薬草の姫君

香山もも

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意識

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 歩いているのに、気がつくとライトは口に手を添えていた。
 ニヤけているわけではない。断じてちがう。少し顔が熱いので、もしかしたら赤いかもしれない。でもそれは決して、さっきの話のせいではないと思いたい。
 ベンジャミンに見送られた後、マリーと二人、王都の道を歩いていた。途中、たまたま馬車に乗せてもらえたおかげで、予定よりも早く着きそうだった。
 そう、別のことを考えればいい。そう思っているのに、ふとよみがえるのは、ベンジャミンが言っていたことだ。

 ――男ってさ、相手に好きって言われれば、よっぽどのことがない限り、好きっていうか、気になるもんだぜ。かわいい子ならなおさら、その可能性があるんじゃないか?

 はっきりいって、よけいなことだった。でもさっきから頭の中をぐるぐるまわって、変に意識してしまっているのだ。
 そしてそれは、マリーにも伝わってしまっているかもしれない。
「ねえ、ライト」
 後ろを歩く少女に呼びとめられて、ライトはふり返ろうとする。
 けど、できなかった。
 顔を見せれば、なんらかの誤解されるに決まっているし、実際少女のせいで、動揺しているのは事実だからだ。
 そう、自分がしているのは、あくまで動揺だ。 結局さっきの話は、少女とベンジャミンの間で完結してしまった。
 ライトは当事者にも関わらず、だ。
 それが自分にとっておもしろくなかっただけだ。それが気になって、なんとなく落ちつかないだけだ。
 ライトは言い聞かせるようにして、ゆっくり、少女のほうを向いた。
 目が合うと、少女は大きな瞳と、きらきらとしたまなざしを、こちらへ向けてくる。
「あのね、ライト。あたしちょっとその……言いたいことがあって」
 急に頬をそめて、もじもじし始める。
 なんだろう。
 その様子が、ライトには少し、いや、けっこうかわいらしく見えた。
「――え、なに?」
 平常を装って、マリーに尋ねる。すると彼女はぴょん、と軽く飛び跳ねるようにして、ライトの手をつかんだ。
 急に触れられて、ライトはさらに身体の体温が上がるのを感じる。
「あのね、あれ――食べたいの」
 マリーが指をさしたのは、路上に立ちならぶ、屋台の一つだった。
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