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第1話
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王立学園のカフェテリアは今日も多くの生徒達で賑わっている。
ちょうど今は午前の講義が終了し、お昼休みの時間。
多くの生徒達と同様に、ルシアも友人2人と一緒にカフェテリアでランチセットを注文し、カフェテリア内のテーブルに着き、3人でおしゃべりに興じながらランチタイムを楽しんでいる。
ランチセットのサンドウィッチとスープを完食し、食後の紅茶を楽しんでいたところ、そんな楽しいひと時を邪魔するかのようにルシアの前に現れたのはイアン・バルデである。
ルシアはローレル伯爵家の令嬢だが、イアンも同じく伯爵家の令息で、さらに言うとルシアの婚約者だ。
「ルシア。俺は真実の愛を見つけた! お前とは婚約破棄だ!」
イアンは人差し指をルシアに向けてビシっと突き出し、高らかに宣言する。
今、この場にいる全員に聞こえるほど大きな声である。
自分の婚約者が公衆の面前で婚約破棄を突き付けるような愚か者であったことに、ルシアは内心ため息をついた。
「婚約破棄……ですか? はい、承知致しましたわ。言い出したのはイアン様なのでイアン様の有責での婚約破棄ですわね。家に帰ったらお父様に報告させて頂きますので、婚約破棄に伴う慰謝料の相談など諸々の処理はまた後日に」
あっさり承諾したルシアに対して、イアンは少々面食らっていたがすぐに再び元の自信に溢れた表情に戻る。
「承諾ありがとよ! これで愛するファニーと婚約できる!」
ファニーと聞いてルシアの頭の中にはある一人の令嬢が思い浮かんだ。
「ファニー様ってもしかしてファニー・カルマ様のことでしょうか?」
「ああ、そうだ! 冴えないお前とは違って天真爛漫でかわいいんだ! しかも近々公爵家令嬢になるんだって! ファニーとお前、どちらと婚約したら得かなんて考えるまでもない!」
「……そうですか。ご用件はこれだけでしたら、午後の講義の準備もございますし、私はこれで失礼致しますわ」
ルシアは友人2人共に退出する。
カフェテリアから自分の所属するクラスに戻る途中、ルシアの友人であるソフィアとアンヌが心配そうな表情でルシアを見つめる。
「皆様の前で婚約破棄なんて一体何様のつもりですか!? こんなことを言っては何ですが、あんな最低な男性とはお別れ出来て良かったです……!」
ソフィアがプンプンと憤っている。
「そうですわね。婚約破棄されて傷物令嬢にはなってしまったけれど、あんな方とお別れ出来て良かったと私もそう思います。彼に恋愛感情は持っていませんでしたし」
「それにしてもファニー・カルマ様ですか。恋は盲目とは言いますが……こんなに綺麗なルシア様を捨ててよくあんな方をお選びになりますわね。しかもあの方が公爵家令嬢になるなんて一体何のご冗談でしょう」
アンヌは首を傾げている。
ルシアは綺麗にウェーブがかかった見事な銀髪にアイスブルーの瞳の小柄な美少女で、他人から冴えないと評されることなんてまずありえない。
イアンはただ単にルシアをこき下ろしたかっただけなのだろう。
ファニー・カルマ。
彼女はカルマ男爵家の令嬢で、今現在この王立学園の中で悪い意味で最も有名な人物である。
彼女は庇護欲をそそるような可愛い容姿で、貴族令嬢らしからぬ天真爛漫な性格。
婚約者がいる・いないは気にも留めず高位貴族の令息にばかり声をかけて回っており、不幸なことに一部の令息は既に彼女に陥落してしまっている。
陥落した令息達は彼女の取り巻きと化し、取り巻きの令息の婚約者が「彼は私の婚約者だから近づかないように」といった苦情を彼女に言っても、ファニーは令息本人に泣きつき、令息はファニーを擁護し、婚約者を非難するという結局はその婚約者の令嬢の印象が悪くなるだけという悪循環に陥っている。
だから婚約者を大切にしているまともな令息はファニーに関わらない・狙われないよう戦々恐々と過ごしているし、令嬢達には蛇蝎の如く嫌われている。
ルシアはイアンがファニーの取り巻きの一員になっていることは知っていた。
知ってはいたが、どうしてもイアンと婚約者を続けたいという熱意もなかった為、諫めなかった。
今日のことがなければ近々ルシアの方から父に報告して、婚約解消しようと思っていた。
「イアン様ご自身が選んだのです。人前でしかも大声で発言していたから引くに引けなくなるでしょう。それにイアン様は公爵家令嬢になるご予定のファニー様の方が私を選ぶより得だと仰っていましたが、”ファニー様が公爵家令嬢になる”という前提が私にも正しい情報には思えません。確証のない目先の情報に飛びついて、欲をかいた結果、とんでもない目に遭うかもしれませんわね」
男爵家令嬢から公爵家令嬢になるというのは、全くあり得ないことではないが現実的ではない。
そもそも公爵家はどの家も程度の差はあるが王家の血が流れており、王家に連なる伝統ある由緒正しい家柄だ。
そして彼らはそのことに誇りを持っているので、他家の者を婚姻ではなく養子として迎えるのは特殊な裏事情がある場合だけと言っても過言ではない。
その家の当主が大きな功績をあげて、家の爵位が上がる可能性もなくはないが、その場合、誰の目にもはっきりわかる功績が必要な上、国王も公爵家の者達の誇りをわかっているので、最高でも侯爵位までしか与えない。
なので、これは今回のことでは当てはまらない。
この時点で、ルシアは”ファニーが公爵家令嬢になる”という情報が自分に影響があるとは思っていなかった。
