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俺と太鼓と祭りと夏と
第12話だ ピンチだぞ
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「また昨夜も出たらしいわよ。例のお化け。火の玉と一緒に、墓地の中を移動していたらしいわ。ああ、恐い」
鳥丸さん、まだ言っているのか、とは言えないな。実際に昨夜、俺もこの目で見たしな。折角忘れていたのに、思い出したら鳥肌が立ってきた。ううう、寒い。
「どっちの幽霊なんだよ」
何がどっちなんだ、鳥丸さんの旦那さん。幽霊は幽霊だろ。どっちもこっちも、あるか。
ん? なんで嬉しそうに顔の前で手を一振りするんだ、鳥丸さん。
「男の幽霊らしいわよ。見た人の話では首からの上の輪郭は火の玉の光でぼやけていて、顔もはっきり見えなかったらしいけど、確かに白い着物を着ていたらしいわ。それってあれよね、亡くなった方に着せる白い着物……」
「死装束かい? 本当かねえ」
本当に決まっているだろ、東地区の地区長さん。幽霊は死んでいる人じゃないか。着てる物はTシャツでもチュッニックでも全部「死に装束」でしょうが。まして、白い着物は幽霊の制服みたいな物じゃないか。知ってるだろ。
「本当ですって。私の知人が携帯のカメラで撮影していてね、それを送ってもらったんですよ。ああ、あった。ほら、この画像です」
「おお、ホントだ」
そんなものを画像にして保存するかね。ていうか、回しているのか。何考えているんだ。ITツールを使って自分に呪いをかけているのと同じじゃないか。おっかないなあ。
「しかも、昨晩は倉庫の小窓が開いていたらしいわよ。その倉庫、壊れた大太鼓が入っている倉庫なんですって。やっぱり、呪われているのかしら」
すみません。それは俺です。
「太鼓を作った職人の幽霊が、夜な夜な倉庫に忍び込んで、皮の破れた太鼓で悲しげな音を鳴らしているとか。ウチの地区の太鼓も大丈夫だろうな。うう、寒気がしてきた」
「大丈夫よ。この太鼓、西地区の太鼓と一緒に買ったでしょ。セットで。職人さんも生きているわよ。西地区の人たちが昨日、電話で皮の張替えの見積もりを頼んだそうだから」
「なーんだ、そうか。じゃあ別人の幽霊なんだ。よかった、よかった」
何がよかったんだ。さっきも言ったよな。別人だろうが何だろうが、幽霊は幽霊だろうが。アホか。
「で、どうなんだい。太鼓を壊した犯人には対処できそうなのかい」
「無理でしょうね。これじゃ、皮を張り替えても、また同じよ」
「どうする。これを機に、こっちの方で預かるか。いっそ、その方が早いだろう」
「そうですな。その方がこちらにも都合がいい。しかし、そうなると計画を変更する必要がありますな」
「そうね。邪魔モノを処分する必要があるわね」
「うむ。それはリストに従って粛々と進めよう。時代も変わった。用済みには消えてもらわねば」
「ですが、まずは明日の祭りですね。このまま進める訳にはいかない」
「そうだ。多少の無理も仕方ないじゃろう。あの者らだけに良い思いをさせる訳にはいかんからな。ハンバーガー屋さん、分かっておるの」
「ええ。任せてください。必ず従わせて見せます。その道のプロを手配してありますから。明日、本部からやって来るそうです」
「そうか。さすがは組織の一員だ。頼もしい。期待していますぞ」
なんだか、急に芝居じみてきたぞ。いやいや、待て。落ち着け、俺。なんか変だぞ。計画? 組織? 用済みを消す? どういう事だ。その道のプロを手配しただって? どの道だ? ま、ま、まさか、殺し屋か。
東地区の人たちは、ウチの太鼓を狙っている。そして、西地区の人たちの命も。組織とか本部って、まさか犯罪組織と手を組んでいるというのか。だとすると、あの黒尽くめの連中は、その組織に雇われた者たちかもしれん。
ぬう、これは許せん。自分たちの欲望のために、美歩ちゃんの夢を壊したというのか。おのれ……怒りで体がブルブルと震えてきたぜ!
「ん? 誰だ。誰かそこに居るのか」
しまった。こんな時にネックレスの音が……ブルブルし過ぎた。畜生、逃げ場が無い!
「こら、出て来い。その車は俺の新車だぞ。傷でもつけやがったら……」
そうか、新車だったのか。どおりで、やけに丁寧にワックスが……て、そんな事はどうでもいい。何とかして逃げなければ。仕方ない、ダッシュだ。
とにかく走って道に出よう。ここに居たら捕まってしまう。全速力で……なんだ、高いブレーキ音が、危ない! 目つむっちゃったじゃないか。びっくりしたあ。だから車は嫌いなんだ! 誰だよ、もう少しで轢かれるところだったぞ。運転席から降りてきたな。よーし、一蹴り食らわして……おや、この人は……。
「びっくりしたあ、桃じゃないか。急に飛び出すなよ」
「高瀬のおじさんか。よかった」
「怪我しなかった……おいおい、どうしたんだ、慌てて」
「すまん、勝手に乗るぞ。すぐに出してくれ。追われているんだ」
「ああ、東地区の皆さん、おはようございます。今日も相変わらず暑い……」
「そんな事はいいから、早く乗れ。車を出すんだ。ここはヤバイ。退散するぞ」
と言ってダッシュボードを叩いているのに、何のんびりしているんだ。早くしろ、邦夫さん!
「いったい、どうしたんだよ、桃、そんなに興奮して。――すみませんね、皆さん。じゃあ、行きますね」
ふう。高瀬生花店の配達車に出会うとは、ラッキーだった。助かったぜ。これで大通りも渡れる。我が家に帰れるぞ。
鳥丸さん、まだ言っているのか、とは言えないな。実際に昨夜、俺もこの目で見たしな。折角忘れていたのに、思い出したら鳥肌が立ってきた。ううう、寒い。
「どっちの幽霊なんだよ」
何がどっちなんだ、鳥丸さんの旦那さん。幽霊は幽霊だろ。どっちもこっちも、あるか。
ん? なんで嬉しそうに顔の前で手を一振りするんだ、鳥丸さん。
「男の幽霊らしいわよ。見た人の話では首からの上の輪郭は火の玉の光でぼやけていて、顔もはっきり見えなかったらしいけど、確かに白い着物を着ていたらしいわ。それってあれよね、亡くなった方に着せる白い着物……」
「死装束かい? 本当かねえ」
本当に決まっているだろ、東地区の地区長さん。幽霊は死んでいる人じゃないか。着てる物はTシャツでもチュッニックでも全部「死に装束」でしょうが。まして、白い着物は幽霊の制服みたいな物じゃないか。知ってるだろ。
「本当ですって。私の知人が携帯のカメラで撮影していてね、それを送ってもらったんですよ。ああ、あった。ほら、この画像です」
「おお、ホントだ」
そんなものを画像にして保存するかね。ていうか、回しているのか。何考えているんだ。ITツールを使って自分に呪いをかけているのと同じじゃないか。おっかないなあ。
「しかも、昨晩は倉庫の小窓が開いていたらしいわよ。その倉庫、壊れた大太鼓が入っている倉庫なんですって。やっぱり、呪われているのかしら」
すみません。それは俺です。
「太鼓を作った職人の幽霊が、夜な夜な倉庫に忍び込んで、皮の破れた太鼓で悲しげな音を鳴らしているとか。ウチの地区の太鼓も大丈夫だろうな。うう、寒気がしてきた」
「大丈夫よ。この太鼓、西地区の太鼓と一緒に買ったでしょ。セットで。職人さんも生きているわよ。西地区の人たちが昨日、電話で皮の張替えの見積もりを頼んだそうだから」
「なーんだ、そうか。じゃあ別人の幽霊なんだ。よかった、よかった」
何がよかったんだ。さっきも言ったよな。別人だろうが何だろうが、幽霊は幽霊だろうが。アホか。
「で、どうなんだい。太鼓を壊した犯人には対処できそうなのかい」
「無理でしょうね。これじゃ、皮を張り替えても、また同じよ」
「どうする。これを機に、こっちの方で預かるか。いっそ、その方が早いだろう」
「そうですな。その方がこちらにも都合がいい。しかし、そうなると計画を変更する必要がありますな」
「そうね。邪魔モノを処分する必要があるわね」
「うむ。それはリストに従って粛々と進めよう。時代も変わった。用済みには消えてもらわねば」
「ですが、まずは明日の祭りですね。このまま進める訳にはいかない」
「そうだ。多少の無理も仕方ないじゃろう。あの者らだけに良い思いをさせる訳にはいかんからな。ハンバーガー屋さん、分かっておるの」
「ええ。任せてください。必ず従わせて見せます。その道のプロを手配してありますから。明日、本部からやって来るそうです」
「そうか。さすがは組織の一員だ。頼もしい。期待していますぞ」
なんだか、急に芝居じみてきたぞ。いやいや、待て。落ち着け、俺。なんか変だぞ。計画? 組織? 用済みを消す? どういう事だ。その道のプロを手配しただって? どの道だ? ま、ま、まさか、殺し屋か。
東地区の人たちは、ウチの太鼓を狙っている。そして、西地区の人たちの命も。組織とか本部って、まさか犯罪組織と手を組んでいるというのか。だとすると、あの黒尽くめの連中は、その組織に雇われた者たちかもしれん。
ぬう、これは許せん。自分たちの欲望のために、美歩ちゃんの夢を壊したというのか。おのれ……怒りで体がブルブルと震えてきたぜ!
「ん? 誰だ。誰かそこに居るのか」
しまった。こんな時にネックレスの音が……ブルブルし過ぎた。畜生、逃げ場が無い!
「こら、出て来い。その車は俺の新車だぞ。傷でもつけやがったら……」
そうか、新車だったのか。どおりで、やけに丁寧にワックスが……て、そんな事はどうでもいい。何とかして逃げなければ。仕方ない、ダッシュだ。
とにかく走って道に出よう。ここに居たら捕まってしまう。全速力で……なんだ、高いブレーキ音が、危ない! 目つむっちゃったじゃないか。びっくりしたあ。だから車は嫌いなんだ! 誰だよ、もう少しで轢かれるところだったぞ。運転席から降りてきたな。よーし、一蹴り食らわして……おや、この人は……。
「びっくりしたあ、桃じゃないか。急に飛び出すなよ」
「高瀬のおじさんか。よかった」
「怪我しなかった……おいおい、どうしたんだ、慌てて」
「すまん、勝手に乗るぞ。すぐに出してくれ。追われているんだ」
「ああ、東地区の皆さん、おはようございます。今日も相変わらず暑い……」
「そんな事はいいから、早く乗れ。車を出すんだ。ここはヤバイ。退散するぞ」
と言ってダッシュボードを叩いているのに、何のんびりしているんだ。早くしろ、邦夫さん!
「いったい、どうしたんだよ、桃、そんなに興奮して。――すみませんね、皆さん。じゃあ、行きますね」
ふう。高瀬生花店の配達車に出会うとは、ラッキーだった。助かったぜ。これで大通りも渡れる。我が家に帰れるぞ。
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