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第3部 ヒロイン編入
3 : 食堂は戦場なり
しおりを挟むヒロイン─タリ・クレセント嬢とのなんとも言葉にし難い接触はあれども、魔鬼士科と鬼士科に属するクロエたち《紅蓮》勢とジンセル王子はほぼ遭遇することは無い。
シロエとシェンルウの一年生組も、ゲームではシロエが手当たり次第に男子生徒に手を出していたためあちこちに出没していたそうだが、現実のシロエたちにそうそう階の異なる上級生徒と接触する機会はない。必然的に、クレセント嬢とも遭遇しない。
主にかかわってしまうのは普通科の《蒼嵐》側近のリュウルとハガレスだが、彼らは暇があれば一年生の教室へ訪問しているようで教室にはほぼ居ない。
攻略対象と悪役令嬢姉妹にまとめて遭遇できる唯一の場が、憩いの食堂である。
「ちょっと、タリ様!」
マカレ侯爵令嬢エギナの苛立った声が響いた。静かになっていた彼女はこのところまた食堂の静寂を乱している。とはいえ、生徒たちは反感よりも好意的な無視を選択している。
──なぜならば。
「あなたは普通科の生徒でしょう! 何度申し上げたら普通科生徒は右側のテーブルだとご理解いただけますのッ!!」
見事な縦ロールをイライラと弄りながら睨みつけられたタリ・クレセント嬢は、左側の専科生エリアに座って食事をしている。ルール違反である。
「こちらから見える景色が好きなんですぅ……」
「まあ! それならお外で召し上がればよろしくってよ? 早くお退きなさい、専科の皆さまにご迷惑でしてよ!」
マカレ侯爵令嬢エギナはきっちり右側エリアから怒鳴っているのも、生徒たちは律儀だな~と生温く眺めているが、タリ・クレセント嬢へ向けられる眼差しは厳しい。本当は彼らだって左側エリアに行きたいのだ。何しろそこにはキラキラ輝く怖ろしくも麗しい集団が勢ぞろいしているのだから。
「どうして意地悪言うんですか! あの子たちは普通科なのにいいんですか!」
タリ・クレセント嬢があの子たちはと指差したのがシロエと知り、マカレ侯爵令嬢エギナは眉を吊り上げ、
「シロエ様は《蒼嵐》ジンセル殿下の婚約者です! ご一緒のクロス男爵令息シエン様はお側仕えですもの! 招待されていらっしゃるからでしょう!」
ドルカス伯爵令嬢オルガもやはり右側から反論をする。
キンキンと三人のかん高い声が響きわたる。
喧騒をよそにクロエたちが食事を楽しんでいると、
「あの、皆さま!」
制止を振り切ってタリ・クレセント嬢が走り寄ってきた。目に涙をためてエンヤルトら王子へ切なげに喋りだした。
「あたしこちら側から見る景色が、国の風景に似ていて好きなんです。なのにエギナ様たちが意地悪ばかり仰って……。お邪魔しませんから招待していただけませんか?」
お願いします──と両手を胸の前で組んでくるが、
「すでに乱入している現時点で邪魔をしていると気がつかないのですか?」
「マカレ侯爵令嬢はお前のルール違反を指摘しただけだ。我が国の貴族への無礼と見做すぞ?」
当の王子らは冷気漂わせて速攻で却下してのけた。
「そんな冷たいです…、故郷が恋しいだけなんです…くすんっ」
ポロリと零す涙を、
「そんなに恋しいなら帰りなさい。みんな我慢してる。あなただけじゃないです。ねえ、キルカナ」
「アタシに振るなよぉミカルカ! まあ、こっからの景色っていうならお荷物…ゴホン…マカレ侯爵令嬢のいうように外で食べても見れるよ?」
ミカルカとキルカナも拒否。
ようやく手に入れた平穏を何故にわざわざ乱さねばならないのか。一同の気持ちは結束していた。
──すると、いきなりタリ・クレセント嬢は何を思ったのかクロエを睨みつけ、
「酷いですクロエ様!! 食堂は皆の物なのにご自分が王子様方といるためにこんなルールにされたんですよね! あたし聞きました! クロエ様が原因で騒ぎがあってこんな風になったって!! 好きなところに座れないようにするなんて恥ずかしく無いんですか!?」
食ってかかった。
『やめて!』
生徒らの心の叫びを具現化するように、食堂の空気がピシッと凍った。
真の原因となった悪役令嬢改めお荷物令嬢のエギナとオルガ嬢も、アピールしていた令嬢令息も、その他の──一年生を除いた普通科生徒たちが恐怖に。
専科の生徒たちは、能力マニアな彼らの女神クロエを悪し様にされた憤怒に。
そして……
「「──潰す」」
エンヤルトとミカルカから威圧の嵐が吹き荒れる。
(こんな台詞ではなかったような? ああ、食堂のレイアウトが変更されたからかしら? でもやはり悪役令嬢になるのね……)
クロエは表向きは冷静に、
「わかりましたわ。それならばあなたはお好きなところにおかけになればよろしいわ。わたくしは毎日テラスに参ります。結界を張れば雨でも濡れませんし」
トレイを手にし立ち上がった。
「一つだけ申し上げますが、このレイアウトは皆さまの殿下方へのお気持ちでこうなりましたの。邪推は不愉快ですわ」
ニッコリと敢えて微笑んで、クロエは振り返ることなくその場を去った。
トレイを握る指をカタカタと震わせて。
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