ、そんな……もう気にしてませんよ」
魔物の王が頭を下げた。それも自身の配下の前で人間にだ。それがどれほどのコトか想像が出来ないがとてつもないことに思えた。
「八京の死は余も残念に思う。アイツは人間の中でも我ら魔族への理解もある貴重な存在だったからな」
「そ、そうなんですか?」
確かに八京は魔物を殺すことを嫌っていた。それが魔王にも知られていたとは意外だった。
「あ、あの……質問をいいですか?」
「なんだ? 申してみよ」
「八京さんたちは以前、魔王討伐でここに来たんですか?」
ナオキにとってこれはキモになるところだ。
「あぁ。そうだな。確かに八京たちは余の首を取りに来た」
やっぱり……
「その……敵同士なハズなのに何でそんなに八京さんのコトを気に入ってるんですか? それにあの時、八京さん以外の人間は全滅したと聞きました。一体何があったんですか?」
そうだ、これを訊かない訳にはいかない。
「そうだなぁ……どこから話せばいいものか……」
「魔王様。では私から事の経緯を話してもよろしいでしょうか?」
エドガーだった。
「うむ。構わん。説明してやれ」
「かしこまりました。それでは皆さん。私が説明いたします」
「はい。お願いします」
エドガーが説明を始めた。
およそ2年前、ここ魔王城は人間たちの攻撃を受けていた。その数およそ1万。対して魔王軍は魔王城とその周辺の魔物たちでおよそ3万。数では圧倒的に有利な魔王軍だが、人間の攻撃に手を焼いていた。
その理由は人間の中に飛びぬけた強さの者が数人いたからだ。後にそれがリスターターと呼ばれ、ココとは違う世界から召喚された人間だと知ることになるがこの時は知る由も無かった。
リスターターの活躍で魔物の大軍を上手く躱し、人間たちは見事魔王城までたどり着くことが出来たのだ。
「この時、私は城の入り口を任されていましてね、城へ入ろうとする人間を殺していたんですよ」
いつにもまして饒舌なエドガーは得意げに話す。だがまさかそんな場面で重要な役回りを任される辺り、魔王からの信頼はやはり厚いのだろう。
「ですが、私の前に一人の剣士が現れたのです――」
話の流れからして八京さんだろう
「そう! 剣豪『ムサシ』です」
!? 違った
「対峙してスグにわかりました。この男こそが人間たちをここまで導いてきたのだと。そしてムサシは我々魔人以上の強さを持っていることを」
ムサシって八京さんの師匠だよな……やっぱりメチャクチャ強かったんだな。
「私とムサシが剣を交えようとした時、一人の人間が間に入ってきました」
今度こそ八京さんだ。
「別のリスターターです」
あれっ?
「そのリスターターは言いました。『ここは私たちに任せてムサシさんは先に進んでくれ』と、ムサシも初めは反対をしていましたが周りの声もあり、ムサシはほかの人間たちと先に進むことにしたのです。その間、私は人間たちの会話を邪魔せず待っていたのです。いや~、紳士の鏡のようでしょう?」
「は、はぁ……」
そこらへんはどうでもいい……
「そして私はリスターターと他の人間と戦いました。まぁ結果は私が殺しまくりましたがね。いくらリスターターといえど、ムサシほどの力のあるものはそうはいないということですかね」
「まぁ。お前がやられていたら、ここで語ることもできぬわな」
魔王がチャチャを入れる。
「そういうことです。そして、3千人ほど殺したでしょうか、人間たちの殿しんがりを務めていた人間が私の前に現れたのです」
ここだ!
「そう! 八京です」
やっとだ!
