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ムサシと魔王
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「そうだな……先ずはムサシが余の元へ来たところからだな」
魔王は顎を触り、過去を思い出していた。
「余の部下たちを倒しながら人間たちはやってきた。ムサシはスグにわかった。アヤツからは他の人間とは明らかに纏うモノが違っていたからな」
やっぱり見る人が見れば相手の強さがわかるのか……
「そんなムサシが余に一騎打ちを挑んできたのだ。まぁ、ムサシ以外何人来ようが相手にならんし、ムサシとしても邪魔なだけだろうがな」
過去を思い出す魔王はどこか楽しげだ。
「まぁ結果としては余の圧勝だ。だが人間にしてはムサシは強かったぞ。アヤツに勝てる魔人は数えるほどしかしないだろうな。それに、余に傷をつけた人間は初めてだったぞ」
「き、傷って……腕を切られたってことですか?」
ナオキは魔王の話に割って入った。
「ん? あぁこれか。これはまた別件だ。ムサシとの戦いで余が負った傷はかすり傷程度のモノばかりだったぞ」
「そ、そうですか……」
「だがムサシを殺すのは惜しかったのでな、余の配下にならないか聞いたのだ。けどそういった強者こそ手に入らんものでな。あっさり断られてしまった」
「じゃ、じゃあムサシさんをその……殺したんですか?」
「それがな、余は正直どちらでも良かったんだ。だが何を思ったか他の人間どもは我先に余へ哀願してきおったわ」
「え?」
「余とムサシの戦いを見て敵わないと悟ったのだろう。戦いの間も余の家臣たちがやってきたからのぉ。ムサシがやられれば勝ち筋は見えんからな」
「そ、そうですか……それで、どうなったんですか? だって……」
全滅したハズじゃ……
「突然、ムサシが立ち上がってな。何を思ったか人間たちを殺し始めたのだ」
「えっ!?」
どうして……
「まぁ、アヤツの気持ちもわからんでもない。この世界で必死に戦い、尽くしてきたのに、勝ち目がない相手には我先に寝返ろうとする連中だからな。人間の汚い部分を見てよほどショックだったのだろう。とにかくあの時のムサシの表情は凄かった。修羅とはあぁいう者のことを言うのだろう」
「…………」
「そしてムサシもまた人間の攻撃を受けた。まぁ余との戦いの後だ、アヤツがまともに動けるわけがない。やがてムサシは力尽きた」
「そ、その時ムサシさんを助けようとは思わなかったんですか?」
「何故助ける必要がある? 余の配下に下っておれば無論助けたがな。だがアヤツはそれを拒んだのじゃ。そして人間たちは余の首を取りに来たんだぞ? どうせなら人間同士殺し合って共倒れも一興だろ」
「…………」
まぁ言いたいことは分からなくもないかも……
「とにかくムサシは人間に殺された。そして人間たちは再び余に首こうべを垂れてきた」
「じゃ、じゃあその人間たちは……」
「全員殺したよ」
「!?」
「自らの命のためなら仲間だった者を蹴落とすことを何とも思わぬ虫けらを助ける必要も無かろう。場合によっては余にとって不利益を持ってくる存在になりえるからのう。そんなものは初めに排除したほうが賢明だ」
「…………」
「そして事の経緯を八京は見ていたよ」
「えっ!? い、いったいどこから……」
「ムサシが人間を襲うあたりからだ。そして人間たちに殺されたところもな」
「で、でも何で八京さんは助けなかったんですか……」
「八京ももはや限界だったのだ。考えてもみろ、エドガーと戦い、余のいるところまで来たのだ。その間にも余の部下と戦ってきたのだぞ。むしろ生きているほうが奇跡だ」
そうかもしれない……
「八京は絶望していた。この世界にそして人間に」
「……」
「もはや人間は生かすつもりはなかったのでな八京も殺すよう命令を出したのだ。その時だ、エドガーと複数の魔人が余の元へ来てな、『この人間を殺さないでくれ』と頭を下げたのだ」
「え、エドガーさんが……」
ナオキはエドガーを見た。エドガーは照れ臭そうにしている。
「聞けば八京が戦った魔物たちは全員重症だが死んだモノはいなかった。エドガーたちはそんな八京に魅入られていたのだろう」
「まぁ、敗者の私が生かされて勝者の八京さんが殺されるのでは私としても心苦しいのでね」
「それでも余は八京を殺そうとしたのだ。そしたら今度はエドガーが何を思ったか自らの腕を引き千切りおった」
「えっ!? でも今腕は……」
今ついている……生えてくるのか?
「まぁ聞け。エドガーはケジメとして己の片腕を差し出す代わりに八京の命を奪わぬよう求めたのだ。余の大事な家臣にそんなことをされたら命をとるわけにはいかぬだろう。余は八京を殺すことを止めた」
そ、そんなことが……
「と言っても余はエドガーの腕など差し出されても何にも意味が無いので、八京にくれてやったのだ」
「はぁ!? で、でも八京さんが持ち帰った腕は魔王の片腕って……」
現に魔王の腕は一本無い……
「八京を帰す時に魔王の腕だと言わせたのだ。そのほうがアヤツの功績も上がるだろ。それに余の腕だかエドガーの腕だか人間ごときがわかる訳も無いしの」
魔王は得意げに笑っている。
「暫くして、片腕しかないエドガーが不自由そうなのでな、仕方ないから余の腕を一本くれてやったのだ」
「いっ!?」
そ、そんなことって……
「余は腕が四本あるからな。一本無くても差し支えない。それに、片腕のエドガーでは戦力も半減してしまうからのう」
「身に余る光栄です。このエドガー、生涯を魔王様に捧げます」
なんてメチャクチャな話だ……頭が痛くなる。
魔王は顎を触り、過去を思い出していた。
「余の部下たちを倒しながら人間たちはやってきた。ムサシはスグにわかった。アヤツからは他の人間とは明らかに纏うモノが違っていたからな」
やっぱり見る人が見れば相手の強さがわかるのか……
「そんなムサシが余に一騎打ちを挑んできたのだ。まぁ、ムサシ以外何人来ようが相手にならんし、ムサシとしても邪魔なだけだろうがな」
過去を思い出す魔王はどこか楽しげだ。
「まぁ結果としては余の圧勝だ。だが人間にしてはムサシは強かったぞ。アヤツに勝てる魔人は数えるほどしかしないだろうな。それに、余に傷をつけた人間は初めてだったぞ」
「き、傷って……腕を切られたってことですか?」
ナオキは魔王の話に割って入った。
「ん? あぁこれか。これはまた別件だ。ムサシとの戦いで余が負った傷はかすり傷程度のモノばかりだったぞ」
「そ、そうですか……」
「だがムサシを殺すのは惜しかったのでな、余の配下にならないか聞いたのだ。けどそういった強者こそ手に入らんものでな。あっさり断られてしまった」
「じゃ、じゃあムサシさんをその……殺したんですか?」
「それがな、余は正直どちらでも良かったんだ。だが何を思ったか他の人間どもは我先に余へ哀願してきおったわ」
「え?」
「余とムサシの戦いを見て敵わないと悟ったのだろう。戦いの間も余の家臣たちがやってきたからのぉ。ムサシがやられれば勝ち筋は見えんからな」
「そ、そうですか……それで、どうなったんですか? だって……」
全滅したハズじゃ……
「突然、ムサシが立ち上がってな。何を思ったか人間たちを殺し始めたのだ」
「えっ!?」
どうして……
「まぁ、アヤツの気持ちもわからんでもない。この世界で必死に戦い、尽くしてきたのに、勝ち目がない相手には我先に寝返ろうとする連中だからな。人間の汚い部分を見てよほどショックだったのだろう。とにかくあの時のムサシの表情は凄かった。修羅とはあぁいう者のことを言うのだろう」
「…………」
「そしてムサシもまた人間の攻撃を受けた。まぁ余との戦いの後だ、アヤツがまともに動けるわけがない。やがてムサシは力尽きた」
「そ、その時ムサシさんを助けようとは思わなかったんですか?」
「何故助ける必要がある? 余の配下に下っておれば無論助けたがな。だがアヤツはそれを拒んだのじゃ。そして人間たちは余の首を取りに来たんだぞ? どうせなら人間同士殺し合って共倒れも一興だろ」
「…………」
まぁ言いたいことは分からなくもないかも……
「とにかくムサシは人間に殺された。そして人間たちは再び余に首こうべを垂れてきた」
「じゃ、じゃあその人間たちは……」
「全員殺したよ」
「!?」
「自らの命のためなら仲間だった者を蹴落とすことを何とも思わぬ虫けらを助ける必要も無かろう。場合によっては余にとって不利益を持ってくる存在になりえるからのう。そんなものは初めに排除したほうが賢明だ」
「…………」
「そして事の経緯を八京は見ていたよ」
「えっ!? い、いったいどこから……」
「ムサシが人間を襲うあたりからだ。そして人間たちに殺されたところもな」
「で、でも何で八京さんは助けなかったんですか……」
「八京ももはや限界だったのだ。考えてもみろ、エドガーと戦い、余のいるところまで来たのだ。その間にも余の部下と戦ってきたのだぞ。むしろ生きているほうが奇跡だ」
そうかもしれない……
「八京は絶望していた。この世界にそして人間に」
「……」
「もはや人間は生かすつもりはなかったのでな八京も殺すよう命令を出したのだ。その時だ、エドガーと複数の魔人が余の元へ来てな、『この人間を殺さないでくれ』と頭を下げたのだ」
「え、エドガーさんが……」
ナオキはエドガーを見た。エドガーは照れ臭そうにしている。
「聞けば八京が戦った魔物たちは全員重症だが死んだモノはいなかった。エドガーたちはそんな八京に魅入られていたのだろう」
「まぁ、敗者の私が生かされて勝者の八京さんが殺されるのでは私としても心苦しいのでね」
「それでも余は八京を殺そうとしたのだ。そしたら今度はエドガーが何を思ったか自らの腕を引き千切りおった」
「えっ!? でも今腕は……」
今ついている……生えてくるのか?
「まぁ聞け。エドガーはケジメとして己の片腕を差し出す代わりに八京の命を奪わぬよう求めたのだ。余の大事な家臣にそんなことをされたら命をとるわけにはいかぬだろう。余は八京を殺すことを止めた」
そ、そんなことが……
「と言っても余はエドガーの腕など差し出されても何にも意味が無いので、八京にくれてやったのだ」
「はぁ!? で、でも八京さんが持ち帰った腕は魔王の片腕って……」
現に魔王の腕は一本無い……
「八京を帰す時に魔王の腕だと言わせたのだ。そのほうがアヤツの功績も上がるだろ。それに余の腕だかエドガーの腕だか人間ごときがわかる訳も無いしの」
魔王は得意げに笑っている。
「暫くして、片腕しかないエドガーが不自由そうなのでな、仕方ないから余の腕を一本くれてやったのだ」
「いっ!?」
そ、そんなことって……
「余は腕が四本あるからな。一本無くても差し支えない。それに、片腕のエドガーでは戦力も半減してしまうからのう」
「身に余る光栄です。このエドガー、生涯を魔王様に捧げます」
なんてメチャクチャな話だ……頭が痛くなる。
応援ありがとうございます!
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