9 / 40
第1部 鬼人の王国《紅蓮》
6 : おい、婚約者!(エンヤルト)
しおりを挟む「……解せない」
エンヤルト王子は唇を尖らせぼやく。
クロエと婚約して二年。
あの手この手で距離をつめようと試みるが、毎回クロエを怒らせている。自分が原因で怒らせてはいるけれど、少し怒りすぎなのではないか?
『怒ってばかりいると髪が白くなるぞ?』
『乙女に失礼な! フンッ』
案じてやれば、またもや叱られた。
……とはいえ、怒ったクロエを見たくてついついやり過ぎのところは反省している。白い頰に赤味がさしてこれがまた可愛いわ綺麗だわ。婚約者の特権ではないかとエンヤルトは思っている。
「あいつらに対する態度と、俺への態度が違いすぎるのはなんでだ……」
椅子に座ったまま窓から外を見下ろせば、エンヤルトの部屋の真下にあるテラスで少年少女が和やかに勉強に勤しんでいる。
イズナル、アクラン、クロエだ。
「仲良しじゃねぇかよっ、チッ」
つい舌打ちまで出ても仕方あるまい。
ハチス邸のクロエの寝室に転移の陣をつないだのは婚約して二カ月のころだ。あまりに頻繁に出かけるエンヤルトに国王である父は知恵を授けてくれたのだ。
『転移の呪文は使えるな? クロエ嬢の部屋とお前の部屋とを転移呪文でつなげたらよい。城を空けずに好きな時に会いに行けるぞ。俺もお前の母の部屋につなげたもんだぞ』
好きな時に? それはエンヤルトには鬼神のお告げに聞こえた。早速ハチス公爵に転移陣の設置を承諾させ、さっさと魔力を行使して完成させた時は天才だと自分を褒めたぐらいだ。
寝室にしたのは、寝起きの顔や寝顔を見れるかも……とちょっとした男の願いからであり、不埒なことを企んだつもりはない。そろそろだとは思うがまだ十歳のエンヤルトは未精通であり、八歳の当時はもっと無理だ。断じて疚しい目的ではない。
偶然に着替えが見れるかも……と考えたが、婚約者なのだ。少しぐらい許されるべきではないか?
──が、クロエの猛反発を受け、渋々と移設した。衣装部屋にしたのはせめてもの嫌がらせであって、しつこいようだが不埒な意味はない……はずだ。
「クロエ嬢、この場合の魔力操作はこちらの術式の方が効率がよいのでは?」
「そうですわね。でも効果はどうかしら」
「クロエ様、ここわからん!」
「あら、これと考えかたは同じですわよ」
聞こえてくる楽しげな声にムッとする。
イズナルとアクランは、クロエの逆鱗に触れて以降、どうも距離を縮めているように思えてならない。
「……転移陣を俺とクロエ専用に手を加えて正解だったな」
勝手に使用出来ないように改良した転移陣は、エンヤルトとクロエ専用だ。つまり、いつでも好きな時にクロエも会いに来れる代物だ。残念ながら使用されてはいない。
ハチス公爵にバレてハチス邸の玄関の内側に移設させられたのは不満だ。角と牙を剥いたハチス公爵に、言っても無駄だと衣装部屋の転移陣を黙認していたクロエまで叱られたのには、ざまぁみろバ~カと溜飲が下がったものだ。
「なんだかものすごくムカつく」
どうしてくれようか?
早く終わらせれば参加できると知りながら、執務そっちのけで婚約者包囲網の効果的な呪文構築へと意識を向けてしまうのだった。
0
あなたにおすすめの小説
悪役令嬢の心変わり
ナナスケ
恋愛
不慮の事故によって20代で命を落としてしまった雨月 夕は乙女ゲーム[聖女の涙]の悪役令嬢に転生してしまっていた。
7歳の誕生日10日前に前世の記憶を取り戻した夕は悪役令嬢、ダリア・クロウリーとして最悪の結末 処刑エンドを回避すべく手始めに婚約者の第2王子との婚約を破棄。
そして、処刑エンドに繋がりそうなルートを回避すべく奮闘する勘違いラブロマンス!
カッコイイ系主人公が男社会と自分に仇なす者たちを斬るっ!
国一番の美少女だけど、婚約者は“嫌われ者のブサイク王子”でした
玖坂
ファンタジー
気がつけば、乙女ゲームの“悪役令嬢”ポジションに転生してました。
しかも婚約者は、誰もがドン引きする“ブサイクで嫌われ者の王子様”
だけど――あれ?
この王子、見た目はともかく中身は、想像以上に優しすぎる……!?
国一番の美少女に転生した令嬢と、誰にも愛されなかった王子が、少しずつ成長していく物語。
転生した子供部屋悪役令嬢は、悠々快適溺愛ライフを満喫したい!