「八京は辺りを見回した後、咆哮と共に私に斬りかかってきました。そこからは私と八京の壮絶な戦いが始まりました。あまりの凄まじさに他の魔物も人間も近づくことが出来ないほどでしたよ」
八京がエドガーと戦っていた。そのことにも驚いたが、エドガーが3千人も殺していたことに驚いた。それもリスターターがいたにもかかわらずだ。やはり魔人は伊達では無いようだ。
「アレは本当に楽しかった……お互い死力を尽くし、生死の狭間にいるのが実感できましたからね。でもそんな甘美な時間も終わりがあります。私が距離をとったスキに人間の弓矢が私に刺さったのです」
えっ!?
「傷口は微々たるものですが即効性の猛毒でした。私が魔人でなければ即死だったでしょう。ですが、泣き言など言っていられません。私は命を燃やして八京と戦いました。ですが、結果は八京の勝利。私は死を覚悟しました……」
ゴクリ……
「けれど、八京は私を殺しはしませんでした。敵であり、仲間を数千も奪った私をですよ? 私は問いかけました『なぜトドメを刺さない』と、八京は答えました『アナタを殺したくない』と。こんなことありますか!? まったく馬鹿を通り越した存在ですよ」
確かに。そこは殺してもおかしくないところだ。
「そして八京は城へ入っていきました。倒れたままの私は当然、残された人間からの攻撃を受けました。ですが、運が良かったのでしょう。命が尽きる前に魔物たちが私を救ってくれたのです。アレはもう死を覚悟しましたよ」
ほんとに運がいいな。
「そして部下たちに抱えられて魔王様の元へ向かった私が見たものは、衝撃的なモノでした」
エドガーは魔王へ視線を送った。
「ふぅ。ここから先は余が話そうか」
魔王が気さくに声を掛けてくる。先ほどと違い過ぎて戸惑ってしまう。
「い、いえ……」
「魔王様は迫真の演技でしたからね。私もしびれましたよ」
「そうか? 余も捨てたもんではないな」
エドガーのお世辞に気分を良くした魔王は上機嫌だ。反対にナオキは複雑な心境だった。
「な、なぁ。魔王ってこんな感じなのか?」
「さぁな。なんせ、俺も話したこと無いし……でもお陰で俺たちの緊張も和らいだけどな」
レイの言う通り、ナオキとレイに緊張は無くなっていた。ただ、ベルとアイリは相変わらず気を緩めてはいなかった。
「ところで人間……ナオキと言ったか?」
「はい。なんでしょう?」
「その……八京の件は無礼なことを言った。ナオキの真意を知りたくて言ったことだ。余の本心では無いことを理解してほしい」
魔王はナオキへ頭を下げた。
「そ、そんな……もう気にしてませんよ」
魔物の王が頭を下げた。それも自身の配下の前で人間にだ。それがどれほどのコトか想像が出来ないがとてつもないことに思えた。
「八京の死は余も残念に思う。アイツは人間の中でも我ら魔族への理解もある貴重な存在だったからな」
「そ、そうなんですか?」
確かに八京は魔物を殺すことを嫌っていた。それが魔王にも知られていたとは意外だった。
「あ、あの……質問をいいですか?」
「なんだ? 申してみよ」
「八京さんたちは以前、魔王討伐でここに来たんですか?」
ナオキにとってこれはキモになるところだ。
「あぁ。そうだな。確かに八京たちは余の首を取りに来た」
やっぱり……
「その……敵同士なハズなのに何でそんなに八京さんのコトを気に入ってるんですか? それにあの時、八京さん以外の人間は全滅したと聞きました。一体何があったんですか?」
そうだ、これを訊かない訳にはいかない。
「そうだなぁ……どこから話せばいいものか……」
「魔王様。では私から事の経緯を話してもよろしいでしょうか?」
エドガーだった。
「うむ。構わん。説明してやれ」
「かしこまりました。それでは皆さん。私が説明いたします」
「はい。お願いします」
エドガーが説明を始めた。
およそ2年前、ここ魔王城は人間たちの攻撃を受けていた。その数およそ1万。対して魔王軍は魔王城とその周辺の魔物たちでおよそ3万。数では圧倒的に有利な魔王軍だが、人間の攻撃に手を焼いていた。
その理由は人間の中に飛びぬけた強さの者が数人いたからだ。後にそれがリスターターと呼ばれ、ココとは違う世界から召喚された人間だと知ることになるがこの時は知る由も無かった。
リスターターの活躍で魔物の大軍を上手く躱し、人間たちは見事魔王城までたどり着くことが出来たのだ。
「この時、私は城の入り口を任されていましてね、城へ入ろうとする人間を殺していたんですよ」
いつにもまして饒舌なエドガーは得意げに話す。だがまさかそんな場面で重要な役回りを任される辺り、魔王からの信頼はやはり厚いのだろう。
「ですが、私の前に一人の剣士が現れたのです――」
話の流れからして八京さんだろう
「そう! 剣豪『ムサシ』です」
!? 違った
「対峙してスグにわかりました。この男こそが人間たちをここまで導いてきたのだと。そしてムサシは我々魔人以上の強さを持っていることを」
ムサシって八京さんの師匠だよな……やっぱりメチャクチャ強かったんだな。
「私とムサシが剣を交えようとした時、一人の人間が間に入ってきました」
今度こそ八京さんだ。
「別のリスターターです」
あれっ?
「そのリスターターは言いました。『ここは私たちに任せてムサシさんは先に進んでくれ』と、ムサシも初めは反対をしていましたが周りの声もあり、ムサシはほかの人間たちと先に進むことにしたのです。その間、私は人間たちの会話を邪魔せず待っていたのです。いや~、紳士の鏡のようでしょう?」
「は、はぁ……」
そこらへんはどうでもいい……
「そして私はリスターターと他の人間と戦いました。まぁ結果は私が殺しまくりましたがね。いくらリスターターといえど、ムサシほどの力のあるものはそうはいないということですかね」
「まぁ。お前がやられていたら、ここで語ることもできぬわな」
魔王がチャチャを入れる。
「そういうことです。そして、3千人ほど殺したでしょうか、人間たちの殿しんがりを務めていた人間が私の前に現れたのです」
ここだ!
「そう! 八京です」
やっとだ!
「八京は辺りを見回した後、咆哮と共に私に斬りかかってきました。そこからは私と八京の壮絶な戦いが始まりました。あまりの凄まじさに他の魔物も人間も近づくことが出来ないほどでしたよ」
八京がエドガーと戦っていた。そのことにも驚いたが、エドガーが3千人も殺していたことに驚いた。それもリスターターがいたにもかかわらずだ。やはり魔人は伊達では無いようだ。
「アレは本当に楽しかった……お互い死力を尽くし、生死の狭間にいるのが実感できましたからね。でもそんな甘美な時間も終わりがあります。私が距離をとったスキに人間の弓矢が私に刺さったのです」
えっ!?
「傷口は微々たるものですが即効性の猛毒でした。私が魔人でなければ即死だったでしょう。ですが、泣き言など言っていられません。私は命を燃やして八京と戦いました。ですが、結果は八京の勝利。私は死を覚悟しました……」
ゴクリ……
「けれど、八京は私を殺しはしませんでした。敵であり、仲間を数千も奪った私をですよ? 私は問いかけました『なぜトドメを刺さない』と、八京は答えました『アナタを殺したくない』と。こんなことありますか!? まったく馬鹿を通り越した存在ですよ」
確かに。そこは殺してもおかしくないところだ。
「そして八京は城へ入っていきました。倒れたままの私は当然、残された人間からの攻撃を受けました。ですが、運が良かったのでしょう。命が尽きる前に魔物たちが私を救ってくれたのです。アレはもう死を覚悟しましたよ」
ほんとに運がいいな。
「そして部下たちに抱えられて魔王様の元へ向かった私が見たものは、衝撃的なモノでした」
エドガーは魔王へ視線を送った。
「ふぅ。ここから先は余が話そうか」
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