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あなたはオルゴールを鳴らして -1
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私の旦那さんは、浮気性。
また今夜も遅くにしか帰ってこないのかな……。
でも最初からそうだったわけじゃなくて……いつからだろう、よっちゃんが中学生の時から好きだったって言うアーティストが、亡くなる少し前からだった気がする。
仕事が終わっても帰ってこない。
私はこの街が地元じゃないから、どうしていいかわからなかった。一人で寂しくよっちゃんの帰りを待って、大好きな手芸をして気を紛らわせている。
「わ、すご!また、何か増えてんな!」
よっちゃんが帰って来た。ネクタイを緩めながら、いくつも転がっているあみぐるみを見てそんなことを言う。
「パート先の人から、小学校に出すバザーの品を頼まれちゃって」
「ああ、そうだったのか、茉優は優しいなあ。でも無理すんなよ?」
よっちゃんは優しく頭を撫でてくれる。
兄妹みたい。
多分そうなんだ。
よっちゃんにとって私は”女の人”じゃない。
最初に出会ったのは、高校を卒業して、地元を離れて進学した服飾の専門学校で、その地域の芸術大学の学生さんが手伝いかバイトに来ている中によっちゃんがいた。
時期は確か梅雨が明けて暑くなってきたころだったと思う。
「あの、これニットコースの田中先生に持って行くように言われたんですけど」
廊下で慌てて次の教室に移動している私に、よっちゃんは声を掛けてきた。
「あ、あの今から田中先生の授業なので、私持って行きます!」
黒縁の眼鏡をかけて、痩せてて、前髪が長くて、後ろ髪も少し長くて、赤茶けてて。正直全体的にボサボサしてた。
「ありがとう、でも持って行くのは俺の仕事だから、案内してくれる?」
ニマっと笑った顔がちょっと皮肉っぽくて、でも悪い人じゃない気がした。
「こっちです!」
私はチャイムが鳴り出したので走った。
「おい!こっちはダンボール抱えてんのに」
後ろからよっちゃんの声が聞こえた。また名前も知らなかった頃。
私は遅れて教室に入って、田中先生から睨まれたけど、後から入って来たよっちゃんが、あの学生さんに田中先生の所に案内してほしいとお願いしたので、遅れました、と言ってくれたおかげで、私はお咎めなしで済んだ。
誰か知らないけど、今度会ったらお礼を言わなくちゃ、と思っていたら、よっちゃんに会う日は意外にも早くやって来た。
「あ、おだんごちゃん」
廊下の向こうから歩いてきたのはよっちゃんだった。私はいつも髪をお団子にまとめるのが好きだったから、大体この髪型。呼ばれた時も、そのおかげですぐに自分の事だとわかった。
「あ、お兄さん」
明らかに年上だとわかったから、私はそう呼んだ。あ、髪切ってる。
「こないだはありがとうございました!」
私は頭を下げた。よっちゃんは笑いながら、
「俺の方が助かったよ。職員室にも準備室にも田中先生いなかったから。お礼にジュース奢るよ」
と言って、すぐ側の自販機に歩き出した。
「あの、いいです、私、次の授業行かないと!」
よっちゃんは不機嫌そうな顔をして首を傾げ、
「あっそう。人が礼するって言ってるのに?」
と言った。
「いえ、お礼を頂くようなことはしてませんから。私の方がありがたかったくらいでっ……!」
毛糸だらけの大きな紙袋を持って、私は頭をまた下げた。
「あのさ、こういう時は素直にもらっとくもんだ。誰かから教えてもらわなかった?何がいい?」
ポケットから硬貨を出してよっちゃんは自販機に入れていく。
「……どれが好きなの?俺、君が好きなの知らないんだけど」
「あ、B.B.レモン、です」
よっちゃんの手が自販機のボタンを押した。骨ばっているけれど、無骨じゃなくてスマートな手だなあ。
「はい。じゃ、またな、おだんごちゃん」
「ありがとう、ございます……」
私にジュースを渡して、よっちゃんは廊下をどんどん歩いて行った。
ジュースを奢るって言われて、遠慮したら怒る人なんて初めてだった。
まだつき合う前、いつだったか、ギャルっぽい女の子に後ろから両肩に手を置かれて、
「よーりくん!ここにいたんだ!」
と言われていたのを見た。
「何だよエリ、お前驚くだろうが。やめろよ」
綺麗な子なのにどうしてすげない態度をとるんだろう?顔色一つ変えないなんて、意外とモテる人なのかな。
その頃はもう一年の後期になっていて、紐が緑色の名札ケースを首から下げている人は、大学生の臨時スタッフだということは知っていた。
「誰かこれ手伝って!」
「はい!私やります!」
別の科の作業だったけど、呼びかけられて私は手伝いに行った。
あのお兄さんは”より君”って言うんだ……。
各季節ごとに作品発表会があるけれど、冬は上の学年の卒業制作もあり一番規模が大きい。パンフレットもきちんと作って、メーカーをはじめアパレル関係の会社にも送付する。
それとは別に、学生には当日の学生や教員、スタッフの配置に関する紙が配られた。
終わりの方に”大学生スタッフ”とあり、その下に名前が二十人分ほど並んでいた。
”より”、から始まる名前を探した。苗字では見つからない。
下の名前かな?
当てはまりそうな名前の人は一人しかいなかった。
長束頼和。
お兄さんの名前は多分これだ。何でこんなの探したんだろう。でも何となく嬉しくなった。
十二月の初めの頃。
「茉優、正月実家帰るだろ?」
幼馴染の孝志から電話が掛かった。元々近所で、保育園から高校まで一緒だった。中学生くらいから好きだったけど、高校生の時に孝志がテニス部の子とつき合い始めたことで、私は長年の片思いに終止符を打った。
だから、専門学校は地元にもあったけれど、アパレルの仕事に就くなら、それなりに都会に出ないとダメだから、と親を説得して、孝志から逃げるように私はこの街に出てきた。孝志も大学で県外に出たけれど、私の住んでいる県の隣の県だと知った時は驚いた。
でも、同じ県とか同じ市じゃないから。
殆ど孝志から連絡もなかったし、私はホッとしていた。
なのに正月帰って来るのかとか、親でもないのにこんな電話するなんて。
「うーん、冬の制作発表があるからどうかなー?年明けすぐだから」
「は?初詣どうすんだよ?」
毎年初詣は二人だったり、家族や友達を交えたりしながらも一緒に行っていた。地元の神社や、ちょっと足を延ばした大きな神社にお参りしておみくじを引くのが毎年の恒例。
自分の担当の制作は順調だったけれど、グループ作品が進んでいない。新幹線の距離で帰って、年末年始ゆっくりできる時間があるとは思えなかった。
「あの……彼女ちゃんと行きなよ。まだ付き合ってるんでしょ?」
「……別れた」
「ええ⁈ どうして⁈」
「だって、高校の間だけだって決めてたし、話しててもつまんねーもん」
「何で?好きだったんでしょ??」
長いつき合いだけど、孝志ってこんな人だったっけ?こんなさっぱりした人じゃない。もっと、しつこい人なのに。
「あー、まあ。別に」
言いたくなさそうなのを、無理して訊くものでもないな。きっと二人にしかわからない理由があるんだ。遠距離恋愛は大変だもの。
私が電話を切ろうと切り出そうとすると、
「お前が帰んねぇなら、俺も帰んのやめた。そっち行くから」
「はあ?やめてよ、構う時間なんて無いよ?」
「初詣行くしさ、大晦日から二、三日泊めろよ」
「そんな場所空いてない!」
私のアパートは二部屋あるけど、一つは完全に制作部屋にしている。発表会直前で片付くわけがない。
「ダメ!たっちゃん、私ほんとに忙しい!」
「大人しくしとくし、何なら手伝う」
「毛糸巻くだけじゃダメなの!」
「うっさいなー。とにかく初詣は必ず行くからな」
勝手に電話が切れた。
「たっちゃん!」
どうしてこうなんだろう。いっつも私は孝志の言うことにつき合わされる。
初詣はもちろん、突然日曜日にやって来て今から海に行こうとか山に行こうとか、買い物につき合えとか。田舎は人が少ないから男女で出歩いてたらすぐ見つかる。
彼女が出来てもそういうのにつき合わされてたから、高二から女子テニス部の子たちに睨まれて大変だったんだから。
孝志はそんなのも全然知らないんだろうな……。私が好きだったことも。
次によっちゃんに会ったのは、またいつもの廊下の、自販機の前だった。
私はペットボトルのB.B.レモンにするか、缶のセブンアップにするか、紙パックのイチゴミルクにするか悩んでいた。
「おだんごちゃん」
声がして振り向くとよっちゃんだった。首元が少し伸びたふわふわした黒いニットを着ている。痩せてるからそういう服も男の人なのに似合っていた。
あの頃は心の中でお兄さんからよし君さん、って呼んでたと思う。
「あ、こんにちは」
頭を下げて、また私は自販機に向き直った。
「何飲むの?」
よっちゃんは私の横に並んで立った。横を向くとちょうど彼の顎先が見えた。別にこの人はイケメンでもないのに、横顔がきれいだって思うのはどうしてだろう。
「……悩んでます。もう十分くらい」
隣でよっちゃんが噴き出した。
「全部飲んだらいいじゃん。どれ?どれが飲みたいって?」
怒ったり笑ったり忙しい人だなあ。いつもは無表情なのに。
そう。私はいつの間にかよっちゃんを見つけると目で追っていた。ステージでの演出や映像のスタッフだと知って、その場所に目を向けると大体よっちゃんがいたから。
「今一番はイチゴミルクです。次はセブンアップ。だけど缶だから一気に飲まないといけないから諦めます。いつものB.B.レモンにします」
「じゃあさ、イチゴミルクとB.B.レモン買いなよ。俺もちょうどセブンアップ飲みたいから、それ半分こな」
よっちゃんはさっさとセブンアップを買ってしまった。
「紙コップとか持ってるんですか?」
「そんなわけないだろ?面白いこと言うなあ。はい、買った買った」
押し売りみたいにして、よっちゃんは私を自販機に押しだす。イチゴミルクとB.B.レモンを買った。
「はい。これ飲んで。好きなだけ飲んで余ったらちょうだい」
よっちゃんはプルタブを開けて、セブンアップを渡してくる。
「え?いいです!」
私は必死で固辞した。
「おだんごちゃんは頑固ちゃんだなー」
おだんごちゃんもいい加減恥ずかしい。今日はお団子にしてないよ。
「あの、茉優です。高瀬茉優って言います」
「あ、まゆちゃんって言うんだ。俺は長束頼和」
ながつかよりかず。やっぱりあの時見た名前で合ってたんだ。
私達は中庭に出てベンチに座った。結局私はセブンアップはもらわずにイチゴミルクを飲んだ。
「うわっ!つめてえ!」
真冬にソーダは冷たいと思う。もしかして私が悩んでたから買ってくれたのかな、より君さんは別に飲みたくなかったのかも、と思った。
「長束さんは、大学何年生なんですか?」
「俺?今三年。茉優ちゃんは?」
「一年です」
「だと思った」
そう言ってよっちゃんはクスクスと笑った。
「あのさ、クリスマスイブの日、暇だったら友達とおいで」
一枚のフライヤーを取り出して渡してくれた。お洒落なデザインのそれは、
「クリスマス・パーティー?」
「うん。大学の有志でやるんだ。俺の名前言えばチケ代無しですぐ入れるから」
「え、でも……タダじゃ申し訳ないです」
「それより人が来てくれる方が嬉しいから。友達とでも彼氏とでもおいで」
「か、彼氏は……いません!」
何でそんなことをわざわざ言ったのか、自分でもよくわからなかった。余計な情報だよ!
「えー?そうなん?茉優ちゃん彼氏がいるからそんなに堅いのかと思ってた」
私を覗きこんで、またよっちゃんは笑った。
揶揄われてる。私は何だか恥ずかしくなった。
「あ、あの、もう私行かないと!」
「お、そっか。じゃあ時間があったら遊びに来て。じゃあな」
立ち上がった私に、よっちゃんは笑って手を振った。
行こうか行くまいか悩んだけど、専門学校の友達のケイちゃんを連れて、クリスマス・パーティーに行った。港にある貸し倉庫が会場になっていた。
「あの、長束さんの知り合いなんですが」
受付の人にそう言うと、
「長束??……あ、ヨリか!おい!ヨリ、女の子たち来てんぞ!」
大声で受付のお兄さんがよっちゃんを呼んだ。音楽が鳴ってるし聞こえないと思うけど。
「入っていいよ。ヨリ、あそこにいるから」
お兄さんが指さした向こう側によっちゃんがいた。いたけど、見た目が全然違う。髪をセットして、ジャケットを羽織っていた。
ぼさぼさじゃない!ふわふわでもない!
ボンヤリしてる間に、手の甲にハンコを押されて、私はケイちゃんと倉庫の奥に入った。
「ねえ、茉優、どの人?」
「あの、ジャケットの人。髪の横を撫でつけてる……」
「えー?あんな人うちの学校に来てるっけ?そこそこかっこいいじゃん!挨拶しに行こ!」
ケイちゃんは積極的な子だから、ショートカットの耳に揺れるピアスをキラキラさせて、物おじせずによっちゃんに向かって行く。
「ほら、こんばんはって言いなよ!」
「長束さん、こんばんは」
ケイちゃんに無理矢理言わされた私の声を、よっちゃんは気付いてくれた。
「おー、茉優ちゃん。いらっしゃい」
「友達のケイちゃんです」
「こんばんは!」
こんばんは、とケイちゃんに挨拶した後、よっちゃんは私の頭を触って言った。
「今日はお団子が二つなんだな」
「あ、触ったら崩れるから駄目です!」
首を縮め、両手で頭を守ろうとした私の手によっちゃんの手が触れた。
「あーごめん、どうなってるか見たかったから。じゃあごゆっくり」
私には目を合わせず、ケイちゃんにニコッと笑ってよっちゃんは人ごみに紛れた。
「あーあー。何やってんの茉優」
「何が?」
「素直に撫でられとけば良かったのに」
呆れ顔でケイちゃんが私を見る。
「長束さんのこと、嫌いなの?」
「嫌いじゃ、ないけど……」
「そんなんじゃ、いつまで経っても彼氏できないぞ~?」
ケイちゃんが私のおでこをコツンと指でつついた。
あっという間に年末が来た。今日は大晦日。
年明けのフェスに向けての制作は、やっぱりグループ制作が遅れていた。
あれから孝志から連絡来ないし、忘れてるかな。もういいや、知らんぷりしとこう。眠い。でも寝たらダメだ。今日中に今やってるのまでは仕上げないと。
パタンナーの子が上げて来るのが押したせいで、こっちはバタバタだ。同じチームのケイちゃんも寝てないってメッセが来てる。
そう思ってアパートの部屋でミシンを踏んでいると、ピンポーン、と呼び鈴が鳴ったような気がする。ミシンを止めて耳を澄ます。
――ピンポーン。
確かに聞こえた。まさか。
ドアスコープを覗くと、孝志がいた。
「たっちゃん!」
「茉優、寒いんだから早く開けろよ」
「ほんとに来たの?」
「約束したろ?」
「もう、バカ!」
私は仕方なく孝志を部屋にいれた。
「綺麗にしてんじゃん」
「私、制作の途中だから、適当にしてて!飲み物も適当にどうぞ!」
私はベッドとちゃぶ台がある部屋に孝志を押し込み、ミシンのある部屋に籠った。
勝手な孝志に腹が立って仕方がなかった。モノづくりに締め切りがあるということは、睡眠時間削ったって間に合わせないといけないってことなのに。
部屋中に布と毛糸が散らばって、繊維が舞う。だから私は寒いけれど窓を開けてマスクをして作業していた。
「茉優」
無神経に作業部屋を覗いてきた孝志は、しばらく黙っていた後に、
「……ゴメン」
とだけ言った。
「茉優、鍋作ったから、いったん休めよ。食おう」
孝志は適当に私の台所と冷蔵庫を漁って、無いものは近所のスーパーで買ってきて、お鍋を作ってくれていた。土鍋はお母さんが引越しの時に小さめのものを持たせてくれていたのを見つけたらしい。私、鍋なんて一度も使ってないのに。よく見つけたなあ。
「お前の好きな椎茸も絹ごし豆腐も白身魚も鶏も入れたぞ!」
その言葉で、私は我に返った。
「うん……食べる」
お鍋の味は、孝志の家のと同じ味で、懐かしくてホッとした。
「茉優、今必死にやってるやつ、いつが発表の日なんだ?」
「年明けの、十日」
「間に合わねーの?」
「うん。個人製作のはできてるんだけど、グループのがね……かなり押してる」
「寝てないだろ」
「うん」
「目の下真っ黒」
「うるさーい!」
「今日さ、初詣行かなくていいから、寝ろよ」
「えー?ダメ、そのために来たんでしょ」
「また制作する時間にちゃんと起こしてやるから」
じゃあ、二、三時間だけ寝ようかな。
「ほんとに起こしてくれる?」
「もちろん」
「じゃあお風呂入って寝る!もう二日入ってない~」
「マジかよ!」
「いいじゃん今から入るもん!」
食べ終わった私はお風呂を沸かしに行った。
お風呂に入って、お布団に入ったら、秒で意識を失くした。
夢を見た。
素敵な王子様が出て来て、私を優しく抱きしめる。
「こんなに頑張ってるって知らなかった」
うん、今すごく頑張ってるよ……。
「何もしてあげられなくてゴメン」
どうして謝るの……?
謝らなくていいのに……。
王子様は悲しそうな顔をして私を見ると、そっと何度もキスをした。
私の為に泣いてくれるなんて、優しい人なんだね、王子様……。
「茉優、起きろ」
「ん~?ヤダまだ寝るぅ……」
だから私は一度寝たらいけないんだ。起きたくなくなるから。
「朝だぞ」
「ウソ!?!」
「嘘じゃない。すまん、俺も寝落ちた」
小さい時から一緒にお昼寝してたりしたから、別にいいけど、やっぱり今の年齢で一緒のお布団は良くないと思う!
そう思って身体を起こそうとしたら、上から肩を押さえられた。
「たっちゃん⁈」
「お前、男できた?」
「は?そんな暇ないよっ!」
朝から何言ってるんだろう?よっちゃんのことは気になっていたけれど、それをわざわざ孝志に言う必要もない。
「いや、何となく聞いてみただけ」
「何言ってんのたっちゃん、作業するからどいて!」
「茉優、睫毛にゴミついてる、目に入りそ」
「え?取って、たっちゃん」
私は目を閉じた。
唇に触れた感触は、夢で見た素敵な王子様のキスと同じだった。どういうこと⁈
「たっちゃん……何するの……?」
「俺、茉優がいい。他のやつより」
たっちゃんは知らない男の人の顔をしていた。
「私……好きな人がいるの」
好きな人とは、よっちゃんのことだった。孝志は私を抱きすくめる。
「俺じゃ、ダメ?俺、茉優のこと何でも知ってるつもりでいたけど、何も知らなかった。ホント悔しい」
遅いよ孝志、全然遅いよ!私、ずっと孝志のことが好きだったのに。
「たっちゃん、ゴメン。私たっちゃんの彼女にはなれない。ほら、別れたらまた初詣行きづらいじゃん?」
でも初めてのキスが孝志で良かった。……キスして未練が無くなるなんて変だけど。
「やだ、別れないからさ、つきあおう?」
「ざーんねん。もう時間切れ!……高校の時にそう言ってくれてたら良かったのに」
冗談っぽく言った私は孝志の腕から抜け出して、作業をするための服を、引き出しから取り出した。
また今夜も遅くにしか帰ってこないのかな……。
でも最初からそうだったわけじゃなくて……いつからだろう、よっちゃんが中学生の時から好きだったって言うアーティストが、亡くなる少し前からだった気がする。
仕事が終わっても帰ってこない。
私はこの街が地元じゃないから、どうしていいかわからなかった。一人で寂しくよっちゃんの帰りを待って、大好きな手芸をして気を紛らわせている。
「わ、すご!また、何か増えてんな!」
よっちゃんが帰って来た。ネクタイを緩めながら、いくつも転がっているあみぐるみを見てそんなことを言う。
「パート先の人から、小学校に出すバザーの品を頼まれちゃって」
「ああ、そうだったのか、茉優は優しいなあ。でも無理すんなよ?」
よっちゃんは優しく頭を撫でてくれる。
兄妹みたい。
多分そうなんだ。
よっちゃんにとって私は”女の人”じゃない。
最初に出会ったのは、高校を卒業して、地元を離れて進学した服飾の専門学校で、その地域の芸術大学の学生さんが手伝いかバイトに来ている中によっちゃんがいた。
時期は確か梅雨が明けて暑くなってきたころだったと思う。
「あの、これニットコースの田中先生に持って行くように言われたんですけど」
廊下で慌てて次の教室に移動している私に、よっちゃんは声を掛けてきた。
「あ、あの今から田中先生の授業なので、私持って行きます!」
黒縁の眼鏡をかけて、痩せてて、前髪が長くて、後ろ髪も少し長くて、赤茶けてて。正直全体的にボサボサしてた。
「ありがとう、でも持って行くのは俺の仕事だから、案内してくれる?」
ニマっと笑った顔がちょっと皮肉っぽくて、でも悪い人じゃない気がした。
「こっちです!」
私はチャイムが鳴り出したので走った。
「おい!こっちはダンボール抱えてんのに」
後ろからよっちゃんの声が聞こえた。また名前も知らなかった頃。
私は遅れて教室に入って、田中先生から睨まれたけど、後から入って来たよっちゃんが、あの学生さんに田中先生の所に案内してほしいとお願いしたので、遅れました、と言ってくれたおかげで、私はお咎めなしで済んだ。
誰か知らないけど、今度会ったらお礼を言わなくちゃ、と思っていたら、よっちゃんに会う日は意外にも早くやって来た。
「あ、おだんごちゃん」
廊下の向こうから歩いてきたのはよっちゃんだった。私はいつも髪をお団子にまとめるのが好きだったから、大体この髪型。呼ばれた時も、そのおかげですぐに自分の事だとわかった。
「あ、お兄さん」
明らかに年上だとわかったから、私はそう呼んだ。あ、髪切ってる。
「こないだはありがとうございました!」
私は頭を下げた。よっちゃんは笑いながら、
「俺の方が助かったよ。職員室にも準備室にも田中先生いなかったから。お礼にジュース奢るよ」
と言って、すぐ側の自販機に歩き出した。
「あの、いいです、私、次の授業行かないと!」
よっちゃんは不機嫌そうな顔をして首を傾げ、
「あっそう。人が礼するって言ってるのに?」
と言った。
「いえ、お礼を頂くようなことはしてませんから。私の方がありがたかったくらいでっ……!」
毛糸だらけの大きな紙袋を持って、私は頭をまた下げた。
「あのさ、こういう時は素直にもらっとくもんだ。誰かから教えてもらわなかった?何がいい?」
ポケットから硬貨を出してよっちゃんは自販機に入れていく。
「……どれが好きなの?俺、君が好きなの知らないんだけど」
「あ、B.B.レモン、です」
よっちゃんの手が自販機のボタンを押した。骨ばっているけれど、無骨じゃなくてスマートな手だなあ。
「はい。じゃ、またな、おだんごちゃん」
「ありがとう、ございます……」
私にジュースを渡して、よっちゃんは廊下をどんどん歩いて行った。
ジュースを奢るって言われて、遠慮したら怒る人なんて初めてだった。
まだつき合う前、いつだったか、ギャルっぽい女の子に後ろから両肩に手を置かれて、
「よーりくん!ここにいたんだ!」
と言われていたのを見た。
「何だよエリ、お前驚くだろうが。やめろよ」
綺麗な子なのにどうしてすげない態度をとるんだろう?顔色一つ変えないなんて、意外とモテる人なのかな。
その頃はもう一年の後期になっていて、紐が緑色の名札ケースを首から下げている人は、大学生の臨時スタッフだということは知っていた。
「誰かこれ手伝って!」
「はい!私やります!」
別の科の作業だったけど、呼びかけられて私は手伝いに行った。
あのお兄さんは”より君”って言うんだ……。
各季節ごとに作品発表会があるけれど、冬は上の学年の卒業制作もあり一番規模が大きい。パンフレットもきちんと作って、メーカーをはじめアパレル関係の会社にも送付する。
それとは別に、学生には当日の学生や教員、スタッフの配置に関する紙が配られた。
終わりの方に”大学生スタッフ”とあり、その下に名前が二十人分ほど並んでいた。
”より”、から始まる名前を探した。苗字では見つからない。
下の名前かな?
当てはまりそうな名前の人は一人しかいなかった。
長束頼和。
お兄さんの名前は多分これだ。何でこんなの探したんだろう。でも何となく嬉しくなった。
十二月の初めの頃。
「茉優、正月実家帰るだろ?」
幼馴染の孝志から電話が掛かった。元々近所で、保育園から高校まで一緒だった。中学生くらいから好きだったけど、高校生の時に孝志がテニス部の子とつき合い始めたことで、私は長年の片思いに終止符を打った。
だから、専門学校は地元にもあったけれど、アパレルの仕事に就くなら、それなりに都会に出ないとダメだから、と親を説得して、孝志から逃げるように私はこの街に出てきた。孝志も大学で県外に出たけれど、私の住んでいる県の隣の県だと知った時は驚いた。
でも、同じ県とか同じ市じゃないから。
殆ど孝志から連絡もなかったし、私はホッとしていた。
なのに正月帰って来るのかとか、親でもないのにこんな電話するなんて。
「うーん、冬の制作発表があるからどうかなー?年明けすぐだから」
「は?初詣どうすんだよ?」
毎年初詣は二人だったり、家族や友達を交えたりしながらも一緒に行っていた。地元の神社や、ちょっと足を延ばした大きな神社にお参りしておみくじを引くのが毎年の恒例。
自分の担当の制作は順調だったけれど、グループ作品が進んでいない。新幹線の距離で帰って、年末年始ゆっくりできる時間があるとは思えなかった。
「あの……彼女ちゃんと行きなよ。まだ付き合ってるんでしょ?」
「……別れた」
「ええ⁈ どうして⁈」
「だって、高校の間だけだって決めてたし、話しててもつまんねーもん」
「何で?好きだったんでしょ??」
長いつき合いだけど、孝志ってこんな人だったっけ?こんなさっぱりした人じゃない。もっと、しつこい人なのに。
「あー、まあ。別に」
言いたくなさそうなのを、無理して訊くものでもないな。きっと二人にしかわからない理由があるんだ。遠距離恋愛は大変だもの。
私が電話を切ろうと切り出そうとすると、
「お前が帰んねぇなら、俺も帰んのやめた。そっち行くから」
「はあ?やめてよ、構う時間なんて無いよ?」
「初詣行くしさ、大晦日から二、三日泊めろよ」
「そんな場所空いてない!」
私のアパートは二部屋あるけど、一つは完全に制作部屋にしている。発表会直前で片付くわけがない。
「ダメ!たっちゃん、私ほんとに忙しい!」
「大人しくしとくし、何なら手伝う」
「毛糸巻くだけじゃダメなの!」
「うっさいなー。とにかく初詣は必ず行くからな」
勝手に電話が切れた。
「たっちゃん!」
どうしてこうなんだろう。いっつも私は孝志の言うことにつき合わされる。
初詣はもちろん、突然日曜日にやって来て今から海に行こうとか山に行こうとか、買い物につき合えとか。田舎は人が少ないから男女で出歩いてたらすぐ見つかる。
彼女が出来てもそういうのにつき合わされてたから、高二から女子テニス部の子たちに睨まれて大変だったんだから。
孝志はそんなのも全然知らないんだろうな……。私が好きだったことも。
次によっちゃんに会ったのは、またいつもの廊下の、自販機の前だった。
私はペットボトルのB.B.レモンにするか、缶のセブンアップにするか、紙パックのイチゴミルクにするか悩んでいた。
「おだんごちゃん」
声がして振り向くとよっちゃんだった。首元が少し伸びたふわふわした黒いニットを着ている。痩せてるからそういう服も男の人なのに似合っていた。
あの頃は心の中でお兄さんからよし君さん、って呼んでたと思う。
「あ、こんにちは」
頭を下げて、また私は自販機に向き直った。
「何飲むの?」
よっちゃんは私の横に並んで立った。横を向くとちょうど彼の顎先が見えた。別にこの人はイケメンでもないのに、横顔がきれいだって思うのはどうしてだろう。
「……悩んでます。もう十分くらい」
隣でよっちゃんが噴き出した。
「全部飲んだらいいじゃん。どれ?どれが飲みたいって?」
怒ったり笑ったり忙しい人だなあ。いつもは無表情なのに。
そう。私はいつの間にかよっちゃんを見つけると目で追っていた。ステージでの演出や映像のスタッフだと知って、その場所に目を向けると大体よっちゃんがいたから。
「今一番はイチゴミルクです。次はセブンアップ。だけど缶だから一気に飲まないといけないから諦めます。いつものB.B.レモンにします」
「じゃあさ、イチゴミルクとB.B.レモン買いなよ。俺もちょうどセブンアップ飲みたいから、それ半分こな」
よっちゃんはさっさとセブンアップを買ってしまった。
「紙コップとか持ってるんですか?」
「そんなわけないだろ?面白いこと言うなあ。はい、買った買った」
押し売りみたいにして、よっちゃんは私を自販機に押しだす。イチゴミルクとB.B.レモンを買った。
「はい。これ飲んで。好きなだけ飲んで余ったらちょうだい」
よっちゃんはプルタブを開けて、セブンアップを渡してくる。
「え?いいです!」
私は必死で固辞した。
「おだんごちゃんは頑固ちゃんだなー」
おだんごちゃんもいい加減恥ずかしい。今日はお団子にしてないよ。
「あの、茉優です。高瀬茉優って言います」
「あ、まゆちゃんって言うんだ。俺は長束頼和」
ながつかよりかず。やっぱりあの時見た名前で合ってたんだ。
私達は中庭に出てベンチに座った。結局私はセブンアップはもらわずにイチゴミルクを飲んだ。
「うわっ!つめてえ!」
真冬にソーダは冷たいと思う。もしかして私が悩んでたから買ってくれたのかな、より君さんは別に飲みたくなかったのかも、と思った。
「長束さんは、大学何年生なんですか?」
「俺?今三年。茉優ちゃんは?」
「一年です」
「だと思った」
そう言ってよっちゃんはクスクスと笑った。
「あのさ、クリスマスイブの日、暇だったら友達とおいで」
一枚のフライヤーを取り出して渡してくれた。お洒落なデザインのそれは、
「クリスマス・パーティー?」
「うん。大学の有志でやるんだ。俺の名前言えばチケ代無しですぐ入れるから」
「え、でも……タダじゃ申し訳ないです」
「それより人が来てくれる方が嬉しいから。友達とでも彼氏とでもおいで」
「か、彼氏は……いません!」
何でそんなことをわざわざ言ったのか、自分でもよくわからなかった。余計な情報だよ!
「えー?そうなん?茉優ちゃん彼氏がいるからそんなに堅いのかと思ってた」
私を覗きこんで、またよっちゃんは笑った。
揶揄われてる。私は何だか恥ずかしくなった。
「あ、あの、もう私行かないと!」
「お、そっか。じゃあ時間があったら遊びに来て。じゃあな」
立ち上がった私に、よっちゃんは笑って手を振った。
行こうか行くまいか悩んだけど、専門学校の友達のケイちゃんを連れて、クリスマス・パーティーに行った。港にある貸し倉庫が会場になっていた。
「あの、長束さんの知り合いなんですが」
受付の人にそう言うと、
「長束??……あ、ヨリか!おい!ヨリ、女の子たち来てんぞ!」
大声で受付のお兄さんがよっちゃんを呼んだ。音楽が鳴ってるし聞こえないと思うけど。
「入っていいよ。ヨリ、あそこにいるから」
お兄さんが指さした向こう側によっちゃんがいた。いたけど、見た目が全然違う。髪をセットして、ジャケットを羽織っていた。
ぼさぼさじゃない!ふわふわでもない!
ボンヤリしてる間に、手の甲にハンコを押されて、私はケイちゃんと倉庫の奥に入った。
「ねえ、茉優、どの人?」
「あの、ジャケットの人。髪の横を撫でつけてる……」
「えー?あんな人うちの学校に来てるっけ?そこそこかっこいいじゃん!挨拶しに行こ!」
ケイちゃんは積極的な子だから、ショートカットの耳に揺れるピアスをキラキラさせて、物おじせずによっちゃんに向かって行く。
「ほら、こんばんはって言いなよ!」
「長束さん、こんばんは」
ケイちゃんに無理矢理言わされた私の声を、よっちゃんは気付いてくれた。
「おー、茉優ちゃん。いらっしゃい」
「友達のケイちゃんです」
「こんばんは!」
こんばんは、とケイちゃんに挨拶した後、よっちゃんは私の頭を触って言った。
「今日はお団子が二つなんだな」
「あ、触ったら崩れるから駄目です!」
首を縮め、両手で頭を守ろうとした私の手によっちゃんの手が触れた。
「あーごめん、どうなってるか見たかったから。じゃあごゆっくり」
私には目を合わせず、ケイちゃんにニコッと笑ってよっちゃんは人ごみに紛れた。
「あーあー。何やってんの茉優」
「何が?」
「素直に撫でられとけば良かったのに」
呆れ顔でケイちゃんが私を見る。
「長束さんのこと、嫌いなの?」
「嫌いじゃ、ないけど……」
「そんなんじゃ、いつまで経っても彼氏できないぞ~?」
ケイちゃんが私のおでこをコツンと指でつついた。
あっという間に年末が来た。今日は大晦日。
年明けのフェスに向けての制作は、やっぱりグループ制作が遅れていた。
あれから孝志から連絡来ないし、忘れてるかな。もういいや、知らんぷりしとこう。眠い。でも寝たらダメだ。今日中に今やってるのまでは仕上げないと。
パタンナーの子が上げて来るのが押したせいで、こっちはバタバタだ。同じチームのケイちゃんも寝てないってメッセが来てる。
そう思ってアパートの部屋でミシンを踏んでいると、ピンポーン、と呼び鈴が鳴ったような気がする。ミシンを止めて耳を澄ます。
――ピンポーン。
確かに聞こえた。まさか。
ドアスコープを覗くと、孝志がいた。
「たっちゃん!」
「茉優、寒いんだから早く開けろよ」
「ほんとに来たの?」
「約束したろ?」
「もう、バカ!」
私は仕方なく孝志を部屋にいれた。
「綺麗にしてんじゃん」
「私、制作の途中だから、適当にしてて!飲み物も適当にどうぞ!」
私はベッドとちゃぶ台がある部屋に孝志を押し込み、ミシンのある部屋に籠った。
勝手な孝志に腹が立って仕方がなかった。モノづくりに締め切りがあるということは、睡眠時間削ったって間に合わせないといけないってことなのに。
部屋中に布と毛糸が散らばって、繊維が舞う。だから私は寒いけれど窓を開けてマスクをして作業していた。
「茉優」
無神経に作業部屋を覗いてきた孝志は、しばらく黙っていた後に、
「……ゴメン」
とだけ言った。
「茉優、鍋作ったから、いったん休めよ。食おう」
孝志は適当に私の台所と冷蔵庫を漁って、無いものは近所のスーパーで買ってきて、お鍋を作ってくれていた。土鍋はお母さんが引越しの時に小さめのものを持たせてくれていたのを見つけたらしい。私、鍋なんて一度も使ってないのに。よく見つけたなあ。
「お前の好きな椎茸も絹ごし豆腐も白身魚も鶏も入れたぞ!」
その言葉で、私は我に返った。
「うん……食べる」
お鍋の味は、孝志の家のと同じ味で、懐かしくてホッとした。
「茉優、今必死にやってるやつ、いつが発表の日なんだ?」
「年明けの、十日」
「間に合わねーの?」
「うん。個人製作のはできてるんだけど、グループのがね……かなり押してる」
「寝てないだろ」
「うん」
「目の下真っ黒」
「うるさーい!」
「今日さ、初詣行かなくていいから、寝ろよ」
「えー?ダメ、そのために来たんでしょ」
「また制作する時間にちゃんと起こしてやるから」
じゃあ、二、三時間だけ寝ようかな。
「ほんとに起こしてくれる?」
「もちろん」
「じゃあお風呂入って寝る!もう二日入ってない~」
「マジかよ!」
「いいじゃん今から入るもん!」
食べ終わった私はお風呂を沸かしに行った。
お風呂に入って、お布団に入ったら、秒で意識を失くした。
夢を見た。
素敵な王子様が出て来て、私を優しく抱きしめる。
「こんなに頑張ってるって知らなかった」
うん、今すごく頑張ってるよ……。
「何もしてあげられなくてゴメン」
どうして謝るの……?
謝らなくていいのに……。
王子様は悲しそうな顔をして私を見ると、そっと何度もキスをした。
私の為に泣いてくれるなんて、優しい人なんだね、王子様……。
「茉優、起きろ」
「ん~?ヤダまだ寝るぅ……」
だから私は一度寝たらいけないんだ。起きたくなくなるから。
「朝だぞ」
「ウソ!?!」
「嘘じゃない。すまん、俺も寝落ちた」
小さい時から一緒にお昼寝してたりしたから、別にいいけど、やっぱり今の年齢で一緒のお布団は良くないと思う!
そう思って身体を起こそうとしたら、上から肩を押さえられた。
「たっちゃん⁈」
「お前、男できた?」
「は?そんな暇ないよっ!」
朝から何言ってるんだろう?よっちゃんのことは気になっていたけれど、それをわざわざ孝志に言う必要もない。
「いや、何となく聞いてみただけ」
「何言ってんのたっちゃん、作業するからどいて!」
「茉優、睫毛にゴミついてる、目に入りそ」
「え?取って、たっちゃん」
私は目を閉じた。
唇に触れた感触は、夢で見た素敵な王子様のキスと同じだった。どういうこと⁈
「たっちゃん……何するの……?」
「俺、茉優がいい。他のやつより」
たっちゃんは知らない男の人の顔をしていた。
「私……好きな人がいるの」
好きな人とは、よっちゃんのことだった。孝志は私を抱きすくめる。
「俺じゃ、ダメ?俺、茉優のこと何でも知ってるつもりでいたけど、何も知らなかった。ホント悔しい」
遅いよ孝志、全然遅いよ!私、ずっと孝志のことが好きだったのに。
「たっちゃん、ゴメン。私たっちゃんの彼女にはなれない。ほら、別れたらまた初詣行きづらいじゃん?」
でも初めてのキスが孝志で良かった。……キスして未練が無くなるなんて変だけど。
「やだ、別れないからさ、つきあおう?」
「ざーんねん。もう時間切れ!……高校の時にそう言ってくれてたら良かったのに」
冗談っぽく言った私は孝志の腕から抜け出して、作業をするための服を、引き出しから取り出した。
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