鬼人の令嬢と王子の、前途多難な日々

猫丸

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第1部 鬼人の王国《紅蓮》

6 : おい、婚約者!(エンヤルト)

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「……解せない」
 エンヤルト王子は唇を尖らせぼやく。

 クロエと婚約して二年。
 あの手この手で距離をつめようと試みるが、毎回クロエを怒らせている。自分が原因で怒らせてはいるけれど、少し怒りすぎなのではないか?
『怒ってばかりいると髪が白くなるぞ?』
『乙女に失礼な! フンッ』
 案じてやれば、またもや叱られた。
 
 ……とはいえ、怒ったクロエを見たくてついついやり過ぎのところは反省している。白い頰に赤味がさしてこれがまた可愛いわ綺麗だわ。婚約者の特権ではないかとエンヤルトは思っている。
 
「あいつらに対する態度と、俺への態度が違いすぎるのはなんでだ……」 
 椅子に座ったまま窓から外を見下ろせば、エンヤルトの部屋の真下にあるテラスで少年少女が和やかに勉強に勤しんでいる。
 イズナル、アクラン、クロエだ。
「仲良しじゃねぇかよっ、チッ」
 つい舌打ちまで出ても仕方あるまい。

 ハチス邸のクロエの寝室に転移の陣をつないだのは婚約して二カ月のころだ。あまりに頻繁に出かけるエンヤルトに国王である父は知恵を授けてくれたのだ。

『転移の呪文は使えるな? クロエ嬢の部屋とお前の部屋とを転移呪文でつなげたらよい。城を空けずに好きな時に会いに行けるぞ。俺もお前の母の部屋につなげたもんだぞ』

 好きな時に? それはエンヤルトには鬼神のお告げに聞こえた。早速ハチス公爵に転移陣の設置を承諾させ、さっさと魔力を行使して完成させた時は天才だと自分を褒めたぐらいだ。
 寝室にしたのは、寝起きの顔や寝顔を見れるかも……とちょっとした男の願いからであり、不埒なことを企んだつもりはない。そろそろだとは思うがまだ十歳のエンヤルトは未精通であり、八歳の当時はもっと無理だ。断じて疚しい目的ではない。
 偶然に着替えが見れるかも……と考えたが、婚約者なのだ。少しぐらい許されるべきではないか?
 ──が、クロエの猛反発を受け、渋々と移設した。衣装部屋にしたのはせめてもの嫌がらせであって、しつこいようだが不埒な意味はない……はずだ。
 
「クロエ嬢、この場合の魔力操作はこちらの術式の方が効率がよいのでは?」 
「そうですわね。でも効果はどうかしら」
「クロエ様、ここわからん!」
「あら、これと考えかたは同じですわよ」

 聞こえてくる楽しげな声にムッとする。
 イズナルとアクランは、クロエの逆鱗に触れて以降、どうも距離を縮めているように思えてならない。

「……転移陣を俺とクロエ専用に手を加えて正解だったな」

 勝手に使用出来ないように改良した転移陣は、エンヤルトとクロエ専用だ。つまり、いつでも好きな時にクロエも会いに来れる代物だ。残念ながら使用されてはいない。  
 ハチス公爵にバレてハチス邸の玄関の内側に移設させられたのは不満だ。角と牙を剥いたハチス公爵に、言っても無駄だと衣装部屋の転移陣を黙認していたクロエまで叱られたのには、ざまぁみろバ~カと溜飲が下がったものだ。

「なんだかものすごくムカつく」

 どうしてくれようか?
 早く終わらせれば参加できると知りながら、執務そっちのけで婚約者包囲網の効果的な呪文構築へと意識を向けてしまうのだった。
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