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過去
しおりを挟むベンジャミンが帰ると、ライトは食料を早速調理を開始する。加工品がほとんどだが、足が早いものもあるので、なるべく日持ちするよう、手を加えなければならない。そうすることで、細く長く味わうことができる。
作業をしながら、ふと、ベンジャミンが言っていたことを思い出す。
学生時代、ライトは正直、わりとモテた。
顔もそこそこ、スタイルだって悪くない。勉強もできて、家は薬師の家系だ。自分で言うのもなんだが、けっこうな優良物件だったのである。
おかげで寄ってくる女の子は、後を絶たなかった。勉強に忙しくて、そんなに構っていられなかったものの、好かれて悪い気はしない。
そのピークが、薬師の試験に受かった時だった。
交際の申し込みだけじゃなく、見合い話もあった。けれどそれも、ある事が明るみになると、ぴたりと止んだ。
そう、薬師にとっては前代未聞のできごとが起きたのだ。
「――なにつくってるの?」
においにつられたのか、少女がいつのまにか後ろに立っていた。
「これは食うな」
明日からの貴重な食料だ。そう言いかけると、
「まだ何も言ってないじゃない。訊いただけでしょ」
「……もっと寄こせって言ってたじゃねーか」
「でも結局食べなかったもん」
正確には、食べるものがなかったからだが、少女の言うこともまた事実だ。ライトは少女に目をやると、すねたような顔をしている。ライトは目をそらし、気になっていることを尋ねた。
「……おまえ、明日には出ていくんだろうな」
ライトの言葉に、少女はまばたきをくり返す。
「ねえ、あなた薬師なんでしょ。リング・エルフは?」
ライトの動きが止まる。
少女はさらに続けた。
「薬師ってことは、どこかにいるはずよね。でもさっきから見かけないのよ。ねえ、なんで? どうして?」
無邪気に訊いてくる少女とは裏腹に、ライトの顔が熱くなる。そう、あれは人生最大の辱めを受けたといってもいい。本当に辛い出来事だった。
何よりキツかったのは、それがだれのせいでもないということだ。
「ねえ、なんでなの?」
何度も訊かれることに、だんだんと耐えられなくなる。かといって大声で口にすることなどできない。それが事実であったことを、あの日の気持ちを、確認する行為だからだ。
「……ねえ、もしかして」
少女がそこまで言った時だ。
ライトは小声で、つぶやくように返事をした。
「……だったからだ」
ライトはなぞるように、口にする。
「――どのリング・エルフも、おれを選ばなかった。それだけの話だ」
少女のまなざしは、まっすぐとライトに注がれていた。
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