薬草の姫君

香山もも

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手前

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「ん、おいしい」
 きげんよく、マリーが頬ばっているのは、串に刺さった肉と野菜だった。
 本当は全部肉のものがいい、と言われたのだが、持ち合わせがそんなになかったので、どうにか野菜も入っているものするよう、交渉したのだ。
 それにしても、と、ライトは思う。
 歩いていたら、いつのまにか王都に入っていた。今いる場所は多分、都の中心街だ。前に一度来たことがあるせいか、なんとなく覚えている。
 けれどあの時は、期待に満ちた気持ちでここを歩いていた。
 あの時の自分からしたら、まさかこんなことになるとは思っていなかっただろう。
 ライトが息をつきつつ、ひとまず先に進もうとしていると、
「ね、ライト。あれも、あっちも食べたい」
 すでに食べ終えて、串をぶらぶらさせていたマリーは、別のものを指さす。
「は? おまえ、いいかげんにしろよ。朝だってちゃんと食べたろ」
「えーだっておいしそうなんだもん」
 屋台の前から動こうとしない。
 こうなってくると、ライトは空をあおぐしかなくなってしまう。
 持ち合わせを確認して、まあ、ぎりぎり足りるか、と息をついて言った。
「わかった。あと一つだけな」
 マリーは頷いて、代金を受け取ると、そのまま目的のものへまっしぐらだった。
 うれしそうに食べものを抱えて帰ってくると、
「ありがと、ライト」
 笑った顔のかわいらしさに、身体が一瞬、怯むのがわかった。

 薬草園の近くまで来ると、ライトは一度足を止めた。さっきもそう思ったが、来るのは初めてではない。
 そう、2回目だ。
 わかっていても、足がすくむ。
 あの時のことを、思い出してしまう。
 花の香りが、ふんわりと鼻をかすめる。とたんにライトは、我に返った。
 この間とは、ちがう香り。自分もきっと、ちがうはずだ。
「ライト何やってるの? 早くしないとおいてっちゃうよー」
 人の気も知らずに、マリーは先に進み、手をふっている。追いかけるように足を踏み出したその時だ。
「――マリー様っ」
 急に背後から、声がした。
 ふり返ると、男の姿があった。
 細身で長髪、加えて顔が整ったその男を、ライトは知っていた。
 正確には、見知った顔だった。
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