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マリーの気持ち
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着がえは、用意されていた。薬師の制服ともまたちがう、儀式用のものらしい。
ライトが袖を通し、足を慣らす。支度が済むと、扉がたたかれた。
「ライト」
マリーがひょっこり顔を出す。彼女の衣服も正装なのか、昨日までとはちがう。
「まだ時間あるよな」
「ちょっとだけ。何? 話って」
こういうのは、立って言うべきなのか、それともすわるものなのか、ライトはやや迷う。
逃げ道を確保しないため、結局腰をおろすことにした。まずマリーに先に、手前にすわってもらう。
「あのな、マリー」
ライトは深呼吸する。
別に、今じゃなくてもいいのだ。契約が終わってからだって、問題はない気がする。
でもそれはやっぱり、どうしてもそれはできない。彼女は自分のリング・エルフになってくれると言った。誰にも選ばれなかった、自分に、だ。 それなら自分も、応えなければならないと思う。自分なりの誠意というやつだ。
口を開こうとしたその時、
「ライト」
遮るようにマリーが言った。
「ライトの話って、ライトがあたしを好きじゃないってこと?」
首をかしげながら、あっさり口にする。
「え、あ……」
こういう場合、なんて言ったらいいのだろう。確かにその通りであるのだが、頷くのも変な感じだ。
「ちがうの?」
マリーは再び首をかしげる。その様子を見て、ライトは腹を括った。
「――ちがわない」
マリーがまっすぐライトを見る。ライトもなんとか、目を逸らさずにいた。
「おれは、おまえの気持ちに応えることができない。それでもおまえは、おれのリング・エルフになるか?」
正確には、なってくれるのか? だ。彼女がいなければ、ライトは薬師にはなれないのだから。
言い直そうと思った瞬間、マリーはくすりと笑う。くすくす、笑い声とともに身体がゆれる。
「ねえ、それってずっと?」
「は?」
「ライトがあたしのこと好きじゃない、なんて知ってたわよ。でもそれって、ずっとそうってこと?」
つまり今後、彼女を好きになる可能性があるのか、と問いたいようだ。
「ずっとって言われると……」
そうとは言い切れない。これまでの人生で、絶対はないとわかっているからだ。
「あたしのこと、別にきらいじゃないんでしょう」
「……まあな」
かわいいとは思う。
つまり好意はある、ということだ。
「――だったら、いいわ」
マリーは立ちあがった。ライトは一瞬、意味がわからなくなる。
「なにしてるの? さっさと儀式すませるわよ」
ライトの手を引いた。
「え、あ、でもおまえ、それでいいのか?」
なんとか自分の気持ちを問うと、マリーは肩をすくめて笑った。
「――だって今のライトが絶対じゃないんでしょう。未来永劫変わらないっていうなら、あたしもちょっと考えるけど」
確かに、それは言い切れない。どちらにしても、だ。
「あたしね、けっこう気は長いほうなの。だったらあたしにとって一番いいのは、ライトの近くにいられることだわ」
それは、リング・エルフになるということ。
彼女はそう捉えているらしい。
「だからライトは、あたしを利用してる、なんて考えないで。おたがいさまでいいでしょう?」
目を細める少女に、一瞬胸が苦しくなった。きっと急に、手を強く握られたせいだ。
「ね、だからあたしは、あなたのリング・エルフになってあげる」
マリーはライトの手を握りなおす。
そしてつぶやくように言った。
――だってずっと、待ってたんだもの
その声が、ライトに届くことはなかった。なぜなら彼は、歩くだけで精一杯だったからだ。
ライトが袖を通し、足を慣らす。支度が済むと、扉がたたかれた。
「ライト」
マリーがひょっこり顔を出す。彼女の衣服も正装なのか、昨日までとはちがう。
「まだ時間あるよな」
「ちょっとだけ。何? 話って」
こういうのは、立って言うべきなのか、それともすわるものなのか、ライトはやや迷う。
逃げ道を確保しないため、結局腰をおろすことにした。まずマリーに先に、手前にすわってもらう。
「あのな、マリー」
ライトは深呼吸する。
別に、今じゃなくてもいいのだ。契約が終わってからだって、問題はない気がする。
でもそれはやっぱり、どうしてもそれはできない。彼女は自分のリング・エルフになってくれると言った。誰にも選ばれなかった、自分に、だ。 それなら自分も、応えなければならないと思う。自分なりの誠意というやつだ。
口を開こうとしたその時、
「ライト」
遮るようにマリーが言った。
「ライトの話って、ライトがあたしを好きじゃないってこと?」
首をかしげながら、あっさり口にする。
「え、あ……」
こういう場合、なんて言ったらいいのだろう。確かにその通りであるのだが、頷くのも変な感じだ。
「ちがうの?」
マリーは再び首をかしげる。その様子を見て、ライトは腹を括った。
「――ちがわない」
マリーがまっすぐライトを見る。ライトもなんとか、目を逸らさずにいた。
「おれは、おまえの気持ちに応えることができない。それでもおまえは、おれのリング・エルフになるか?」
正確には、なってくれるのか? だ。彼女がいなければ、ライトは薬師にはなれないのだから。
言い直そうと思った瞬間、マリーはくすりと笑う。くすくす、笑い声とともに身体がゆれる。
「ねえ、それってずっと?」
「は?」
「ライトがあたしのこと好きじゃない、なんて知ってたわよ。でもそれって、ずっとそうってこと?」
つまり今後、彼女を好きになる可能性があるのか、と問いたいようだ。
「ずっとって言われると……」
そうとは言い切れない。これまでの人生で、絶対はないとわかっているからだ。
「あたしのこと、別にきらいじゃないんでしょう」
「……まあな」
かわいいとは思う。
つまり好意はある、ということだ。
「――だったら、いいわ」
マリーは立ちあがった。ライトは一瞬、意味がわからなくなる。
「なにしてるの? さっさと儀式すませるわよ」
ライトの手を引いた。
「え、あ、でもおまえ、それでいいのか?」
なんとか自分の気持ちを問うと、マリーは肩をすくめて笑った。
「――だって今のライトが絶対じゃないんでしょう。未来永劫変わらないっていうなら、あたしもちょっと考えるけど」
確かに、それは言い切れない。どちらにしても、だ。
「あたしね、けっこう気は長いほうなの。だったらあたしにとって一番いいのは、ライトの近くにいられることだわ」
それは、リング・エルフになるということ。
彼女はそう捉えているらしい。
「だからライトは、あたしを利用してる、なんて考えないで。おたがいさまでいいでしょう?」
目を細める少女に、一瞬胸が苦しくなった。きっと急に、手を強く握られたせいだ。
「ね、だからあたしは、あなたのリング・エルフになってあげる」
マリーはライトの手を握りなおす。
そしてつぶやくように言った。
――だってずっと、待ってたんだもの
その声が、ライトに届くことはなかった。なぜなら彼は、歩くだけで精一杯だったからだ。
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