20 / 23
マリーの気持ち
しおりを挟む
着がえは、用意されていた。薬師の制服ともまたちがう、儀式用のものらしい。
ライトが袖を通し、足を慣らす。支度が済むと、扉がたたかれた。
「ライト」
マリーがひょっこり顔を出す。彼女の衣服も正装なのか、昨日までとはちがう。
「まだ時間あるよな」
「ちょっとだけ。何? 話って」
こういうのは、立って言うべきなのか、それともすわるものなのか、ライトはやや迷う。
逃げ道を確保しないため、結局腰をおろすことにした。まずマリーに先に、手前にすわってもらう。
「あのな、マリー」
ライトは深呼吸する。
別に、今じゃなくてもいいのだ。契約が終わってからだって、問題はない気がする。
でもそれはやっぱり、どうしてもそれはできない。彼女は自分のリング・エルフになってくれると言った。誰にも選ばれなかった、自分に、だ。 それなら自分も、応えなければならないと思う。自分なりの誠意というやつだ。
口を開こうとしたその時、
「ライト」
遮るようにマリーが言った。
「ライトの話って、ライトがあたしを好きじゃないってこと?」
首をかしげながら、あっさり口にする。
「え、あ……」
こういう場合、なんて言ったらいいのだろう。確かにその通りであるのだが、頷くのも変な感じだ。
「ちがうの?」
マリーは再び首をかしげる。その様子を見て、ライトは腹を括った。
「――ちがわない」
マリーがまっすぐライトを見る。ライトもなんとか、目を逸らさずにいた。
「おれは、おまえの気持ちに応えることができない。それでもおまえは、おれのリング・エルフになるか?」
正確には、なってくれるのか? だ。彼女がいなければ、ライトは薬師にはなれないのだから。
言い直そうと思った瞬間、マリーはくすりと笑う。くすくす、笑い声とともに身体がゆれる。
「ねえ、それってずっと?」
「は?」
「ライトがあたしのこと好きじゃない、なんて知ってたわよ。でもそれって、ずっとそうってこと?」
つまり今後、彼女を好きになる可能性があるのか、と問いたいようだ。
「ずっとって言われると……」
そうとは言い切れない。これまでの人生で、絶対はないとわかっているからだ。
「あたしのこと、別にきらいじゃないんでしょう」
「……まあな」
かわいいとは思う。
つまり好意はある、ということだ。
「――だったら、いいわ」
マリーは立ちあがった。ライトは一瞬、意味がわからなくなる。
「なにしてるの? さっさと儀式すませるわよ」
ライトの手を引いた。
「え、あ、でもおまえ、それでいいのか?」
なんとか自分の気持ちを問うと、マリーは肩をすくめて笑った。
「――だって今のライトが絶対じゃないんでしょう。未来永劫変わらないっていうなら、あたしもちょっと考えるけど」
確かに、それは言い切れない。どちらにしても、だ。
「あたしね、けっこう気は長いほうなの。だったらあたしにとって一番いいのは、ライトの近くにいられることだわ」
それは、リング・エルフになるということ。
彼女はそう捉えているらしい。
「だからライトは、あたしを利用してる、なんて考えないで。おたがいさまでいいでしょう?」
目を細める少女に、一瞬胸が苦しくなった。きっと急に、手を強く握られたせいだ。
「ね、だからあたしは、あなたのリング・エルフになってあげる」
マリーはライトの手を握りなおす。
そしてつぶやくように言った。
――だってずっと、待ってたんだもの
その声が、ライトに届くことはなかった。なぜなら彼は、歩くだけで精一杯だったからだ。
ライトが袖を通し、足を慣らす。支度が済むと、扉がたたかれた。
「ライト」
マリーがひょっこり顔を出す。彼女の衣服も正装なのか、昨日までとはちがう。
「まだ時間あるよな」
「ちょっとだけ。何? 話って」
こういうのは、立って言うべきなのか、それともすわるものなのか、ライトはやや迷う。
逃げ道を確保しないため、結局腰をおろすことにした。まずマリーに先に、手前にすわってもらう。
「あのな、マリー」
ライトは深呼吸する。
別に、今じゃなくてもいいのだ。契約が終わってからだって、問題はない気がする。
でもそれはやっぱり、どうしてもそれはできない。彼女は自分のリング・エルフになってくれると言った。誰にも選ばれなかった、自分に、だ。 それなら自分も、応えなければならないと思う。自分なりの誠意というやつだ。
口を開こうとしたその時、
「ライト」
遮るようにマリーが言った。
「ライトの話って、ライトがあたしを好きじゃないってこと?」
首をかしげながら、あっさり口にする。
「え、あ……」
こういう場合、なんて言ったらいいのだろう。確かにその通りであるのだが、頷くのも変な感じだ。
「ちがうの?」
マリーは再び首をかしげる。その様子を見て、ライトは腹を括った。
「――ちがわない」
マリーがまっすぐライトを見る。ライトもなんとか、目を逸らさずにいた。
「おれは、おまえの気持ちに応えることができない。それでもおまえは、おれのリング・エルフになるか?」
正確には、なってくれるのか? だ。彼女がいなければ、ライトは薬師にはなれないのだから。
言い直そうと思った瞬間、マリーはくすりと笑う。くすくす、笑い声とともに身体がゆれる。
「ねえ、それってずっと?」
「は?」
「ライトがあたしのこと好きじゃない、なんて知ってたわよ。でもそれって、ずっとそうってこと?」
つまり今後、彼女を好きになる可能性があるのか、と問いたいようだ。
「ずっとって言われると……」
そうとは言い切れない。これまでの人生で、絶対はないとわかっているからだ。
「あたしのこと、別にきらいじゃないんでしょう」
「……まあな」
かわいいとは思う。
つまり好意はある、ということだ。
「――だったら、いいわ」
マリーは立ちあがった。ライトは一瞬、意味がわからなくなる。
「なにしてるの? さっさと儀式すませるわよ」
ライトの手を引いた。
「え、あ、でもおまえ、それでいいのか?」
なんとか自分の気持ちを問うと、マリーは肩をすくめて笑った。
「――だって今のライトが絶対じゃないんでしょう。未来永劫変わらないっていうなら、あたしもちょっと考えるけど」
確かに、それは言い切れない。どちらにしても、だ。
「あたしね、けっこう気は長いほうなの。だったらあたしにとって一番いいのは、ライトの近くにいられることだわ」
それは、リング・エルフになるということ。
彼女はそう捉えているらしい。
「だからライトは、あたしを利用してる、なんて考えないで。おたがいさまでいいでしょう?」
目を細める少女に、一瞬胸が苦しくなった。きっと急に、手を強く握られたせいだ。
「ね、だからあたしは、あなたのリング・エルフになってあげる」
マリーはライトの手を握りなおす。
そしてつぶやくように言った。
――だってずっと、待ってたんだもの
その声が、ライトに届くことはなかった。なぜなら彼は、歩くだけで精一杯だったからだ。
0
あなたにおすすめの小説
妻からの手紙~18年の後悔を添えて~
Mio
ファンタジー
妻から手紙が来た。
妻が死んで18年目の今日。
息子の誕生日。
「お誕生日おめでとう、ルカ!愛してるわ。エミリア・シェラード」
息子は…17年前に死んだ。
手紙はもう一通あった。
俺はその手紙を読んで、一生分の後悔をした。
------------------------------
(完結)醜くなった花嫁の末路「どうぞ、お笑いください。元旦那様」
音爽(ネソウ)
ファンタジー
容姿が気に入らないと白い結婚を強いられた妻。
本邸から追い出されはしなかったが、夫は離れに愛人を囲い顔さえ見せない。
しかし、3年と待たず離縁が決定する事態に。そして元夫の家は……。
*6月18日HOTランキング入りしました、ありがとうございます。
愛された側妃と、愛されなかった正妃
編端みどり
恋愛
隣国から嫁いだ正妃は、夫に全く相手にされない。
夫が愛しているのは、美人で妖艶な側妃だけ。
連れて来た使用人はいつの間にか入れ替えられ、味方がいなくなり、全てを諦めていた正妃は、ある日側妃に子が産まれたと知った。自分の子として育てろと無茶振りをした国王と違い、産まれたばかりの赤ん坊は可愛らしかった。
正妃は、子育てを通じて強く逞しくなり、夫を切り捨てると決めた。
※カクヨムさんにも掲載中
※ 『※』があるところは、血の流れるシーンがあります
※センシティブな表現があります。血縁を重視している世界観のためです。このような考え方を肯定するものではありません。不快な表現があればご指摘下さい。
異世界に転移したら、孤児院でごはん係になりました
雪月夜狐
ファンタジー
ある日突然、異世界に転移してしまったユウ。
気がつけば、そこは辺境にある小さな孤児院だった。
剣も魔法も使えないユウにできるのは、
子供たちのごはんを作り、洗濯をして、寝かしつけをすることだけ。
……のはずが、なぜか料理や家事といった
日常のことだけが、やたらとうまくいく。
無口な男の子、甘えん坊の女の子、元気いっぱいな年長組。
個性豊かな子供たちに囲まれて、
ユウは孤児院の「ごはん係」として、毎日を過ごしていく。
やがて、かつてこの孤児院で育った冒険者や商人たちも顔を出し、
孤児院は少しずつ、人が集まる場所になっていく。
戦わない、争わない。
ただ、ごはんを作って、今日をちゃんと暮らすだけ。
ほんわか天然な世話係と子供たちの日常を描く、
やさしい異世界孤児院ファンタジー。
勇者パーティーの保父になりました
阿井雪
ファンタジー
保父として転生して子供たちの世話をすることになりましたが、その子供たちはSSRの勇者パーティーで
世話したり振り回されたり戦闘したり大変な日常のお話です
お飾りの妻として嫁いだけど、不要な妻は出ていきます
菻莅❝りんり❞
ファンタジー
貴族らしい貴族の両親に、売られるように愛人を本邸に住まわせている其なりの爵位のある貴族に嫁いだ。
嫁ぎ先で私は、お飾りの妻として別棟に押し込まれ、使用人も付けてもらえず、初夜もなし。
「居なくていいなら、出ていこう」
この先結婚はできなくなるけど、このまま一生涯過ごすよりまし
敵に貞操を奪われて癒しの力を失うはずだった聖女ですが、なぜか前より漲っています
藤谷 要
恋愛
サルサン国の聖女たちは、隣国に征服される際に自国の王の命で殺されそうになった。ところが、侵略軍将帥のマトルヘル侯爵に助けられた。それから聖女たちは侵略国に仕えるようになったが、一か月後に筆頭聖女だったルミネラは命の恩人の侯爵へ嫁ぐように国王から命じられる。
結婚披露宴では、陛下に側妃として嫁いだ旧サルサン国王女が出席していたが、彼女は侯爵に腕を絡めて「陛下の手がつかなかったら一年後に妻にしてほしい」と頼んでいた。しかも、侯爵はその手を振り払いもしない。
聖女は愛のない交わりで神の加護を失うとされているので、当然白い結婚だと思っていたが、初夜に侯爵のメイアスから体の関係を迫られる。彼は命の恩人だったので、ルミネラはそのまま彼を受け入れた。
侯爵がかつての恋人に似ていたとはいえ、侯爵と孤児だった彼は全く別人。愛のない交わりだったので、当然力を失うと思っていたが、なぜか以前よりも力が漲っていた。
※全11話 2万字程度の話です。
【完結】あなたに知られたくなかった
ここ
ファンタジー
セレナの幸せな生活はあっという間に消え去った。新しい継母と異母妹によって。
5歳まで令嬢として生きてきたセレナは6歳の今は、小さな手足で必死に下女見習いをしている。もう自分が令嬢だということは忘れていた。
そんなセレナに起きた奇跡とは?
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる