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桐谷家
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蓮君の話は、大まかにまとめるとこんな感じだった。
桐谷家は、代々武術を教えている家柄で、同じように千里さんや平治さんの家も、桐谷家にずっと仕えているという。
生計はそれまでの資産や門下生で成り立っていたが、ここ数十年でほとんどいなくなってしまったらしい。
生活はなんとかできているものの、資産を切り崩している状態だ。そこで葵さんのお父さんーー泰三さんは、事業を起こそうとした。
でもそれを皮切りに、桐谷家はどんどん追いこまれていくことになった。
慣れない仕事だったこともあり、泰三さんはすぐに体調を崩した。そして入院。それがちょうど、3ヶ月前のことらしい。
泰三さんの病は、思ったよりもひどい状態だったらしく、父親を助けるため、葵さんはある決意をしたという。
お風呂を上がると、あたしは自室に向かった。途中、居間の明かりが漏れていることに気がつく。消し忘れかと思い、扉に手をかけると、中に人がいることに気がついた。
隙間から見えたのは、泰三さんと葵さんだった。
「……おれがいない間に、ずいぶん勝手なことをしてくれたみたいじゃないか」
「なんのことです?」
声がして、一瞬どきっとする。あたしたちのことだろうか、と不安になったからだ。
「伊集院家との見合い話だよ。おれに何も言わず、進めるとはどういう了見だ?」
聞きながら、さっきの蓮君の話を思い出す。
葵さんは、ある決意をした、と言っていた。
それは、ある家に嫁ぐことだ。
元々美しい葵さんは、その噂を聞きつけるものもいて、引く手数多だったという。
桐谷家は多少、落ちぶれてはいるものの、歴史があり、家柄だけを見れば申し分ない。良家からの縁談は、子どもの頃からあったそうだ。
けれどすべて、断ってきた。
葵さん自身に、その気がない。そして泰三さんも、葵さんの意志を尊重してきたからだ。
でも、そうも言ってられなくなった。
担当の医師から告げられたという。泰三さんの病を治すには、手術が必要だと。そしてそのためには、高額な費用がかかる、と。
葵さんはそれから、見合い相手の中で、一番条件の良い家を選んだ。
それが、伊集院家だ。
「……どうもこうも、気にいったからですが?」
葵さんの口調は、淡々としていた。あまりに冷静で、少し怖いくらいだった。
「――嘘をつけ」
逆に泰三さんは、声をあらげているようだ。
「これでも、おまえの親だからな。大体のことはわかる。おまえが本当は、だれを好いているのかも――」
あたりまえだけど、初耳だった。
つまり、葵さんには想う人がいる。そういうことだ。
「それは父上の勘違いです。このことはこれ以上、言っても仕方ないので、先に休ませてもらいます」
葵さんが立ちあがって、こっちに来る。
まずい、と思った時には、遅かった。
出てきた葵さんと、目が合う。けれど彼女は、
「失礼します」
なんでもないことのように、扉を閉める。そしてそっと、あたしの手を引いた。
桐谷家は、代々武術を教えている家柄で、同じように千里さんや平治さんの家も、桐谷家にずっと仕えているという。
生計はそれまでの資産や門下生で成り立っていたが、ここ数十年でほとんどいなくなってしまったらしい。
生活はなんとかできているものの、資産を切り崩している状態だ。そこで葵さんのお父さんーー泰三さんは、事業を起こそうとした。
でもそれを皮切りに、桐谷家はどんどん追いこまれていくことになった。
慣れない仕事だったこともあり、泰三さんはすぐに体調を崩した。そして入院。それがちょうど、3ヶ月前のことらしい。
泰三さんの病は、思ったよりもひどい状態だったらしく、父親を助けるため、葵さんはある決意をしたという。
お風呂を上がると、あたしは自室に向かった。途中、居間の明かりが漏れていることに気がつく。消し忘れかと思い、扉に手をかけると、中に人がいることに気がついた。
隙間から見えたのは、泰三さんと葵さんだった。
「……おれがいない間に、ずいぶん勝手なことをしてくれたみたいじゃないか」
「なんのことです?」
声がして、一瞬どきっとする。あたしたちのことだろうか、と不安になったからだ。
「伊集院家との見合い話だよ。おれに何も言わず、進めるとはどういう了見だ?」
聞きながら、さっきの蓮君の話を思い出す。
葵さんは、ある決意をした、と言っていた。
それは、ある家に嫁ぐことだ。
元々美しい葵さんは、その噂を聞きつけるものもいて、引く手数多だったという。
桐谷家は多少、落ちぶれてはいるものの、歴史があり、家柄だけを見れば申し分ない。良家からの縁談は、子どもの頃からあったそうだ。
けれどすべて、断ってきた。
葵さん自身に、その気がない。そして泰三さんも、葵さんの意志を尊重してきたからだ。
でも、そうも言ってられなくなった。
担当の医師から告げられたという。泰三さんの病を治すには、手術が必要だと。そしてそのためには、高額な費用がかかる、と。
葵さんはそれから、見合い相手の中で、一番条件の良い家を選んだ。
それが、伊集院家だ。
「……どうもこうも、気にいったからですが?」
葵さんの口調は、淡々としていた。あまりに冷静で、少し怖いくらいだった。
「――嘘をつけ」
逆に泰三さんは、声をあらげているようだ。
「これでも、おまえの親だからな。大体のことはわかる。おまえが本当は、だれを好いているのかも――」
あたりまえだけど、初耳だった。
つまり、葵さんには想う人がいる。そういうことだ。
「それは父上の勘違いです。このことはこれ以上、言っても仕方ないので、先に休ませてもらいます」
葵さんが立ちあがって、こっちに来る。
まずい、と思った時には、遅かった。
出てきた葵さんと、目が合う。けれど彼女は、
「失礼します」
なんでもないことのように、扉を閉める。そしてそっと、あたしの手を引いた。
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