異世界に召喚されたオレだが、可哀そうだからゴブリンを殺せない

たけるん

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魔王

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    扉が開かれた先では数十……いや、百以上の魔物たちが左右へ規則正しく並んでいた。魔人と思しき者や獣人など、ナオキが知らない種族が沢山いた。その中央の奥で玉座に座っているのが魔王だろう。

 ナオキは『ブルブルッ』と身震いをした。



「さぁ、お入りください」



エドガーが先へ行くよう促す。



「は、入っても何もしないんですよね?」



 不安からナオキはエドガーに尋ねた。



「ソレは約束しかねます。アナタ方が魔王様へ無礼な態度を行えば当然、私たちはアナタ方へ制裁を行うでしょう」

「なっ!? ――」

「ですが、今のところそのような気はありませんのであまり気負わなくて大丈夫ですよ」

「あまり気負わなくって……」



相手が魔王なんだから無理でしょ……



 とは言ってもここまで来たのだから行くしかないのは分かっている。



「さぁ、前へどうぞ」



 エドガーが先導し前へ進んだ。



「魔王様、八京の最後を看取った者たちを連れて参りました」



 エドガーは片膝をつき魔王へひざまずいた。



「うむ……」



 魔王は一言返事をした。その声はとても穏やかで殺意を持っているようには感じられなかった。

 そして魔王の姿は魔人のようだが、どこか違う雰囲気を出していた。だが、ナオキの目を引いたのはその腕だった。



腕が……3本ある……



「ナオキさん、アナタたちも、魔王様の前ですよ。礼儀は守ってください」

「え? あ、はい」



 エドガーに言われるままナオキ達もエドガーに習いひざまずいた。

 顔を下に向けたまま目を魔王の方へ向けたナオキは必死に頭を整理した。



腕が3本ってことはやっぱりこの魔王は八京さんたちと……



「面を上げよ」

「はっ。皆さん。顔を上げてください」

「は、はい」



 言われるままに顔を上げ、ナオキは改めて魔王の顔を見た。

 どこか人間離れした精たんな顔立ちはエルフのようだ。耳もエルフのように大きく尖っている。



「ふっ……暫く見ないうちに随分と滑稽な姿になったものだなジャバウォック」

「えっ――」

「黙れ小僧! ワイとて好き好んでこの姿になっているのではないわ」



 意外なことに魔王の言葉はカーマインに向けられたものだった。



えっ!? カーマインが魔王と知り合い? それにジャバウォックって……



「人間が召喚者だとはいえ、らしくないのではないか? 『炎竜王ジャバウォック』の名は飾りだったのか?」

「ワイにも事情があったのだ! そしてその名で呼ぶでない! 喰い殺すぞ!」



 翼を広げたカーマインは体制を低くし、威嚇をしているようだ。



「ふっ、今のお前にそんな力はなかろう。まぁいい、今回はお前に用があるのではないのだからな」

「ふん。ワイの力が戻った時が貴様の命日じゃ。覚えておけ」



 カーマインは威嚇を止め、翼を収めた。



「なぁカーマイン。あの魔王とはどういう関係なんだよ?」



 ナオキより早くレイがカーマインに聞いた。ここにいる4人が疑問に思ったことだ。



「ふん。腐れ縁じゃ。それ以上でもそれ以下でもない」

「それにジャバウォックって言ったら神話の時代からの竜の名じゃねぇか。お前がまさか――」

「その名は捨てた! もうワイのことはいいじゃろう!」



カーマイン――炎竜王ジャバウォック……随分ヤバい奴だったんじゃないか? オレ、そうとは知らずに肩に乗せてるけど、大丈夫なのか……



 予想もしないところから衝撃的な事実を突きつけられ、ナオキの頭の中は混乱した。



「ところで人間。今日はお前に興味があってここへ呼んだのだ」

「は、はい……何でしょう?」



 突然話を振られ、さっきまで考えていたことを全部吹き飛ばし、ナオキは反射的に返事をした。



「お前、八京の元で剣の腕を磨いていたそうだな」

「す、少しの間ですけど……」

「うむ。そしてアイツの最後を看取ったと」

「……そうです」

「八京の最後はどんなものだった?」

「……最後はオレを庇って亡くなりました。それも兵士がオレを殺そうとして……」



 あの時の光景が目に浮かび拳を握った。



「死ぬ間際に八京は何を語った?」

「……八京さんは、死ぬ直前までオレのことを気にかけてくれました。本当に最後の最後まで……くっ」



 あの時のことを思うと今でも涙が出そうだ。それをナオキは必死でこらえた。



「そうか……ふっ……」



魔王が言葉を詰まらせてる……もしかして泣いてるのか?



「ハーッハッハッハッハー! 実にアイツらしい最後だ」

「んな!?」



笑ってるぞ!



「まさか自分の後輩のために命を落とすとは……アイツは本当に余を楽しませてくれる」

「えっ……なんで……」



 それ以上言葉が出なかった。



「なんで? なんでとはどういった意味だ?」

「な、なんで笑っていられるんですか? オレを庇った人をそんなふうに……」

「これが笑わずにいられるか? 自分より弱い者を庇ったのだぞ!? それもまだロクにこの世界の事情を知らない小僧をな。まったく馬鹿にもほどがあるだろう」

「そ……そりゃ、オレはこっちの世界をまだほんの少ししかわかってないかもしれないけど、それでもそうやって八京さんの死を笑うこと無いじゃないですか……」



 身体中が熱くなっていく。ナオキを助けてくれた八京を馬鹿にされて今にもキレそうだった。



「ナオキ、落ち着け! 冷静になれ」

「そうですよ。深呼吸をしましょう」

「な、ナオキさん。落ち着いてください」



 レイたちがナオキをなだめようとする。しかし、今の状況で落ち着けるほどナオキは人間が出来てはいない。



「八京さんの死を笑わないでください! あの人は命を懸けてオレを守ってくれたんだ」

「ふっ。自身の命より価値の劣るものを庇う必要はなかろう。我々には理解が出来ぬ。まったく滑稽ではないか。アイツの損得考えぬあたり、もはや大馬鹿者だな」

「この――」



 ナオキが剣を握り立ち上がろうとしたその瞬間、ナオキの肩を押さえる者がいた。



 エドガーだ。



 ナオキは全力で動こうとするがビクともしない。まるで巨大な岩がナオキの肩に乗っているようだった。



「は、放せ……」

「いい加減にしなさい。魔王様に対して無礼ではありませんか」

「無礼? どっちがだ? 八京さんに対して無礼なことを言ってるのは向こうだぞ」

「アナタ、ご自身の強さも価値もまるで分ってませんね。魔王様とアナタでは圧倒的に強さも価値も違いすぎます。そんな格上の魔王様が何を語ろうとアナタには何一つ反論は許されないのですよ」

「う、うるさい。強さとか価値とか格だとかそんなの関係ない。八京さんを侮辱する奴はオレが許さない」



 尚も立ち上がろうとするナオキをエドガーは押さえた。



「ヤレヤレ。これでは八京さんも報われませんね」

「なに?」

「だってそうではありませんか? 折角助かった命をこんなところでワザワザ捨てようとしているのです。救った八京さんの死は全くの無駄に終わったことになりますよ」

「お、お前――」

「いい加減落ち着いたらどうですか? アナタが魔王様へ斬りかかろうものならここにいる者たちがアナタを瞬殺いたしますよ」

「そ、それでも……」

「だから、それがいけないのですよ。折角助けてもらった命を大事にしなさい」

「ナオキ、そうだぞ。命を無駄にするな!」

「………………」



 レイにもなだめられ、幾分落ち着いたナオキは立ち上がることを止めた。それを悟ったエドガーはナオキの肩に乗せていた手を引いた。



「よろしい。やればできるではありませんか」

「ケド、八京さんを侮辱したこと、絶対に許さないからな!」



 エドガーに向けたナオキの眼光は怒りに染まっていた。何より八京の死を笑われて何も出来ない自分自身にナオキは腹が立っていた。



「いい眼です。その睨みだけで私も殺せそうですよ」



 尚も余裕気にエドガーは話す。



「ふっ……エドガーの話していた通り、なかなか面白い人間ではないか。気に入ったぞ」



 魔王が口を開いた。



「そうでしょう? まだまだ実力は劣りますが、この気迫、かつての八京さんを思い出しますねぇ」

「えっ!? な、何て……」

「すいませんねぇ。魔王様がアナタに興味があったので、手っ取り早くアナタを知ってもらうことにしました。つまりは魔王様はワザとアナタを怒らせたんですよ」

「な、何でそんなこと……」

「私はアナタに気負わずと言ったではないですか。ですが、魔王様を前に気負わないなんて無理な話。ならいっそ気負わないように怒らせたんですよ。どうです? 緊張はどこかへ吹っ飛んでいったのではありませんか?」

「ハ……ハハハハ……」



 ようやくナオキは一杯食わされたことを理解した。
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