薬草の姫君

香山もも

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記憶と現在

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 試験はそんなに難しくなかった、と、ライトは記憶している。
 時間内にすべて解くことができたし、ついでに見直しまで終えられたくらいだ。
 試験管は薬草園の、いわゆる薬師たちだった。その中でも彼は一際目立つ存在で、その場にいるだれもが、一瞬目を奪われた。
 他の受験生の話だと、歳はライトよりも5つ上だという。容姿だけではなく、家柄も申し分ないとのこと、加えて薬師としての腕前も一目置かれているほどらしい。
 ライトが試験を受けた部屋では、彼が担当だった。見直しも済んでぼんやりしていると、彼が横を通りすぎる。
 それは別に、初めてではなかった。
 試験中に見まわるのは当然のことで、彼はこちらが緊張するくらい、熱心だったからだ。最初派驚いたものの、後半になるにつれて、慣れてしまっていた。
 そんな彼が、なぜかライトのそばで止まった。
 視線がライト自身をすり抜けて、腕のあたりへ注がれているのがわかる。
 用紙は表に向けたままだったので、どうやらライトの解答を見ているようだった。
 一瞬、どきりとした。
 何か見落としがあったのか、と思ったからだ。
 しばらくじっと眺めていると、彼は少しだけ笑って、そのまま動作を再開する。
 ライトはその背中を見ながら、合格すれば、先輩という立場で、働くこともあるかもしれない。そんなふうに思いつつ、用紙を裏返した。
 その彼が今、目の前にいる。
 そして、マリーの肩をつかんでいた。
「マリー様、ご無事だったんですね」
 しかも、彼女に対して、言葉遣いがきちんとしている。けれどそれに対して、マリーはあたりまえでしょ、なんて言って笑ってる。
 あれあれあれ?
 ライトはもう一度、頭の中で彼の声を再生してみた。
 ――マリー様
 確か彼はそう呼んでいた気がする。
 つまりそれは、上下関係を表すもののように見えるのだ。
 もしかして、もしかしなくても、マリーはただのリング・エルフ候補ではないということだろうか。
 ライトはそんなふうに思っていたものの、それはすぐに遠くへ追いやられる。
「――ちょっと」
 マリーが相手の胸倉を、いきなり掴んだからだ。
「その呼び方、やめろって言ったわよね」
 鋭い目つきで、男をにらむ。
 初めて見る、彼女だった。
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