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一話「クビ」
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「お母様はあなた様のことを心配して」
「ああウゼェ。お前、クビ」
「!」
それから、今に至るまでとても早かった。
退職金は翌日に振り込まれ、幼少期から仕えていた主人のもとを追い出され、路頭に迷ってしまった。
「あ、あの、安司さま、屋敷に入れていただけませんでしょうか?」
インターホン越しに聞こえたのは安司ではなく、元上司の声だった。
「渡里。君はもうこの屋敷の執事ではないのだ。次の人生を生きなさい」
それきり、インターホンを押しても返事はなく、ひとまずその日は屋敷の近くの公園で夜を明かした。
安司が出かけるタイミングに話しかけるには、この場所が一番だった。
思った通り、彼は正面玄関から車に乗って出てきた。
「お待ちください! 安司様!」
車から、安司が降りてきた。嬉しくて、翠は駆け寄った。
「怒らせてしまい、大変申し訳ございませんでした、どうか、また私を……」
「どけ」
獣人には冥力、人間には法力。
見た目にほとんど差はないが、この二つの種族には明確な違いがあった。
それは、使える力の種類だ。
法力は人間にも通じる力。
冥力は妖にのみ効く力。
安司は法力に関して、人一倍の才を有していた。
彼は手のひらを翠に向け、光の玉を放つ。
「ウゥッ」
白い光球が腹部に直撃し、翠は弾き飛ばされるように木にぶつかり、そのままずるずると地面に崩れ落ちた。
「二度と俺の屋敷に近づくな。顔も見たくない」
鼻水と涙が、止めどなく溢れた。
これほどの仕打ちを受けてもなお、
それでも安司の傍にいたいと願ってしまう自分が、ひどく情けなかった。
去り際、元上司の田中が、車のウィンドウ越しにチラリと何かを見せてきた。そしてソレをすぐに隠し、安司を乗せた車は発信した。
「……?」
しばらく茫然となぜ志願書を見せてきたのか、考える。腹の痛みでそれどころではなかった。
痛みが引いたころ、やっと田中の意図がわかった。
すぐさま携帯で入学金と授業料、学費制度を調べる。
「これだ……!」
痛み、悲しさとは違う涙が、翠の瞳からこぼれた。
<続く>
「ああウゼェ。お前、クビ」
「!」
それから、今に至るまでとても早かった。
退職金は翌日に振り込まれ、幼少期から仕えていた主人のもとを追い出され、路頭に迷ってしまった。
「あ、あの、安司さま、屋敷に入れていただけませんでしょうか?」
インターホン越しに聞こえたのは安司ではなく、元上司の声だった。
「渡里。君はもうこの屋敷の執事ではないのだ。次の人生を生きなさい」
それきり、インターホンを押しても返事はなく、ひとまずその日は屋敷の近くの公園で夜を明かした。
安司が出かけるタイミングに話しかけるには、この場所が一番だった。
思った通り、彼は正面玄関から車に乗って出てきた。
「お待ちください! 安司様!」
車から、安司が降りてきた。嬉しくて、翠は駆け寄った。
「怒らせてしまい、大変申し訳ございませんでした、どうか、また私を……」
「どけ」
獣人には冥力、人間には法力。
見た目にほとんど差はないが、この二つの種族には明確な違いがあった。
それは、使える力の種類だ。
法力は人間にも通じる力。
冥力は妖にのみ効く力。
安司は法力に関して、人一倍の才を有していた。
彼は手のひらを翠に向け、光の玉を放つ。
「ウゥッ」
白い光球が腹部に直撃し、翠は弾き飛ばされるように木にぶつかり、そのままずるずると地面に崩れ落ちた。
「二度と俺の屋敷に近づくな。顔も見たくない」
鼻水と涙が、止めどなく溢れた。
これほどの仕打ちを受けてもなお、
それでも安司の傍にいたいと願ってしまう自分が、ひどく情けなかった。
去り際、元上司の田中が、車のウィンドウ越しにチラリと何かを見せてきた。そしてソレをすぐに隠し、安司を乗せた車は発信した。
「……?」
しばらく茫然となぜ志願書を見せてきたのか、考える。腹の痛みでそれどころではなかった。
痛みが引いたころ、やっと田中の意図がわかった。
すぐさま携帯で入学金と授業料、学費制度を調べる。
「これだ……!」
痛み、悲しさとは違う涙が、翠の瞳からこぼれた。
<続く>
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