それが判明するのは一か月後のことだった。
ちょうど今は午前の講義が終了し、お昼休みの時間。
多くの生徒達と同様に、ルシアも友人2人と一緒にカフェテリアでランチセットを注文し、カフェテリア内のテーブルに着き、3人でおしゃべりに興じながらランチタイムを楽しんでいる。
ランチセットのサンドウィッチとスープを完食し、食後の紅茶を楽しんでいたところ、そんな楽しいひと時を邪魔するかのようにルシアの前に現れたのはイアン・バルデである。
ルシアはローレル伯爵家の令嬢だが、イアンも同じく伯爵家の令息で、さらに言うとルシアの婚約者だ。
「ルシア。俺は真実の愛を見つけた! お前とは婚約破棄だ!」
イアンは人差し指をルシアに向けてビシっと突き出し、高らかに宣言する。
今、この場にいる全員に聞こえるほど大きな声である。
自分の婚約者が公衆の面前で婚約破棄を突き付けるような愚か者であったことに、ルシアは内心ため息をついた。
「婚約破棄……ですか? はい、承知致しましたわ。言い出したのはイアン様なのでイアン様の有責での婚約破棄ですわね。家に帰ったらお父様に報告させて頂きますので、婚約破棄に伴う慰謝料の相談など諸々の処理はまた後日に」
あっさり承諾したルシアに対して、イアンは少々面食らっていたがすぐに再び元の自信に溢れた表情に戻る。
「承諾ありがとよ! これで愛するファニーと婚約できる!」
ファニーと聞いてルシアの頭の中にはある一人の令嬢が思い浮かんだ。
「ファニー様ってもしかしてファニー・カルマ様のことでしょうか?」
「ああ、そうだ! 冴えないお前とは違って天真爛漫でかわいいんだ! しかも近々公爵家令嬢になるんだって! ファニーとお前、どちらと婚約したら得かなんて考えるまでもない!」
「……そうですか。ご用件はこれだけでしたら、午後の講義の準備もございますし、私はこれで失礼致しますわ」
ルシアは友人2人共に退出する。
カフェテリアから自分の所属するクラスに戻る途中、ルシアの友人であるソフィアとアンヌが心配そうな表情でルシアを見つめる。
「皆様の前で婚約破棄なんて一体何様のつもりですか!? こんなことを言っては何ですが、あんな最低な男性とはお別れ出来て良かったです……!」
ソフィアがプンプンと憤っている。
「そうですわね。婚約破棄されて傷物令嬢にはなってしまったけれど、あんな方とお別れ出来て良かったと私もそう思います。彼に恋愛感情は持っていませんでしたし」
「それにしてもファニー・カルマ様ですか。恋は盲目とは言いますが……こんなに綺麗なルシア様を捨ててよくあんな方をお選びになりますわね。しかもあの方が公爵家令嬢になるなんて一体何のご冗談でしょう」
アンヌは首を傾げている。
ルシアは綺麗にウェーブがかかった見事な銀髪にアイスブルーの瞳の小柄な美少女で、他人から冴えないと評されることなんてまずありえない。
イアンはただ単にルシアをこき下ろしたかっただけなのだろう。
ファニー・カルマ。
彼女はカルマ男爵家の令嬢で、今現在この王立学園の中で悪い意味で最も有名な人物である。
彼女は庇護欲をそそるような可愛い容姿で、貴族令嬢らしからぬ天真爛漫な性格。
婚約者がいる・いないは気にも留めず高位貴族の令息にばかり声をかけて回っており、不幸なことに一部の令息は既に彼女に陥落してしまっている。
陥落した令息達は彼女の取り巻きと化し、取り巻きの令息の婚約者が「彼は私の婚約者だから近づかないように」といった苦情を彼女に言っても、ファニーは令息本人に泣きつき、令息はファニーを擁護し、婚約者を非難するという結局はその婚約者の令嬢の印象が悪くなるだけという悪循環に陥っている。
だから婚約者を大切にしているまともな令息はファニーに関わらない・狙われないよう戦々恐々と過ごしているし、令嬢達には蛇蝎の如く嫌われている。
ルシアはイアンがファニーの取り巻きの一員になっていることは知っていた。
知ってはいたが、どうしてもイアンと婚約者を続けたいという熱意もなかった為、諫めなかった。
今日のことがなければ近々ルシアの方から父に報告して、婚約解消しようと思っていた。
「イアン様ご自身が選んだのです。人前でしかも大声で発言していたから引くに引けなくなるでしょう。それにイアン様は公爵家令嬢になるご予定のファニー様の方が私を選ぶより得だと仰っていましたが、”ファニー様が公爵家令嬢になる”という前提が私にも正しい情報には思えません。確証のない目先の情報に飛びついて、欲をかいた結果、とんでもない目に遭うかもしれませんわね」
男爵家令嬢から公爵家令嬢になるというのは、全くあり得ないことではないが現実的ではない。
そもそも公爵家はどの家も程度の差はあるが王家の血が流れており、王家に連なる伝統ある由緒正しい家柄だ。
そして彼らはそのことに誇りを持っているので、他家の者を婚姻ではなく養子として迎えるのは特殊な裏事情がある場合だけと言っても過言ではない。
その家の当主が大きな功績をあげて、家の爵位が上がる可能性もなくはないが、その場合、誰の目にもはっきりわかる功績が必要な上、国王も公爵家の者達の誇りをわかっているので、最高でも侯爵位までしか与えない。
なので、これは今回のことでは当てはまらない。
この時点で、ルシアは”ファニーが公爵家令嬢になる”という情報が自分に影響があるとは思っていなかった。
それが判明するのは一か月後のことだった。
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