鬼人の令嬢と王子の、前途多難な日々

猫丸

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第3部 ヒロイン編入

閑話 赤鬼の、鈍感な婚約者

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※エンヤルト視点
※大斎宮⇨大神殿へ(2019/11/11)
※前話で腹枕のつもりで「膝」枕的な表現を誤って書いていました。腹枕です。


 俺、《紅蓮》の王太子──エンヤルト・グレンの婚約者は、鈍感だ。
 
 俺の父、《紅蓮》の国王は歴代の王の中でもっとも強い戦闘力を備える勇猛な方だ。
 その血を色濃く受け継いだ俺は、優れた身体能力に加えて母である王妃からそこそこできの良い頭脳まで与えられ──理不尽なほど幸運に恵まてこの世に生まれてきた。
 物心つくころには同年代で抜きん出て優秀とくれば、面白みも何もない。    
 偽タリ・クレセントあのくそ女の口にした通り、期待され続けて窮屈で退屈な日々を、俺は確かに過ごしていた。
 そんな俺の前に、綺麗な容姿を台無しにするほど残念な令嬢が現れたのは、忘れもしない八歳の時だ。
 俺を王子と知りながら叱責し、暴言を吐く。逃げ足と反応速度が令嬢にはあり得ない、美少女に擬態した謎の生物。面白い──と、始まりは興味だった。
 ──それが何としたことか。
 惚れてしまった。
 真面目なところ。努力家なところ。丁寧口調でありながら俺に吐く言葉は辛辣なところ。とげとげしい態度をするくせに、どこか不安そうに俺を見るところ。素で笑うといつもの澄ました顔がやけに愛らしくなるところ。
 気がつけばどっぷり首まで埋まって抜け出せない。
 機嫌をとりたい。慰めたい。力になりたい。もっと側にいたい。俺だけの唯一になって欲しい──漠然と胸にあった想いをはっきり自覚したのは入学直前。
(……鈍感過ぎる)
 幾ら言葉にしなくたって、あれだけ特別扱いしてるってのに、俺の想いは哀しいかな無敵の鈍感力に惨敗中である。

『婚約解消と転移陣の撤去をお願いしてもよろしいわよね、殿下』 

 さっき、ミシリッと心臓が軋む幻聴まで聞こえた。
 ……わかってる。俺が勝手に決めたことであいつを傷つけたことは、わかってる。とりあえず偽ヒロインクソ女を捕まえた後で罵倒を甘んじるつもりだった。
 ──だからって、婚約解消まで視野に入っていたとは思いもしなかった。
 沸々と怒りが湧いてくる。
 あの鈍感さは最早嫌がらせか?
 わざとか?

 ほっそりした指で髪を梳かれる。
 衝動的にクロエを押し倒してのし掛かった俺の頭は、あいつの腹の上に乗っている。
 呼吸と連動してわずかに上下する柔らかな感触。

(……重力低減してるのも気がついてないんだろうなぁ)

 腹に頭なんて乗せられて、重くないはずはない。こんなことまで気を配るぐらい、俺様王子が特別扱いしてることをいい加減悟って欲しい。
 どさくさに紛れて密着してる俺のいう言葉じゃないけれど、男に抱きつかれて腹枕させられてるんだぞ?
 もうちょい上なら胸枕だぞ?
 そろそろ頼むから俺を見てくれ。

(番にする気満々な雄の獣にごろごろ懐かれて、暢気にすんなよ。俺を意識してくれ──) 

 意識して、俺だけを求めてくれ。
 互いに想い合い、唯一の相手だと魂が求めた時、特別な絆で結ばれる──それが番。
 巷で流布されるお伽話のように出逢った瞬間に悟るわけではない。
 もっと強くて深いもの。

 俺からは先に言葉はやれない。
 という不純物を混ぜてしまうのは不本意なんだ。だから早く俺を見ろよ。我慢して溜め込んだ想いをうんざりするまで伝えるから。
 
 目覚めたら尋問して……
 大神殿にもちろん同行して……
 
 優しい指先に癒されながら、補充出来なかった安らぎをクロエの腹枕で満たしながら、眠りに落ちていく。
 
 
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