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早春の日
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この病院では、洗濯は各々、いくつかある洗濯機を回す。洗濯場には物干しがあるが、天気の良い日は中庭に出てそこの物干しに皆で干すのだ。今日も良い天気で、多目的室の窓から差し込む朝の日の光は眩しい。朝食の後の朝ドラの放送が終わると、テレビを切って看護師さんが声をかけた。
「今日は天気が良いから外で洗濯物を干すよ。」
その声に皆が頷く。しばらくすると、洗濯場の中庭に続く扉の前に皆が集まった。せーの、で扉が開かれると、外の景色が広がった。外の空気に触れると、季節を感じる。いつの間にか、どこか空気が暖かい。目に留まる木々も、芽吹きのようなものが見られる。めぼしい物干しのスペースを見つけて、私も自分の洗濯物を干す。
「あなたが来てから、もう季節が経ったのね。」
ある看護師さんが声をかけ、振り向き頷く。ここに入ったばかりの時は、冬の凍てつく寒さの時期。入ったばかりの時は、全てが冷え切っていた。
入ったばかりの時、トイレのドアを開けたら鍵をかけていない人が用を足していた。困惑と嫌悪感を覚え、慌てて閉じる。別の個室には行ったら、誰かが済ませた後の水を流していなかった。(閉鎖病棟では時々トイレの水の流し忘れに出くわす。)本当に泣きたくなった。ようやく落ち着いて便座に座ると、冬の寒さで便座が冷え切っていた。タイルも寒々として、足下が冷えた。泣きべそをかきながら手を洗った。洗面台の鏡に映る情けない自分の顔を見て、死んでしまいたい、とあの時は思った。
あれから2ヶ月ばかりが過ぎたのだ。
「もう、春が間近だね。」
知らず、そんな会話を交す。春の空気が優しくて、私は思わず目を細める。
「あの時から大分落ち着いたようで、良かったよ。」
看護師さんの苦笑いに、思わず相手を見る。入ったばかりの時は季節の寒さだけでは無く、出会う全ての人が敵のように思えて、かなり私も冷え切って尖っていた。今、私の周りの人は(もちろん付き合いきれない人も居るが)、どこか温かく、そして、どこか物悲しい。そう思える。
「春が本格的に来たら、ここを出るのかな。」
看護師さんとそんな会話を交す。凍てつく寒さが和らぐと同時に、いつの間にか私の心も和らいでいたみたいだ。
春の訪れと同時に、回復の兆しを感じた。そんな早春のある日だった。
「今日は天気が良いから外で洗濯物を干すよ。」
その声に皆が頷く。しばらくすると、洗濯場の中庭に続く扉の前に皆が集まった。せーの、で扉が開かれると、外の景色が広がった。外の空気に触れると、季節を感じる。いつの間にか、どこか空気が暖かい。目に留まる木々も、芽吹きのようなものが見られる。めぼしい物干しのスペースを見つけて、私も自分の洗濯物を干す。
「あなたが来てから、もう季節が経ったのね。」
ある看護師さんが声をかけ、振り向き頷く。ここに入ったばかりの時は、冬の凍てつく寒さの時期。入ったばかりの時は、全てが冷え切っていた。
入ったばかりの時、トイレのドアを開けたら鍵をかけていない人が用を足していた。困惑と嫌悪感を覚え、慌てて閉じる。別の個室には行ったら、誰かが済ませた後の水を流していなかった。(閉鎖病棟では時々トイレの水の流し忘れに出くわす。)本当に泣きたくなった。ようやく落ち着いて便座に座ると、冬の寒さで便座が冷え切っていた。タイルも寒々として、足下が冷えた。泣きべそをかきながら手を洗った。洗面台の鏡に映る情けない自分の顔を見て、死んでしまいたい、とあの時は思った。
あれから2ヶ月ばかりが過ぎたのだ。
「もう、春が間近だね。」
知らず、そんな会話を交す。春の空気が優しくて、私は思わず目を細める。
「あの時から大分落ち着いたようで、良かったよ。」
看護師さんの苦笑いに、思わず相手を見る。入ったばかりの時は季節の寒さだけでは無く、出会う全ての人が敵のように思えて、かなり私も冷え切って尖っていた。今、私の周りの人は(もちろん付き合いきれない人も居るが)、どこか温かく、そして、どこか物悲しい。そう思える。
「春が本格的に来たら、ここを出るのかな。」
看護師さんとそんな会話を交す。凍てつく寒さが和らぐと同時に、いつの間にか私の心も和らいでいたみたいだ。
春の訪れと同時に、回復の兆しを感じた。そんな早春のある日だった。
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