26 / 70
俺と太鼓と祭りと夏と
第12話だ ピンチだぞ
しおりを挟む
「また昨夜も出たらしいわよ。例のお化け。火の玉と一緒に、墓地の中を移動していたらしいわ。ああ、恐い」
鳥丸さん、まだ言っているのか、とは言えないな。実際に昨夜、俺もこの目で見たしな。折角忘れていたのに、思い出したら鳥肌が立ってきた。ううう、寒い。
「どっちの幽霊なんだよ」
何がどっちなんだ、鳥丸さんの旦那さん。幽霊は幽霊だろ。どっちもこっちも、あるか。
ん? なんで嬉しそうに顔の前で手を一振りするんだ、鳥丸さん。
「男の幽霊らしいわよ。見た人の話では首からの上の輪郭は火の玉の光でぼやけていて、顔もはっきり見えなかったらしいけど、確かに白い着物を着ていたらしいわ。それってあれよね、亡くなった方に着せる白い着物……」
「死装束かい? 本当かねえ」
本当に決まっているだろ、東地区の地区長さん。幽霊は死んでいる人じゃないか。着てる物はTシャツでもチュッニックでも全部「死に装束」でしょうが。まして、白い着物は幽霊の制服みたいな物じゃないか。知ってるだろ。
「本当ですって。私の知人が携帯のカメラで撮影していてね、それを送ってもらったんですよ。ああ、あった。ほら、この画像です」
「おお、ホントだ」
そんなものを画像にして保存するかね。ていうか、回しているのか。何考えているんだ。ITツールを使って自分に呪いをかけているのと同じじゃないか。おっかないなあ。
「しかも、昨晩は倉庫の小窓が開いていたらしいわよ。その倉庫、壊れた大太鼓が入っている倉庫なんですって。やっぱり、呪われているのかしら」
すみません。それは俺です。
「太鼓を作った職人の幽霊が、夜な夜な倉庫に忍び込んで、皮の破れた太鼓で悲しげな音を鳴らしているとか。ウチの地区の太鼓も大丈夫だろうな。うう、寒気がしてきた」
「大丈夫よ。この太鼓、西地区の太鼓と一緒に買ったでしょ。セットで。職人さんも生きているわよ。西地区の人たちが昨日、電話で皮の張替えの見積もりを頼んだそうだから」
「なーんだ、そうか。じゃあ別人の幽霊なんだ。よかった、よかった」
何がよかったんだ。さっきも言ったよな。別人だろうが何だろうが、幽霊は幽霊だろうが。アホか。
「で、どうなんだい。太鼓を壊した犯人には対処できそうなのかい」
「無理でしょうね。これじゃ、皮を張り替えても、また同じよ」
「どうする。これを機に、こっちの方で預かるか。いっそ、その方が早いだろう」
「そうですな。その方がこちらにも都合がいい。しかし、そうなると計画を変更する必要がありますな」
「そうね。邪魔モノを処分する必要があるわね」
「うむ。それはリストに従って粛々と進めよう。時代も変わった。用済みには消えてもらわねば」
「ですが、まずは明日の祭りですね。このまま進める訳にはいかない」
「そうだ。多少の無理も仕方ないじゃろう。あの者らだけに良い思いをさせる訳にはいかんからな。ハンバーガー屋さん、分かっておるの」
「ええ。任せてください。必ず従わせて見せます。その道のプロを手配してありますから。明日、本部からやって来るそうです」
「そうか。さすがは組織の一員だ。頼もしい。期待していますぞ」
なんだか、急に芝居じみてきたぞ。いやいや、待て。落ち着け、俺。なんか変だぞ。計画? 組織? 用済みを消す? どういう事だ。その道のプロを手配しただって? どの道だ? ま、ま、まさか、殺し屋か。
東地区の人たちは、ウチの太鼓を狙っている。そして、西地区の人たちの命も。組織とか本部って、まさか犯罪組織と手を組んでいるというのか。だとすると、あの黒尽くめの連中は、その組織に雇われた者たちかもしれん。
ぬう、これは許せん。自分たちの欲望のために、美歩ちゃんの夢を壊したというのか。おのれ……怒りで体がブルブルと震えてきたぜ!
