鬼人の令嬢と王子の、前途多難な日々

猫丸

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第3部 ヒロイン編入

4 : 動き出す歯車

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※前半エンヤルトで、後半がクロエの側の話。


 用があるため側近たちを馬車で待たせ、遅れて北校舎の玄関を出たエンヤルトの目に、立ち話しをするクロエとジンセルの姿が映った。
 二人は深刻そうに顔を付き合わせ何かを話していた。
 
 何故か近寄ることが出来ず、俺にも聞かせろ─その一言が出せないまま、迎えの馬車に逃げるように飛び乗っていた。
(──くそ女っ!!)
 血が沸騰して頭が爆発しそうだ。
 込み上げる怒りでエンヤルトは拳を馬車の内壁へと打ちつけた。ドゴッと音をたてて壁が陥没する。同乗している側近二人がギョッとした顔で顔を見合わせているが、知ったことじゃない。
 タリ・クレセントをあの場で八つ裂きにしてやりたかった──と、躰を巡る御しがたい殺意を必死に抑え込む。魔力が強いがために感情を心のままに放出すれば馬車など容易に粉砕してしまうだろう。
 角がかなり伸びている自覚もある。
 守ると約束したにもかかわらず、あの娘の妄言を許してしまった口惜しさから、エンヤルトはこの数日クロエとまともに話しをすることが出来なくなっている。

(……ジンセルには相談するのか)

 自分が避けているからだろうとは思う。それでもいつだって自分が真っ先にクロエを支えてきた。なのに、ほんの少し避けただけで用済みなのだろうか。それとも、冷静沈着で品もよく貴公子然としたジンセルの方が頼りになると思ったのかもしれない。食堂での失態から、馬鹿げたことばかり浮かんでは消える。

(こんなことを女々しく悩むな!)

 膝についた両腕で頭を抱えて低い唸りをあげていたエンヤルトは、うじうじと悩む自分を叱咤して顔を上げ、気を落ち着かせるために窓の外に意識を向けた。

(──あれは!?)

 咄嗟に馬車の扉を蹴り開き、
「お前らは来るな!!」 
 疾走する馬車からエンヤルトは飛び降りる。着地の衝撃をものともせず、呆然とする側近らには目もくれず
走り出していた。


◇◇

 一方、エンヤルトがじっと見つめていることも知らず、最愛の妹への伝言をジンセルに頼んでいたクロエはここ数日頭を占めているヒロインへの違和感を口にしていた。
 誰かに語ることで整理したかったので、御神託の内容を把握しているジンセルは適任者だ。

「何処がどうのと明確には語れないのですが、どうもあの方の行動に違和感があるのですわ。意識をしてシナリオに合わせようとされているような」
「彼女の動きが似ていると言うんだね」
「似ているというか…例えば入学式。本当はシロエがわざと彼女にぶつかりに行くのですが、あの子はしなかった。でもジンセル殿下と出逢うためにはならない。エンヤルト様の時も、通り過ぎかけたのを彼女が止めましたよね? あれも、ならないから──と、どうも作為を感じるのです」
「確かに不自然なまでに御神託通りにしようとしている」
 同意に力を得て、クロエは続ける。
「わたくしが気になるのは、では何故彼女はシナリオ通りを目指すのかなのです。もしかしたら、彼女も──ゲームの存在を知っているのかもしれませんわ」
「……無いとは言い切れないね。このことはエンヤルトへは相談したのかな?」
「まだですわ。エンヤルト様はお口が悪いけれどとてもお気遣いなさる方なんですの。もう少しはっきりしてからじゃないと心配をかけてしまいますから」
「……気遣いね」
 特に君には尋常じゃなくなるんだけど─とジンセルが《紅蓮》の王子の報われなさに同情をしているとは、鈍感なクロエはまったく理解していなかった。
「でも彼はクロエ嬢のことになるといつも以上に短気になるから、できるだけ早く相談することを勧めるよ」
「もちろんですわ」
 ついでに話しただけ。考えが纏まったら誰よりも早くエンヤルトへ伝えるつもりだと告げると、ジンセルは納得したようだった。
「でも伝言なんて言わないでうちに来ればいいのに。クロエ嬢なら大歓迎だ」
「ありがとうございます。でも今日はキルカと街へお買い物に参りますの」
「──キルカナ嬢と。それは楽しそうだね」
 あら? 今何やら間があったような。気のせいかしら、と首を傾げていると、
「私も屋敷で待つ二人への土産を買って行きたいな。ご一緒してもいいかな?」
 ジンセルは同行を願ってきた。何故かとてもいい笑顔を浮かべていた。


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