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蓮くん
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病室には、蓮君一人だった。
伊集院さんは急ぎの仕事で、一度家に戻ったらしい。
泰三さんは目ざとくケーキの箱に反応し、早速みんなで食べた。あたしは、ショートケーキにした。思ったよりもおいしく感じて、すぐに食べ終わってしまった。
後から伊集院さんもやってきて、あたしと蓮君だけ、談話室へ移動する。
「……ありがと、ね」
先に言ったのは、あたしのほうだった。蓮君は一度メガネに手を添えて、瞳を大きくする。
「けど、いつのまに日向さんに話してくれたの?」
「昨日、こっそりと、です」
蓮君は照れくさそうに笑う。
「でも、よかった。その様子じゃ、うまくいったんですね」
「うーん……どうかな。あたしは楽しかったんだけど」
楽しかった。とても。そして、うれしかった。まるで奇跡のような時間だった。
「ここで、この世界でやりたいって言ってたこと、できましたか?」
「やりたいっていうか……ただ言いたかっただけみたい。子どもみたいに」
わがままを言いたかっただけなのだ、きっと。
あたしが肩をすくめると、蓮君が笑って息をつく。
「何言ってるんですか。穂乃香さんは、子どもでしょう。あのふたりにとって」
「まあ、そうなんだけど」
言えなかったぶん、なのかなあと思う。今まで言いたくても言えない。がまんするしかない。それが今日、みんな出てしまった。気恥ずかしさは残ってる。でも、後悔はない。
「ただ、問題はこの後……よね」
どうなるのか、ということ。
ふたりの気持ちは、変わらないだろう。
あたしたちが、何をどうしたところで。
「そうですね……ぼくにもわかりません。でも正直にいうと、ちょっと楽しみだったりします」
どんなふうに、時間が動くのか。どんなふうに、変化するのか。「変わらない」というのも、変化の一つに含まれる。
「そうだね。あたしもちょっと楽しみだったりする」
「まあ、後は、ぼくたちがここに、どれくらい居られるかってところですね」
「え、帰れるってこと?」
思わず立ちあがりそうになった。
「方法はわかりませんけど。ずっとこのままってことはないと思います」
本来なら、いるはずのない場所にいるあたしたち。だとしたらどうしたって、元に戻そうという力が働くのではないかという。
「……絶対、ではないですけど。おそらく」
それがいつになるのか。どんな時になるのか。予測するのは難しい。
「あたし、帰ったらちゃんとお父さんに話してみる。あと、訊いてみる」
「進路のことですか?」
「うん、後はお母さんのことも」
ずっと、父のせいにしていた。でも、本当は違った。あたしが怖かったのだ。怖くて、尋ねることができなかった。
今だったら、ちゃんと受け止めきれる気がする。今だったら、きっと。
「……だったら、ぼくももう少し、粘ってみようかな」
つぶやくように、蓮君が口にする。もしかしたら、独り言だったのかもしれない。わかっていて、あえてあたしは尋ねた。
「……何を?」
「将来のことですよ」
「医者か星かって話?」
「……なんか別のものに聞こえますね」
蓮君が苦笑する。その顔を見ていると、なんだかほっとする。そう、まるで葵さんに感じる何か、だ。
「答えは出ないかもしれないけど、問いかけるのをやめない、粘ろうって思って」
「……なんていうか、真面目だよね」
「今更気がついたんですか?」
今度は顔を見合わせて笑った。
あたしはふと、思い立つ。
「そういえば蓮君って、名字は? 家どこなの?」
あそこにいたんだから、そんなに遠くはないんだろう。もしかしたら鶴田の遠い遠い親戚かもしれないし。
「あ……ぼく、ですか?」
一瞬、彼の目の色変わる。あたしはつい、この間のように首を傾げた。
「……あたし、なんか悪いこと訊いた?」
今度は尋ねる。大人のように見えても、動揺の色は隠せない。もし言えないとしても、その理由がわからなかった。
「――ぼく、は……」
そこまで言いかけた時だった。
「二人とも、ここに居たのか」
葵さんの声がした。あたしはつい、そっちに目をやる。
「そろそろ帰るぞ」
「あ、はい」
あたしと蓮君は席を立つ。なんとなく、名残惜しいような気がした。
病院の外に出ようとすると、入口のところで、日向さんに会う。葵さんは足を止めて、
「今日は、ありがとうございました」
と、改めて頭を下げる。あたしも同じようにした。まだ少し、恥ずかしさが残っているせいか、目を合わせることができない。
「いや、僕も楽しかったですから。それでその……」
日向さんの視線が、わずかにずれるのを感じる。見ているのは、蓮君だった。
「彼、なんですけど……」
「あ、はい……」
蓮君が少し驚いたように、でも気丈にふるまって、返事をする。
「よかったら今日……預からせてもらえませんか?」
予想外の言葉に、あたしはまばたきをくり返す。
「えっと……」
なぜ、と訊くべきなのだろうか。それとも、訊かないべきなのだろうか。わからなくなる。
「どうですか? お姉さん」
急に言葉が向いて、怯んだように肩を揺らす。
「あ、あたしは、別に……」
「ーーぼく、行きたいです」
全部言い切る前に、蓮君が動いた。
隠れるようにして、日向さんの服をつかむ。
「……明日、ちゃんと送り届けますので」
「……よろしくお願いします」
そう言うしかなかった。
避けられているんだろうか。
ホテルに戻って着がえていると、なんとなくそう思った。
原因、のようなものがあるとすれば、さっきのことだろう。別に、話したくないなら、訊かない。けど、そう伝えそびれてしまった。
そもそも、何がなんでも知りたい、というわけじゃない。たまたま、ふしぎに思ったからだ。けれどああも露骨な態度を取られると、なんとなく、おもしろくない。
さっとシャワーを浴びて寝る準備をしていると、ドアが叩かれた。
「……穂乃香、起きてるか?」
葵さんだ。あたしはすぐにドアを開ける。彼女も風呂上がりなんだろう。髪が少し、濡れていた。
「……よかったら今日は、こっちに泊めてもらえないかと思ってな」
「あ、いい、けど……」
ちょうど蓮君もいない。あたしも一人きりじゃ、淋しいような気がしていた。
「では、じゃまをする」
葵さんを中に入れると、彼女は少し照れたように笑った。
髪をしっかり乾かしてから、あたしたちはベッドに入る。最初は別々だったけど、葵さんの希望で、一緒に寝ることにした。
「一度やってみたかったのだ。友達と、同じベッドで、というやつを」
どうやら今まで、機会がなかったらしい。
「……これも、心残りの一つ?」
「そうだな。嫁いでしまえば、そういうこともないだろうし」
おまえはあるか? と尋ねられて、あたしは記憶をたどる。
「布団ならべて、っていうのはあるけど、さすがに同じベッドで、っていうのは……」
そう思うと、なんだか急に恥ずかしくなってきた。
「そうか。お互い、初めて同士か」
「葵さん、その言い方だとなんかちょっといかがわしく聞こえるような気が……」
「ああ、すまん。うれしいことに変わりはないのだが……うまく表現できない」
葵さんが布団の中に顔を隠す。半分だけ。その様子が、なんだかとてもかわいく見える。
そんなふうに思っていたら、葵さんがこっちを見た。
「……淋しい、か?」
尋ねられて、どきっとする。
「蓮のことだ。何があったか知らんが、おまえたちだったらすぐに元に戻れるだろう」
「そう……かな」
「羨ましいぞ。私も兄弟が欲しかった」
言われて、胸の奥が痛くなる。
あたしたちは、本当の姉弟じゃない。それどころか、お互いに一人っ子だ。
別に、悪いことをしているわけじゃない。本当のことは言えない。自分たちを守るためとはいえ、胸が苦しくなる。
「葵さん――あたし」
口にしてしまいそうになった。でも、
「ん? どうした?」
葵さんの優しい口調やまなざしを見ていたら、我に返る。
「ううん、なんでもない。葵さんは……やっぱり、変わらない? その……気持ちは……」
日向さんへの、ということだ。言わなくても多分、察してくれるだろうと思い、あえて名前は出さなかった。
「――ああ、私は大丈夫だ。おまえたちのおかげで、ずいぶん楽になったよ」
「……そっか」
この後、何がどうなるのかはわからない。でも、あたしが言えることがあるとすれば、それはきっと一つだけだ。
「――幸せに、なってね」
どんな形であれ、あきらめないでほしい。笑っていてほしい。あたしが望み、そして彼女もまた、望んでいることだと思いたい。
「――ああ、おまえも」
あたしたちは、何も言わずに、互いの手に触れる。初めてのことじゃない。なのに少し緊張して、けれど徐々に温かくなっていく。広がっていく。
あたしは、目を閉じた。
葵さんの呼吸音が聞こえる。体温にそっと包まれ、それは、何よりもあたしを、安心させてくれた。
伊集院さんは急ぎの仕事で、一度家に戻ったらしい。
泰三さんは目ざとくケーキの箱に反応し、早速みんなで食べた。あたしは、ショートケーキにした。思ったよりもおいしく感じて、すぐに食べ終わってしまった。
後から伊集院さんもやってきて、あたしと蓮君だけ、談話室へ移動する。
「……ありがと、ね」
先に言ったのは、あたしのほうだった。蓮君は一度メガネに手を添えて、瞳を大きくする。
「けど、いつのまに日向さんに話してくれたの?」
「昨日、こっそりと、です」
蓮君は照れくさそうに笑う。
「でも、よかった。その様子じゃ、うまくいったんですね」
「うーん……どうかな。あたしは楽しかったんだけど」
楽しかった。とても。そして、うれしかった。まるで奇跡のような時間だった。
「ここで、この世界でやりたいって言ってたこと、できましたか?」
「やりたいっていうか……ただ言いたかっただけみたい。子どもみたいに」
わがままを言いたかっただけなのだ、きっと。
あたしが肩をすくめると、蓮君が笑って息をつく。
「何言ってるんですか。穂乃香さんは、子どもでしょう。あのふたりにとって」
「まあ、そうなんだけど」
言えなかったぶん、なのかなあと思う。今まで言いたくても言えない。がまんするしかない。それが今日、みんな出てしまった。気恥ずかしさは残ってる。でも、後悔はない。
「ただ、問題はこの後……よね」
どうなるのか、ということ。
ふたりの気持ちは、変わらないだろう。
あたしたちが、何をどうしたところで。
「そうですね……ぼくにもわかりません。でも正直にいうと、ちょっと楽しみだったりします」
どんなふうに、時間が動くのか。どんなふうに、変化するのか。「変わらない」というのも、変化の一つに含まれる。
「そうだね。あたしもちょっと楽しみだったりする」
「まあ、後は、ぼくたちがここに、どれくらい居られるかってところですね」
「え、帰れるってこと?」
思わず立ちあがりそうになった。
「方法はわかりませんけど。ずっとこのままってことはないと思います」
本来なら、いるはずのない場所にいるあたしたち。だとしたらどうしたって、元に戻そうという力が働くのではないかという。
「……絶対、ではないですけど。おそらく」
それがいつになるのか。どんな時になるのか。予測するのは難しい。
「あたし、帰ったらちゃんとお父さんに話してみる。あと、訊いてみる」
「進路のことですか?」
「うん、後はお母さんのことも」
ずっと、父のせいにしていた。でも、本当は違った。あたしが怖かったのだ。怖くて、尋ねることができなかった。
今だったら、ちゃんと受け止めきれる気がする。今だったら、きっと。
「……だったら、ぼくももう少し、粘ってみようかな」
つぶやくように、蓮君が口にする。もしかしたら、独り言だったのかもしれない。わかっていて、あえてあたしは尋ねた。
「……何を?」
「将来のことですよ」
「医者か星かって話?」
「……なんか別のものに聞こえますね」
蓮君が苦笑する。その顔を見ていると、なんだかほっとする。そう、まるで葵さんに感じる何か、だ。
「答えは出ないかもしれないけど、問いかけるのをやめない、粘ろうって思って」
「……なんていうか、真面目だよね」
「今更気がついたんですか?」
今度は顔を見合わせて笑った。
あたしはふと、思い立つ。
「そういえば蓮君って、名字は? 家どこなの?」
あそこにいたんだから、そんなに遠くはないんだろう。もしかしたら鶴田の遠い遠い親戚かもしれないし。
「あ……ぼく、ですか?」
一瞬、彼の目の色変わる。あたしはつい、この間のように首を傾げた。
「……あたし、なんか悪いこと訊いた?」
今度は尋ねる。大人のように見えても、動揺の色は隠せない。もし言えないとしても、その理由がわからなかった。
「――ぼく、は……」
そこまで言いかけた時だった。
「二人とも、ここに居たのか」
葵さんの声がした。あたしはつい、そっちに目をやる。
「そろそろ帰るぞ」
「あ、はい」
あたしと蓮君は席を立つ。なんとなく、名残惜しいような気がした。
病院の外に出ようとすると、入口のところで、日向さんに会う。葵さんは足を止めて、
「今日は、ありがとうございました」
と、改めて頭を下げる。あたしも同じようにした。まだ少し、恥ずかしさが残っているせいか、目を合わせることができない。
「いや、僕も楽しかったですから。それでその……」
日向さんの視線が、わずかにずれるのを感じる。見ているのは、蓮君だった。
「彼、なんですけど……」
「あ、はい……」
蓮君が少し驚いたように、でも気丈にふるまって、返事をする。
「よかったら今日……預からせてもらえませんか?」
予想外の言葉に、あたしはまばたきをくり返す。
「えっと……」
なぜ、と訊くべきなのだろうか。それとも、訊かないべきなのだろうか。わからなくなる。
「どうですか? お姉さん」
急に言葉が向いて、怯んだように肩を揺らす。
「あ、あたしは、別に……」
「ーーぼく、行きたいです」
全部言い切る前に、蓮君が動いた。
隠れるようにして、日向さんの服をつかむ。
「……明日、ちゃんと送り届けますので」
「……よろしくお願いします」
そう言うしかなかった。
避けられているんだろうか。
ホテルに戻って着がえていると、なんとなくそう思った。
原因、のようなものがあるとすれば、さっきのことだろう。別に、話したくないなら、訊かない。けど、そう伝えそびれてしまった。
そもそも、何がなんでも知りたい、というわけじゃない。たまたま、ふしぎに思ったからだ。けれどああも露骨な態度を取られると、なんとなく、おもしろくない。
さっとシャワーを浴びて寝る準備をしていると、ドアが叩かれた。
「……穂乃香、起きてるか?」
葵さんだ。あたしはすぐにドアを開ける。彼女も風呂上がりなんだろう。髪が少し、濡れていた。
「……よかったら今日は、こっちに泊めてもらえないかと思ってな」
「あ、いい、けど……」
ちょうど蓮君もいない。あたしも一人きりじゃ、淋しいような気がしていた。
「では、じゃまをする」
葵さんを中に入れると、彼女は少し照れたように笑った。
髪をしっかり乾かしてから、あたしたちはベッドに入る。最初は別々だったけど、葵さんの希望で、一緒に寝ることにした。
「一度やってみたかったのだ。友達と、同じベッドで、というやつを」
どうやら今まで、機会がなかったらしい。
「……これも、心残りの一つ?」
「そうだな。嫁いでしまえば、そういうこともないだろうし」
おまえはあるか? と尋ねられて、あたしは記憶をたどる。
「布団ならべて、っていうのはあるけど、さすがに同じベッドで、っていうのは……」
そう思うと、なんだか急に恥ずかしくなってきた。
「そうか。お互い、初めて同士か」
「葵さん、その言い方だとなんかちょっといかがわしく聞こえるような気が……」
「ああ、すまん。うれしいことに変わりはないのだが……うまく表現できない」
葵さんが布団の中に顔を隠す。半分だけ。その様子が、なんだかとてもかわいく見える。
そんなふうに思っていたら、葵さんがこっちを見た。
「……淋しい、か?」
尋ねられて、どきっとする。
「蓮のことだ。何があったか知らんが、おまえたちだったらすぐに元に戻れるだろう」
「そう……かな」
「羨ましいぞ。私も兄弟が欲しかった」
言われて、胸の奥が痛くなる。
あたしたちは、本当の姉弟じゃない。それどころか、お互いに一人っ子だ。
別に、悪いことをしているわけじゃない。本当のことは言えない。自分たちを守るためとはいえ、胸が苦しくなる。
「葵さん――あたし」
口にしてしまいそうになった。でも、
「ん? どうした?」
葵さんの優しい口調やまなざしを見ていたら、我に返る。
「ううん、なんでもない。葵さんは……やっぱり、変わらない? その……気持ちは……」
日向さんへの、ということだ。言わなくても多分、察してくれるだろうと思い、あえて名前は出さなかった。
「――ああ、私は大丈夫だ。おまえたちのおかげで、ずいぶん楽になったよ」
「……そっか」
この後、何がどうなるのかはわからない。でも、あたしが言えることがあるとすれば、それはきっと一つだけだ。
「――幸せに、なってね」
どんな形であれ、あきらめないでほしい。笑っていてほしい。あたしが望み、そして彼女もまた、望んでいることだと思いたい。
「――ああ、おまえも」
あたしたちは、何も言わずに、互いの手に触れる。初めてのことじゃない。なのに少し緊張して、けれど徐々に温かくなっていく。広がっていく。
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