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疑問
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そんな彼女の様子を見て、ふとライトは疑問に思う。
「……けどおまえ、なんであんなところにいたんだ?」
リング・エルフが通常生活しているのは、王城近くにある、薬草園だ。ライトの合格発表も、そしてリング・エルフを与えられるのも、その場所だった。
「え……なんで、って……」
予想していなかったのか、マリーは言葉に詰まる。なんとなく、ライトは嫌な予感がした。
「リング・エルフも、その……たまに外に出させてもらえることがあって。ほら、薬師と組むのに、地上のことが何もわからないっていうのもあれでしょう。だから年に何回か、そういう機会があるのよ」
「――で?」
「……それで、その……あたしはその……うろうろしてたら、迷ったっていうか……」
「――つまり、迷子ってことか?」
マリーの目が泳ぐ。外れてはいないが、正解でもないらしい。マリーは言葉をさがすように首を傾げて、
「途中までは良かったんだけど、なんかつまんなくなってきちゃって……例えるなら自主的迷子?」
「――とんだ家出娘じゃねーか」
いや、エルフだから家出エルフなのか?
そんなふうに思いつつ、息を吐いた。
「おい、もう一度確認する。本当に大丈夫なんだろうな?」
リング・エルフになるということは、薬草園に出向き、それなりの手続きをしなければならない。互いの了解だけで済む話ではないのだ。
「――おれはこれ以上、キツイ思いはカンベンしてほしいんだけど」
ただでさえ、一度心が折れてしまっている。この地域にいるのですら、本音を言えば辛いのだ。
「大丈夫よ。あたしがちゃんと説明するから。誘拐犯? にはならないと思うわ」
たぶん、と、マリーは付け足す。
ライトは不安しか生まれなかった。
薬師にはなれず、リング・エルフの誘拐犯。そんなことになれば、今度こそ、ここで……いや、この国では生きていけない。
「……冗談じゃねーぞ」
「とにかく明日、手続きに行くから。それではっきりするでしょう」
何を? と問いたかった。けれどマリーはくすっと笑って、「おなかすいた」と、ごはんの催促をする。
ライトは仕方なく立ちあがり、不安をかき消すように食事の準備を始めた。
「……けどおまえ、なんであんなところにいたんだ?」
リング・エルフが通常生活しているのは、王城近くにある、薬草園だ。ライトの合格発表も、そしてリング・エルフを与えられるのも、その場所だった。
「え……なんで、って……」
予想していなかったのか、マリーは言葉に詰まる。なんとなく、ライトは嫌な予感がした。
「リング・エルフも、その……たまに外に出させてもらえることがあって。ほら、薬師と組むのに、地上のことが何もわからないっていうのもあれでしょう。だから年に何回か、そういう機会があるのよ」
「――で?」
「……それで、その……あたしはその……うろうろしてたら、迷ったっていうか……」
「――つまり、迷子ってことか?」
マリーの目が泳ぐ。外れてはいないが、正解でもないらしい。マリーは言葉をさがすように首を傾げて、
「途中までは良かったんだけど、なんかつまんなくなってきちゃって……例えるなら自主的迷子?」
「――とんだ家出娘じゃねーか」
いや、エルフだから家出エルフなのか?
そんなふうに思いつつ、息を吐いた。
「おい、もう一度確認する。本当に大丈夫なんだろうな?」
リング・エルフになるということは、薬草園に出向き、それなりの手続きをしなければならない。互いの了解だけで済む話ではないのだ。
「――おれはこれ以上、キツイ思いはカンベンしてほしいんだけど」
ただでさえ、一度心が折れてしまっている。この地域にいるのですら、本音を言えば辛いのだ。
「大丈夫よ。あたしがちゃんと説明するから。誘拐犯? にはならないと思うわ」
たぶん、と、マリーは付け足す。
ライトは不安しか生まれなかった。
薬師にはなれず、リング・エルフの誘拐犯。そんなことになれば、今度こそ、ここで……いや、この国では生きていけない。
「……冗談じゃねーぞ」
「とにかく明日、手続きに行くから。それではっきりするでしょう」
何を? と問いたかった。けれどマリーはくすっと笑って、「おなかすいた」と、ごはんの催促をする。
ライトは仕方なく立ちあがり、不安をかき消すように食事の準備を始めた。
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