薬草の姫君

香山もも

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マリーのまなざし

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 はっきりいって、ライトは不機嫌だった。
 その様子を、きょとんとした顔で、ベンジャミンが見る。
「どうしたんだよ、ライト。せっかくの晴れの門出だろ? そんなんじゃまた妙なところでつまづくぞ」
「不吉なこと言うな。どんな顔してても、おれの勝手だろ」
 ライトはこれから王城近くにある、薬草園に行くため、荷物をまとめているところだった。
 ベンジャミンはそのことを聞きつけ、鍵を受け取りに来たのだ。ここにいない間、この家の管理は彼に任せることになっているからだ。
「まあまあ、ちょっと落ちつけよ。せっかく見送りに来てやったっていうのに。良かったじゃん、あの子。リング・エルフだったんだって?」
 ベンジャミンは半分喜び、半分にやにやしている。
「……なんだよ」
 その視線に居たたまれなくなったライトは、思わず口にする。とはいっても、ベンジャミンが何を思っているのか、ライトにはなんとなくわかっていた。
「いや、ライトも隅に置けないっていうか、そういう意味でもよかったかというか」
「――殴るぞ」
「冗談だって」
 ベンジャミンは苦笑しながら、ライトの肩をたたいた。
 昨日のことだ。
 ベンジャミンはたまたま朝早く、、ライトの家にやってきた。そしてまた、ドアを壊してしまったのだ。
 その音でライトが起きなかったのが、不幸中の幸いーーいや、幸いと言っていいのかわからない。むしろ起きたほうが良かったのかもしれない。
 とにかく家の中へ入ったベンジャミンが見たものは、一つの寝床で寄りそう、ライトと少女――マリーだった。
 ベンジャミンが声をあげそうになったのは、言うまでもない。そして驚きのあまり、足を滑らせてしまったのだ。
 先に起きたのは、ライトのほうだった。
「……つーか、今何時?」
 半分寝ぼけ眼だった彼は、当然ながらとなりで寝ている人物に気がつく。
 そして一気に覚醒し、声をあげたのだ。
「――何やってんだ、おまえ――」
「……ん、なあに?」
 マリーはライトと同じように目をこすっていた。ライトは一応、自分の身なりと少女の服を確認する。
 ほっとしたとたん、手を振るわせながら言った。
「……おい、ここはどこだ?」
「どこって……ライトのベッド?」
 マリーは口にしながらも、ライトにすり寄ろうと近づいてくる。ライトはすぐに寝床から出て、腕を組んだ。
「つまりあれだ、おまえはわかっててここに居たってことだな?」
「ん、そーよ」
 悪びれる様子もなく、マリーはにっこりと笑う。
「ふざけんな。おまえ一体、何考えてるんだ」
 怒鳴るように言われて、マリーはむっとしたようにまなざしを向ける。
「そっちこそ。まったく気がつかないまま、朝までぐっすりだったくせに」
 マリーも寝床からおりた。お互いの発する空気が、ぴりぴりと緊張するのがわかる。
 間に入ったのは、立ちあがったベンジャミンだった。
「まあまあ、ふたりとも。今回はたまたまだったってことで……」
「――たまたまじゃないっ」
「うん……ちがう」
 その言葉に、ベンジャミンはマリーを見る。
「えっと、もしかして、ライトに惚れてるのか?」
 マリーは大きな瞳をしばたかせる。
 ライトは口を挟みたいものの、完全に機会を失っていた。
「ほれてるって、好きってこと?」
「まあ、おおまかに言えば」
 マリーは一瞬、うつむいた。
 それからすぐに顔をあげて、
「――うん、すっごくほれてる」
 にっこり、とてもうれしそうに頷いた。
 その時不覚にも、ライトの顔が赤くなったのを、ベンジャミンは見逃さなかった。
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