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第2部 1年生は平和を望む
9 : ジンセル王子の招待
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※短くてごめんなさい。
ある秋の日。
クロエはジンセル王子のメルバ滞在用の屋敷に来ていた。
「……なんて綺麗なの」
外まで出迎えてくれたジンセル王子に案内をされ、玄関から中へと進んで感嘆に息をのむ。
外観はぞうげ色の邸内は、まるで芸術品のようだった。壁を飾る《蒼嵐》の建築物に多い濃淡様ざまな複雑な柄の青タイルは、天井が高く開放的な空間をまるで空のように思わせる。太い円形の柱に施された彫刻も見事だ。
「ありがとう。国を離れる子供らが故郷を思い泣かぬようにと、先々代の王妃が離宮を模して造らせたのですよ」
褒められたことが嬉しいのか、それとも自宅にいる気易さからか、ジンセル王子は学園にいる時よりも雰囲気が柔らかい。
「石造りか。うちは木造建築が主流だが、こういうのも悪くないな」
「《紅蓮》の樹木をふんだんに使用した建築様式も素晴らしいよ。我々の国はあまり緑豊かではないからね」
「その分、加工のしやすい石や、特殊な鉱石なども豊富だろう。あと金剛石か」
同行してきたエンヤルトも周囲を物珍しげに眺めながら称賛し、ジンセル王子と和やかに会話を楽しんでいるようだ。
(実はわりと気があうのよね、お二人とも)
「今日は招待を受けてくれて嬉しいよ」
「わたくしも光栄ですわ。それと、エンヤルト様も中に入れてくださって感謝いたします、殿下」
心からそう思う。
なぜならば、エンヤルトは招待されていないのだから。
寮生活のクロエはジンセル王子の迎えの馬車でここまで来て、門前にエンヤルトの姿を見つけても驚きもしなかった。想像を裏切らない男──エンヤルトは、ここから離れた《紅蓮》の滞在用の別邸から馬を走らせてきたと言った。まったく悪びれもせずにだ。
「当然の顔をして来られて門前払いもできないからね。仕方ないと諦めた」
「クロエを呼ぶなら俺も呼ぶのは当然だろうが。誰が他の男の家にひとりでノコノコいかせるか」
「エンヤルト様、招かれざる客なのですから偉そうになさらないでくださいませ?」
好意で招き入れてもらっておいて、態度が大きすぎるのではないか。
「絶対に同行すると考えてたから気にしないで」
紳士な王子様ですわ、と寛大な言葉に恐縮する。
そんな会話を交わしながら広い廊下を三人で歩いていく。
応接間の扉を開けたところで、
「クロエ嬢にお願いがあるんだ。叶えてくれる?」
ジンセル王子は指で渡り廊下を示した。
「君にはその渡り廊下から離れの温室に行って、少し時間をつぶして欲しい。ちょうど予定外にエンヤルト殿がいるから、少々内密な話をしたいんだ。すまないね」
素敵な贈り物もあるから──と悪戯っぽい笑みを浮かべてみせられ、クロエは嬉しい予感に目を見開く。
まさか……。
ジンセル王子からの突然の招待、贈り物という言葉。
夏の合宿で確か言っていた。近々メルバへ来ると。
「………シロエ」
唇が、声が震える。
あの子が居るの? やっと逢うことが出来るの? 本当に?
「自分の目で確かめてきなさい」
とジンセル王子に促され、
「行って来い──」
エンヤルトに背を押され。
クロエは淑女のマナーを投げ捨てて渡り廊下へと駆けてゆく。
その背中に、
「相変わらずあいつは走るの速いよな~」
エンヤルトの呆れ声と、ジンセル王子の笑い声が聞こえた。
ある秋の日。
クロエはジンセル王子のメルバ滞在用の屋敷に来ていた。
「……なんて綺麗なの」
外まで出迎えてくれたジンセル王子に案内をされ、玄関から中へと進んで感嘆に息をのむ。
外観はぞうげ色の邸内は、まるで芸術品のようだった。壁を飾る《蒼嵐》の建築物に多い濃淡様ざまな複雑な柄の青タイルは、天井が高く開放的な空間をまるで空のように思わせる。太い円形の柱に施された彫刻も見事だ。
「ありがとう。国を離れる子供らが故郷を思い泣かぬようにと、先々代の王妃が離宮を模して造らせたのですよ」
褒められたことが嬉しいのか、それとも自宅にいる気易さからか、ジンセル王子は学園にいる時よりも雰囲気が柔らかい。
「石造りか。うちは木造建築が主流だが、こういうのも悪くないな」
「《紅蓮》の樹木をふんだんに使用した建築様式も素晴らしいよ。我々の国はあまり緑豊かではないからね」
「その分、加工のしやすい石や、特殊な鉱石なども豊富だろう。あと金剛石か」
同行してきたエンヤルトも周囲を物珍しげに眺めながら称賛し、ジンセル王子と和やかに会話を楽しんでいるようだ。
(実はわりと気があうのよね、お二人とも)
「今日は招待を受けてくれて嬉しいよ」
「わたくしも光栄ですわ。それと、エンヤルト様も中に入れてくださって感謝いたします、殿下」
心からそう思う。
なぜならば、エンヤルトは招待されていないのだから。
寮生活のクロエはジンセル王子の迎えの馬車でここまで来て、門前にエンヤルトの姿を見つけても驚きもしなかった。想像を裏切らない男──エンヤルトは、ここから離れた《紅蓮》の滞在用の別邸から馬を走らせてきたと言った。まったく悪びれもせずにだ。
「当然の顔をして来られて門前払いもできないからね。仕方ないと諦めた」
「クロエを呼ぶなら俺も呼ぶのは当然だろうが。誰が他の男の家にひとりでノコノコいかせるか」
「エンヤルト様、招かれざる客なのですから偉そうになさらないでくださいませ?」
好意で招き入れてもらっておいて、態度が大きすぎるのではないか。
「絶対に同行すると考えてたから気にしないで」
紳士な王子様ですわ、と寛大な言葉に恐縮する。
そんな会話を交わしながら広い廊下を三人で歩いていく。
応接間の扉を開けたところで、
「クロエ嬢にお願いがあるんだ。叶えてくれる?」
ジンセル王子は指で渡り廊下を示した。
「君にはその渡り廊下から離れの温室に行って、少し時間をつぶして欲しい。ちょうど予定外にエンヤルト殿がいるから、少々内密な話をしたいんだ。すまないね」
素敵な贈り物もあるから──と悪戯っぽい笑みを浮かべてみせられ、クロエは嬉しい予感に目を見開く。
まさか……。
ジンセル王子からの突然の招待、贈り物という言葉。
夏の合宿で確か言っていた。近々メルバへ来ると。
「………シロエ」
唇が、声が震える。
あの子が居るの? やっと逢うことが出来るの? 本当に?
「自分の目で確かめてきなさい」
とジンセル王子に促され、
「行って来い──」
エンヤルトに背を押され。
クロエは淑女のマナーを投げ捨てて渡り廊下へと駆けてゆく。
その背中に、
「相変わらずあいつは走るの速いよな~」
エンヤルトの呆れ声と、ジンセル王子の笑い声が聞こえた。
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