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冒険者~修行~

訓練しだい?

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修行2日目の朝、オリビアはフェリーチェの部屋に行く前にアルベルトから呼び出された。
部屋に入るといつもと違う光景があった。
オリビアの視線の先には、ベットに突っ伏しているフェリーチェと、困った顔のアルベルトがいた。

「アルベルト様、フェリーチェ様はどうされたんですか?そろそろ起きなければ、授業に遅れます。フェリーチェ様?」

「……オリビア……動けないの」

「動けない!?具合が悪いのですか?」

「―――い」

「あの、聞こえませよ?」

「腕が痛い」

「え!?直ぐに治癒師を!」

「必要ないよ。ただの筋肉痛だからね」

「……治癒したらダメって、オースティンさんが」

「オースティン様が?」

「うん」

「こういう時、とうしたらいいか分からなくてさ」

「アルベルト様は縁がなさそうですものね。では少しマッサージします」

「お願いします」

「じゃあ僕は着替えてくるから。オリビア、フェリの着替えも手伝ってあげて」

「はい、お任せください」

どうやら昨日の修行で、腕が筋肉痛になっていたようだ。
オリビアのマッサージで、少し痛みが和らいだが着替えを手伝ってもらって朝食に向かった。
一方、アルベルトは部屋で着替えた後にライリーが来たので、事情を説明して先に朝食へ向かった。
先に待っていたクロードとサマンサにも説明すると、苦笑していた。
遅れてフェリーチェも来たので、朝食をとりながら昨日の事を話した。

「さっそく、アレを使ったのね」

「筋肉痛は木剣の素振りが原因だけどね。お母様も『魔物叩き』知ってるの?」

「アレは、初代国王が発案した物だからな。何でも、子どもの遊び道具を作ろうとしたそうだ」

「「遊び道具?」」

「そうなのよ。お祖父様が、仲間のドワーフの方と作っていたら、‘どうせなら、遊びながら鍛えよう’って獣人の方が言って、‘ついでに判断力も鍛えましょう’ってエルフの方が言って、だんだんあの形になったそうよ」


「それから、完成した後に仲間の魔術師が‘もっと面白くしてやろう’と言って、誰にも知られずに細工したらしい」

「わたしたちも、幼い頃にやってたわ。最初は純粋に楽しかったの……あの時までは」

「あぁ、レベル11からだろう?私は何度目かで、魔法で壊しかけたぞ」

「そうなのよ!あれからムキになって、楽しいと言うより‘負けてたまるか!’って気持ちだったわね」

「分かる……分かるよ!お母様!」

「私はまだレベル2だからな~」

話が盛り上がったが、そろそろ授業の時間なのでフェリーチェとアルベルトは部屋に向かった。
しばらく待っていると、本日の先生のルイスが入ってきた。

「今日は私が担当です。宜しくお願いします」

「「よろしくお願いします。」」

「一般教養と言っても、2人はある程度できてますからね。何か聞きたい事はありますか?」

「はい!」

ルイスの質問に、元気良くアルベルトが手を上げた。

「どうぞ、アルベルト」

「ゴブリンと子どもの見分け方を教えてよ!」

「……何ですって?」

「ルイスさん私が説明します」

フェリーチェは『魔物叩き』とアルベルトの事を話した。
ルイスは納得したように頷くと、苦笑した。

「アレは確かに意地が悪いですからね」

「そうだよね!実物なら間違うわけないのに!」

「お母様が判断力を鍛えるためって言ってたから、わざと可愛くしてるんですか?」

「違いますよ。最初に作った時は実物と同じ顔にしていたのですけど、子どもたちが泣いて近付かなくて、ああなったんです」

「それで、どうやって見分けるの?」

「自分で気付かないと意味がありませんから、ヒントだけあげます。顔のパーツを注意して見てみなさい」

「分かった!」

「ちょうど良いので、今日は種族の違いと見分け方について教えますね」

それから、ルイスは種族の違いについて教えた。

〔人族〕
寿命・・・平均70歳
魔力・・・初期数値が20~3000位(今までの記録)
主に属性魔法を使う。
現在存在している種族の中で人口が一番多い。

〔獣人〕
寿命・・・平均100歳
魔力・・・初期数値が10~500位(今までの記録)
動物の耳と尻尾があり、種類により特徴が異なる。
主に属性魔法を使い、念話ができる。


〔エルフ〕
寿命・・・平均800歳
魔力・・・初期数値が3000~5000位(今までの記録)
人族より耳が尖って長い。
主に精霊魔法を使う。

〔ドワーフ〕
寿命・・・平均150歳位
魔力・・・50~400位(今までの記録)
身長が成人で平均140㎝~150㎝位で筋肉質。
主に属性魔法を使うが、魔法で戦う事はほとんどしない。

「大まかにこれくらいでしょうかね。正直、フェリーチェの『鑑定』の時に魔力の数値を見て驚きましたよ。昨日、訓練で魔力を増やしてると、クロードから聞きましたが」

「はい、アルに教えてもらいました」

「魔力の低い者に試させましょう」

それから、2人が苦手な貴族としての作法をおさらいして午前の授業は終了になった。
そして午後になり、アルベルトは静かにヤル気をみなぎらせていた。
昨日と同じように準備していると、ブレイクがやって来た。

