名探偵桃太郎の春夏秋冬

与十川 大

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俺とサンタとアイツと冬と

第13話だ  嗚呼、今宵かぎり

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 うう。なんだ、急に寒くなって来たな。ん、「北風ラーメン」も遅い閉店か。讃岐さんが店のシャッターを下ろしている。なんか、ちょっと満足気な表情だな。よかったな。

 さて、俺も帰るか。今夜は雪だし。こういう日に外で走り回るのは犬と決まっているんだ。こっちはコタツで丸くなるのが仕事です。俺は猫なんでね。早く帰らないと風邪ひいちまう。

 お、「フラワーショップ高瀬」も二階の電気がついているぞ。ん、何か聞こえる。

「おおい、公子。やったよ。クロスワードパズルで応募した温泉旅行券、当たったよ」

「まあ、ほんとうに? よかったわねえ」

「そうだな。いいクリスマスプレゼントだ。お正月にみんなで行こう」

 よかったな、邦夫さん。輪哉くんも帰ってくるといい……。

「きゃああああ!」

 萌奈美さんか。今頃気づいたのか。ま、そうだよな。気絶してなければいいが……。萌奈美さん、その人形は髪が伸びて、口が少しずつ開くだけだ。――一応、手を合わせておくか。後ろはお寺だしな。

 よし、これで大丈夫だろう。うう、寒い。帰ろ。では、俺はいつものルートで観音寺の境内を通って我が家に……。しかし、これはちょっと……改めて見ると、このイチョウの木は、やっぱりどうだろうな。お寺には普通のイチョウの木の方がよかったのでは。ま、明日考えよう。

 塀を飛び越えてっと。ようやく、我が家だ。ここで最後にジャンプ。で、ドアノブにぶら下がって、これをぐるりと回すと……あれ、回らない。よ、……駄目だ、動かない。一旦降りるか。

 なんだ、鍵がかかっているのか。まあ、夜中だしなあ。

「おーい、陽子さーん。美歩ちゃーん、ただいまあ。俺だあ。開けてくれえ」

と言ってみても、俺の言葉はトナカイには通じても人間には通じないから、どうしようもないが、何か言っていることくらいは聞こえるだろう。

 あれ、返事がない。

「おーい、俺だよお。開けてくれよお。寒いよお」

 おかしいな。いつもなら、美歩ちゃんか陽子さんがすぐに気づいてくれるのだが。ノックしてみるか。トントントン。

「あのお、開けてくださーい。俺ですう。桃太郎ですう」

 うう……。なんだ。寒くなってきた。雪の夜に出回り過ぎたか。体が芯から冷えてしまったようだ。

「美歩ちゃーん。陽子さーん……」

 ああ、なんだか、眠くなってきたな。み、美歩ちゃんにプレゼントを渡さないと。秋から集めた銀杏の実の種でつくった首飾り。これを渡さないと……。あばばば、下顎がガクガクと勝手に動く。ああ、力が入らない。あれれ、体が動かないぞ。

 それに、なんだか、すごく眠い。い、いかん。

 美歩ちゃんにプレゼントを……。

 美歩ちゃんに……。

 ああ、イチョウの木だ。やっぱりクリスマスツリーは、きれいだなあ。

 みんな……メリークリスマス。

 メリー……クリス……マ……。

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