12 / 27
第8話
しおりを挟む
『これ以上、家族が減ってほしくないもの。』
小さく呟いたその言葉は、冗談かと思うくらい清々しかった。
「大丈夫だって。人間、そんな簡単に死なないさ」
俺は背中に突き刺さる刺を取り払うように軽く笑い飛ばす。しかし、心は通じ合わなかったようだ。姉貴は静かに素早く言った。
『そんなの死んでみなくちゃ分からないじゃない。』
『お母さんだって...。大丈夫って言いながら死んでいったんだもの。』
姉貴は母親を知っている。俺が生まれた頃に撮った家族写真。その中の姉貴はとても楽しそうで、俺を抱えるその人はとても優しそうな目をしていた。
母さん...。
俺の記憶の中に居ないはずの、母親の姿が優しく笑った気がした。
『というか、なんでこんな重たい話になってるのよ...。やめやめ。』
姉貴はふと我に返ったような声を出した。
自分で振った話だろうが...。
と、そう思っているがここは何も言わないのが得策だ。
俺は静かにグラスに入った水を飲んだ。
『で、どうなのよ。咲菜ちゃんには会えたの?』
今度は明るく。
しつこいくらいに聞いてきやがる。
はぁ。それ知ってどうするんだよ。そう言ってやりたいが、姉貴はこうなると答えを知るまで引き下がらないと分かっている。俺は早々に諦め、包み隠さず情報を提供した。
「ああ。今、隣の席に座ってる。」
『うわっ!すごいじゃん!めちゃめちゃ運命。』
姉貴が興奮したように声を上げた。
「そうでもないよ。あいつは俺に気付かなかったから。」
俺はポツリと呟く。
闘病生活を送っていく中で変化した自分の容姿に空笑いが出た。
『......。』
姉貴は何も言ってこない。
「自分で話振っといて押し黙るなし。」
『うん。そうだった。そうだった。』
ほぼ棒読みの返答が逆に俺の心を軽くする。
「この空気、実の家族なのに気まずいって、何?」
思わず突っ込む。
『だって...。あんなに大切な約束したのに、気づいてもらえない弟が不憫で不憫で...。』
うっうっ。
噓泣きの天才が嗚咽を堪える。
「おい。なんか、失礼だな。」
『励まされるよりましでしょ?』
いかにも上から目線で、姉貴っぽい。
「はぁ。」
俺はため息だけで返した。
咲菜ちゃん、気づかなかったかぁ。姉貴は他人事のように呟く。そして、言った。
『けど、そばにいるしかないものね。』
そう諭すように確かめてきた。
弟よ。そんなんでへこたれたらダメだぞ?
「ああ。分かってるさ。俺はどんなに嫌われようが、殺気を向けられようが傍にいるよ。正直、気づいてもらえないってのが一番堪えるけどな。」
はは。
また、空笑いが漏れる。
姉貴は俺の卑下にも何も口を挟んでこなかった。
俺は自分をまとう重い空気を引き剝がすように笑い続けた。
そう。
あの日、俺は約束をしたんだ。
何があっても、彼女を守って見せるんだと。
俺は、無意識に窓の外を見ていた。
遠くに霞のかかった月がいた。秋口とは言え、まだ夜は昼間の熱気が外を覆う。俺は遠くに行ってしまったあの人の顔を思い浮かべながら、ゆっくりとカーテンを閉めた。
■■■■■
テレビをつけると、丁度、Cherry’sの特集をやっていた。悲しいかな、俺は画面の中に居ないはずの自分の姿を思い浮かべ、静かな夜を過ごした。
小さく呟いたその言葉は、冗談かと思うくらい清々しかった。
「大丈夫だって。人間、そんな簡単に死なないさ」
俺は背中に突き刺さる刺を取り払うように軽く笑い飛ばす。しかし、心は通じ合わなかったようだ。姉貴は静かに素早く言った。
『そんなの死んでみなくちゃ分からないじゃない。』
『お母さんだって...。大丈夫って言いながら死んでいったんだもの。』
姉貴は母親を知っている。俺が生まれた頃に撮った家族写真。その中の姉貴はとても楽しそうで、俺を抱えるその人はとても優しそうな目をしていた。
母さん...。
俺の記憶の中に居ないはずの、母親の姿が優しく笑った気がした。
『というか、なんでこんな重たい話になってるのよ...。やめやめ。』
姉貴はふと我に返ったような声を出した。
自分で振った話だろうが...。
と、そう思っているがここは何も言わないのが得策だ。
俺は静かにグラスに入った水を飲んだ。
『で、どうなのよ。咲菜ちゃんには会えたの?』
今度は明るく。
しつこいくらいに聞いてきやがる。
はぁ。それ知ってどうするんだよ。そう言ってやりたいが、姉貴はこうなると答えを知るまで引き下がらないと分かっている。俺は早々に諦め、包み隠さず情報を提供した。
「ああ。今、隣の席に座ってる。」
『うわっ!すごいじゃん!めちゃめちゃ運命。』
姉貴が興奮したように声を上げた。
「そうでもないよ。あいつは俺に気付かなかったから。」
俺はポツリと呟く。
闘病生活を送っていく中で変化した自分の容姿に空笑いが出た。
『......。』
姉貴は何も言ってこない。
「自分で話振っといて押し黙るなし。」
『うん。そうだった。そうだった。』
ほぼ棒読みの返答が逆に俺の心を軽くする。
「この空気、実の家族なのに気まずいって、何?」
思わず突っ込む。
『だって...。あんなに大切な約束したのに、気づいてもらえない弟が不憫で不憫で...。』
うっうっ。
噓泣きの天才が嗚咽を堪える。
「おい。なんか、失礼だな。」
『励まされるよりましでしょ?』
いかにも上から目線で、姉貴っぽい。
「はぁ。」
俺はため息だけで返した。
咲菜ちゃん、気づかなかったかぁ。姉貴は他人事のように呟く。そして、言った。
『けど、そばにいるしかないものね。』
そう諭すように確かめてきた。
弟よ。そんなんでへこたれたらダメだぞ?
「ああ。分かってるさ。俺はどんなに嫌われようが、殺気を向けられようが傍にいるよ。正直、気づいてもらえないってのが一番堪えるけどな。」
はは。
また、空笑いが漏れる。
姉貴は俺の卑下にも何も口を挟んでこなかった。
俺は自分をまとう重い空気を引き剝がすように笑い続けた。
そう。
あの日、俺は約束をしたんだ。
何があっても、彼女を守って見せるんだと。
俺は、無意識に窓の外を見ていた。
遠くに霞のかかった月がいた。秋口とは言え、まだ夜は昼間の熱気が外を覆う。俺は遠くに行ってしまったあの人の顔を思い浮かべながら、ゆっくりとカーテンを閉めた。
■■■■■
テレビをつけると、丁度、Cherry’sの特集をやっていた。悲しいかな、俺は画面の中に居ないはずの自分の姿を思い浮かべ、静かな夜を過ごした。
79
あなたにおすすめの小説
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
キャバ嬢(ハイスペック)との同棲が、僕の高校生活を色々と変えていく。
たかなしポン太
青春
僕のアパートの前で、巨乳美人のお姉さんが倒れていた。
助けたそのお姉さんは一流大卒だが内定取り消しとなり、就職浪人中のキャバ嬢だった。
でもまさかそのお姉さんと、同棲することになるとは…。
「今日のパンツってどんなんだっけ? ああ、これか。」
「ちょっと、確認しなくていいですから!」
「これ、可愛いでしょ? 色違いでピンクもあるんだけどね。綿なんだけど生地がサラサラで、この上の部分のリボンが」
「もういいです! いいですから、パンツの説明は!」
天然高学歴キャバ嬢と、心優しいDT高校生。
異色の2人が繰り広げる、水色パンツから始まる日常系ラブコメディー!
※小説家になろうとカクヨムにも同時掲載中です。
※本作品はフィクションであり、実在の人物や団体、製品とは一切関係ありません。
隣に住んでいる後輩の『彼女』面がガチすぎて、オレの知ってるラブコメとはかなり違う気がする
夕姫
青春
【『白石夏帆』こいつには何を言っても無駄なようだ……】
主人公の神原秋人は、高校二年生。特別なことなど何もない、静かな一人暮らしを愛する少年だった。東京の私立高校に通い、誰とも深く関わらずただ平凡に過ごす日々。
そんな彼の日常は、ある春の日、突如現れた隣人によって塗り替えられる。後輩の白石夏帆。そしてとんでもないことを言い出したのだ。
「え?私たち、付き合ってますよね?」
なぜ?どうして?全く身に覚えのない主張に秋人は混乱し激しく否定する。だが、夏帆はまるで聞いていないかのように、秋人に猛烈に迫ってくる。何を言っても、どんな態度をとっても、その鋼のような意思は揺るがない。
「付き合っている」という謎の確信を持つ夏帆と、彼女に振り回されながらも憎めない(?)と思ってしまう秋人。これは、一人の後輩による一方的な「好き」が、平凡な先輩の日常を侵略する、予測不能な押しかけラブコメディ。
戦場帰りの俺が隠居しようとしたら、最強の美少女たちに囲まれて逃げ場がなくなった件
さん
ファンタジー
戦場で命を削り、帝国最強部隊を率いた男――ラル。
数々の激戦を生き抜き、任務を終えた彼は、
今は辺境の地に建てられた静かな屋敷で、
わずかな安寧を求めて暮らしている……はずだった。
彼のそばには、かつて命を懸けて彼を支えた、最強の少女たち。
それぞれの立場で戦い、支え、尽くしてきた――ただ、すべてはラルのために。
今では彼の屋敷に集い、仕え、そして溺愛している。
「ラルさまさえいれば、わたくしは他に何もいりませんわ!」
「ラル様…私だけを見ていてください。誰よりも、ずっとずっと……」
「ねぇラル君、その人の名前……まだ覚えてるの?」
「ラル、そんなに気にしなくていいよ!ミアがいるから大丈夫だよねっ!」
命がけの戦場より、ヒロインたちの“甘くて圧が強い愛情”のほうが数倍キケン!?
順番待ちの寝床争奪戦、過去の恋の追及、圧バトル修羅場――
ラルの平穏な日常は、最強で一途な彼女たちに包囲されて崩壊寸前。
これは――
【過去の傷を背負い静かに生きようとする男】と
【彼を神のように慕う最強少女たち】が織りなす、
“甘くて逃げ場のない生活”の物語。
――戦場よりも生き延びるのが難しいのは、愛されすぎる日常だった。
※表紙のキャラはエリスのイメージ画です。
俺を振ったはずの腐れ縁幼馴染が、俺に告白してきました。
true177
恋愛
一年前、伊藤 健介(いとう けんすけ)は幼馴染の多田 悠奈(ただ ゆうな)に振られた。それも、心無い手紙を下駄箱に入れられて。
それ以来悠奈を避けるようになっていた健介だが、二年生に進級した春になって悠奈がいきなり告白を仕掛けてきた。
これはハニートラップか、一年前の出来事を忘れてしまっているのか……。ともかく、健介は断った。
日常が一変したのは、それからである。やたらと悠奈が絡んでくるようになったのだ。
彼女の狙いは、いったい何なのだろうか……。
※小説家になろう、ハーメルンにも同一作品を投稿しています。
※内部進行完結済みです。毎日連載です。
クラスのマドンナがなぜか俺のメイドになっていた件について
沢田美
恋愛
名家の御曹司として何不自由ない生活を送りながらも、内気で陰気な性格のせいで孤独に生きてきた裕貴真一郎(ゆうき しんいちろう)。
かつてのいじめが原因で、彼は1年間も学校から遠ざかっていた。
しかし、久しぶりに登校したその日――彼は運命の出会いを果たす。
現れたのは、まるで絵から飛び出してきたかのような美少女。
その瞳にはどこかミステリアスな輝きが宿り、真一郎の心をかき乱していく。
「今日から私、あなたのメイドになります!」
なんと彼女は、突然メイドとして彼の家で働くことに!?
謎めいた美少女と陰キャ御曹司の、予測不能な主従ラブコメが幕を開ける!
カクヨム、小説家になろうの方でも連載しています!
大好きな幼なじみが超イケメンの彼女になったので諦めたって話
家紋武範
青春
大好きな幼なじみの奈都(なつ)。
高校に入ったら告白してラブラブカップルになる予定だったのに、超イケメンのサッカー部の柊斗(シュート)の彼女になっちまった。
全く勝ち目がないこの恋。
潔く諦めることにした。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる