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二話「なんでテメーがいるんだよ」
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渡里 翠――祓師育成専門高等校一年生。
そう書かれた真新しい名札を指でなぞり、教室へと向かった。
ガラッと教室の扉を開けると、そこには元主人の八神安司がいた。
安司の反応はわかりやすかった。
一瞬驚いたかと思うと、すぐにギロリと鋭い視線を向けてくる。
翠はさっとその視線から顔をそむけ、窓際の一番後ろの席に腰を下ろした。
ちらりと様子をうかがうと、まだこちらを見ている。
睨みは、さらにきつくなった。
(運が良いのか、悪いのか)
彼と同じクラスになることは、だいたい予想がついていた。
入学式には欠席していた安司だったが、講堂に用意されていた空席には、「八神安司」と書かれた札が置かれていたのだ。
「なんでテメーがいるんだよ」
「……祓師に興味がありましたので」
今にも殴りかかってきそうな勢いの安司だったが、そこへ担任が教室に入ってきた。
簡単な自己紹介が終わったのち、担任は淡々と言った。
「これからバディを決めます。指輪を配るので、それぞれ後ろに回してください。装着したら待機してください」
全員に配られた指輪は赤く、細い指輪だった。
はめてみると、翠の指輪から光があふれ、空中に赤い文字で【法力:10】と表示された。
「黒板に全員の名前を書いてあります。表示された数字を、赤のチョークで書き込んでください。その数値を参考に、今学期のバディを最終決定します」
一人の生徒が手を挙げた。水色のネクタイをつけた、獣人だ。
この学校では、獣人と人間を見た目でわかるよう区別をしている。
紺色のネクタイが人間で、水色が獣人だ。
人間と獣人の見た目に違いはほとんどなく、パッと見わからない。
この学校では、こうしてネクタイの色で獣人かそうでないかを判別していた。
「バディってなんですかー?」
「君たちも知っての通り、この高校では祓師として実践に出て、報酬をもらいながら学んでいきます。祓師は基本的に、獣人一人、人間一人でタッグを組み、妖を退治します。
バディとは、あなたのパートナー。つまり相棒のことです。報酬も二人で一つ。長く行動を共にする相手になります。理解したら、速やかに行動してください」
淡々とした声で、淡々と答える教師だった。
教室がざわつく。
「あいつら、法力やべぇ……」
周囲の指輪の数値を見ると、獣人の法力は1や3が多く、0の者もいた。
人間の法力の数値は20がせいぜいといったところだ。
基本的に、獣人も人間も法力と冥力の両方を持っている。
だが、使える力には偏りがあった。
人間が主に使用できるのは法力。
獣人が主に使用できるのは冥力だ。
そんな中、八神という名字を持つ二人が、そろって【88】という突出した数値を叩き出したのだから、クラスがざわつかないわけがない。
(やっぱり、八神兄弟はすごいな)
二人の実力は知っていたが、数値として並ぶと、自分との差は歴然だった。
翠は思わず感嘆する。
自分の法力の数値は【10】。
少し恥ずかしくなり、黒板に書き込むと、さっと指輪を外して赤い数字を霧散させた。
「次は、銀の指輪を配ります。冥力を測定しますので、表示された数値を法力の隣に書いてください。白のチョークでお願いします」
再び教室を見渡すと、獣人側の冥力は【20】前後が平均のようだった。
人間は【1】や【10】など、ばらつきがある。
やはり冥力に関しては、獣人の方が優位らしい。
そのとき、「わっ」という歓声が上がった。
八神安司の前の席に座る、八神 菖蒲。
彼の指輪が示した数値は【88】だった。
安司は舌打ちする。
彼自身の指輪が示した数値は【10】だ。
面白くなさそうに指輪を外し、不貞腐れた様子でチョークを一本折ってから、黒板に数値を書き込んだ。
皆の視線が八神兄弟に集中する中、翠は自分の名前の横に、法力10、その隣に冥力98と書き加えていた。みんなに驚かれるだろうかと思っていたのだが、教師の体で自分の数値は隠れていたので誰にも知られることはなかった。
「さて、みなさん書けましたね。それではバディを発表します」
大上 翔が手を挙げた。
先ほど「バディってなんですか?」と質問した生徒だ。
翠は彼のことを少し知っている。
八神 菖蒲――安司の双子の弟の従者だからだ。
「もう決めるんですか? 相性とか、そのあたりも大事だと思うんですけど」
「実は占いですでに決まっています。この数値測定は、君たちの納得材料のようなものです。占いを信用しきれない生徒向けに行いました」
「占いなんかで?」
「ええ。占い”なんか”で決めます。占いを批判する人は多い。数値を見れば、バランスの良さが理解できるでしょう。では、相手の顔と名前を覚える準備を」
順に名前が呼ばれていく。
確かに、数値的に見れば、どの組み合わせもバランスが取れている。
法力【20】 冥力【3】の人間に対し、
冥力【3】 冥力【20】の獣人がバディとして呼ばれていた。
つまり、同じレベルの獣人と人間がバディとして選ばれているというわけだ。
(すごいな)
これを占いだけで決めていたというのだから、翠は感心せずにはいられなかった。
(あれ? ちょっと待って)
まだ、安司と翠の名前だけが呼ばれていない。
「八番。八神安司と、渡里 翠」
教師の淡々とした声が、教室に響いた。
前の席に座る安司が、体をひねって振り返る。
眉間には深いしわが刻まれていた。
(ごめんなさい……)
同じクラスになる可能性は覚悟していた。
だが、まさかバディになるとは思っていなかった。
変な汗が翠の背中をしっとりとさせる。
心の中で、元主人に何度も謝り続けた。
そう書かれた真新しい名札を指でなぞり、教室へと向かった。
ガラッと教室の扉を開けると、そこには元主人の八神安司がいた。
安司の反応はわかりやすかった。
一瞬驚いたかと思うと、すぐにギロリと鋭い視線を向けてくる。
翠はさっとその視線から顔をそむけ、窓際の一番後ろの席に腰を下ろした。
ちらりと様子をうかがうと、まだこちらを見ている。
睨みは、さらにきつくなった。
(運が良いのか、悪いのか)
彼と同じクラスになることは、だいたい予想がついていた。
入学式には欠席していた安司だったが、講堂に用意されていた空席には、「八神安司」と書かれた札が置かれていたのだ。
「なんでテメーがいるんだよ」
「……祓師に興味がありましたので」
今にも殴りかかってきそうな勢いの安司だったが、そこへ担任が教室に入ってきた。
簡単な自己紹介が終わったのち、担任は淡々と言った。
「これからバディを決めます。指輪を配るので、それぞれ後ろに回してください。装着したら待機してください」
全員に配られた指輪は赤く、細い指輪だった。
はめてみると、翠の指輪から光があふれ、空中に赤い文字で【法力:10】と表示された。
「黒板に全員の名前を書いてあります。表示された数字を、赤のチョークで書き込んでください。その数値を参考に、今学期のバディを最終決定します」
一人の生徒が手を挙げた。水色のネクタイをつけた、獣人だ。
この学校では、獣人と人間を見た目でわかるよう区別をしている。
紺色のネクタイが人間で、水色が獣人だ。
人間と獣人の見た目に違いはほとんどなく、パッと見わからない。
この学校では、こうしてネクタイの色で獣人かそうでないかを判別していた。
「バディってなんですかー?」
「君たちも知っての通り、この高校では祓師として実践に出て、報酬をもらいながら学んでいきます。祓師は基本的に、獣人一人、人間一人でタッグを組み、妖を退治します。
バディとは、あなたのパートナー。つまり相棒のことです。報酬も二人で一つ。長く行動を共にする相手になります。理解したら、速やかに行動してください」
淡々とした声で、淡々と答える教師だった。
教室がざわつく。
「あいつら、法力やべぇ……」
周囲の指輪の数値を見ると、獣人の法力は1や3が多く、0の者もいた。
人間の法力の数値は20がせいぜいといったところだ。
基本的に、獣人も人間も法力と冥力の両方を持っている。
だが、使える力には偏りがあった。
人間が主に使用できるのは法力。
獣人が主に使用できるのは冥力だ。
そんな中、八神という名字を持つ二人が、そろって【88】という突出した数値を叩き出したのだから、クラスがざわつかないわけがない。
(やっぱり、八神兄弟はすごいな)
二人の実力は知っていたが、数値として並ぶと、自分との差は歴然だった。
翠は思わず感嘆する。
自分の法力の数値は【10】。
少し恥ずかしくなり、黒板に書き込むと、さっと指輪を外して赤い数字を霧散させた。
「次は、銀の指輪を配ります。冥力を測定しますので、表示された数値を法力の隣に書いてください。白のチョークでお願いします」
再び教室を見渡すと、獣人側の冥力は【20】前後が平均のようだった。
人間は【1】や【10】など、ばらつきがある。
やはり冥力に関しては、獣人の方が優位らしい。
そのとき、「わっ」という歓声が上がった。
八神安司の前の席に座る、八神 菖蒲。
彼の指輪が示した数値は【88】だった。
安司は舌打ちする。
彼自身の指輪が示した数値は【10】だ。
面白くなさそうに指輪を外し、不貞腐れた様子でチョークを一本折ってから、黒板に数値を書き込んだ。
皆の視線が八神兄弟に集中する中、翠は自分の名前の横に、法力10、その隣に冥力98と書き加えていた。みんなに驚かれるだろうかと思っていたのだが、教師の体で自分の数値は隠れていたので誰にも知られることはなかった。
「さて、みなさん書けましたね。それではバディを発表します」
大上 翔が手を挙げた。
先ほど「バディってなんですか?」と質問した生徒だ。
翠は彼のことを少し知っている。
八神 菖蒲――安司の双子の弟の従者だからだ。
「もう決めるんですか? 相性とか、そのあたりも大事だと思うんですけど」
「実は占いですでに決まっています。この数値測定は、君たちの納得材料のようなものです。占いを信用しきれない生徒向けに行いました」
「占いなんかで?」
「ええ。占い”なんか”で決めます。占いを批判する人は多い。数値を見れば、バランスの良さが理解できるでしょう。では、相手の顔と名前を覚える準備を」
順に名前が呼ばれていく。
確かに、数値的に見れば、どの組み合わせもバランスが取れている。
法力【20】 冥力【3】の人間に対し、
冥力【3】 冥力【20】の獣人がバディとして呼ばれていた。
つまり、同じレベルの獣人と人間がバディとして選ばれているというわけだ。
(すごいな)
これを占いだけで決めていたというのだから、翠は感心せずにはいられなかった。
(あれ? ちょっと待って)
まだ、安司と翠の名前だけが呼ばれていない。
「八番。八神安司と、渡里 翠」
教師の淡々とした声が、教室に響いた。
前の席に座る安司が、体をひねって振り返る。
眉間には深いしわが刻まれていた。
(ごめんなさい……)
同じクラスになる可能性は覚悟していた。
だが、まさかバディになるとは思っていなかった。
変な汗が翠の背中をしっとりとさせる。
心の中で、元主人に何度も謝り続けた。
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