砂漠の中の白い行列

宇美

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第三章

(二)ぱっちりとした目をし鼻筋が通っている。

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ぱっちりとした目をし鼻筋が通っている。

赤いリボンを結んだ二本の三つ編みを震わせながら、
花びらのような唇を金魚のように動かしていた。

「なまいきゆうんじゃないわよ! さっさとやりなさいよ! 
私、今日はもんのすごくいらいらしてんのよ!」

眉根に青筋をたてている。

目は鋭く光り、
獲物に挑みかかる獣のようだった。

けばけばしい薄汚れた花模様の袖からのぞく、
白い手の指をぴんとのばしている。

指先は小柄で痩せた若者と、
太ったおじさんに突きつけられていた。

爪の先は尖っていて赤く染められていた。

華奢な色白の若者と、
よく肥えたおじさんは、
ごめんよ柳ちゃん、
今やるからさ、
そんなに怒らないでよ、
としきりに謝っている。

帰ろうと思って後ろを向いたところで、
腕に柔らかいものが触れた。

振り返れば、
ぽちゃぽちゃのおじさんだった。

お嬢さんどうしたの? と聞く。

恥ずかしさで顔がほてる思いと恐ろしさで血の気が引く思いの両方が胸のなかで拮抗した。

おじさんは、
わかった、
おじさんのファンなんだろう、
と言った。

袖から満月のような腹の布袋が彫刻されたヒスイのかんざしを取り出した。

かんざしを手に持って、
女のようなしなを作りながら、
裏声でさえずりだした。

私は、
ふきだした。

おじさんは、
ひとしきり歌うと、
わかっているよ、
おじさんのファンなんかいるもんか、
君は柳ちゃんに会いにきたんだね、
と寂しげに頭を垂れる。

おじさんは、
おじょうさまあ! おじょうさまあ! とはりあげながら、
張子の虎や龍や積み上げられた衣装箱の隙間を縫うように奥へと入っていった。
さっきの威張っていた女の子が、
にこやかに出て来た。

ほんのり頬を染めていた。

「まあ! 私に会いに来て下さったの? 嬉しい!」


舞台の上で私を魅了した微笑みだった。

ただ、
今では笑顔の下には、
逆立てた眉、
つりあがった目が透けて見えるのだった。

私は体がわななくのを自覚しながら、
よなべして作ったものを差し出した。

縫い物を頼まれた時の余り布を縫い合わせて作った巾着袋だった。

地主のお嬢様の青地のチャイナドレスに赤の花嫁衣裳の端切れで、
薔薇の花と飛び交う蝶をアップリケしてあった。

「なんて綺麗! あなたが作ったの? すばらしいわ! 私に下さるの? ありがとう!」

ハンカチを出して、
もう欲しくも無いサインを形式的にねだる。

「これに私の名前を書けばいいのね?」

先程怒鳴られていた若者が恐る恐る、
すずりと筆を女優に手渡すと、
彼女は自分の滑らかな腕の動きにに陶酔するかのように、
筆を動かした。
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