病気になって芸能界から消えたアイドル。退院し、復学先の高校には昔の仕事仲間が居たけれど、彼女は俺だと気付かない

月島日向

文字の大きさ
26 / 27

第22話

しおりを挟む
俺達は二人で文化祭の屋台やら展示やらを練り歩くことになった。

「竹中君。あそこ行きましょう!」
「ちょ、清水さん、はしゃぎすぎじゃ…」
「竹中君!早く早く!!」
清水さんが射的屋の屋台の前でぴょんぴょんと飛び跳ね俺に手招きをする。

「おい。あれ、ナイキュのセンターだろ」
「さきなちゃん、今日、ハーフアップだ!
かわぃぃ」
「髪の毛サラサラ」
「文化祭、メイド服とか着てくれないかなー」
「コスプレとかしたら絶対にカワイイよな」
そんな声が道行く人から聞こえてくる。
そして、通り過ぎざまに、視点が俺に移る。


「てか、あいつ、誰だ?」
「あー。転校生じゃね?」
「同じクラスの奴が言ってたわ。さきなちゃん、クラス委員じゃん?だから、担当が、転校生の事、色々助ける役回りを押し付けられたんだってさ」
「2-Aの担任って、あれか。」
「そうそう。あの面倒くさがりな九重先生」
「うわ。さきなちゃん、転校生のお守りさせられているのか。かわいそー」
「さっさきーな。優しいもんね」
「あんな、デブでブスな転校生にも優しいとか、さすがアイドル。尊敬するわ」

道行く人から良い意味でも、悪い意味でも注目を集める。

ったく.....。
昔からコイツは自分がアイドルって自覚がなさすぎるんだ。

けれど、周囲の野次馬には目もくれず清水さんは俺の手を引っ張りながら、文化祭を満喫していった。

■■■■■

「正直、びっくりした。清水さんがあそこまでハメを外すとは…」

「ふふ。楽しかったですね」
あれから、一通り屋台を一周した。
綿あめ、焼きそば、フランクフルト。
射的、金魚すくい、早押しクイズ。
色々やったし、色々食べた。


そして随分と文化祭ムードに満たされた俺達は、一旦休憩しようと休憩スペースとして開放されている自分達の教室へ戻ってきた。
クラスメイトは午後からの舞台発表の準備とか、部活動の出し物とか、文化祭を楽しんでいるみたいで、教室は誰も使っていなかった。
清水さんは自分の席に腰を落ち着かせると、俺も彼女に習うように隣の自分の席へ腰かけた。
「竹中君、射的、意外と上手いですね」
見事、一等、当てましたね。
「ああ。昔から射的は得意なんだ」
「そうなんですね。凄いです」
ですが、本当にいいんですか?竹中君が命中させたのに私が景品をいただいても…。
清水さんが紙袋の中から射的の一等景品の茶色の箱を取り出す。
「いいよ。別に。俺は射るのが楽しかっただけで、景品とかべつにどーでもいいから」
あげるよ。いつも、俺、迷惑かけてるしな。
「ありがとうございます。けど、迷惑だなんて、思ってませんよ?竹中君には助けてもらってばかりです」
いつ、どこで竹中君が迷惑をかけたと言うんですか?

「いや、まぁ。転校生ってだけでも相当迷惑かけてるし、それに、俺、見た目、こんなんじゃん?」
俺は自分の丸々とした顔を触る。
デブで、ブスで、醜いじゃんか。
そんな俺と、人気アイドルのセンターの清水さんが一緒に歩くってだけで、色々、言う人もいるし…。な、俺、清水さんに超迷惑かけてる人間だろ?

俺はうつ向いていた顔をあざけわらって見せるように上に向けた。
その時、清水さんと目が合った。
俺は、一瞬、理解ができなかった。

彼女はなぜか、眉を吊り上げていた。
彼女はなぜか、泣きそうな顔をしていた。
彼女はなぜか、唇をきゅっと結んで子犬みたいな顔をしていた。



「竹中君…」
彼女が俺を呼ぶ声色で、俺はこれから、怒られるんだと認識した。

「竹中君。私が、いつ、竹中君を迷惑な存在だと言いましたか?私がなぜ、竹中君の隣を歩いたらいけないんでしょうか?」
「竹中君はそんなに私以外の人の声に耳を傾けるんですか?」
「私の言った事はそんなに信用ならないですか?」
「竹中君は優しい人です....。見ていて悲しくなるくらいに優しすぎます。たまに、竹中君の気遣いの笑顔が痛々しいくらい叫んでいます。『助けて』と。けど、自分には常に卑下していて…。私、竹中君はもっと、自分にも優しくていいと思うんです。竹中君が過去に何があったのか、自分の自信を失うきっかけの出来事があったのかなんて知りません。けど、今の竹中君は自分を低く見積もりすぎです。今日だって…今日だって…あんなに、必死になって私を守ろうとしてくれたじゃないですか…」
「他の人は、私をアイドルとして一線を引いて接してきますが、竹中君はそんな事関係なく、一人の人間の女の子として、接してもらっている気がします。これ、竹中君の凄いところなんですよ?」
「たまには、自分に甘い審判を下してみてはどうですか?」
言葉の最後に彼女は優しく微笑んだ。
それは久しぶりに見た彼女の本当の笑顔だった。
ずっと見たいと願っていたはずなのに、泣くように笑う彼女の顔を今は見たくないと思ってしまった。
そして、タイミングを見計らったかのように文化祭実行委員の招集を告げる校内放送が鳴った。『私、仕事をしてきますね。竹中君はここでゆっくりしていて下さい』と静かに言うと教室から消えていった。

どうして怒られるんだと思った。けど、同時に、彼女が俺の事に怒っているんだと思って何故だか胸が熱くなった。
自分にもう未来は無いと思っていたけど、まだ、自分を見てくれようとしている人が居るのかもしれない。そう思うと、目の奥が霞んできて…、鼻先がツンとした。

秋の涼しい風が教室いっぱいに広がった。

しおりを挟む
感想 6

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

今更気付いてももう遅い。

ユウキ
恋愛
ある晴れた日、卒業の季節に集まる面々は、一様に暗く。 今更真相に気付いても、後悔してももう遅い。何もかも、取り戻せないのです。

キャバ嬢(ハイスペック)との同棲が、僕の高校生活を色々と変えていく。

たかなしポン太
青春
   僕のアパートの前で、巨乳美人のお姉さんが倒れていた。  助けたそのお姉さんは一流大卒だが内定取り消しとなり、就職浪人中のキャバ嬢だった。  でもまさかそのお姉さんと、同棲することになるとは…。 「今日のパンツってどんなんだっけ? ああ、これか。」 「ちょっと、確認しなくていいですから!」 「これ、可愛いでしょ? 色違いでピンクもあるんだけどね。綿なんだけど生地がサラサラで、この上の部分のリボンが」 「もういいです! いいですから、パンツの説明は!」    天然高学歴キャバ嬢と、心優しいDT高校生。  異色の2人が繰り広げる、水色パンツから始まる日常系ラブコメディー! ※小説家になろうとカクヨムにも同時掲載中です。 ※本作品はフィクションであり、実在の人物や団体、製品とは一切関係ありません。

隣に住んでいる後輩の『彼女』面がガチすぎて、オレの知ってるラブコメとはかなり違う気がする

夕姫
青春
【『白石夏帆』こいつには何を言っても無駄なようだ……】 主人公の神原秋人は、高校二年生。特別なことなど何もない、静かな一人暮らしを愛する少年だった。東京の私立高校に通い、誰とも深く関わらずただ平凡に過ごす日々。 そんな彼の日常は、ある春の日、突如現れた隣人によって塗り替えられる。後輩の白石夏帆。そしてとんでもないことを言い出したのだ。 「え?私たち、付き合ってますよね?」 なぜ?どうして?全く身に覚えのない主張に秋人は混乱し激しく否定する。だが、夏帆はまるで聞いていないかのように、秋人に猛烈に迫ってくる。何を言っても、どんな態度をとっても、その鋼のような意思は揺るがない。 「付き合っている」という謎の確信を持つ夏帆と、彼女に振り回されながらも憎めない(?)と思ってしまう秋人。これは、一人の後輩による一方的な「好き」が、平凡な先輩の日常を侵略する、予測不能な押しかけラブコメディ。

俺を振ったはずの腐れ縁幼馴染が、俺に告白してきました。

true177
恋愛
一年前、伊藤 健介(いとう けんすけ)は幼馴染の多田 悠奈(ただ ゆうな)に振られた。それも、心無い手紙を下駄箱に入れられて。 それ以来悠奈を避けるようになっていた健介だが、二年生に進級した春になって悠奈がいきなり告白を仕掛けてきた。 これはハニートラップか、一年前の出来事を忘れてしまっているのか……。ともかく、健介は断った。 日常が一変したのは、それからである。やたらと悠奈が絡んでくるようになったのだ。 彼女の狙いは、いったい何なのだろうか……。 ※小説家になろう、ハーメルンにも同一作品を投稿しています。 ※内部進行完結済みです。毎日連載です。

クラスのマドンナがなぜか俺のメイドになっていた件について

沢田美
恋愛
名家の御曹司として何不自由ない生活を送りながらも、内気で陰気な性格のせいで孤独に生きてきた裕貴真一郎(ゆうき しんいちろう)。 かつてのいじめが原因で、彼は1年間も学校から遠ざかっていた。 しかし、久しぶりに登校したその日――彼は運命の出会いを果たす。 現れたのは、まるで絵から飛び出してきたかのような美少女。 その瞳にはどこかミステリアスな輝きが宿り、真一郎の心をかき乱していく。 「今日から私、あなたのメイドになります!」 なんと彼女は、突然メイドとして彼の家で働くことに!? 謎めいた美少女と陰キャ御曹司の、予測不能な主従ラブコメが幕を開ける! カクヨム、小説家になろうの方でも連載しています!

戦場帰りの俺が隠居しようとしたら、最強の美少女たちに囲まれて逃げ場がなくなった件

さん
ファンタジー
戦場で命を削り、帝国最強部隊を率いた男――ラル。 数々の激戦を生き抜き、任務を終えた彼は、 今は辺境の地に建てられた静かな屋敷で、 わずかな安寧を求めて暮らしている……はずだった。 彼のそばには、かつて命を懸けて彼を支えた、最強の少女たち。 それぞれの立場で戦い、支え、尽くしてきた――ただ、すべてはラルのために。 今では彼の屋敷に集い、仕え、そして溺愛している。   「ラルさまさえいれば、わたくしは他に何もいりませんわ!」 「ラル様…私だけを見ていてください。誰よりも、ずっとずっと……」 「ねぇラル君、その人の名前……まだ覚えてるの?」 「ラル、そんなに気にしなくていいよ!ミアがいるから大丈夫だよねっ!」   命がけの戦場より、ヒロインたちの“甘くて圧が強い愛情”のほうが数倍キケン!? 順番待ちの寝床争奪戦、過去の恋の追及、圧バトル修羅場―― ラルの平穏な日常は、最強で一途な彼女たちに包囲されて崩壊寸前。   これは―― 【過去の傷を背負い静かに生きようとする男】と 【彼を神のように慕う最強少女たち】が織りなす、 “甘くて逃げ場のない生活”の物語。   ――戦場よりも生き延びるのが難しいのは、愛されすぎる日常だった。 ※表紙のキャラはエリスのイメージ画です。

大好きな幼なじみが超イケメンの彼女になったので諦めたって話

家紋武範
青春
大好きな幼なじみの奈都(なつ)。 高校に入ったら告白してラブラブカップルになる予定だったのに、超イケメンのサッカー部の柊斗(シュート)の彼女になっちまった。 全く勝ち目がないこの恋。 潔く諦めることにした。

処理中です...