鬼人の令嬢と王子の、前途多難な日々

猫丸

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第2部 1年生は平和を望む

3 : 王子×2+悪役令嬢=災難?

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 入学して早いもので二カ月が経過し、新入生たちも環境の変化に慣れて来て、学園は穏やかで平和な学び舎に戻っている──はずだった。
 そう、だった。

 食堂の高位貴族用エリアには、《紅蓮》の四人、《蒼嵐》の三人、そして狼人族の王女キルカナを含めた八名が座るために四人用、二人用、四人用のテーブルが並んでいる。
 不仲なら離れて座ればいいものを、王子たちが必ず近くに陣取り、どちらにクロエが座るかで口論になるためだった。
 他の生徒たちの安らぎのためにと学園側が苦肉の策でわざわざ配置をしたというが、学園側の配慮で置かれたその二人用テーブルが、このところの災いのタネとなっている。
 クロエたちが王子たちと共に食堂へ来ていれば遠巻きに羨望の眼差しで見つめてくるに留まるが、遅れてきた場合は別だ。普通科の生徒たちが王子たちへ接近できる貴重な機会とばかりに、主に野心満々な肉食令嬢たちが隙を狙いあう熾烈な戦場と化す。

「始まってますわね、今日も」
「ハァ……アタシはあそこで食べるのは本当に勘弁して欲しいんだけど?」
 クロエと狼人族の王女キルカナは今まさに、豪奢なドレスの令嬢ともう少し控え目な令嬢がその二人用テーブルに近づいて行くのを目にし、盛大にうんざりしていた。
 
 派手な方は《紅蓮》のマカレ侯爵令嬢エギナ、もう一人は《蒼嵐》の、ハガレスの従妹ドルカス伯爵令嬢オルガ。
 日頃は敵対関係らしいが昼休みだけはなにやら協力しあう肉食令嬢中最強の二人組である。この二人はとにかく凄まじい。キンキンと高い声で『わたくし理論』を振りかざしては元祖俺様を激怒させ、穏やかそうな外面と裏腹に実は腹黒なジンセル王子の嫌味を炸裂させるので、クロエたちはこっそり喧騒製造令嬢と呼んでいるぐらいだ。

「……苦手なタイプなんだけどさぁ、あそこに座ろうとする意欲は褒めてやりたいよ」
「…………そうですわね」
 逃げちゃう? 逃げましょう! 頷きあって進路を変えかけた思いも虚しく、
「クロエ、早く座れ!」
「キルカナ嬢、どうぞ?」
 王子たちから逃がすまいと容赦なく席を勧められ、気まずさにクロエたちは顔を見合わせた。
(ああ、わたくしが集中砲火を浴びるパターンよね、いつも通り……)
 すでに痛いほど嫉妬の視線が刺さっている。

「あら、ではございませんわよ? ここのエリアは高位貴族なら座って構わないのではなくって、クロエ様?」
「いくら婚約者とは言えお昼まで王子様をなことは《紅蓮》ではなさりませんわよね、クロエ様?」 
 案の定、エギナとオルガの二令嬢は恨みをクロエにのみぶつけ始めた。いつも通り。
「悪いがそこは俺が婚約者のためにと空けておいた席だ」 
 令嬢らを一瞥もしないでエンヤルトは自分のトレイをその席へ置いた。これも、いつも通り。
「こちらも、私の学友のための席なので遠慮いただきたいね、オルガ嬢」
 ジンセル王子も同じように自分のトレイで席を塞ぐ。もちろんいつも通り。

「クロエ様ッ、こんなことが許されるとお思いですの!」
「そうですわ、いい加減になさって!」

 キーン、キィーンッと響く声に、食堂内のほとんどが「いい加減にするのはそっちだ!」と実は思っていて、言いがかりをつけられるクロエへの同情も多かったりする。
 どうぞお好きにしてくださいな。そう言えたらどれほどすっきりすることか。その後のエンヤルトの激怒なんて慣れてしまえばダメージもないけれど、言われ放題はハチス公爵家の名を落とす。かといって同じレベルで口論する必要もない。
 幸い今日は晴天でテラスは開放されていて、十名は座れるテーブルもある。
「ねえ、皆さま。今日は天気もよろしいですわ。わたくし実は屋内ではなくあちらのテラスですごしたいと思ってますの」 
 令嬢たちを完璧に無視し、エンヤルトたちを笑顔で誘って、クロエはテラスへと歩き出した。

「なあキルカ、あいつら頭が悪いのか俺を舐めてんのか、どっちだと思う?」
「なんでアタシに訊くんだよ、アンタ…」
「クロエに訊いても両方って答えるからだよっ」
 そんなことをごちゃごちゃ喋っているエンヤルトとキルカナは意気投合したのかそれなりに親しくなっている。

「まあ、エンヤルト様は腐っても王子だからなぁ。あわよくば? 無理だけどさ」
「そうだな、たとえどんなに身形がだらしなくても、わが国の王子ですから狙われても当然ではあります。それにジンセル王子なんて絵に描いた貴公子ぶりですから」
「いやぁ、しかしエギナ嬢は頑張りますね。明らかに嫌われる方向で残念」
「うちのオルガ嬢も迷惑をかけている。すまん」
 アクラン、イズナル、リュウル、ドルカスも敵国ではあるがさすがに毎日顔を合わせているせいか、気安く盛り上がっている。

「クロエ嬢のおかげで助かったよ。彼女らは特に何度言っても聞かないからね」
「クラスメイトのお役にたてて嬉しいですわ」
 やれやれと苦笑するジンセル王子にクロエも笑みを返す。
 結局「せっかく晴れてるしね」と八人全員で移動してしまっただけだ。半ば強引に席を奪う形となった令嬢たちは今さら着いては来れない。
「ねえ、クロエ嬢、彼女らはとってもみたいですね?」
 屋内とテラスを仕切るガラス越しに睨まれていても痛くも痒くもないですわ? と、そんなことを思っていると、ジンセル王子がふいに小声で囁いてきた。

「───悪役令嬢に見えませんか?」

 
 



 




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