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第2部 1年生は平和を望む
12 : 出逢い~シェンルゥ~
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※《蒼嵐》第二王子シェンルゥ視点。
僕について説明しておきましょう。
名前はシェンルゥ。ジンセル兄様の二歳下の弟です。
この《蒼嵐》の国王である鬼人族の父上と、狼人族の戦士だった母上の間に生まれた混血種が僕です。異種族間の婚姻は多く、王族でも認められています。
どうして? 他種族の能力を持つ強い種族の外見をした子供──例えば鬼人と狼人だと、瞬発力や聴力など狼人の特性を備えながら外見は鬼人の子供が生まれるからです。
ただし、稀に他種族の特徴を受け継いでしまう者もいます。僕の場合は尻尾。それも毎日出ているのではなく、月に数日だけ。混血種は馬鹿にされませんが、僕のような者は『なり損ない』と蔑まれますね。もちろん王子である僕も例外ではありません。いいえ、王子であるからこそ陰では排斥を企む者もいるほどです。
「お前の義姉になるかもしれないから、ちゃんと確かめなさい。いいね?」
今日は兄様の婚約者候補の最後のご令嬢と対面する日です。そして、令嬢の性格を見極める責任重大な任務を命じられいるんです。
『シェンルゥが狼人の外見を持っているからと無礼な真似をする女を妻にする気はありません』
今までの候補の令嬢たちが話題の中で愚かにも僕の尻尾をかわいそうと言ったらしく、溺愛してくれる兄様にはよほど許せなかったのでしょう。
今日尻尾が出ていることを確認した兄上は、最後の候補者を呼び、僕を同席させることにされたようです。
淡いピンクのドレスを着たシロエ・カズラ侯爵令嬢は、かわいい女の子です。
今までのご令嬢の中で一番かわいらしく、やさしそうに見えますがどうでしょうね?
「初めまして、シロエ嬢。私は第一王子のジンセル・ソウラン、これは私の弟です」
にこやかに名乗る兄様に続いて、尻尾が見えやすいように立った僕も名乗ります。
「シェンルゥです!」
「───!?」
シロエ嬢は大きな緑の瞳をこれでもかと見開きました。
ポロッと落ちそうだよ……と心配になるほど瞠った瞳で、不躾なほどまじまじと凝視されているのは、何故か僕の顔。
兄様も少しばかり困惑されているようで、横目で僕を見てきます。これは予想外過ぎて戸惑ってしまう。
「お……お姉ちゃん~、シロエ、婚約者になったら死んじゃう~イヤァ~!!」
突然、こぼれ落ちそうな瞳から大粒の涙をボタボタ─ポロポロなんて甘い─と流して、シロエ嬢は走って行ってしまいました。もと来た道とは逆方向へと。
「ちょ、ちょっと君? え、どこ行くの!──シロエ嬢!?」
兄様の声が虚しく響き渡り、状況を飲み込めず僕たちは固まったのです。
「……兄様、僕が探してきます」
「…………頼むよシェン」
珍しく疲れた顔の兄上をこの場に残して僕はシロエ嬢を探しに行くことにしました。
えぐえぐっ。
わあわあ。
号泣というやつでしょうか?
ハーブ園の植え込みの前に蹲り、シロエ嬢は泣いていました。
「お姉ちゃん~、お姉ちゃん~、シロエ悪役令嬢にされちゃうよぉ……、ジンセル王子に殺されちゃうよぉぉ…お姉ちゃん~」
ん? 悪役令嬢? 兄様に殺される?
この子は何を言っているのでしょうか。今日のことぐらいでいちいち処刑なんてしませんよ。
「シェンルゥ王子が今日いるなんてノートに書いてないのにぃ……ヒロイン怖いよぉ……ううっ」
僕!? 僕が居たから泣いてるのか。ノートって何? ヒロインってなんなの!?
地面に小さな水たまりまで作って泣き続ける彼女の隣にそっとしゃがみ込んで、僕は泣きやむのを待つことにしました。
十分ぐらいして泣きやんだので、尻尾で軽く腕を叩いてみました。婚約者でもない令嬢に指で触れるよりはましでしょうからね。
「……尻尾……ふわふわ」
「──ッ!?」
叩いたものが僕の尻尾だと気がついた彼女は、目を丸くした後で嬉しそうに笑って、尻尾を撫でてきた。驚きましたが、大きな反応はまた逃げられる可能性もあってなんとか耐えました。
「………シロエ嬢、ちょっとだけお話してもいいかな?」
「シロエは悪い子じゃありません。シェンルゥ王子さまにもわざとお怪我をさせたわけじゃない……ですぅ……」
またしても謎の発言をされましたね。しかも過去形です。何だろう、この子の言葉は意味不明だけれど無視をしてはいけない気がする。狼人の野生の勘でしょうか。
「……ええっと、そうだろうね。あのね、困ったなどうすればいいのかな」
兄様のように的確に引き出したい言葉を誘導する技は僕にはないし─と悩んだ僕の目に、装いには不似合いな大きなバッグが映った。使い込まれた感じのノートが入って──ノート!?
「シロエ嬢、それはノートだよね!」
「う、うん! お姉ちゃんのノートです!」
「そのノート、中を読ませてくれませんか?」
「…………うん、あ、はい?」
言い直すのはいいことだけど、疑問系はどうしてかな。まあ、いいです。
「兄様が心配しています。戻りましょう」
失礼を承知で逃走防止のために手をつないで笑いかけると、シロエ嬢は交換条件としてこんなことを言いました。
「お話し中に尻尾撫でてもいいなら…」
──と。
僕について説明しておきましょう。
名前はシェンルゥ。ジンセル兄様の二歳下の弟です。
この《蒼嵐》の国王である鬼人族の父上と、狼人族の戦士だった母上の間に生まれた混血種が僕です。異種族間の婚姻は多く、王族でも認められています。
どうして? 他種族の能力を持つ強い種族の外見をした子供──例えば鬼人と狼人だと、瞬発力や聴力など狼人の特性を備えながら外見は鬼人の子供が生まれるからです。
ただし、稀に他種族の特徴を受け継いでしまう者もいます。僕の場合は尻尾。それも毎日出ているのではなく、月に数日だけ。混血種は馬鹿にされませんが、僕のような者は『なり損ない』と蔑まれますね。もちろん王子である僕も例外ではありません。いいえ、王子であるからこそ陰では排斥を企む者もいるほどです。
「お前の義姉になるかもしれないから、ちゃんと確かめなさい。いいね?」
今日は兄様の婚約者候補の最後のご令嬢と対面する日です。そして、令嬢の性格を見極める責任重大な任務を命じられいるんです。
『シェンルゥが狼人の外見を持っているからと無礼な真似をする女を妻にする気はありません』
今までの候補の令嬢たちが話題の中で愚かにも僕の尻尾をかわいそうと言ったらしく、溺愛してくれる兄様にはよほど許せなかったのでしょう。
今日尻尾が出ていることを確認した兄上は、最後の候補者を呼び、僕を同席させることにされたようです。
淡いピンクのドレスを着たシロエ・カズラ侯爵令嬢は、かわいい女の子です。
今までのご令嬢の中で一番かわいらしく、やさしそうに見えますがどうでしょうね?
「初めまして、シロエ嬢。私は第一王子のジンセル・ソウラン、これは私の弟です」
にこやかに名乗る兄様に続いて、尻尾が見えやすいように立った僕も名乗ります。
「シェンルゥです!」
「───!?」
シロエ嬢は大きな緑の瞳をこれでもかと見開きました。
ポロッと落ちそうだよ……と心配になるほど瞠った瞳で、不躾なほどまじまじと凝視されているのは、何故か僕の顔。
兄様も少しばかり困惑されているようで、横目で僕を見てきます。これは予想外過ぎて戸惑ってしまう。
「お……お姉ちゃん~、シロエ、婚約者になったら死んじゃう~イヤァ~!!」
突然、こぼれ落ちそうな瞳から大粒の涙をボタボタ─ポロポロなんて甘い─と流して、シロエ嬢は走って行ってしまいました。もと来た道とは逆方向へと。
「ちょ、ちょっと君? え、どこ行くの!──シロエ嬢!?」
兄様の声が虚しく響き渡り、状況を飲み込めず僕たちは固まったのです。
「……兄様、僕が探してきます」
「…………頼むよシェン」
珍しく疲れた顔の兄上をこの場に残して僕はシロエ嬢を探しに行くことにしました。
えぐえぐっ。
わあわあ。
号泣というやつでしょうか?
ハーブ園の植え込みの前に蹲り、シロエ嬢は泣いていました。
「お姉ちゃん~、お姉ちゃん~、シロエ悪役令嬢にされちゃうよぉ……、ジンセル王子に殺されちゃうよぉぉ…お姉ちゃん~」
ん? 悪役令嬢? 兄様に殺される?
この子は何を言っているのでしょうか。今日のことぐらいでいちいち処刑なんてしませんよ。
「シェンルゥ王子が今日いるなんてノートに書いてないのにぃ……ヒロイン怖いよぉ……ううっ」
僕!? 僕が居たから泣いてるのか。ノートって何? ヒロインってなんなの!?
地面に小さな水たまりまで作って泣き続ける彼女の隣にそっとしゃがみ込んで、僕は泣きやむのを待つことにしました。
十分ぐらいして泣きやんだので、尻尾で軽く腕を叩いてみました。婚約者でもない令嬢に指で触れるよりはましでしょうからね。
「……尻尾……ふわふわ」
「──ッ!?」
叩いたものが僕の尻尾だと気がついた彼女は、目を丸くした後で嬉しそうに笑って、尻尾を撫でてきた。驚きましたが、大きな反応はまた逃げられる可能性もあってなんとか耐えました。
「………シロエ嬢、ちょっとだけお話してもいいかな?」
「シロエは悪い子じゃありません。シェンルゥ王子さまにもわざとお怪我をさせたわけじゃない……ですぅ……」
またしても謎の発言をされましたね。しかも過去形です。何だろう、この子の言葉は意味不明だけれど無視をしてはいけない気がする。狼人の野生の勘でしょうか。
「……ええっと、そうだろうね。あのね、困ったなどうすればいいのかな」
兄様のように的確に引き出したい言葉を誘導する技は僕にはないし─と悩んだ僕の目に、装いには不似合いな大きなバッグが映った。使い込まれた感じのノートが入って──ノート!?
「シロエ嬢、それはノートだよね!」
「う、うん! お姉ちゃんのノートです!」
「そのノート、中を読ませてくれませんか?」
「…………うん、あ、はい?」
言い直すのはいいことだけど、疑問系はどうしてかな。まあ、いいです。
「兄様が心配しています。戻りましょう」
失礼を承知で逃走防止のために手をつないで笑いかけると、シロエ嬢は交換条件としてこんなことを言いました。
「お話し中に尻尾撫でてもいいなら…」
──と。
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