【完結】マザコンな婚約者はいりません

たなまき

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第15話

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 王都からハーパー侯爵領へは馬車で二日程度の距離がある。
 シェリーの父、カヴァデール伯爵とハーパー侯爵が手紙で日程調整をおこない、シェリーは学園を休んでハーパー侯爵領へむかった。

 旅慣れている伯爵にとっては問題のない距離だが、めったに王都を離れないシェリーには、馬車に長時間ゆられる厳しい道のりだった。
 伯爵はシェリーを気遣って、道中で町に通りかかるたびに休息をとらせてくれた。

 身体的にはつらい旅ではあるが、馬車の中でシェリーは父とたくさん話ができた。今までの人生でこの父娘おやこが会話した量を、この二日でかなり上回るほどに様々な話をした。

 シェリーは父に学園生活について話した。友人ができたこと、生徒会について、今勉強していることなど。シェリーの話を伯爵はうれしそうに目を細めて聞いていた。

 伯爵は亡くなった妻、シェリーの母について思い出を語った。
 シェリーは幼い頃に亡くなった母の記憶がほとんどないので、とても興味深く聞いた。

 母キャスリーンはとても天真爛漫な人だったようで、生真面目な性質の父にとっては予想もできない行動を取り、よく驚かされていたらしい。

 母が自分たちの結婚式に愛犬のマエルを参加させたいと言って、ぜったいにゆずらなかったという話を聞いて、シェリーも驚いた。
 ——私は本当にお父様似なのね……。

 母の思い出をなつかしそうに話す父はとても愛情深い表情をしていて、二人は正反対の性格をしていても、とても仲の良い夫婦だったのだと伝わってきた。

 ハーパー侯爵領に近づくにつれ、伯爵の話は徐々に領地や商会経営の話題が多くなってきた。シェリーも興味がある分野なので問題はないのだが、こういった内容の会話をしていると、父娘おやこというよりは先生と生徒だな、とシェリーはすこし愉快に感じた。


 シェリーの疲労が蓄積して、会話も途切れがちになった頃、伯爵は窓から外を見て言った。
「見えてきたな」

 シェリーも窓の外に目をやると、壮麗な屋敷が見えてきた。
 広大な敷地を持ち、王都のハーパー侯爵邸とはくらべものにならないほど大きな屋敷である。
 カヴァデール伯爵領の屋敷も立派なものではあるが、ハーパー侯爵領のそれは長い歴史を感じさせる存在感があった。

 馬車が正門に到着すると、門番が丁重に二人を屋敷の中へと案内した。
 案内人が執事に引き継がれ、まずは部屋で休んで長旅の疲れを癒すことになった。

 使用人たちは丁寧な態度で二人に接していて、案内された部屋の調度や出されたお茶も申し分のないものであったが、シェリーはなぜかピリピリとした空気を感じていた。
 はじめは婚約解消しようとしている一家への敵意かと思ったが、対応を見るとそういうわけでもなさそうだった。

 衣服を整えて十分に休息したあと、二人は客間に案内された。
 絢爛な客間にはすでにハーパー侯爵が立っていて二人を出迎えた。

 ハーパー侯爵は開口一番とても申し訳なさそうな表情で言った。
「カヴァデール伯爵、シェリー嬢、遠路はるばる来訪いただき感謝します。この度は息子が申し訳ない」

 ハーパー侯爵は若い頃はさぞかし浮名を流しただろうと思わずにいられないような甘い顔立ちをしている。今でもファンの婦人たちが多いようで、彼が出席するパーティーには年齢を問わず女性の出席者が増えると言われている。

 今その美麗な顔には憔悴の色が見てとれた。

 伯爵とシェリーはそれぞれ侯爵にあいさつをする。
 シェリーがあいさつしたとき、ハーパー侯爵は懐かしいような切ないような眼差しでシェリーを見た。

 侯爵がときたま見せるその眼差しの理由がシェリーにはわかった。
 ——やっぱり私は前の奥様に似ているのね。

 すすめられたソファーに全員が腰掛けると、カヴァデール伯爵とハーパー侯爵はまずは当たり障りのない世間話をした。

 お茶が運ばれてきて、それぞれ一服すると伯爵が言った。
「この陶器の茶器は我が商会の品ですな」

「ええ。前の妻プリシラがファンでしたから、我が家の茶器はすべてカヴァデール商会のもので統一しています」

「そうでしたな。長年のご愛顧に感謝いたします」

 確かにハーパー侯爵家の茶器がカヴァデール商会のもので統一されているのは本当で、王都の侯爵邸でもそれは徹底されていた。
 しかし、シェリーは違和感を覚えて、つい口に出してしまった。
「こちらでは銀のティースプーンを使っているのですね」

 目の前のソーサーには輝く銀製のスプーンが添えられている。違和感はそこにあった。なぜならハーパー侯爵夫人とのお茶会では、必ず陶器のティースプーンが使われていたからだ。

 ハーパー侯爵はすこし固い声で答えた。
「ああ、良く気付いたね。スプーンも陶器の品で統一するのは今の妻ジャネットの趣味でね。彼女が暮らす王都の屋敷では陶器のものを使っているんだよ」

「そうだったのですね」

 シェリーは納得したが、ハーパー侯爵の口調が気にかかった。
 ——聞かない方が良いことだったのかしら?
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