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第3部 ヒロイン編入
閑話 シロエは天然微笑み娘?
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※本編に関係無い昔話です。
※子供のころ。
シロエは花が好きだ。
花びらも素敵だけれど、特にお気に入りなのは花の真ん中。そう、雌蕊や雄蕊があるあの部分だ。さらに言えば、百合とか薔薇ではなく、デイジーのようにギッシリと真ん中が主張しているとなお良い。
何故ならば、触り心地がなんとも形容しがたく好きなのだ。ふわふわとふかふかの中間と言うか何というか。自分が小さくなってそこをベッドにできたらさぞ幸せだろうと常々思っていら。
今、シロエは憧れを体験している。
「旦那様、大変です!! に、庭に妖花が現れ、お、お嬢様──が!!」
カズラ侯爵家のシロエ付きの侍女が顔面蒼白で居間へと飛び込んで来たとき、夫妻は近々催す嫡男リュウルの誕生祝の相談中であり、リュウルはそれに適当な相槌を打っていた。
「「「───ッ!?」」」
侯爵夫人は気を失い、他の侍女が即座に介抱する。父子は血相を変えて庭へと走った。
妖花とは、ただの花ではない。見た目は確かに花だが、サイズが尋常ではないのだ。とにかく巨大。茎の太さが男性並みで、長さは三メートルはあるだろう。そして、動く。さらに、突然どこからともなく湧く──出現する。近くにあるものならなんでも食べる肉食植物だ。
つまり、現在シロエは餌として妖花に捕獲されているということだ。
「「──!!」」
義理とは家最愛の娘であり妹を案じた父子の目の前で、妖花の開かれた花弁がバクンッと窄まった。
「「シロエッ! 今助けるから!!」」
このままだとじわじわ消化されてしまう。カズラ侯爵は渾身の力で妖花の茎を一刀両断し、リュウルは分厚い花びらをむしり取っていく。シロエの姿が見えるまで千切り取ったところで、彼らは目を瞠った。
「zzzzz……ふふ……」
そこには、幸せそうに爆睡しているシロエの姿があった……。
粘着質な消化液でベタベタになりながらも、救出されたシロエはご機嫌だった。お花のベッドは気持ちよかったのよ──と、浴室で丸洗いされながらニコニコ微笑むのだった。
ハガレス少年はシロエを初めて目にした時、なんて可愛らしい少女だろう──そう思った。
まるで鹿の子供のようだとも。
緊張していたシロエのプルプル震える様は、動物好きのハガレスにとって庇護すべき存在に映った。
飼育…いや、世話を焼くようになっていたある日、忘れられない事件は起きた。
義兄リュウルの誕生日プレゼントを購入したいと相談され、ならばとシロエと共に城下に来ていた。もちろん護衛も連れてだ。
「あ、あのお店には兄さまがお好きなものがありそう!」
坂道にさしかかった所で、シロエが通りの反対側の店を指差してきた。
「どこの店だ?」
反射的に指を追い、シロエへと視線を戻した次の瞬間、息を飲んだ。
「きゃあ…」
コロン。
コロン、コロン。
「あ~れ~」
ゴロン、
「きゃあ~」
ゴロンゴロンゴロン。
「──シロエ嬢ッ!?」
ハガレスの隣を歩いていたはずのシロエは、坂道を転がり落ちている最中だった。
「痛ぁぃ~きゃあ~止まらない~~わぁ~い!」
何故か楽しげな叫びをあげながら、短く傾斜の緩い坂を転がる。
(……笑ってる、よな?)
気のせいかと護衛を見れば、彼らも呆然としたままハガレスを見て、「笑ってます…」と言いたげな顔をしていた。
ようやくシロエが止まった。我に返った彼らが慌てて走り寄ると、やはりシロエは笑っている。
「スカートがね~ぶわ~ってなって、ほよんほよんしたの~」
ボリュームのあるドレスのスカートがクッションになったのか、緩やかな坂だったからなのか。大きな怪我もなく、護衛鬼士の回復魔法で擦り傷をすっかり綺麗に消してもらった後。
「楽しかったの~ふふふ~」
目をキラキラさせてシロエは笑ったのだった。
シロエ・カズラ侯爵嬢。
災難も楽しんでしまう天然娘。
これは彼女の伝説の、ささやかなお話の一部である………
※子供のころ。
シロエは花が好きだ。
花びらも素敵だけれど、特にお気に入りなのは花の真ん中。そう、雌蕊や雄蕊があるあの部分だ。さらに言えば、百合とか薔薇ではなく、デイジーのようにギッシリと真ん中が主張しているとなお良い。
何故ならば、触り心地がなんとも形容しがたく好きなのだ。ふわふわとふかふかの中間と言うか何というか。自分が小さくなってそこをベッドにできたらさぞ幸せだろうと常々思っていら。
今、シロエは憧れを体験している。
「旦那様、大変です!! に、庭に妖花が現れ、お、お嬢様──が!!」
カズラ侯爵家のシロエ付きの侍女が顔面蒼白で居間へと飛び込んで来たとき、夫妻は近々催す嫡男リュウルの誕生祝の相談中であり、リュウルはそれに適当な相槌を打っていた。
「「「───ッ!?」」」
侯爵夫人は気を失い、他の侍女が即座に介抱する。父子は血相を変えて庭へと走った。
妖花とは、ただの花ではない。見た目は確かに花だが、サイズが尋常ではないのだ。とにかく巨大。茎の太さが男性並みで、長さは三メートルはあるだろう。そして、動く。さらに、突然どこからともなく湧く──出現する。近くにあるものならなんでも食べる肉食植物だ。
つまり、現在シロエは餌として妖花に捕獲されているということだ。
「「──!!」」
義理とは家最愛の娘であり妹を案じた父子の目の前で、妖花の開かれた花弁がバクンッと窄まった。
「「シロエッ! 今助けるから!!」」
このままだとじわじわ消化されてしまう。カズラ侯爵は渾身の力で妖花の茎を一刀両断し、リュウルは分厚い花びらをむしり取っていく。シロエの姿が見えるまで千切り取ったところで、彼らは目を瞠った。
「zzzzz……ふふ……」
そこには、幸せそうに爆睡しているシロエの姿があった……。
粘着質な消化液でベタベタになりながらも、救出されたシロエはご機嫌だった。お花のベッドは気持ちよかったのよ──と、浴室で丸洗いされながらニコニコ微笑むのだった。
ハガレス少年はシロエを初めて目にした時、なんて可愛らしい少女だろう──そう思った。
まるで鹿の子供のようだとも。
緊張していたシロエのプルプル震える様は、動物好きのハガレスにとって庇護すべき存在に映った。
飼育…いや、世話を焼くようになっていたある日、忘れられない事件は起きた。
義兄リュウルの誕生日プレゼントを購入したいと相談され、ならばとシロエと共に城下に来ていた。もちろん護衛も連れてだ。
「あ、あのお店には兄さまがお好きなものがありそう!」
坂道にさしかかった所で、シロエが通りの反対側の店を指差してきた。
「どこの店だ?」
反射的に指を追い、シロエへと視線を戻した次の瞬間、息を飲んだ。
「きゃあ…」
コロン。
コロン、コロン。
「あ~れ~」
ゴロン、
「きゃあ~」
ゴロンゴロンゴロン。
「──シロエ嬢ッ!?」
ハガレスの隣を歩いていたはずのシロエは、坂道を転がり落ちている最中だった。
「痛ぁぃ~きゃあ~止まらない~~わぁ~い!」
何故か楽しげな叫びをあげながら、短く傾斜の緩い坂を転がる。
(……笑ってる、よな?)
気のせいかと護衛を見れば、彼らも呆然としたままハガレスを見て、「笑ってます…」と言いたげな顔をしていた。
ようやくシロエが止まった。我に返った彼らが慌てて走り寄ると、やはりシロエは笑っている。
「スカートがね~ぶわ~ってなって、ほよんほよんしたの~」
ボリュームのあるドレスのスカートがクッションになったのか、緩やかな坂だったからなのか。大きな怪我もなく、護衛鬼士の回復魔法で擦り傷をすっかり綺麗に消してもらった後。
「楽しかったの~ふふふ~」
目をキラキラさせてシロエは笑ったのだった。
シロエ・カズラ侯爵嬢。
災難も楽しんでしまう天然娘。
これは彼女の伝説の、ささやかなお話の一部である………
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