木風
恋愛
婚約者に裏切られ、成金伯爵令嬢の仕掛けに嵌められた私は、あっけなく「悪役令嬢」として婚約を破棄された。
胸に広がるのは、悔しさと戸惑いと、まるで物語の中に迷い込んだような不思議な感覚。
けれど、この身に宿るのは、かつて過労に倒れた29歳の女医の記憶。
勉強も社交も面倒で、ただ静かに部屋に籠もっていたかったのに……
『神に愛された強運チート』という名の不思議な加護が、私を思いもよらぬ未来へと連れ出していく。
子供部屋の安らぎを夢見たはずが、待っていたのは次期国王……王太子殿下のまなざし。
逃れられない運命と、抗いようのない溺愛に、私の物語は静かに色を変えていく。
時に笑い、時に泣き、時に振り回されながらも、私は今日を生きている。
これは、婚約破棄から始まる、転生令嬢のちぐはぐで胸の騒がしい物語。
※本作は「小説家になろう」「アルファポリス」にて同時掲載しております。
表紙イラストは、Wednesday (Xアカウント:@wednesday1029)さんに描いていただきました。
※イラストは描き下ろし作品です。無断転載・無断使用・AI学習等は一切禁止しております。
©︎子供部屋悪役令嬢 / 木風 Wednesday
目覚めたら大好きなアニメの悪役令嬢でしたが、嫌われないようにしただけなのに全員から溺愛されています
月影みるく
恋愛
目を覚ましたら、大好きだったアニメの世界。
しかも私は、未来で断罪される運命の悪役令嬢になっていた。
破滅を回避するために決めたことはただ一つ――
嫌われないように生きること。
原作知識を頼りに穏やかに過ごしていたはずなのに、
なぜか王族や騎士、同年代の男女から次々と好意を向けられ、
気づけば全員から溺愛される状況に……?
世界に一人しかいない光属性を持つ悪役令嬢が、
無自覚のまま運命と恋を変えていく、
溺愛必至の異世界転生ラブファンタジー。
悪役令嬢の逆襲
すけさん
恋愛
断罪される1年前に前世の記憶が甦る!
前世は三十代の子持ちのおばちゃんだった。
素行は悪かった悪役令嬢は、急におばちゃんチックな思想が芽生え恋に友情に新たな一面を見せ始めた事で、断罪を回避するべく奮闘する!
バッドエンド予定の悪役令嬢が溺愛ルートを選んでみたら、お兄様に愛されすぎて脇役から主役になりました
美咲アリス
恋愛
目が覚めたら公爵令嬢だった!?貴族に生まれ変わったのはいいけれど、美形兄に殺されるバッドエンドの悪役令嬢なんて絶対困る!!死にたくないなら冷酷非道な兄のヴィクトルと仲良くしなきゃいけないのにヴィクトルは氷のように冷たい男で⋯⋯。「どうしたらいいの?」果たして私の運命は?
婚約破棄された悪役令嬢の心の声が面白かったので求婚してみた
夕景あき
恋愛
人の心の声が聞こえるカイルは、孤独の闇に閉じこもっていた。唯一の救いは、心の声まで真摯で温かい異母兄、第一王子の存在だけだった。
そんなカイルが、外交(婚約者探し)という名目で三国交流会へ向かうと、目の前で隣国の第二王子による公開婚約破棄が発生する。
婚約破棄された令嬢グレースは、表情一つ変えない高潔な令嬢。しかし、カイルがその心の声を聞き取ると、思いも寄らない内容が聞こえてきたのだった。
【完結】アラサー喪女が転生したら悪役令嬢だった件。断罪からはじまる悪役令嬢は、回避不能なヤンデレ様に溺愛を確約されても困ります!
美杉日和。(旧美杉。)
恋愛
『ルド様……あなたが愛した人は私ですか? それともこの体のアーシエなのですか?』
そんな風に簡単に聞くことが出来たら、どれだけ良かっただろう。
目が覚めた瞬間、私は今置かれた現状に絶望した。
なにせ牢屋に繋がれた金髪縦ロールの令嬢になっていたのだから。
元々は社畜で喪女。挙句にオタクで、恋をすることもないままの死亡エンドだったようで、この世界に転生をしてきてしあったらしい。
ただまったく転生前のこの令嬢の記憶がなく、ただ状況から断罪シーンと私は推測した。
いきなり生き返って死亡エンドはないでしょう。さすがにこれは神様恨みますとばかりに、私はその場で断罪を行おうとする王太子ルドと対峙する。
なんとしても回避したい。そう思い行動をした私は、なぜか回避するどころか王太子であるルドとのヤンデレルートに突入してしまう。
このままヤンデレルートでの死亡エンドなんて絶対に嫌だ。なんとしても、ヤンデレルートを溺愛ルートへ移行させようと模索する。
悪役令嬢は誰なのか。私は誰なのか。
ルドの溺愛が加速するごとに、彼の愛する人が本当は誰なのかと、だんだん苦しくなっていく――
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる