薬草の姫君

香山もも

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薬師

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 様々な植物が育つ国――ガーデン・エルフ
 その昔、魔女や妖精と呼ばれる者たちが、種を蒔いたことが始まりと言われている。
 土地と気候に恵まれ、薬草として育てられるものも多く、貿易や輸出品としても使われる。いわゆる国の財政源というやつだ。
 おかげでこの国の職業は、大半が植物に関わるものとされている。中でも権威、収入と揃っているのが薬師だ。
 国家資格である上、どんな場所、どんな家でも重宝される。
 薬師の役割は、植物を見分けて調合し、薬にすることだ。それは国に、そして王に認められた唯一無二の行為だった。
「せーっかく受かったのになあ」
 残念そうな顔をしているのは、ベンジャミンだった。戸を直した後、食料を運ぶのを手伝ってくれたのだ。
「おまえ、成績も優秀で器用だったから調合もうまかったじゃん」
 ベンジャミンは幼なじみで学校も同じだったので、ライトの性格も背景もよく知っている。ちなみに弱点も把握済み……だったりする。
「家柄だって薬師としてはなかなかのものだろ? なのになんでこんな生活送ってんの?」
「そんなの、おれが聞きたいよ」
 ライトはため息をついて、食料をしまいこむ。戸棚はすぐにいっぱいになり、今度は安堵の息をついた。これだけあればしばらくはしのげるだろう。
 ライトの家系は、先祖代々薬師だ。それなりに名も通っていて、ベンジャミンの言うとおり、実力、家柄ともに申し分なかった。
 そう、彼がつまづいたのは、そこじゃなかったのである。
「まさか、あんなところで引っかかるなんてな」
 ベンジャミンが軽く笑う。悪意のない、かわいたものだったので、特に何も言わないが、それでもライトにとって、あまり良い気はしない。
 別に彼のせいではない。どうにもならなかったことを、思い出してしまうからだ。
「そのせいで今はこの生活だろ? なあ、このままあきらめんの?」
 わかっているくせに、ベンジャミンは尋ねる。ライトは返事の代わりに息をついた。
「そうだよな。おまえはそんな奴じゃないよな」
 ちらり、ベンジャミンが見たのは、奥の部屋だ。ビン詰めになっているものは、そのほとんどが調合薬だ。ライトが勉強を重ね、作りあげたものだった。
「あーあ、どこかにいないかねえ。ライトにぴったりの嫁が」
 ベンジャミンが今度は息をついた。
「……紛らわしい言い方するなよ」
「なんだよ、まちがってはいないだろ。リング・エルフはパートナーみたいなもんなんだから」
 その通りだった。
 ライトは部屋の奥に目をやる。
 どれだけ勉強しても、薬を作っても、それがなくては話にならない。
 特に、この国では。
 ライトはこの時、気がついていなかった。
 寝ていると思っていた少女がうっすら、まぶたを開けていたことに。
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