「ん? 誰だ。誰かそこに居るのか」
しまった。こんな時にネックレスの音が……ブルブルし過ぎた。畜生、逃げ場が無い!
「こら、出て来い。その車は俺の新車だぞ。傷でもつけやがったら……」
そうか、新車だったのか。どおりで、やけに丁寧にワックスが……て、そんな事はどうでもいい。何とかして逃げなければ。仕方ない、ダッシュだ。
とにかく走って道に出よう。ここに居たら捕まってしまう。全速力で……なんだ、高いブレーキ音が、危ない! 目つむっちゃったじゃないか。びっくりしたあ。だから車は嫌いなんだ! 誰だよ、もう少しで轢かれるところだったぞ。運転席から降りてきたな。よーし、一蹴り食らわして……おや、この人は……。
「びっくりしたあ、桃じゃないか。急に飛び出すなよ」
「高瀬のおじさんか。よかった」
「怪我しなかった……おいおい、どうしたんだ、慌てて」
「すまん、勝手に乗るぞ。すぐに出してくれ。追われているんだ」
「ああ、東地区の皆さん、おはようございます。今日も相変わらず暑い……」
「そんな事はいいから、早く乗れ。車を出すんだ。ここはヤバイ。退散するぞ」
と言ってダッシュボードを叩いているのに、何のんびりしているんだ。早くしろ、邦夫さん!
「いったい、どうしたんだよ、桃、そんなに興奮して。――すみませんね、皆さん。じゃあ、行きますね」
ふう。高瀬生花店の配達車に出会うとは、ラッキーだった。助かったぜ。これで大通りも渡れる。我が家に帰れるぞ。
鳥丸さん、まだ言っているのか、とは言えないな。実際に昨夜、俺もこの目で見たしな。折角忘れていたのに、思い出したら鳥肌が立ってきた。ううう、寒い。
「どっちの幽霊なんだよ」
何がどっちなんだ、鳥丸さんの旦那さん。幽霊は幽霊だろ。どっちもこっちも、あるか。
ん? なんで嬉しそうに顔の前で手を一振りするんだ、鳥丸さん。
「男の幽霊らしいわよ。見た人の話では首からの上の輪郭は火の玉の光でぼやけていて、顔もはっきり見えなかったらしいけど、確かに白い着物を着ていたらしいわ。それってあれよね、亡くなった方に着せる白い着物……」
「死装束かい? 本当かねえ」
本当に決まっているだろ、東地区の地区長さん。幽霊は死んでいる人じゃないか。着てる物はTシャツでもチュッニックでも全部「死に装束」でしょうが。まして、白い着物は幽霊の制服みたいな物じゃないか。知ってるだろ。
「本当ですって。私の知人が携帯のカメラで撮影していてね、それを送ってもらったんですよ。ああ、あった。ほら、この画像です」
「おお、ホントだ」
そんなものを画像にして保存するかね。ていうか、回しているのか。何考えているんだ。ITツールを使って自分に呪いをかけているのと同じじゃないか。おっかないなあ。
「しかも、昨晩は倉庫の小窓が開いていたらしいわよ。その倉庫、壊れた大太鼓が入っている倉庫なんですって。やっぱり、呪われているのかしら」
すみません。それは俺です。
「太鼓を作った職人の幽霊が、夜な夜な倉庫に忍び込んで、皮の破れた太鼓で悲しげな音を鳴らしているとか。ウチの地区の太鼓も大丈夫だろうな。うう、寒気がしてきた」
