創作BL SS詰め合わせ

とぶまえ

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◆付き合ってない

どうせ我慢出来なくなる

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 えっちしたいなあ。

 友人のパラスと一緒にいる時、僕が考えてるのはそんな煩悩丸出しの事だった。

 僕が今いるのは個人経営の小さなカフェ。ピザが美味しいと聞いて二人で食べに来たのだけれど、今僕らの目の前にあるのはパスタが乗っていた皿だ。店に入ってから急に二人ともピザの気分ではなくなってしまったんだ。テーブルの向こうでパラスは静かに食後のコーヒーを飲んでいる。

 パラスはとても魅力的だ。まず、顔がいい。全てのパーツが理想的な位置に配置された中性的な顔はとても僕好みだ。好みの権化。どんな表情をしていてもかわいい。気持ちよくなった時の顔だってかわいいに決まっている。宝石みたいな緑色の目を潤ませて最高の表情を見せてくれる筈だ。
 次に、髪が綺麗だ。肩ぐらいまで伸ばされたオレンジ色の髪は、触ったことはないけれど見るからにさらさらとしていて手触りが良さそうだ。抱きしめながら撫でたらこの上ない充足感を得られるんじゃないだろうか。きっといい匂いもする。心地良さから離れられなくなるかも知れない。
 そして身体も魅力的だ。細身ながらも程良く筋肉のついた非の打ち所がない身体と、きめ細やかで白い綺麗な肌。肌が白いのはリストカットの跡を隠す為に年がら年中長袖を着ているせいという不健全な理由だけれど、そんな事なんて気にならない。綺麗なものは綺麗だし、僕はリストカットの傷跡自体にも淫靡さを感じている。痛々しいあの傷跡を、一本一本指でなぞり感触を確かめたいと思う程に惹かれている。
 とにかく彼の容姿は僕の理想そのものだった。一晩一緒に過ごしたいと思うのも致し方ない事だろう。極めつけに、僕は彼の内面も好きだった。普段は素直じゃないけれど、素直な時は驚くぐらいに素直で、好き嫌いが分かりやすい。彼は間違いなく僕を「好き」に分類している。それが友情か恋情かはさておき、僕を好んでくれているというその一点だけでも充分すぎる程の美点だ。僕は彼の素直じゃない言動を楽しく受け止められるし、素直な愛情表現をされた時には純粋に嬉しく思う。つまり僕はパラスが何をしていても愛おしかった。

 総合すると、えっちしたいなあと、最初の考えに行き着く訳だ。

 勿論パラスはそんな事なんて知らない。僕だって、いくら頭の中が欲だらけだろうとあからさまに態度に出したりなんかしない。その点については僕はしっかりとした大人なんだ。
 今後もパラスにバレるような事をするつもりはない。パラスに嫌われてしまったら僕は二日は寝込む。立ち直るにはパラスよりもっと魅力的な人に出会うより他にないと思うけれど、僕の理想である彼以上の人なんて想像すら出来なかった。

 パラスとえっちしたい。これは僕の頭の中だけの秘密だ。


◇◇◇


 スラッジが俺を変な目で見ている。

 テーブルの向こう座ったスラッジの月みたいに黄色い目が俺の左の手首あたりに向けられている。さっきからずっと手首を見ている。スラッジは俺がリストカットをしている事を知っている数少ない友人の内の一人だ。そしてその中で唯一俺の心配をせず「わあ凄い。触ってみていい?」と言ってきた男だ。勿論断ったけれど、諦めきれないのかこいつは時折視線で触りたいと訴えかけてくる。
 それとなく右手で左の手首を押さえると、スラッジの視線は俺の顔に移った。じっと、さっきまで布越しの傷跡に向けられていた熱がこちらに向けられる。ぼーっとしたような顔をしている癖に、視線だけは熱心だった。舐め回すと形容するまではいかないけれど近しいものは感じる。スラッジはいつもこうだ。この視線が誰にでも向けられているものでは無いことぐらい俺には分かっていた。

 俺を抱きたいんだろうなと、そう思った。スラッジがそんな事を言ってきた訳ではない。でも俺の中ではもはや確定事項だった。スラッジは俺を性的な目で見ている。
 始まりはいつからだったのか。気付いたら今のような視線を向けられるようになっていた。直接言ってくれば抱かせてやらないこともないけれど、スラッジは頑なに口には出さない。いつものように軽口のついでに言えばいいのに、それをしない。バレバレなのに隠そうとしている。無駄な努力が馬鹿らしい。

 俺にとってスラッジは好みの範疇だった。細い割に柔らかさそうな身体付きをしていて抱き心地が良さそうで、顔が飛び抜けて整っている。普段から自信満々で自分の顔を誇っているだけのことはある。温泉に行った時に見たけれど、下の大きさも丁度いいという言葉がぴったりなサイズだった。性格についてはまあ、鬱陶しいところもあるけれど一緒にいて気が楽という点では好んでいる。抱かれることについて特に不満はなかった。

 あとはまあ、こいつが俺に直接言ってくるかどうかだ。こちらから誘う、なんて選択肢はなかった。気持ちを汲んでやるほど俺は優しくない。そんな視線を向け始めたのはスラッジなのだから、先に動くべきなのはスラッジだ。

 俺はスラッジが黙っている限り、この視線を無視し続ける。
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