「今日は俺が担当だ。よろしくな」

「「よろしくお願いします!」」

「では、基礎訓練からだ」

ブレイクに言われてから訓練場を10週して、『魔物叩き』を前にしたアルベルトは不気味に笑いだした。

「フッフッフ……ついにこの時が来た。覚悟するが良い!」

「……何を言ってるんだアルベルトは」

「ははっ……そっとしてあげてください」

フェリーチェは昨日の続きで、レベル2から始めて時折ブレイクにアドバイスされながら、レベル5まで進めた。
一方アルベルトは、


「また子ども!?顔で見分けろってどうやってだよ!何が違うか分かんないよ!」

とか、

「今度はゴブリン!?だいたい何で魔物を可愛くするわけ?実物だったら間違わないよ!」

と言う声が聞こえていた。
結局また、その日にクリアする事はできなかった。
ブスくれるアルベルトに呆れつつも、体術の修行に入った。

「最初は型を覚えてもらう。フェリーチェ、コレを全力で殴ってみろ」

ブレイクがアイテムリングから出したのは、木にマットのようなものを、くくりつけた物だった。
フェリーチェは、言われたように全力で殴る。

――ポスッ

「………全力だよな?」

「…………はい。……き、筋肉痛が!」

「筋肉痛はマッサージで和らいでたでしょ。大丈夫、これからだよ」

「アルベルトの言う通りだ。威力は後でいいから、ますがは型を正確にできるようにしよう」

「はい!」

ブレイクはフェリーチェに基本的な型を教えた。

1…利き手をこぶしに握り、脇の下まで手の甲を下に引き手を取り、突きができる状態に構える。

2…腰を入れながら肘で体を擦るようにして、まっすぐ突く。

拳は突き始めから自然にねじり始め、突ききった時の拳はまっすぐな状態に。
突き切った時に肩が前へ流れていたり、こぶしが曲がったりしてはいけない。

フェリーチェは、ブレイクに言われた事を復唱しながら、何度かゆっくりやってみてからもう一度マットを殴った。

――パンッ

「あっ……できたの?」

「まだ完全じゃないが、最初と音が違うだろ?力が逃げずに伝わっている証拠だ。フェリーチェはこのまま続けてくれ。威力は考えず、体に型を正確に覚えさせるようにな」

「はい!」

「アルベルトはコレでやってみろ」

ブレイクがアルベルトのために出したのは、金属の板だった。

「コレって……ミスリル?」

「正解だ」

ブレイクが満足そうに頷くが、アルベルトは少し焦っていた。

「いやいや!僕は今、A級冒険者並みの力なんだよ!?いくらなんでも、それは無理たから!ブレイクっ、師匠はできるわけ!?」

「何を言ってるんだ?……できるわけないだろ」

「できないんじゃん!だったら僕にやらせないでよ!」

「お前なら……いや、そうだな。ではコレで」

アルベルトの抗議に、ブレイクは次の物を取り出した。

「また金属?……鉄だね」

「鉄なら俺も使っているから大丈夫だろ?」

「まぁ、大丈夫だ……よ?……師匠、何してるの?」

アルベルトの返事を聞いたブレイクは、アイテムリングから5枚の鉄板を取り出し、合計6枚を重ねた。
ちなみに、1枚の厚さは10㎝はある。

「よし、これくらいか?アルベルト、やってみろ」

「……ねぇ、師匠はやる時こうやってるの?」

「俺は……4枚位だな」

アルベルトは口元をヒクヒクさせながら、無言で鉄板の前で構えた。
その後、アルベルトの叫びが木霊し鉄板が無惨に粉々になるが、ブレイクにより鉄板が次々に追加されていき、それは用意した鉄板が無くなるまで続いた。
フェリーチェは、そんな2人を横目に見ながら、黙々と練習していたが、いろんな意味で疲れているアルベルトが、少し可哀想だったので頭を撫でた。

「アル、大丈夫?鉄板を、あんなに粉々にできるなんて、すごいよ!カッコいい!」

「フェリ!」

フェリーチェは、いきなり抱きつかれ勢いに負け後ろに倒れた。

「ありがとうフェリ!フェリも一生懸命で可愛いよ!」

「……………」

アルベルトの言葉に返事がない。

「ん?……フェリ?」

「アルベルト……気絶してるぞ」

「え!?」

ブレイクに言われて、慌ててフェリーチェを見ると、確かに目を回していた。

「倒れた時に頭を打ったみたいだな」

「フェリ!?」

更に慌てて、フェリーチェを抱き起こそうとするアルベルトを止めて、ブレイクが状態を確認すると大丈夫そうだったので、アルベルトが部屋に運んでその日の修行は終わりになった。

「次はミスリルでも大丈夫そうだな」

という、ブレイクの呟きを最後に。



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