鬼人の令嬢と王子の、前途多難な日々

猫丸

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第2部 1年生は平和を望む

1 : 入学式は一触即発

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 西に《紅蓮》、東に《蒼嵐》、南に狼人と羽人の小国に囲まれた街──メルバ。人口千人ほどのこの街は『大陸の知恵』と呼ばれ、学園都市として不可侵の条約で護られている。この街では種族間のいかなる争いも禁止されていてる。
 それは、学園でも同じであった。

 講堂の右手に《蒼嵐》、中央に羽人と狼人、左手に《紅蓮》の生徒が座っているが、入学式には不似合いな重苦しい空気に覆われている。
 それもそのはずで、緊張する大陸の二強、東西の鬼人国家の王子が共に新入生としてこの場にいるからだ。

(羽人と狼人の皆さんはお可哀想に……)
 
 彼らの頭上に飛び交う双方の好戦的な睨みあいはさぞ恐ろしいだろう……と、エンヤルトの隣でクロエはそんなことを思う。
 エンヤルトは最前列に座り、いつもと変わらない俺様ぶりで腕を組み、学園長の祝辞を聞き流しているように見えた。
 ちらりと《蒼嵐》勢を盗み見ると、あちらの王子は脚組み、やはり適当に聞き流しているらしい。

(学園長先生……お顔の色が悪いですわ)

 ほうっ、と先行きを案じてため息をもらすと、エンヤルトと目が合った。大丈夫か? そう問いかけてくる目に、平気ですと返す。こういう気遣いは少し気恥ずかしいと思う。

 気恥ずかしいと言えば、着用している制服もそうだ。エンヤルトは白いシャツに濃紺のブレザーとズボン、首から鬼士科の深緑のタイを引っかけている。ちなみにシャツのボタンは半分ほどしか止めてない。安定の俺様ぶりで、ふてぶてしく早速着崩している。アクランも似たようなものだ。
 クロエとイズナルのタイは魔鬼士科の紫色だ。女生徒の制服は二種類あり、鬼士科の女生徒はキュロットタイプの着用が目立つが、クロエは踝より少し短めのスカートを選んでいた。ドレスで慣れているせいか、脚を晒すのは苦手なのだ。
 生徒の中には自前の服やドレスなどを着用している令息令嬢も多い。基本的に制服着用は義務ではないからだ。ただし、科がわかるように彼らは校章を着ける。普通科ならば薄黄色のタイか校章となる。

(──あら、紫色?)
 《蒼嵐》の王子のタイは薄黄色ではなく紫色だ。もしかしたらシロエが伝えてくれたのかもしれない、そう考える。

 入学前にもう一度、エンヤルトの勧めもあってシロエへメッセージを送っていた。
『ヒロインとの接点を減らすため、《紅蓮》は誰も普通科へは進まない』と。

(でも思いすぎかしら? 側近のお二人は普通科のようですし、ご事情でもあるの? シロエと逢えたらすっきりするのに…) 
 
 トンッとエンヤルトが腕をぶつけてきた。
 小声で、
「何でかわからんが奴も魔鬼士科のようだ。気をつけろよ」
 顎でと示された。
「もっともクラスは別になるんじゃないか? 俺の婚約者と敵対国の王子をまさか同じクラスにしないだろうよ」 
 
 その後、配られたクラス表を目にして、クロエたちは目を瞠った。
「……クロエとあいつが一緒で、イズナルは隣の組だと?」
 ゆらゆら怒りの気を揺らめかせるエンヤルトに、
「同じ校舎ですもの、何かあればエンヤ様にすぐ相談いたしますわ」
 とっさに宥めるクロエに、「共同授業もかなりありますから」とイズナルまでもが同調して、二人がかりで宥めにかかっていると、アクランが突然身構えた。

 《蒼嵐》のリュウル・カズラ侯爵嫡男と
ハガレス・ドレル公爵三男に護られるように、王太子ジンセル・ソウランがまっすぐ、エンヤルトを目指して歩いてくるところだった。

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