2 / 38
ことの始まり
真実の愛は心地好い
しおりを挟む私は王子だ。
ランスロット王国の王を父とし、正妃である王妃を母に持つ。
私の容姿は整っている。
自惚れではない。周囲の、他者から見た客観的な評価だ。
なにしろ、両親の良いところを選りすぐったら私になった、そんな容姿だそうだ。
父からは、黄金の髪、王家の特徴である中心から外側にゆくに連れて金色を帯びる蒼眸を。母からは、社交界随一の咲き誇る薔薇姫と謳われたその顔立ちを受け継いでいるのだから。
この顔が、私は厭わしい。
好ましい、と云う。
美しい、と褒めそやす。
--好きだと、頬を染められる度に、私の内に塵のように積もっていく感情。
勘違いしないで欲しい。私は英邁で名君であらる父を心底尊敬しているし、聡明で公平な母上にも心から敬意と愛情を抱いている。
(--愛でられる人形)
逢った瞬間に向けられる、見目への好意。私を見ているようで見つめているのは彼らにとって心地良い身勝手な理想。
苦しくて。哀しくて。
王太子になるだろう己の、甘ったれた心の弱さが、たまらなく悍ましい。
--それでも、誰か、ただ一人で良いから、気がついてくれるなら。
一年前ににお忍びで出かけた城下で出会った少女、ピュリナ。
何処を散策するべきか思案する姿を迷子と勘違いしたのだろう。身分を隠し領地から出てきたばかりの領主の息子を装う私の手を引き、街を案内してくれた。
彼女と私は、それからも偶然街で会うことがあり、少しずつ彼女を知っていった。
容姿を褒められることは好きではないと告げれば、
「武器だと思えばいいのよ。あなたの本当の良さはあたしがわかってるもの」
裏のない朗らかな笑顔。
「あなたは自分の気持ちを優先しなすぎる。誰かの理想になんてならなくて良いの!」
--本当に?
「うん。だってあなたばかり我慢するなんて、そんなの変よ!」
愛らしく頬を膨らませ、ひとしきり怒った後、可愛らしく笑う。
喜怒哀楽のはっきりした彼女は、紳士淑女たちの貴族の、儀礼的なそれとは全く異なる。
ふんわりとあどけない。
甘くてやさしくて、私を癒して肯定してくれる……ひと。
「あたし、子爵の令嬢なんだって」
そう打ち明けられたのは、彼女から「もう街に自由に来れない」と告げられた日。
子爵の父親が王都の屋敷で働いていた下働きの娘に手を出して孕んだ子。
跡取りが亡くなった子爵家に、唯一の子供として明日引き取られること。
辛かっただろうにそんな生い立ちをものともしない天真爛漫さを持つ少女。
容姿や身分ではなく、私を受け容れてくれる存在。
会えなくなって、ぽっかり胸に空いた喪失感。
侍女たちが良く話している流行りの小説。その中の真実の愛--彼女となら得られるかもしれない、そんなことを考えるようになっていった。
(子爵令嬢なら夜会できっと逢える)
家名は聞き出せなかったが、貴族であるなら必ず。
逢って、彼女が変わってなかったら。その時は想いを伝えたい。
だが、私には七歳の時からの婚約者--ラナエラ嬢がいるのだ--
26
あなたにおすすめの小説
【完結】もう…我慢しなくても良いですよね?
アノマロカリス
ファンタジー
マーテルリア・フローレンス公爵令嬢は、幼い頃から自国の第一王子との婚約が決まっていて幼少の頃から厳しい教育を施されていた。
泣き言は許されず、笑みを浮かべる事も許されず、お茶会にすら参加させて貰えずに常に完璧な淑女を求められて教育をされて来た。
16歳の成人の義を過ぎてから王子との婚約発表の場で、事あろうことか王子は聖女に選ばれたという男爵令嬢を連れて来て私との婚約を破棄して、男爵令嬢と婚約する事を選んだ。
マーテルリアの幼少からの血の滲むような努力は、一瞬で崩壊してしまった。
あぁ、今迄の苦労は一体なんの為に…
もう…我慢しなくても良いですよね?
この物語は、「虐げられる生活を曽祖母の秘術でざまぁして差し上げますわ!」の続編です。
前作の登場人物達も多数登場する予定です。
マーテルリアのイラストを変更致しました。
側妃の条件は「子を産んだら離縁」でしたが、孤独な陛下を癒したら、執着されて離してくれません!
花瀬ゆらぎ
恋愛
「おまえには、国王陛下の側妃になってもらう」
婚約者と親友に裏切られ、傷心の伯爵令嬢イリア。
追い打ちをかけるように父から命じられたのは、若き国王フェイランの側妃になることだった。
しかし、王宮で待っていたのは、「世継ぎを産んだら離縁」という非情な条件。
夫となったフェイランは冷たく、侍女からは蔑まれ、王妃からは「用が済んだら去れ」と突き放される。
けれど、イリアは知ってしまう。 彼が兄の死と誤解に苦しみ、誰よりも孤独の中にいることを──。
「私は、陛下の幸せを願っております。だから……離縁してください」
フェイランを想い、身を引こうとしたイリア。
しかし、無関心だったはずの陛下が、イリアを強く抱きしめて……!?
「離縁する気か? 許さない。私の心を乱しておいて、逃げられると思うな」
凍てついた王の心を溶かしたのは、売られた側妃の純真な愛。
孤独な陛下に執着され、正妃へと昇り詰める逆転ラブロマンス!
※ 以下のタイトルにて、ベリーズカフェでも公開中。
【側妃の条件は「子を産んだら離縁」でしたが、陛下は私を離してくれません】
【完結】好きでもない私とは婚約解消してください
里音
恋愛
騎士団にいる彼はとても一途で誠実な人物だ。初恋で恋人だった幼なじみが家のために他家へ嫁いで行ってもまだ彼女を思い新たな恋人を作ることをしないと有名だ。私も憧れていた1人だった。
そんな彼との婚約が成立した。それは彼の行動で私が傷を負ったからだ。傷は残らないのに責任感からの婚約ではあるが、彼はプロポーズをしてくれた。その瞬間憧れが好きになっていた。
婚約して6ヶ月、接点のほとんどない2人だが少しずつ距離も縮まり幸せな日々を送っていた。と思っていたのに、彼の元恋人が離婚をして帰ってくる話を聞いて彼が私との婚約を「最悪だ」と後悔しているのを聞いてしまった。
復讐のための五つの方法
炭田おと
恋愛
皇后として皇帝カエキリウスのもとに嫁いだイネスは、カエキリウスに愛人ルジェナがいることを知った。皇宮ではルジェナが権威を誇示していて、イネスは肩身が狭い思いをすることになる。
それでも耐えていたイネスだったが、父親に反逆の罪を着せられ、家族も、彼女自身も、処断されることが決まった。
グレゴリウス卿の手を借りて、一人生き残ったイネスは復讐を誓う。
72話で完結です。
【完結】仲の良かったはずの婚約者に一年無視され続け、婚約解消を決意しましたが
ゆらゆらぎ
恋愛
エルヴィラ・ランヴァルドは第二王子アランの幼い頃からの婚約者である。仲睦まじいと評判だったふたりは、今では社交界でも有名な冷えきった仲となっていた。
定例であるはずの茶会もなく、婚約者の義務であるはずのファーストダンスも踊らない
そんな日々が一年と続いたエルヴィラは遂に解消を決意するが──
【完結】愛されていた。手遅れな程に・・・
月白ヤトヒコ
恋愛
婚約してから長年彼女に酷い態度を取り続けていた。
けれどある日、婚約者の魅力に気付いてから、俺は心を入れ替えた。
謝罪をし、婚約者への態度を改めると誓った。そんな俺に婚約者は怒るでもなく、
「ああ……こんな日が来るだなんてっ……」
謝罪を受け入れた後、涙を浮かべて喜んでくれた。
それからは婚約者を溺愛し、順調に交際を重ね――――
昨日、式を挙げた。
なのに・・・妻は昨夜。夫婦の寝室に来なかった。
初夜をすっぽかした妻の許へ向かうと、
「王太子殿下と寝所を共にするだなんておぞましい」
という声が聞こえた。
やはり、妻は婚約者時代のことを許してはいなかったのだと思ったが・・・
「殿下のことを愛していますわ」と言った口で、「殿下と夫婦になるのは無理です」と言う。
なぜだと問い質す俺に、彼女は笑顔で答えてとどめを刺した。
愛されていた。手遅れな程に・・・という、後悔する王太子の話。
シリアス……に見せ掛けて、後半は多分コメディー。
設定はふわっと。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる