鬼人の令嬢と王子の、前途多難な日々

猫丸

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第2部 1年生は平和を望む

11 : 出逢い~シロエ~

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 シロエ・ハチス改めシロエ・カズラ侯爵令嬢は、七歳になっていた。
 《紅蓮》から《蒼嵐》の母の実家カズラ侯爵家へと養女として貰われて来て一年。伯父であり義父となったクオルと義母サミヤ、義兄のリュウルとはすっかり仲良し家族となっている。
 
「お姉ちゃん、シロエは今日もいい子です」
 寝起きの寝ぼけ眼で鏡を覗き込み、にっこりと笑う。この一年、シロエは欠かさずに朝と就寝前に必ず、姉のクロエへの挨拶を続けている。映るのは自分だが、なんとなく姉が「今日も頑張って!」と言ってくれている気がするから、大切な儀式になっている。
 小さなころから賢い姉と違ってシロエはあんまり賢くない。というより、応用力や想定外の問いに対応するのが苦手だ。コンプレックスにならないのはいつもクロエが「シロエは刺繍にお絵かき、それにお菓子作りが得意でしょう。お姉ちゃんの自慢の妹よ!」と陰に日向に褒めて褒めて褒めまくってくれたおかげであり、実際にクロエよりも遥かに上達している。
 それでも、やっぱり頼れる姉の不在は不安だ。御神託への恐怖から泣く夜もある。
 そんなシロエのもう一つの習慣が、姉が持たせてくれたノートを毎日読み返すことである。一番最初に目を通すのは、未来のシロエのページだ。

「丈の短いドレス、…着ない。髪の毛は縦ロール、…してません。女の子に嫌われてる、…お友だちいます。男の子にベタベタする、…リュウルお兄さまと手をつなぐのは大丈夫? 男の人とお部屋で二人っきりになる? リュウルお兄さまはよく本をお部屋で読んでくださるけど。……うん、お兄さまだから平気ね!」

 こんなふうに日々、今の自分と未来の自分の違いを確認をする。それから、年齢毎の出来事を読むのだ。何度も何度も読み返すため、既にボロボロになってしまったノートはシロエの宝物である。

 突然離縁して戻ってきたフヨナの精神状態が不安定で、持て余した兄のクオル・カズラにより祖父母の住む別邸で母子は暮らす。娘を苦しめたクランド・ハチスに嫌悪感のある祖父母に疎まれ母の愛も得られず、シロエは《紅蓮》で幸せに暮らしているだろう姉への憎しみを募らせていく。奔放で反抗的なシロエを従兄弟のリュウルは形だけ養女に入った義妹シロエを汚らわしい売女と嫌う──それがゲームのシロエである。

(お姉ちゃんと違ってシロエはあんまり賢くないから、できることからするの!)

 もともとシロエは淡い色のかわいらしい服装が好きだけれど、カズラ侯爵家に来てからはそこにやさしい見た目というテーマを意識するようにしていた。
 悪役令嬢にようなやさしい女の子を目指して、ゲームのシロエみたいに胸や脚を見せつける格好をしたりとかはしない。
 義兄のリュウルとも内心ビクビクしつつも纏わりついて仲良くなった。祖父の我が侭で一人でこの国で健気に頑張るシロエは、今やカズラ公爵家の家人の人気者になっている。

 そんなシロエは、義父と義兄に連れられて《蒼嵐》の城へと来ていた。

 淡いピンクのドレスを着せられ、ふわふわの淡い若草色の髪を愛らしくリボンで結んだふわふわほわほわな可憐な美少女姿に、義母が用意してくれた大きなバッグが少しばかり不似合いなのはわかっている。
 でも、これは絶対に必要なの! と、シロエは敢えて駄々をこねた。
(ノートがないと怖いもの!)
 姉の身代わりとして、どうしても持参したかったのだ。
 ──なぜなら。
 今日はジンセル王子との顔合わせの日だからだ。

 侍女のルカに大絶賛されて、鏡に映ったやさしげな美少女にうんうん頷いてしまったぐらい、意地悪な印象はどこにも無い。

(嫌われないようにいい子にしなきゃ)

 そんなことをぼんやり考えながら待っていると侍女長が現れて、シロエだけが王子の待つ庭園に向かうのだと言った。
「リュウルお兄さまは? お義父さまは?」
 馴染んだ二人がいるから安心しきっていたシロエにカタカタと震えが走る。
「大丈夫だよ。殿下はお厳しいけれどお優しいかただからね」
 背を押して送り出した義兄リュウルの宥言葉は、逆効果であった。

 厳しいのに優しい──その意味が理解できず、パニックになりかける。
 逃げ去りたい衝動のまま、庭園に到着したかと思えば侍女長まで「ごゆっくり」と去って行き、恐怖と混乱は最高潮に達してしまったのだ。
 
「初めまして、シロエ嬢。私は第一王子のジンセル・ソウラン、これは私の弟です」
 深い青の瞳をまっすぐに向けてくるジンセル王子に続いて、
「シェンルゥです!」
 隣に立っていた少年が挨拶をしてきた。
 挨拶を返すことを忘れ、シロエは少年の顔に釘付けになった。

 知ってる! この子、第二王子さまで、シロエのせいで目が見えなくなっちゃう! 
 それでずっとジンセル王子さまはシロエのことを憎むんだった! 
 今日会うなんてノートに書いてなかったよ! 
 会うのは小さいころって……今シロエって小さい!!
 ──助けて、お姉ちゃん!!
 
 プチッと音を立ててシロエが必死にかき集めた勇気が折れた。
「お……お姉ちゃん~、シロエ、婚約者になったら死んじゃう~イヤァ~!!」 
「ちょ、ちょっと君? え、どこ行くの!──シロエ嬢!?」

 ジンセル王子の驚愕の声を置き去りに、シロエは逃走した。





 
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