「大丈夫よ。この太鼓、西地区の太鼓と一緒に買ったでしょ。セットで。職人さんも生きているわよ。西地区の人たちが昨日、電話で皮の張替えの見積もりを頼んだそうだから」
「なーんだ、そうか。じゃあ別人の幽霊なんだ。よかった、よかった」
何がよかったんだ。さっきも言ったよな。別人だろうが何だろうが、幽霊は幽霊だろうが。アホか。
「で、どうなんだい。太鼓を壊した犯人には対処できそうなのかい」
「無理でしょうね。これじゃ、皮を張り替えても、また同じよ」
「どうする。これを機に、こっちの方で預かるか。いっそ、その方が早いだろう」
「そうですな。その方がこちらにも都合がいい。しかし、そうなると計画を変更する必要がありますな」
「そうね。邪魔モノを処分する必要があるわね」
「うむ。それはリストに従って粛々と進めよう。時代も変わった。用済みには消えてもらわねば」
「ですが、まずは明日の祭りですね。このまま進める訳にはいかない」
「そうだ。多少の無理も仕方ないじゃろう。あの者らだけに良い思いをさせる訳にはいかんからな。ハンバーガー屋さん、分かっておるの」
「ええ。任せてください。必ず従わせて見せます。その道のプロを手配してありますから。明日、本部からやって来るそうです」
「そうか。さすがは組織の一員だ。頼もしい。期待していますぞ」
なんだか、急に芝居じみてきたぞ。いやいや、待て。落ち着け、俺。なんか変だぞ。計画? 組織? 用済みを消す? どういう事だ。その道のプロを手配しただって? どの道だ? ま、ま、まさか、殺し屋か。
東地区の人たちは、ウチの太鼓を狙っている。そして、西地区の人たちの命も。組織とか本部って、まさか犯罪組織と手を組んでいるというのか。だとすると、あの黒尽くめの連中は、その組織に雇われた者たちかもしれん。
ぬう、これは許せん。自分たちの欲望のために、美歩ちゃんの夢を壊したというのか。おのれ……怒りで体がブルブルと震えてきたぜ!
「ん? 誰だ。誰かそこに居るのか」
しまった。こんな時にネックレスの音が……ブルブルし過ぎた。畜生、逃げ場が無い!
「こら、出て来い。その車は俺の新車だぞ。傷でもつけやがったら……」
そうか、新車だったのか。どおりで、やけに丁寧にワックスが……て、そんな事はどうでもいい。何とかして逃げなければ。仕方ない、ダッシュだ。
とにかく走って道に出よう。ここに居たら捕まってしまう。全速力で……なんだ、高いブレーキ音が、危ない! 目つむっちゃったじゃないか。びっくりしたあ。だから車は嫌いなんだ! 誰だよ、もう少しで轢かれるところだったぞ。運転席から降りてきたな。よーし、一蹴り食らわして……おや、この人は……。
「びっくりしたあ、桃じゃないか。急に飛び出すなよ」
「高瀬のおじさんか。よかった」
「怪我しなかった……おいおい、どうしたんだ、慌てて」
「すまん、勝手に乗るぞ。すぐに出してくれ。追われているんだ」
「ああ、東地区の皆さん、おはようございます。今日も相変わらず暑い……」
「そんな事はいいから、早く乗れ。車を出すんだ。ここはヤバイ。退散するぞ」
と言ってダッシュボードを叩いているのに、何のんびりしているんだ。早くしろ、邦夫さん!
「いったい、どうしたんだよ、桃、そんなに興奮して。――すみませんね、皆さん。じゃあ、行きますね」
ふう。高瀬生花店の配達車に出会うとは、ラッキーだった。助かったぜ。これで大通りも渡れる。我が家に帰れるぞ。
0
あなたにおすすめの小説
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
私が王子との結婚式の日に、妹に毒を盛られ、公衆の面前で辱められた。でも今、私は時を戻し、運命を変えに来た。
MayonakaTsuki
恋愛
王子との結婚式の日、私は最も信頼していた人物――自分の妹――に裏切られた。毒を盛られ、公開の場で辱められ、未来の王に拒絶され、私の人生は血と侮辱の中でそこで終わったかのように思えた。しかし、死が私を迎えたとき、不可能なことが起きた――私は同じ回廊で、祭壇の前で目を覚まし、あらゆる涙、嘘、そして一撃の記憶をそのまま覚えていた。今、二度目のチャンスを得た私は、ただ一つの使命を持つ――真実を突き止め、奪われたものを取り戻し、私を破滅させた者たちにその代償を払わせる。もはや、何も以前のままではない。何も許されない。
病弱な彼女は、外科医の先生に静かに愛されています 〜穏やかな執着に、逃げ場はない〜
来栖れいな
恋愛
――穏やかな微笑みの裏に、逃げられない愛があった。
望んでいたわけじゃない。
けれど、逃げられなかった。
生まれつき弱い心臓を抱える彼女に、政略結婚の話が持ち上がった。
親が決めた未来なんて、受け入れられるはずがない。
無表情な彼の穏やかさが、余計に腹立たしかった。
それでも――彼だけは違った。
優しさの奥に、私の知らない熱を隠していた。
形式だけのはずだった関係は、少しずつ形を変えていく。
これは束縛? それとも、本当の愛?
穏やかな外科医に包まれていく、静かで深い恋の物語。
※この物語はフィクションです。
登場する人物・団体・名称・出来事などはすべて架空であり、実在のものとは一切関係ありません。
あるフィギュアスケーターの性事情
蔵屋
恋愛
この小説はフィクションです。
しかし、そのようなことが現実にあったかもしれません。
何故ならどんな人間も、悪魔や邪神や悪神に憑依された偽善者なのですから。
この物語は浅岡結衣(16才)とそのコーチ(25才)の恋の物語。
そのコーチの名前は高木文哉(25才)という。
この物語はフィクションです。
実在の人物、団体等とは、一切関係がありません。
壊れていく音を聞きながら
夢窓(ゆめまど)
恋愛
結婚してまだ一か月。
妻の留守中、夫婦の家に突然やってきた母と姉と姪
何気ない日常のひと幕が、
思いもよらない“ひび”を生んでいく。
母と嫁、そしてその狭間で揺れる息子。
誰も気づきがないまま、
家族のかたちが静かに崩れていく――。
壊れていく音を聞きながら、
それでも誰かを思うことはできるのか。
【完結】退職を伝えたら、無愛想な上司に囲われました〜逃げられると思ったのが間違いでした〜
来栖れいな
恋愛
逃げたかったのは、
疲れきった日々と、叶うはずのない憧れ――のはずだった。
無愛想で冷静な上司・東條崇雅。
その背中に、ただ静かに憧れを抱きながら、
仕事の重圧と、自分の想いの行き場に限界を感じて、私は退職を申し出た。
けれど――
そこから、彼の態度は変わり始めた。
苦手な仕事から外され、
負担を減らされ、
静かに、けれど確実に囲い込まれていく私。
「辞めるのは認めない」
そんな言葉すらないのに、
無言の圧力と、不器用な優しさが、私を縛りつけていく。
これは愛?
それともただの執着?
じれじれと、甘く、不器用に。
二人の距離は、静かに、でも確かに近づいていく――。
無愛想な上司に、心ごと囲い込まれる、じれじれ溺愛・執着オフィスラブ。
※この物語はフィクションです。
登場する人物・団体・名称・出来事などはすべて架空であり、実在のものとは一切関係ありません。
灰かぶりの姉
吉野 那生
恋愛
父の死後、母が連れてきたのは優しそうな男性と可愛い女の子だった。
「今日からあなたのお父さんと妹だよ」
そう言われたあの日から…。
* * *
『ソツのない彼氏とスキのない彼女』のスピンオフ。
国枝 那月×野口 航平の過去編です。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる